原発性胆汁性胆管炎
原発性胆汁性胆管炎
原発性胆汁性胆管炎
原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、肝臓の中の細い胆管が免疫のはたらきによって少しずつ壊され、胆汁の流れが滞る病気です。中年以降の女性に多く、健診の血液検査でALPやγ-GTPの高値を指摘されて見つかることが多くなっています。以前は「原発性胆汁性肝硬変」と呼ばれていましたが、診断される方の多くが肝硬変に至っていないことから、2016年に現在の名称へ変更されました。根治する治療はまだありませんが、内服薬を早い段階から続けることで、症状も検査の異常もない状態を長く保てる方が多くいます。当院では、健診の数値からの絞り込み、診断と治療の開始、その後の定期的な確認までを、通いやすい場所で担当しています。
PBCは、症状が出る前に血液検査の数値で見つかることが多い病気です。ALPやγ-GTPの高値を「お酒のせい」「脂肪肝のせい」と片づける前に、一度確かめてください。
かつては、肝硬変まで進んだ段階で見つかることがほとんどでした。しかし現在は、健診や血液検査で早い段階に見つかる方が増え、診断された時点で肝硬変に至っている方はごく一部です。病名が変わったのは、この実態に合わせるためです。
診断された時点では、症状のない方が多くいます
自他覚症状のないPBCを無症候性PBC、かゆみや黄疸、腹水などの症状があるものを症候性PBCと呼びます。無症候性のままであれば、経過は良好です。ただし、無症候性の方のうち5年間でおよそ25%が症候性へ移行するとされており、症状がないからといって放置してよい病気ではありません。
だからこそ、診断がついたら治療を始め、数か月ごとに数値を確認していくことに意味があります。症状がない時期に始めた治療が、その後の何十年かを左右します。
入口は、ALP・γ-GTPの上昇と、かゆみです
胆汁の流れが滞ると、肝臓の細胞が壊れて上がるASTやALTよりも、胆道系の酵素であるALPとγ-GTPが目立って上昇します。健診で「ALPとγ-GTPだけが高い」と言われたときは、胆汁の流れに関わる病気を考える必要があります。
もう一つの入口がかゆみです。胆汁の成分が皮膚にたまることで起こり、発疹がないのに全身がかゆい、夜にかゆみが強いという形で現れます。病気が進んでいない段階の方でも、3割ほどが中等度以上のかゆみを自覚しているとされます。皮膚科で原因が分からないかゆみが続く場合、血液検査で胆道系の数値を確かめる価値があります。
PBCの症状は、胆汁がうっ滞することによるもの、肝臓の障害が進むことによるもの、そして合併しやすい他の自己免疫の病気によるものに分けて考えると整理しやすくなります。
PBCの診断は、胆道系酵素の上昇、抗ミトコンドリア抗体(AMA)、そして必要な場合の肝組織の所見を組み合わせて行います。多くの方は、血液検査と腹部エコーで診断の見通しを立てられます。
| 問診と診察 | かゆみの有無と出方、だるさ、目や口の乾き、関節の症状、これまでの健診の数値の推移、飲酒、内服薬やサプリメント、ご家族の自己免疫の病気をうかがいます。診察では、皮膚や白目の黄色み、掻き傷、まぶたの黄色腫、肝臓や脾臓の腫れを確認します。過去の健診結果は、必ずご持参ください。 |
|---|---|
| 血液検査 | ALP、γ-GTP、AST、ALT、ビリルビン、アルブミン、血小板で胆汁うっ滞と肝臓の状態を確認し、抗ミトコンドリア抗体(AMA、AMA-M2)とIgM、抗核抗体、IgGで免疫の異常を調べます。AMAはPBCで高い頻度に陽性となり、診断の柱になります。あわせて甲状腺の機能や脂質、ビタミンD、鉄の状態も確認します。 |
| 腹部エコー | 胆道系の数値が高いときは、まず胆管が石や腫瘍でふさがれていないかを確かめる必要があります。胆管の拡張の有無、胆嚢の状態、肝臓の形や表面、脾臓の腫れ、肝臓の腫瘤の有無を確認します。ここで閉塞が否定できることが、PBCを考える前提になります。 |
| 線維化の評価 | 血小板の数やAST・ALT、年齢から計算するFIB-4指数などで、肝臓の線維化がどの程度進んでいるかを推定します。より詳しい評価が必要な場合は、肝臓の硬さを測る検査(エラストグラフィ)や肝生検を行える連携病院へご紹介します。診断のために肝生検が必要になる方は、一部に限られます。 |
| 胃カメラ | PBCでは、肝硬変に至る前の段階でも食道や胃の静脈瘤が現れることがあります。線維化が進んでいると考えられる方や、血小板が減ってきている方には、院内の胃カメラで静脈瘤の有無を確認します。当院では夕方の時間帯にも胃カメラを行っています。 |
| 定期的な確認 | 診断後は、3〜6か月ごとの血液検査で治療の効き方を確認し、年に一度を目安に腹部エコーで肝臓の状態と腫瘤の有無を確認します。進行した方では、肝がんの発生にも注意して経過を追います。 |
