シェーグレン症候群
シェーグレン症候群
シェーグレン症候群
目が乾く、口が渇く。この二つだけを取り出せば、誰にでもある不調に見えます。けれども、水がないと乾いたものを飲み込めない、短期間に虫歯が増えた、耳の下が腫れるといったことが重なってくるとき、背景に自己免疫の関わりが隠れていることがあります。シェーグレン症候群は涙腺と唾液腺に慢性の炎症が起こる病気で、中年以降の女性に多く、診断までに何年もかかることが珍しくありません。当院では、乾燥の原因を切り分けるところから、診断後の漢方を含めた治療、指定難病の手続きまでを、内科のかかりつけとしてお引き受けします。
乾燥は「そういう体質」「年齢のせい」で片づけられやすい症状です。ただ、これだけの項目が重なっている場合は、一度きちんと調べておく価値があります。
涙と唾液をつくる腺が、免疫の標的になります
本来は細菌やウイルスに向かうはずの免疫が、涙腺と唾液腺に集まって慢性の炎症を起こす自己免疫疾患です。腺の組織が少しずつ置き換わることで、涙と唾液の分泌が減っていきます。女性に圧倒的に多く、男女比はおよそ1対17、発症は40〜60歳代に多いとされています。なお、2025年に国内でも呼び方が改められ、現在は「シェーグレン病」と呼ばれます。一方、指定難病の制度上の病名は「シェーグレン症候群」のままであり、当面は両方の名前が使われます。
経過には幅があり、多くの方は乾燥とのつき合いが中心になります
乾燥症状だけで長く経過する方から、肺・腎臓・神経など全身に炎症が及ぶ方まで、経過には大きな幅があります。全体としては、乾燥への対処と定期的な確認を続けていくことが診療の中心です。ただし一部に、見逃したくない合併症があります。症状が落ち着いているからと通院をやめてしまうのではなく、間隔を空けながらでも継続して診ておくことに意味があります。
シェーグレン症候群は「目と口が乾く病気」として知られていますが、実際にはそれ以外の訴えで受診される方も少なくありません。どの症状が出るかは人によって異なります。
目や口の乾きを訴えて受診される方のうち、シェーグレン症候群と診断されるのはその一部です。まず、ほかの原因を丁寧に外していくことが出発点になります。
薬の影響は、もっとも見落とされやすい原因です
抗ヒスタミン薬、一部の降圧薬、抗うつ薬、頻尿の薬、胃腸の薬、睡眠薬など、唾液や涙を減らす作用をもつ薬は数多くあります。複数を長く飲んでいる方ほど影響が重なります。お薬手帳をお持ちいただければ、服用中の薬を一つずつ確認します。原因が薬であれば、変更や中止で改善することも少なくありません。市販の風邪薬や鼻炎薬にも同じ作用の成分が含まれています。
唾液腺が腫れる病気には、別のものもあります
IgG4関連疾患(ミクリッツ病)は、涙腺と唾液腺が左右対称に腫れる点が似ていますが、治療の方針が異なります。血液中のIgG4を測ることで、ある程度切り分けられます。このほか、加齢に伴う分泌の低下、口呼吸、糖尿病、脱水、頭頸部への放射線治療のあとなども、乾燥の原因になります。原因によって、やるべきことは大きく変わります。
診断は複数の検査を組み合わせて行いますが、すべてを一度に受ける必要はありません。負担の少ないものから順に進め、必要な分だけで判断できることも多くあります。
| 血液検査 | 抗SS-A抗体・抗SS-B抗体、抗核抗体、リウマトイド因子、IgG、炎症の指標などを調べます。抗SS-A抗体は診断の柱のひとつです。あわせて甲状腺機能、肝機能、腎機能、血球数も確認し、合併しやすい病気を同時に見ておきます。当院で実施できます。 |
|---|---|
| 唾液の量の検査 | ガムを一定時間噛む方法(ガムテスト)や、乾いたガーゼを噛んで重さの増加を測る方法(サクソンテスト)で、唾液の分泌量を数字として確認します。特別な機器を必要としない検査で、必要と判断した際にご案内します。 |
| 眼の検査 | シルマー試験で涙の量を、染色検査で角膜・結膜の傷を確認します。眼科で行う検査のため、連携する医療機関へご紹介します。ドライアイの治療もあわせて眼科で受けていただくのが確実です。 |
| 口唇生検 (小唾液腺生検) |
