2026年9月22日

健診で見逃される「もう一つの悪玉コレステロール」Lp(a)。新ガイドラインが示すリスクと対策
Lipoprotein(a)
生涯に一度、知っておきたい数値
健康診断ではLDLコレステロールも基準内。それなのに、ご家族に若くして心筋梗塞になった方がいて心配だ——外来で、こうしたご相談をいただくことがあります。そんな方にぜひ知っておいていただきたいのが、「Lp(a)(エルピーエー/リポプロテイン・エー)」という血液検査です。
2026年9月、日本動脈硬化学会がLp(a)に関する考え方をまとめた文書を公表し、日本人のデータにもとづく3段階のリスク区分を示すとともに、Lp(a)を測って自分のリスクを知ることを呼びかけました[1]。この記事では、その内容と、数値をどう受け止めればよいかを解説します。
Point
この記事のポイント
- Lp(a)は、ふつうの健康診断には含まれない脂質の一種で、量のほとんどが遺伝で決まります
- 日本動脈硬化学会は、25 nmol/L未満・25〜125 nmol/L・125 nmol/L超の3段階で考えることを提案しています
- 高かった場合に今できるのは、LDLコレステロールや血圧など「下げられるリスク」を早めにしっかり管理することです
健診に載っていない「もう一つのコレステロール」
Lp(a)は、LDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)の粒子に、「アポ(a)」という特殊なたんぱく質が結びついたものです。LDLと同じように血管の壁にコレステロールを運び込むことに加え、血栓(血のかたまり)を溶けにくくする方向にも働くと考えられています[3]。
健康診断ではLDL、HDL、中性脂肪を測りますが、Lp(a)は通常含まれていません。そのため「LDLは正常なのにLp(a)は高い」という方は、気づかれないままになりがちです。
Lp(a)が心筋梗塞の「原因」の一つであることは、遺伝子の情報を使った研究で強く支持されています。デンマークで計約4万人を調べた研究では、Lp(a)が特に高い人(上位5%)は低い人に比べて心筋梗塞の危険度が約2.6倍で、生まれつきの遺伝子のタイプからみてLp(a)が高い人でも、やはり心筋梗塞が多いことが示されました[2]。
研究の種類観察研究と遺伝子を用いた解析/対象 40,486人
また、心臓の出口にある弁が硬く狭くなる「大動脈弁狭窄症」とも関係することが報告されています[3]。
新しい3段階の区分をどう読むか
今回の文書では、Lp(a)の値を次の3つに分けて考えることが提案されました[1]。
| 区分 | Lp(a)の値 |
|---|---|
| 低リスク | 25 nmol/L未満 |
| 中間リスク | 25〜125 nmol/L |
| 高リスク | 125 nmol/L超 |
この区分のもとになったのは、国内6施設の患者さん約6,200人のデータを解析した「LEAP研究」です。日本人のLp(a)の中央値は約21 nmol/Lで、多くの人は低い値に集まり、一部の人がとても高い値を示す分布でした。狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患がある人の割合は、25 nmol/L以下で20.2%、25〜125 nmol/Lで30.3%、125 nmol/L超で39.9%と、段階的に高くなっていました[4]。
研究の種類多施設の後ろ向き観察研究/対象 6,173人
読むときに気をつけていただきたい点が2つあります。
一つは、この研究は病院を受診した方のデータを振り返って調べたもので、区分は論文の中でも「暫定的なもの」と位置づけられていることです。今後の研究で見直される可能性もあります。
もう一つは単位です。国内の検査結果は「mg/dL」で返ってくることが多いのに対し、今回の区分は「nmol/L」で示されています。Lp(a)の粒子は人によって大きさが違うため、mg/dLからnmol/Lへの換算には測定キットごとの式が必要で、単純な掛け算では正確になりません。目安として125 nmol/Lはおよそ50 mg/dLにあたるとされますが[6]、日本動脈硬化学会は換算ツールも公開しています[5]。お手元の結果の読み方は、主治医にご確認ください。
なぜ「一生に一度」でよいのか
Lp(a)の量は90%以上が遺伝で決まり、5歳ごろまでにほぼ大人の値に近づくとされています。食事の内容を変えても変動は10〜15%程度にとどまり、運動の影響はほとんどないと報告されています[3]。
そのため、LDLコレステロールのように毎年追いかける必要はなく、一度測って自分の区分を知っておけば、多くの場合は十分です。欧州動脈硬化学会(2022年)[3]や、2026年に改訂された米国の脂質異常症ガイドライン[6]も、成人は少なくとも一度はLp(a)を測定するよう勧めています。
また、Lp(a)は親から子へ受け継がれます。ご自身のLp(a)が高かった場合や、ご家族に若くして心筋梗塞になった方がいる場合は、ご家族(親、きょうだい、お子さん)も測定を検討する価値があります[3][6]。
高かったらどうする?——今できるのは「他のリスクを削る」こと