治療の柱は、胆汁の流れを助ける内服薬を長く続けることです。あわせて、かゆみなどの症状と、骨粗鬆症をはじめとする合併症に対応していきます。
| ウルソデオキシコール酸 (UDCA) |
第一選択の薬で、診断がつけば早い段階から始めます。多くの方で胆道系の酵素が下がり、長期の経過を改善することが確かめられています。効果は飲み続けることで保たれるため、数値が落ち着いても自己判断で中止しないことが大切です。副作用の少ない薬ですが、下痢などがあればご相談ください。 |
|---|---|
| 効果が十分で ないとき |
内服を続けてもALPが十分に下がらない場合には、ベザフィブラートを併用する方法があります。2023年の診療ガイドラインでは、長期の経過を改善する効果が報告されたことから、第二の選択肢としての推奨が引き上げられました。腎機能の状態や併用している薬によっては使えないことがあり、まれに横紋筋融解症などの副作用が報告されています。効果と安全性を確かめながら、継続するかどうかを判断します。 |
| かゆみへの 治療 |
抗ヒスタミン薬や保湿だけでは治まりにくいのが、胆汁うっ滞によるかゆみの特徴です。慢性の肝疾患に伴うかゆみに用いる内服薬(ナルフラフィン)など、専用の選択肢があります。掻き傷や睡眠への影響も含めて、生活にどれだけ支障が出ているかをうかがったうえで選びます。 |
| 合併症への 対応 |
胆汁の流れが滞るとビタミンDが吸収されにくくなるため、骨粗鬆症が進みやすくなります。骨密度の測定は当院では行っていないため、検査できる施設へご紹介し、その結果をもとに治療と定期的な確認を当院で行います。コレステロールの上昇、甲状腺の機能異常、シェーグレン症候群による目や口の乾きも、あわせて診ていきます。だるさなど数値に表れにくい不調には、漢方治療を組み合わせることもできます。 |
| ステロイドに ついて |
通常のPBCでは、副腎皮質ステロイドは用いません。効果が期待できないうえ、とくに閉経後の女性では骨粗鬆症を悪化させるためです。使うのは、自己免疫性肝炎の要素が重なるPBC-AIHオーバーラップで肝炎の勢いが強い場合に限られます。 |
| 進行した 場合 |
静脈瘤が見つかれば、破裂を防ぐための治療を専門施設で行います。黄疸が進む場合には肝移植が選択肢となり、血清の総ビリルビン値が5mg/dLに近づく頃を目安に、肝臓専門医・移植専門医へご紹介します。日本では生体肝移植の成績も良好です。 |
指定難病の医療費助成について
PBCは指定難病(告示番号93)です。医療費助成の対象となるのは、かゆみ、黄疸、食道胃静脈瘤、腹水、肝性脳症などの症状がある症候性PBCの方で、無症候性の段階では原則として対象になりません。ただし、症状が基準に届かない場合でも、医療費が高額な状態が続く方は対象となる制度(軽症高額該当)があります。
申請には難病指定医が作成する臨床調査個人票が必要です。当院の医師は難病指定医の登録をしており、この書類を当院で作成できます。申請の手続きはお住まいの自治体の窓口で行いますので、対象になりうるかを含めて、必要な書類と進め方をご説明します。
FIRST STEP
健診の「ALP・γ-GTPが高い」を、そのままにしません
胆道系の数値だけが高いという結果は、飲酒や脂肪肝で説明されて終わってしまうことが少なくありません。当院では、腹部エコーで胆管の閉塞を除いたうえで、AMAやIgMを含む血液検査で原因を絞り込みます。かゆみやだるさといった、数値と結びつけにくい症状との関係も一緒に確かめます。
LONG-TERM CARE
長く続く通院だからこそ、近くで
PBCの治療は、何年、何十年と続きます。治療を始めたあとは、3〜6か月ごとの血液検査で効き方を確かめ、年に一度のエコーで肝臓の状態を確認していきます。この繰り返しを無理なく続けられることが、経過を左右します。月・火・木・金曜は19時まで、土曜と日曜(月2回・予約制)も診療しています。
WHOLE BODY
肝臓だけでなく、全身を診ます
PBCには、甲状腺の病気、シェーグレン症候群、関節リウマチなどが合併することがあり、骨粗鬆症や脂質の異常も起こりやすくなります。当院は内科のかかりつけ医として、これらをまとめて継続的に診ることができます。食事については管理栄養士4名が、だるさやかゆみなど数値に表れにくい不調には漢方専門医が対応します。
COORDINATION
専門施設との役割を分けて進めます
肝生検や肝臓の硬さを測る検査、静脈瘤の治療、肝移植の検討は専門施設で行われます。当院では、必要と判断した時点でご紹介し、その後の日常の管理を分担します。院内の胃カメラで静脈瘤の有無を確認できるため、進行の兆しを早い段階で捉えられます。指定難病の申請に必要な臨床調査個人票も、難病指定医である当院の医師が作成します。
