2026年8月14日

CPAPのAHIがゼロにならない?数値が下がらない7つの理由と対策
毎朝CPAPの画面をのぞいて、「昨夜は2.1だった」「今日は5を超えてしまった」と一喜一憂している方、けっこう多いです。診察室でもよく聞かれます。「先生、どうしてもゼロにならないんですけど、これって治療がうまくいってないということですか」と。
先に結論を言ってしまうと、ゼロにならないのは普通のことです。むしろゼロが毎晩続くほうが珍しい。ただし数字が高いまま動かない場合には、ちゃんと理由があります。そしてその多くは、手を打てば下がります。
そもそも目標は「ゼロ」ではありません
AHIというのは、1時間あたりに無呼吸と低呼吸が何回起きたかを示す数字です。治療前は30回、40回という方も珍しくありません。
治療がうまくいっているかどうかの目安として使われるのは、おおむね5未満。なぜゼロではないのかというと、健康な人でも一晩に数回は呼吸の乱れが起きるからです。寝返りを打った瞬間、深い眠りから浅い眠りに切り替わる瞬間、そういうタイミングで呼吸はわずかに不安定になります。CPAPはそこまで消し去るための機械ではありません。
ですので、5未満で安定しているなら、それは十分に良好です。
CPAPのAHIが下がらない7つの理由
理由その1:空気が漏れている
いちばん多い原因がこれです。
CPAPは鼻や口から一定の圧力を送り込み、のどが潰れないよう内側から支えています。ところがマスクの隙間や開いた口から空気が逃げてしまうと、のどまで届く圧力が下がる。支えが弱まった分だけ、のどが塞がるわけです。
フランスの研究チームが74人を詳しく調べたところ、漏れが増える条件がはっきりしました。口が開いていること、CPAPの圧が高いこと、仰向け以外の姿勢、そしてレム睡眠中。厄介なのは、本人にはまったく自覚がないことです。朝起きたときに口の中がカラカラに乾いているなら、まず口からの漏れを疑ってください。
理由その2:マスクの種類が合っていない
鼻だけを覆う鼻マスクと、鼻と口の両方を覆うフルフェイスマスク。同じCPAPでも、この違いで結果が変わります。
13件の研究をまとめた解析では、フルフェイスマスクは鼻マスクに比べて必要な圧力が平均1.5cmH2O高く、残るAHIも高く、使用の継続率も悪いという結果でした。別の試験では、参加した14人全員がフルフェイスに変えたときにAHIが上昇し、そのうち半数はAHIが10を超えていました。しかもこの人たちは検査室では全員5未満に収まっていたのです。
口が開いてしまうからフルフェイスに変える、という判断はよくあるのですが、それで悪化する方が一定数います。変更したあとは必ず数字を確認したほうがいい。
理由その3:鼻づまり
鼻が詰まっていると、無意識に口が開きます。そうすると漏れる。実際、CPAP使用中に口が開いたままになってしまう人の背景を調べた研究では、鼻閉と男性であることが関係していました。
花粉症、慢性副鼻腔炎、鼻中隔弯曲。この時期なら秋の花粉も出てきます。鼻の治療をするだけでAHIが落ち着く方は、思っているより多いです。
理由その4:体重が増えた
処方された圧は、あくまで「その時点の体」に合わせたものです。
ウィスコンシン州で690人を4年間追跡した有名な研究では、体重が10%増えるとAHIがおよそ32%増加し、逆に10%減ると26%減少していました。数キロの変化でも、のどまわりの脂肪は確実に増えます。設定圧が同じままなら、支えきれなくなって当然です。
「最近ちょっと太ったな」という自覚と、AHIが上がってきた時期。この二つが重なっていないか、振り返ってみてください。
理由その5:お酒と睡眠薬
アルコールは筋肉をゆるめます。のどの筋肉も例外ではありません。
ランダム化試験14件をまとめた解析では、就寝前の飲酒でAHIが平均2.33回増加し、睡眠時無呼吸と診断されている人に限れば7.10回も増えていました。7回というのは、けっこうな上昇幅です。飲んだ翌朝だけ数字が跳ね上がる方は、まず間違いなくこれです。
一部の睡眠薬や筋弛緩作用のある薬も同じ方向に働きます。処方内容は主治医と相談してください。
理由その6:中枢性の無呼吸が出てきた
これは少し性質が違います。
閉塞性の無呼吸は「のどが塞がる」ことで起きますが、中枢性は「脳からの呼吸の指令が一時的に止まる」ことで起きます。CPAPを始めたあとにこのタイプが現れることがあり、治療後発現中枢性睡眠時無呼吸と呼ばれています。
13万人以上のCPAP使用データを解析した研究では、開始1週目か13週目に中枢性の無呼吸が見られたのは3.5%。そのうち55.1%は自然に消えていましたが、25.2%は続き、19.7%は途中から新たに出現していました。つまり大半は一過性です。ただ、残るケースもあるので、AHIが下がらないまま数か月経つようなら一度相談してください。機器の種類そのものを変える選択肢もあります。
理由その7:機械の数字自体に誤差がある
見落とされがちな点です。
CPAPが表示するAHIは、送り出す空気の流れのパターンから推定した値です。脳波も酸素飽和度も測っていません。280人を対象に、精密検査で測ったAHIと機器が表示したAHIを比較した研究では、両者が同じ区分に収まったのは77.3%でした。裏を返せば、2割強はずれていたことになります。
しかも空気漏れが多い夜は、この推定精度そのものが落ちます。漏れている、圧が届いていない、数字も当てにならない。悪い条件が重なるわけです。
では、どうすればいいか
順番としてはこうなります。
・まず数日分から数週間分のデータを見る。一晩だけの数字で判断しない
・漏れ量(リーク)の欄を確認する。ここが赤ければ、AHIより先にそちらを直す
・マスクのサイズ、クッションの劣化、装着の締め具合を見直す。クッションは消耗品です
・口の乾きがあるなら、チンストラップや加湿の調整を検討する
・鼻づまりがあれば治療する
・体重の変化、飲酒の習慣を振り返る
・それでも下がらなければ、設定圧の見直しや機器変更を主治医と相談する
数字が気になるのは、真面目に治療に向き合っている証拠です。ただ、AHIはあくまで指標のひとつ。日中の眠気が取れているか、夜中に目が覚めなくなったか、朝の頭痛が減ったか。そういった体感のほうが、実は大事だったりします。
数字と体調、両方を見ながら調整していきましょう。気になることがあれば、次回の受診時にデータを一緒に確認します。