下唇の内側から粟粒ほどの組織を採り、リンパ球の集まり方を顕微鏡で確認します。ほかの検査で診断が固まらない場合に行う検査です。当院では実施しておらず、口腔外科などへご紹介します。 |
| 画像の検査 | 唾液腺エコー、唾液腺造影、唾液腺シンチグラフィで、腺の構造や機能を評価します。実施できる施設が限られるため、必要に応じて連携先へご紹介します。 |
| 診断の基準 | 国内では、生検の所見、唾液の検査、眼の検査、抗SS-A/SS-B抗体の4項目のうち2項目以上を満たすことが基準とされています。つまり、すべての検査を受けなくても診断がつく場合があります。どこまで調べるかは、症状と検査結果を見ながら一緒に決めていきます。 |
現時点で、涙腺・唾液腺の変化そのものを元に戻す治療はありません。治療の柱は、乾燥による不具合を減らすことと、全身の炎症を見逃さないことの二つです。そのうえで、対処を重ねれば日常の困りごとはかなり軽くできます。
| 目の乾きに対して | 人工涙液やヒアルロン酸の点眼に加え、涙の成分の分泌を促す点眼薬(ジクアホソル、レバミピド)が使われます。改善が乏しい場合は、涙の出口をふさいで涙を保つ処置(涙点プラグ)もあります。いずれも眼科での治療になります。 |
|---|---|
| 口の渇きに対して | 唾液の分泌を促す内服薬(セビメリン、ピロカルピン)が保険で使えます。効果が期待できる一方、発汗、吐き気、頻尿などが出ることがあるため、少量から始めて様子を見ながら調整するのが実際的です。人工唾液や保湿ジェル、去痰薬を組み合わせることもあります。 |
| 漢方治療 | 麦門冬湯をはじめとする漢方薬は、診療ガイドラインでも口腔乾燥に対する治療の選択肢として取り上げられています。ただし一剤で決まるものではなく、のぼせや冷え、胃腸の状態、体力の落ち方によって選ぶ処方が変わります。当院では漢方専門医が診察したうえで処方します。 |
| 関節痛・倦怠感に対して | 消炎鎮痛薬のほか、症状によっては少量のステロイドや抗リウマチ薬を用いることがあります。倦怠感については、貧血や甲状腺機能の低下など、別の原因が重なっていないかを確認することが先になります。 |
| 腺以外の臓器の 病変に対して |
間質性肺炎、腎障害、神経障害、血球減少などがある場合は、ステロイドや免疫抑制薬、生物学的製剤による治療が必要になります。この部分はリウマチ・膠原病の専門施設で方針を立てていただき、当院は日常の管理と経過の確認を担当します。 |
| 口の中の管理 | 唾液が減ると虫歯と歯周病が進みやすくなります。歯科での定期的な管理は、治療の一部と考えてください。舌や頬の内側に白い苔のようなものが付く場合は口腔カンジダ症のことがあり、抗真菌薬で対応します。口内炎を繰り返す場合は、鉄や亜鉛、ビタミンの不足が重なっていることもあり、採血で確認できます。 |
KAMPO
漢方専門医が、乾燥とだるさに漢方で対応します
麦門冬湯は口腔乾燥に対する治療として診療ガイドラインにも取り上げられていますが、実際には一剤で決まるものではありません。のぼせがあるのか冷えがあるのか、胃腸が弱っていないか、体力がどれだけ落ちているかによって、選ぶ処方が変わります。当院は漢方専門医による診療を行っており、西洋薬だけでは取り切れない乾燥感、倦怠感、関節のこわばりに対して、漢方をあわせて用いることができます。
DESIGNATED DISEASE
難病指定医として、申請の書類を院内で作成します
シェーグレン症候群は指定難病(告示番号53)です。医療費助成の申請には、難病指定医が作成する臨床調査個人票が必要になります。当院には難病指定医の登録があり、この書類を院内で作成できます。毎年の更新についても、通常の通院のなかで対応しますので、そのために別の医療機関へ出向いていただく必要はありません。
GENERAL MEDICINE
併存する病気まで、同じ場所で診ます
甲状腺機能の低下、原発性胆汁性胆管炎や自己免疫性肝炎による肝機能の異常、関節リウマチ、高血圧や脂質異常症。シェーグレン症候群の方は、これらを併せ持つことが少なくありません。当院は内科のかかりつけ医として、これらをまとめて継続的に診ることができます。通院先を分けずに済むことは、長くつき合う病気では実際的な利点になります。