まずは診察でご相談ください
症状の経過と、健診の数値の推移をうかがいます。健診結果(できれば数年分)、過去の血液検査やエコーの記録、お薬手帳をお持ちいただくと、いつから数値が上がってきたのかが分かり、診断の助けになります。すでに他院で治療中の方は、紹介状や検査結果をお持ちください。
血液検査と腹部エコー
胆道系酵素の上がり方を確かめ、AMAやIgM、抗核抗体などを調べます。腹部エコーで胆管の閉塞や肝臓の状態を確認します。エコーは空腹時のほうが正確に評価できるため、可能であれば朝食を抜いてお越しください。
診断のご説明と、治療の開始
結果がそろった時点で、診断の根拠と現在の段階をご説明し、ウルソデオキシコール酸の内服を始めます。肝生検などの追加検査が必要な場合は、連携病院へご紹介します。指定難病の医療費助成についても、この時点でご案内し、対象となる方には臨床調査個人票を当院で作成します。
3〜6か月ごとの確認を続けます
血液検査でALPやビリルビンの動きを追い、治療の効き方を確かめます。効果が十分でない場合は、次の選択肢を検討します。年に一度を目安にエコーで肝臓の状態を確認し、必要に応じて胃カメラで静脈瘤の有無を確かめます。
次の症状があるときは、次回の予定を待たずにご相談ください
黄疸の進行、腹水、意識の変化は、肝臓の働きが落ちてきたサインです。血を吐く、便が黒くなるといった変化は、食道や胃の静脈瘤からの出血の可能性があり、急を要します。夜間や休診日など診療時間外であれば、ためらわず救急外来を受診するか、救急要請をしてください。
細菌による感染症ではありません。PBCは、肝臓の中の細い胆管が免疫のはたらきによって壊されていく病気で、抗菌薬で治す種類の病気ではありません。同じ「胆管炎」という言葉でも、胆石などで胆汁がせき止められて細菌が感染する急性胆管炎とは、まったく別のものです。名前が紛らわしいため、診断の際には必ず違いをご説明しています。
現在、診断される方の多くは肝硬変に至っておらず、早い段階から内服を続けることで、症状も検査の異常もない状態を長く保てる方が多くいます。以前「原発性胆汁性肝硬変」と呼ばれていたのは、肝硬変まで進んでから見つかることが多かった時代の名残です。ただし、進み方には個人差があるため、定期的に数値を確認していくことが大切です。
AMAが陽性でも、胆道系の酵素の上昇がなく症状もない場合は、その時点でPBCと診断はしません。ただし、年単位で経過を追うと、一部の方で数値が上がってくることがあります。年に一度を目安に血液検査で確認していくことをおすすめします。ご自身がどちらにあたるのか、これまでの数値をもとにご説明します。
原則として、飲み続けていただく薬です。数値が落ち着いているのは薬が効いている結果であり、中止すると再び上昇することが多くあります。副作用の少ない薬ですが、飲みにくさや体調の変化があれば調整できますので、自己判断で中止せずご相談ください。
我慢していただく必要はありません。胆汁うっ滞によるかゆみは、抗ヒスタミン薬や保湿だけでは治まりにくい一方で、慢性の肝疾患に伴うかゆみに用いる内服薬など、専用の選択肢があります。眠れているか、掻き傷ができていないか、どの時間帯に強いかを教えていただければ、それに合わせて対応を組み立てます。
PBCは飲酒が原因の病気ではありませんが、肝臓への負担を減らすという意味で、量は控えめにしていただくのが望ましいと考えています。γ-GTPは飲酒でも上がるため、飲酒が続くと治療の効き方の判断が難しくなるという実務的な理由もあります。禁酒が必要かどうかは、肝臓の状態に応じてご相談します。
単純に遺伝する病気ではありません。ただし、ご家族にPBCの方がいる場合、そうでない方より発症の頻度がやや高いことが知られています。ご家族に症状がなくても、健診でALPやγ-GTPの値を確認しておくとよいでしょう。気になる数値があれば、ご相談ください。
診断がついた方すべてが対象になるわけではありません。かゆみ、黄疸、食道胃静脈瘤、腹水、肝性脳症などの症状がある症候性PBCの方が助成の対象となり、無症候性の段階では原則として対象外です。ただし、医療費が高額な状態が続く場合の制度(軽症高額該当)もあります。申請には難病指定医が作成する臨床調査個人票が必要ですが、当院で作成できますので、対象になりうるかを含めてご相談ください。
PBCがあっても妊娠・出産をされる方はおられます。ただし、妊娠中はかゆみが強くなることがあり、内服の継続や薬の選択について事前の相談が必要です。肝臓の状態や静脈瘤の有無によって注意点が変わるため、妊娠を考えられた段階で、産科および肝臓専門医と連携しながら方針を立てます。
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