参考文献
1.Determinants of Unintentional Leaks During CPAP Treatment in OSA, Lebret M, Arnol N, Martinot JB, et al. Chest. 2018 Apr;153(4):834-842. DOI: 10.1016/j.chest.2017.08.017 要約: CPAP使用中74例の睡眠ポリグラフ解析。口の開き、高い設定圧、仰向け以外の体位、レム睡眠がそれぞれ独立して意図しない空気漏れの増加に寄与することを示した研究。
2.Nasal vs Oronasal CPAP for OSA Treatment: A Meta-Analysis, Andrade RGS, Viana FM, Nascimento JA, et al. Chest. 2018 Mar;153(3):665-674. DOI: 10.1016/j.chest.2017.10.044 要約: 13試験4,563例のメタ解析。フルフェイスマスクは鼻マスクより必要圧が平均1.5cmH2O高く、残存AHIも高く、治療継続率も劣ることを定量的に示した。
3.A randomised controlled trial on the effect of mask choice on residual respiratory events with continuous positive airway pressure treatment, Ebben MR, Narizhnaya M, Segal AZ, et al. Sleep Med. 2014 Jun;15(6):619-624. DOI: 10.1016/j.sleep.2014.01.011 要約: 検査室で圧設定後にマスクを変更した比較試験。14例全例でフルフェイス使用時に残存AHIが上昇し、半数はAHI10超に達した。マスク変更時の再評価の必要性を示す。
4.Nasal obstruction and male gender contribute to the persistence of mouth opening during sleep in CPAP-treated obstructive sleep apnoea, Lebret M, Arnol N, Contal O, et al. Respirology. 2015 Oct;20(7):1123-1130. DOI: 10.1111/resp.12584 要約: CPAP治療中も睡眠中の口の開きが持続する要因を検討。鼻閉と男性であることが関連因子として同定され、鼻症状への対応が漏れ対策になることを示唆した。
5.Longitudinal study of moderate weight change and sleep-disordered breathing, Peppard PE, Young T, Palta M, et al. JAMA. 2000 Dec 20;284(23):3015-3021. DOI: 10.1001/jama.284.23.3015 要約: 690名を4年間追跡した前向きコホート研究。体重10%増加でAHIが約32%上昇、10%減少で約26%低下することを示し、体重管理の重要性を裏づけた古典的文献。
6.The impact of alcohol on breathing parameters during sleep: A systematic review and meta-analysis, Kolla BP, Foroughi M, Saeidifard F, et al. Sleep Med Rev. 2018 Dec;42:59-67. DOI: 10.1016/j.smrv.2018.05.007 要約: ランダム化試験14件422例のメタ解析。就寝前飲酒でAHIが平均2.33回増加し、睡眠時無呼吸患者では7.10回増加。酸素飽和度も有意に低下することを示した。
7.Trajectories of Emergent Central Sleep Apnea During CPAP Therapy, Liu D, Armitstead J, Benjafield A, et al. Chest. 2017 Oct;152(4):751-760. DOI: 10.1016/j.chest.2017.06.010 要約: 133,006例の遠隔モニタリングデータ解析。治療後に中枢性無呼吸が見られたのは3.5%で、うち55.1%は一過性、25.2%は持続、19.7%は後から出現したと報告。
8.A real-world comparison of apnea-hypopnea indices of positive airway pressure device and polysomnography, Agrawal R, Wang JA, Ko AG, Getsy JE. PLoS One. 2017 Apr 5;12(4):e0174458. DOI: 10.1371/journal.pone.0174458 要約: 280例で機器表示AHIと睡眠ポリグラフのAHIを比較。同一区分に一致したのは77.3%にとどまり、機器の数値には一定の誤差があることを実臨床データで示した。
9.The Importance of Mask Selection on Continuous Positive Airway Pressure Outcomes for Obstructive Sleep Apnea. An Official American Thoracic Society Workshop Report, Genta PR, Kaminska M, Edwards BA, et al. Ann Am Thorac Soc. 2020 Oct;17(10):1177-1185. DOI: 10.1513/AnnalsATS.202007-864ST 要約: 米国胸部学会の公式ワークショップ報告。マスク選択が治療圧、空気漏れ、残存呼吸イベント、アドヒアランスに与える影響を包括的に整理した指針的文献。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介