現時点で、Lp(a)そのものを下げて心筋梗塞を減らせることが証明された薬はありません。では、測っても仕方がないのかというと、そうではありません。
国立循環器病研究センター(吹田市)などの研究グループが、冠動脈疾患の患者さん1,581人を約5年間追跡した研究があります。LDLコレステロールを55 mg/dL未満まで下げていた512人に限ってみても、Lp(a)が30 mg/dL未満の人に比べて、30〜50 mg/dLの人では心筋梗塞などが起こる危険度が約3.8倍、50 mg/dL以上では約6.9倍でした[7]。対象人数が少ないため数字には幅がありますが、LDLを十分に下げてもLp(a)による危険は残りうることを示しています。
研究の種類多施設の後ろ向き観察研究/対象 1,581人
Lp(a)が高いとわかったときに学会やガイドラインが勧めているのは、LDLコレステロール、血圧、血糖、喫煙、体重といった「変えられるリスク」を、より早い段階から、よりしっかり管理することです[3][6]。同じLDLの値でも、Lp(a)が高い方では、治療を始める時期や目標値を見直すきっかけになります。
新しい薬の現在地——期待と、まだ分かっていないこと
Lp(a)を大きく下げる新しいタイプの注射薬の開発が、世界で進んでいます。ただ2026年9月4日、そのうちの一つ(ペラカルセン、国内未承認)について、Lp(a)が高く(70 mg/dL以上)心血管疾患のある約8,300人を対象にした大規模試験で、Lp(a)は下がったものの、心筋梗塞や脳卒中などを減らす効果は主要な評価項目で確認できなかったと発表されました[8]。
研究の種類ランダム化比較試験/対象 8,323人。企業による速報で、詳しい結果は今後の学会で発表予定
別の薬でも約7,300人規模の試験が続いており、主要な解析が終わるのは2028年ごろの見込みです[9]。「Lp(a)を薬で下げれば病気が減る」かどうかは、まだ答えが出ていません。だからこそ今は、効果が確かめられている対策を積み重ねることが大切です。
よくあるご質問
検査を希望される方へ
Lp(a)は通常の採血で測定できます。健康保険で測定できるかどうかは、持病やご家族の病歴などをふまえて、医師が必要性を判断します。
当院では、Lp(a)を含めた心血管リスクの評価とあわせて、管理栄養士による栄養指導で、LDLコレステロールや体重、血糖の管理をお手伝いしています。LDLは高くないけれど家族歴が気になる方、以前の検査結果の見方がわからない方は、診察の際にご相談ください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- Lp(a)に3段階のリスク区分を設定 著者:Medical Tribune 媒体:Medical Tribune 医学ニュース 公開日:2026年9月16日 URL:https://medical-tribune.co.jp/news/articles/?blogid=7&entryid=615271 要約:日本動脈硬化学会がLp(a)に関するステートメントを公表したことを報じた記事。Lp(a)を動脈硬化性心血管疾患の重要な遺伝的リスク因子と位置づけ、25 nmol/L未満・25〜125・125超の3区分を提案し、測定して個々のリスクを知るよう呼びかけた。
- Genetically elevated lipoprotein(a) and increased risk of myocardial infarction 著者:Kamstrup PR, Tybjaerg-Hansen A, Steffensen R, Nordestgaard BG 雑誌:JAMA. 2009;301(22):2331-2339 発行日:2009年6月10日 DOI:10.1001/jama.2009.801 要約:デンマークの3つの研究、計40,486人を解析。追跡研究ではLp(a)上位5%の心筋梗塞リスクが最低群の約2.6倍。遺伝子型を用いた解析でもLp(a)が2倍になるごとに約1.22倍となり、因果関係を支持する結果だった。
- Lipoprotein(a) in atherosclerotic cardiovascular disease and aortic stenosis: a European Atherosclerosis Society consensus statement 著者:Kronenberg F, Mora S, Stroes ESG, Ference BA, Arsenault BJ, ほか(最終著者 Catapano AL) 雑誌:Eur Heart J. 2022;43(39):3925-3946 発行日:2022年8月18日(オンライン公開) DOI:10.1093/eurheartj/ehac361 要約:欧州動脈硬化学会の合意文書。Lp(a)濃度の90%以上は遺伝で決まり、食事や運動の影響は小さいと整理。成人は少なくとも一度の測定を推奨し、高値ではほかの危険因子を早期から強力に管理すること、家族の測定、大動脈弁狭窄症との関連にも言及した。