FATIGUE
だるさを、乾燥のせいだけにしません
倦怠感は病気そのものからも出ますが、鉄欠乏、甲状腺機能の低下、睡眠時無呼吸症候群など、別に治せる原因が隠れていることがあります。当院では血液検査に加え、必要に応じて自宅で行う睡眠の検査まで実施し、原因を切り分けます。鉄欠乏性貧血に対しては、静脈注射での鉄の補充も院内で行えます。
ENDOSCOPY
飲み込みにくさや胸のつかえの原因を確かめます
唾液が減ると、食べ物が喉に残る、胸につかえるといった症状が出ます。一方で、同じ訴えが逆流性食道炎や食道カンジダ症、食道の運動の異常から来ていることもあります。当院では胃カメラを行っており、夕方の時間帯にも実施しています。原因を確かめたうえで対応を決められます。
NUTRITION
管理栄養士とともに、食べにくさを減らします
乾燥が強いと食べられるものが限られ、食事の量そのものが落ちていきます。当院には管理栄養士が4名在籍しており、栄養指導を行える体制を整えています。飲み込みやすさを保ちながら栄養が不足しない食べ方を、献立の形まで具体的に組み立て直します。
シェーグレン症候群は指定難病に指定されていますが、診断された方全員が医療費助成を受けられるわけではありません。誤解されやすい点なので、先に整理しておきます。
助成の対象になるかどうかは、重症度で決まります
国の基準では、ESSDAIという全身の活動性を点数化した指標で5点以上のときに助成の対象となります。発熱、リンパ節の腫れ、関節炎、肺・腎臓・神経の病変などが点数の対象で、目と口の乾燥だけでは基準に届かないことがほとんどです。つまり、診断はついても助成の対象にはならない方が多い、というのが実際のところです。
基準に届かない場合でも、対象になる道があります
「軽症高額該当」という仕組みがあります。申請月からさかのぼって12か月のうち、医療費の総額(10割)が33,330円を超えた月が3回以上あれば、認定の対象になります。3割負担の方で、窓口負担がおよそ1万円を超える月が年に3回以上あるかどうかが目安です。該当しそうな場合は領収書を残しておいてください。
手続きと、今後の基準の変更について
申請は、難病指定医が作成した臨床調査個人票を添えて、お住まいの自治体の窓口で行います。認定されると特定医療費(指定難病)受給者証が交付され、自己負担が3割から2割に下がり、所得に応じた月額の上限額が設定されます。受給者証の有効期間は原則1年で、毎年の更新が必要です。なお、シェーグレン症候群の診断基準と重症度分類は2027年4月に一部が変わる予定です。更新の時期にあわせて、その時点の基準でご説明します。
薬だけで解決する症状ではありません。日々の小さな工夫の積み重ねが、実際の楽さにつながります。
次のような場合は、次回の予約を待たずにご相談ください
唾液腺の腫れが片側で長く続く場合は、悪性リンパ腫の合併を確かめておく必要があります。頻度が高いわけではありませんが、早く見つけられれば対応の幅が広がります。また、強い脱力は、腎臓の尿細管の障害による低カリウム血症が原因のことがあり、この場合は早急な対応が必要です。妊娠を希望される方、妊娠された方で抗SS-A抗体が陽性の場合は、胎児の心臓の伝導に関わることがあります。産科の担当医に必ずお伝えください。
症状と経過、服用中の薬をうかがう
いつ頃からどのような乾燥があるか、ほかに症状がないかを整理します。お薬手帳は必ずお持ちください。乾燥の原因が服用中の薬にある場合、この時点で見当がつくことがあります。他院で受けた検査の結果があれば、あわせてお持ちください。
血液検査で自己抗体と合併症を確認する
抗SS-A抗体・抗SS-B抗体、抗核抗体、IgGなどを調べ、同時に甲状腺、肝臓、腎臓、血球数も確認します。乾燥の原因として頻度の高いほかの病気の有無も、ここで一度に整理します。
必要な検査を、役割を分担しながら進める
眼科での検査、唾液の量の検査、口唇生検、画像検査のうち、必要なものをご案内します。当院で行えないものは、連携先へ紹介状をお書きします。すべてを受ける必要はなく、診断に必要な分だけを進めます。
