繰り返すヘルペスの再発に。自分で飲める薬「PIT療法」とは?|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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繰り返すヘルペスの再発に。自分で飲める薬「PIT療法」とは?

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2026年9月04日

繰り返すヘルペスの再発に。自分で飲める薬「PIT療法」とは?

ヘルペスの再発を1日で治療。違和感が出たら自分で薬を飲む「PIT療法(患者主導療法)」

口唇ヘルペスや性器ヘルペスは、症状が治まっても単純ヘルペスウイルスが神経節の中に潜んだまま残ります。疲れやストレス、発熱、紫外線、月経などをきっかけにウイルスが再び動き出し、同じ場所に何度も症状が出る。これがヘルペスの再発です。

再発するたびに医療機関を受診し、抗ウイルス薬を5日間ほど飲む。これが日本で長く行われてきたやり方でした。ただ、この「受診してから飲み始めるまで」の時間が、治療の効き方を大きく左右します。この問題への答えとして登場したのが、PIT療法です。

その前に、ヘルペスの再発について

単純ヘルペスウイルスには1型と2型があります。1型は主に口の周りに、2型は主に性器に症状を起こしますが、近年はこの区分けも絶対ではありません。初めて感染したあと、ウイルスは体から消えることなく神経節に住みつき、免疫の監視をかいくぐって長く潜んでいます。

体調を崩したとき、強いストレスがかかったとき、日焼けをしたとき。免疫のバランスが揺らぐと、ウイルスは神経を伝って皮膚や粘膜に戻り、あの見慣れた水ぶくれをつくります。再発の回数には個人差が大きく、年に1回程度の方もいれば、月に1回近く繰り返して生活に支障が出ている方もいます。

PIT療法とはどんな治療か

PITはPatient Initiated Therapyの略で、日本語では患者主導療法などと訳されます。仕組みはとても単純です。

あらかじめ再発1回分の薬を処方してもらい、手元に置いておく。そして「またあの違和感が来たな」と感じた時点で、受診を待たずに自分の判断ですぐ飲む。それだけです。海外では以前から1 day therapyと呼ばれて標準的に行われてきました。

日本では、2019年2月にファムビル(ファムシクロビル)が、2023年2月にアメナリーフ(アメナメビル)が、それぞれ再発性の単純疱疹に対するこの用法で承認されています。

なぜ「早く飲むこと」がそこまで大事なのか

ヘルペスの再発では、ウイルスの増殖は発症のごく初期に集中して起こります。水ぶくれが目に見えて出てきた頃には、ウイルスの増殖のピークはすでに過ぎていることが多い。抗ウイルス薬はウイルスが増えるのを止める薬ですから、増え終わってから飲んでも力を発揮しにくいのです。

ここで鍵になるのが、患者さん自身が感じる初期症状です。皮膚がピリピリする、ムズムズする、灼けるような感じがする、かゆい。再発を繰り返している方の多くは、この段階で「来る」とわかります。この感覚は本人にしかわかりません。だからこそ、本人が薬を持っていて、本人の判断で飲むことに意味があります。

実際、両剤とも添付文書上、初期症状が出てから6時間以内に飲むこととされています。6時間を過ぎてから飲み始めた場合の有効性を裏づけるデータは得られていないためです。

従来の治療とどこが違うのか

これまでの治療は、症状が出てから受診し、処方された薬を1日3回、5日間ほど飲み続けるというものでした。確立された方法ですが、弱点がいくつかあります。

  • 受診できるまでに時間がかかる。夜間や休日、仕事の都合で、翌日や翌々日になることも珍しくない
  • 受診できた頃には、すでに水ぶくれが出そろっていることが多い
  • 5日間の服用は、飲み忘れが起きやすい

PITはこの弱点を、薬をあらかじめ患者さんに預けておくという方法で解消しました。飲む回数も1日で完結します。飲む薬の総量は1回あたりでは多くなりますが、飲む期間は短くなるという設計です。