- Lipoprotein(a) Distribution and Cardiovascular Risk in Japan: Insights from a Multi-center LEAP Study 著者:Yamada T, Tada H, Ogura M, Funabashi S, Yoshida H, ほか(最終著者 Yoshida M) 雑誌:J Atheroscler Thromb. 2026;33(8):1049-1059 発行日:2026年8月1日 DOI:10.5551/jat.66185 要約:国内6施設・6,173人のLp(a)をキット別の換算式でnmol/Lに標準化した後ろ向き研究。中央値は20.88 nmol/L。冠動脈疾患の割合は25以下で20.2%、25〜125で30.3%、125超で39.9%と上昇し、25と125 nmol/Lを暫定的な閾値として提案した。
- Lp(a)検査値標準化ツール 著者:日本動脈硬化学会 媒体:日本動脈硬化学会ウェブサイト 閲覧日:2026年9月22日 URL:https://www.j-athero.org/lp-a-converter/ 要約:国内で使われている測定キット(積水、デンカ、日東紡)ごとに、mg/dLで報告されたLp(a)の値をnmol/Lへ換算するための学会公式ツール。キットごとに換算式が異なることを前提としている。
- 2026 ACC/AHA/AACVPR/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management of Dyslipidemia 著者:Blumenthal RS, Morris PB, Gaudino M, Johnson HM, ほか(最終著者 Young J II) 雑誌:Circulation. 2026;153(17) 発行日:2026年3月13日(オンライン公開) DOI:10.1161/CIR.0000000000001423 要約:米国の脂質異常症診療ガイドライン2026年版。すべての成人に生涯少なくとも一度のLp(a)測定を推奨(クラスI)。125 nmol/L(約50 mg/dL)以上を高値とし、脂質低下療法の強化、ほかの危険因子の積極的な管理、一親等の家族の測定を求めている。
- Lipoprotein(a) and residual cardiovascular risks in Japanese patients with coronary artery disease who achieve guideline-recommended low-density lipoprotein cholesterol goals 著者:Kataoka Y, Ray KK, Nicholls SJ, Katasako-Yabumoto A, Kitahara S, ほか(最終著者 Noguchi T) 雑誌:Eur Heart J. 2026(オンライン先行公開、巻号未定) 発行日:2026年5月24日 DOI:10.1093/eurheartj/ehag446 要約:国内3施設の冠動脈疾患患者1,581人を約5年追跡。LDL-C 55 mg/dL未満を達成した512人でも、Lp(a)30 mg/dL未満に比べ30〜50 mg/dLで危険度3.80倍、50 mg/dL以上で6.90倍と、LDLを十分下げても残るリスクを示した。
- Novartis announces Lp(a)HORIZON Phase III topline results for pelacarsen in patients with elevated Lp(a) and established cardiovascular disease (CVD) 著者:Novartis 媒体:プレスリリース 公開日:2026年9月4日 URL:https://www.novartis.com/news/media-releases/novartis-announces-lpahorizon-phase-iii-topline-results-pelacarsen-patients-elevated-lpa-and-established-cardiovascular-disease-cvd 要約:Lp(a)70 mg/dL以上で心血管疾患のある8,323人を対象とした二重盲検ランダム化比較試験の速報。ペラカルセンはLp(a)を低下させたが、心血管死・心筋梗塞・脳卒中・緊急の冠血行再建の複合という主要評価項目は達成しなかった。
- Olpasiran Trials of Cardiovascular Events and Lipoprotein(a) Reduction (OCEAN(a)) – Outcomes Trial 著者:Amgen 媒体:臨床試験情報ページ(試験ID 20180244) 閲覧日:2026年9月22日 URL:https://www.amgentrials.com/study/?id=20180244 要約:Lp(a)200 nmol/L以上の動脈硬化性心血管疾患患者7,297人を対象に、オルパシランが冠動脈疾患死・心筋梗塞・緊急冠血行再建を減らすかを検証する試験。登録は完了しており、主要解析の完了は2028年3月の見込み。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(日本消化器病学会専門医・日本消化器内視鏡学会専門医)