診断後は、治療と定期的な確認を続ける
乾燥への治療と漢方、併存する病気の管理、定期的な血液検査を組み合わせて経過を追います。腺以外の臓器に病変がある場合は、リウマチ・膠原病の専門施設と分担しながら診ていきます。指定難病の申請に該当する場合は、書類を院内で作成します。
一度調べておく意味はあります。理由は二つあります。ひとつは、乾燥の原因が薬やほかの病気にある場合、そちらへの対応で改善する可能性があること。もうひとつは、シェーグレン症候群であった場合、乾燥以外の臓器の変化を定期的に見ておく必要があるためです。症状が軽い方に、負担の大きい検査を無理におすすめすることはありません。
抗SS-A抗体が陽性であれば診断に大きく近づきますが、血液検査だけで確定するわけではありません。国内の基準では、抗体、唾液の検査、眼の検査、生検の4項目のうち2項目以上を満たすことが必要とされています。逆に、抗体が陰性でもシェーグレン症候群であることはあり、その場合は唾液や眼の検査、生検が決め手になります。
抗SS-A抗体は全身性エリテマトーデスなどでも陽性になり、明らかな病気のない方で陽性のこともあります。この抗体が陽性というだけでは診断はつきません。症状とほかの検査を組み合わせて判断します。ただし、妊娠に関わる注意点があるため、陽性と言われたことは覚えておいてください。
涙腺と唾液腺の変化を元に戻す治療は、現時点ではありません。ただ、進み方はゆるやかで、多くの方は乾燥への対処を続けながら通常の生活を送っておられます。「治らない」という言葉の印象ほど、経過が悪い病気ではありません。乾燥への対処、合併症の確認、併存する病気の管理を続けることが、この病気の治療の中身です。
指定難病ではありますが、助成の対象になるのは重症度の基準を満たした方に限られます。目と口の乾燥が中心の方は、基準に届かないことがほとんどです。ただし、医療費が一定額を超える月が年に3回以上ある場合は「軽症高額該当」として認定される道があります。ご自身が該当しそうかどうかは、診察のなかで一緒に確認します。
併せて診ることができます。腺以外の臓器に病変があり、免疫抑制薬や生物学的製剤を使っている場合、その部分は専門の施設で継続していただくのが安全です。そのうえで、乾燥への対処、漢方、併存する病気の管理、日常の体調の変化については当院が担当する、という形が現実的です。紹介状のやり取りも含めてご相談ください。
漢方を中心に組み立てることはできます。ただし、腺以外の臓器に病変がある場合、漢方だけで対応するのは適切ではありません。まず全身の状態を確認したうえで、漢方で進められる範囲なのか、西洋薬を組み合わせるべきなのかを判断します。当院は漢方専門医による診療を行っており、その見極めも含めてご説明します。
抗SS-A抗体が陽性の場合、まれに胎児の心臓の刺激伝導に影響し、房室ブロックを起こすことがあります。頻度は高くありませんが、妊娠中に胎児の心拍を注意して確認する必要があるため、産科の担当医に必ずお伝えください。使用中の薬についても、妊娠を希望される段階で一度整理しておくことをおすすめします。
唾液腺の腫れは、シェーグレン症候群そのものでも起こります。ただし、片側の腫れが2週間以上続く場合、硬く触れる場合、リンパ節の腫れや発熱、体重の減少を伴う場合は、悪性リンパ腫の合併を確かめる必要があります。頻度が高いわけではありませんが、確認しておくべき事柄です。腫れに気づかれたら、次回の予約を待たずにご相談ください。
防腐剤を含む目薬を1日に何度も使うと、かえって角膜に負担がかかることがあります。回数が増えている場合は、防腐剤を含まない製品や処方の点眼薬に切り替えるほうがよいことが多いです。眼の乾燥については、角膜の傷の有無まで確認できる眼科での評価をおすすめします。
シェーグレン症候群は、ほかの自己免疫疾患や乾燥以外の症状と重なることが多い病気です。あてはまるものがあれば、あわせてご覧ください。
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