実際の流れは、次のようになります。まず医療機関を受診し、診断と、PITが適しているかどうかの確認を受ける。処方された薬を持ち帰り、財布やポーチなど、いつも持ち歩くものの中に入れておく。初期症状を感じたら、その場で飲む。ここまでが1セットです。

日本で使える2種類の薬

ファムビル(ファムシクロビル)

1回1000mg(250mg錠を4錠)を2回飲みます。1回目は初期症状が出てから6時間以内、2回目は1回目から12時間後(6〜18時間の範囲)です。つまり1日で飲み終わります。

従来からある核酸アナログ系の薬で、腎臓から排泄されるため、腎機能が低下している方では量や間隔の調整が必要になります。

アメナリーフ(アメナメビル)

1200mg(200mg錠を6錠)を、食後に1回飲むだけです。ヘリカーゼ・プライマーゼ複合体という、ウイルスがDNAを複製する際に必要な酵素を直接抑える薬で、従来薬とは作用の仕組みが異なります。

注意点は「食後」であること。空腹時に飲むと吸収が落ちて効果が弱まる可能性があるため、食事のタイミングでなければ軽食をとってから飲む必要があります。口唇ヘルペスの場合は、水ぶくれなどの皮疹が出る前に飲むこととされています。

実際、どのくらい効くのか

期待しすぎず、しかし過小評価もしないために、臨床試験の数字を見てみます。

日本で行われたファムシクロビルの第III相試験では、1134人が登録され、実際に再発して薬を飲んだ531人が解析対象になりました。すべての病変が治るまでの期間の中央値は、実薬群4.7日に対しプラセボ群5.7日。約1日の短縮でした。

アメナメビルの口唇ヘルペスの試験では、治癒までの中央値が5.1日対5.5日、性器ヘルペスの試験では4.0日対5.1日という結果でした。いずれもプラセボに対する優越性が統計学的に示されています。

正直に言えば、「飲めばすぐ治る」という劇的な数字ではありません。ただし、これは薬を飲んでいない状態との比較です。治るまでの期間が1日短くなること、通院せずに1日で治療が完結すること、そして再発のたびに5日間薬を飲み続ける負担がなくなること。この組み合わせが、頻繁に再発する方にとっての価値になります。副作用については、両剤とも試験で報告された有害事象は軽度なものが中心でした。

PITが向いているのはどんな人か

添付文書では、処方にあたって次のような条件が示されています。

  • 口唇ヘルペスまたは性器ヘルペスの、同じ病型の再発を繰り返していること(目安として年3回以上)
  • 再発の初期症状を自分で正確に判断できること
  • 免疫機能が低下していないこと(悪性腫瘍や自己免疫疾患などを伴う場合は有効性・安全性が確立していません)

逆に言うと、初めてヘルペスの症状が出た方、症状が本当にヘルペスかどうか自分では判断がつかない方には向きません。まず診断を受けることが先になります。

気をつけておきたいこと

処方は次の再発1回分のみと決められています。まとめて何回分ももらっておくことはできません。

妊娠中や妊娠している可能性のある方、授乳中の方は、手元に薬があっても自己判断で飲まず、医療機関を受診してください。

また、飲み合わせに注意が必要な薬があります。ほかに服用中の薬がある方は、処方の際に必ず伝えてください。

そしてもう一つ大切なのは、PITは再発そのものを予防する治療ではないという点です。再発の回数が非常に多い方には、毎日薬を飲み続けて再発を抑える再発抑制療法という別の選択肢があります。どちらが適しているかは、再発の頻度や生活への影響によって変わります。

まとめ

PIT療法は、新しい薬が生まれたというより、「いつ飲むか」を患者さん自身の手に委ねた治療法です。ヘルペスの再発を何度も経験してきた方は、自分の体が出すサインを誰よりもよく知っています。その知識を治療に活かせるようにしたのがPITです。

年に何度も再発して困っている、症状が出ても仕事や学校ですぐには受診できない。そうした方は、一度医療機関で相談してみる価値があります。

参考文献

  1. ファムシクロビルの再発型単純疱疹患者に対する早期短期治療(1日治療)による第III相臨床試験, 川島眞, 加藤利幸, 藤井千枝, 加藤るみこ, 日本臨床皮膚科医会雑誌 35(3):488-496, 2018年6月27日, DOI: 10.3812/jocd.35.488 要約: 国内1134例を対象としたプラセボ対照二重盲検試験。ファムシクロビル1000mg×2回の1日治療により、病変治癒までの中央値が5.7日から4.7日へ短縮された。
  2. A phase 3, randomized, double-blind, placebo-controlled study evaluating a single, patient-initiated dose of amenamevir for recurrent herpes labialis, Kawashima M, Watanabe D, Fujio K, Komazaki H, The Journal of Dermatology 50(3):311-318, 2023年3月(オンライン公開2022年11月), DOI: 10.1111/1346-8138.16608 要約: 再発性口唇ヘルペスに対するアメナメビル1200mg単回投与の第III相試験。治癒までの中央値5.1日対5.5日、ハザード比1.24でプラセボへの優越性を検証した。
  3. Single-Dose, Patient-Initiated Amenamevir Therapy for Recurrent Genital Herpes: A Phase 3, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Study, Kawashima M, Imafuku S, Fujio K, Komazaki H, Open Forum Infectious Diseases 9(10):ofac494, 2022年9月22日, DOI: 10.1093/ofid/ofac494 要約: 再発性性器ヘルペス578例の第III相試験。初期症状6時間以内のアメナメビル1200mg単回投与で治癒中央値4.0日対5.1日、ハザード比1.60を示した。
  4. Single-day, patient-initiated famciclovir therapy for recurrent genital herpes: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial, Aoki FY, Tyring S, Diaz-Mitoma F, Gross G, Gao J, Hamed K, Clinical Infectious Diseases 42(1):8-13, 2006年1月, DOI: 10.1086/498521 要約: PITの国際的な基礎となった試験。ファムシクロビル1000mg1日2回の1日治療で、再発性性器ヘルペスの治癒が約2日短縮することを示した。
  5. ASP2151 for the treatment of genital herpes: a randomized, double-blind, placebo- and valacyclovir-controlled, dose-finding study, Tyring S, Wald A, Zadeikis N, Dhadda S, Takenouchi K, Rorig R, The Journal of Infectious Diseases 205:1100-1110, 2012年4月, DOI: 10.1093/infdis/jis019 要約: 米国で行われたアメナメビルの用量設定試験。1200mg単回投与がプラセボに優り、後の国内PIT用量設定の根拠となった第II相試験。
  6. Pharmacokinetics and Safety of Amenamevir in Healthy Subjects: Analysis of Four Randomized Phase 1 Studies, Kusawake T, Keirns JJ, Kowalski D, et al., Advances in Therapy 34(12):2625-2637, 2017年12月, DOI: 10.1007/s12325-017-0642-4 要約: 健康成人を対象とした4つの第I相試験の統合解析。アメナメビルの血中曝露が食事により増加することを示し、食後服用が指示される薬物動態上の根拠。
  7. ASP2151, a novel helicase-primase inhibitor, possesses antiviral activity against varicella-zoster virus and herpes simplex virus types 1 and 2, Chono K, Katsumata K, Kontani T, et al., Journal of Antimicrobial Chemotherapy 65(8):1733-1741, 2010年8月, DOI: 10.1093/jac/dkq198 要約: アメナメビルの作用機序を示した基礎研究。ヘリカーゼ・プライマーゼ複合体を阻害し、単純ヘルペスウイルス1型2型と水痘帯状疱疹ウイルスの増殖を抑制する。

添付文書・公的情報

  • ファムビル錠250mg 電子添文(マルホ株式会社): 用法・用量、初期症状発現後6時間以内の初回服用、初回から12時間後の2回目服用、次回再発分の処方は1回分に留めること等の記載
  • アメナリーフ錠200mg 電子添文(マルホ株式会社): 再発性の単純疱疹に対する1200mg食後単回投与、食後服用の必要性、処方時の確認事項の記載

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介

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