慢性膵炎
慢性膵炎
慢性膵炎
「みぞおちや背中の鈍い痛みがくり返す」「脂っこいものを食べるとお腹をこわす」「体重が少しずつ減ってきた」——慢性膵炎は、胃の不調として様子を見られているうちに進んでしまうことのある病気です。当院では消化器病専門医が、膵臓の状態と栄養の状態を並行して確認し、痛みを抑えるだけでなく、消化・栄養・血糖まで含めて先を見据えた管理を行います。
膵臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、症状が出にくいうえに、出てもみぞおちの不調として胃の病気と区別しにくい特徴があります。飲酒歴のある方、急性膵炎の既往がある方はとくに、一度膵臓を意識した評価を受けておく意味があります。
慢性膵炎は、膵臓の炎症が長く続くことで組織が線維に置きかわり、消化液をつくる力(外分泌)とインスリンを出す力(内分泌)が徐々に失われていく病気です。進行の段階によって前面に出る症状が入れ替わるため、「痛みが軽くなった=良くなった」とは限らない点が、この病気の分かりにくいところです。
痛みが減っていく過程は、機能が落ちていく過程でもあります
慢性膵炎では、経過とともに痛みの発作が減っていくことがあります。これは回復ではなく、膵臓の組織が線維に置きかわり、炎症を起こす余力そのものが乏しくなったことを反映している場合があります。この時期に受診が途切れると、脂肪便や体重減少、糖尿病が進んでから改めて見つかることになりかねません。症状が落ち着いているときこそ、定期的な確認に意味があります。
禁酒と禁煙は、いちばん効果の大きい治療です
アルコールは慢性膵炎のもっとも多い原因であり、飲酒を続けている限り進行と痛みの再燃は避けられません。同時に、喫煙もお酒とは独立して膵炎の進行を早め、膵がんの危険性を高めることが分かっています。「お酒だけやめる」のではなく、禁酒と禁煙を同時に進めることが、薬以上に確かな治療になります。当院では、やめられない背景も含めてご相談をうかがいます。
膵がんのリスクを見据えた経過観察が必要です
慢性膵炎の方は、そうでない方に比べて膵がんが発生しやすいことが知られています。定期的な画像検査と血液検査を続ける目的は、症状を抑えることだけでなく、この変化を早い段階でとらえることにもあります。急な体重減少、黄疸、糖尿病の急な悪化などがあれば、その時点で速やかに精密検査へ進みます。
膵臓は体の奥にあるため、ひとつの検査だけで判断することはできません。症状・血液・画像・栄養状態を組み合わせ、必要に応じて連携施設での精密検査へつなぎます。
| 血液検査 (膵酵素・栄養指標) |
アミラーゼ・リパーゼなどの膵酵素を測定します。ただし慢性膵炎が進んだ段階では、これらの値がむしろ低くなることがあり、数値が正常でも否定はできません。あわせて、アルブミン・総コレステロール・血算などで栄養状態を評価します。 |
|---|---|
| 腹部超音波検査 | 膵臓の形、石灰化や膵管の拡張、のう胞の有無を確認します。負担がなくくり返し行えるため、経過観察の中心となる検査です。あわせて胆石や肝臓の状態も確認します。 |
| 糖代謝の評価 | 血糖・HbA1cを測定し、膵臓の働きの低下に伴う糖尿病(膵性糖尿病)が起きていないかを確認します。この型の糖尿病は低血糖を起こしやすいという特徴があり、一般的な糖尿病とは管理の考え方が異なります。 |
| 膵外分泌機能の評価 | 国内で簡便に行える膵外分泌機能検査は限られているため、脂肪便の有無や便の性状、体重の推移、栄養指標を組み合わせて総合的に判断します。消化酵素を補充したときの反応も、判断材料のひとつになります。 |
| 体成分分析 (InBody) |
院内の体成分分析装置で、骨格筋量指数(SMI)を測定できます。体重の数字だけでは分からない筋肉量の減少を把握でき、栄養療法の効果判定にも役立ちます。慢性膵炎では栄養障害が静かに進むため、この評価を定期的に行う意味があります。 |
| 上部消化管内視鏡検査 (胃カメラ) |
みぞおちの痛みは、胃・十二指腸の潰瘍や胃がんでも起こります。膵臓の評価と並行して、症状の原因になりうる上部消化管の病変を確認し、切り分けます。 |
| CT・MRCP・超音波内視鏡 (連携施設) |
膵臓の石灰化や膵管の詳しい形態、腫瘍の有無を評価するには、CTやMRCP、超音波内視鏡(EUS)が必要になります。必要と判断した場合は、速やかに連携医療機関へご紹介し、結果をふまえて当院で継続して管理します。 |
慢性膵炎の治療は、痛みを抑えることと、失われていく機能を補いながら進行を遅らせることの両輪で組み立てます。段階によって重点が変わるため、定期的に方針を見直します。
| 禁酒・禁煙 | 治療の土台です。飲酒の中止は痛みの発作を減らし、経過を明らかに改善させます。禁煙も進行と膵がんのリスクを下げるうえで欠かせません。意思の問題として片づけず、必要に応じて禁煙治療や専門機関との連携も含めてご相談します。 |
|---|---|
| 消化酵素補充療法 | 膵臓から出る消化酵素が不足している場合、高力価の消化酵素製剤を食事とともに内服します。脂肪便や下痢を減らすだけでなく、栄養状態を保ち、体重減少や骨の弱りを防ぐ意味があります。飲むタイミングと量が効果を左右するため、使い方を具体的にお伝えします。 |
| 痛みへの対応 | 非麻薬性の鎮痛薬、蛋白分解酵素阻害薬、胃酸を抑える薬などを、痛みの出方に応じて組み合わせます。痛みが強く続く場合や、膵石・膵管狭窄が背景にある場合は、内視鏡治療や手術が選択肢となるため、専門施設へご紹介します。 |
| 膵性糖尿病の管理 | 膵臓の働きの低下による糖尿病では、血糖を上げるホルモンも同時に不足するため、低血糖を起こしやすい特徴があります。厳しく下げすぎない目標設定と、食事・薬剤の調整を丁寧に行います。飲酒の継続は低血糖の重大な危険因子となります。 |
| 栄養療法 | 管理栄養士4名体制で栄養指導を行います。かつてのように脂肪を厳しく制限するのではなく、消化酵素を補充したうえで必要なエネルギーとたんぱく質を確保する考え方が主流です。脂溶性ビタミンやミネラルの不足にも目を配ります。 |
| 漢方薬 | 標準治療を土台としたうえで、残る症状への補助的な選択肢として用います。腹部の張りや痛みが続く方、食欲不振や胃もたれを伴う方、冷えと下痢が目立つ方など、体質と症状の出方を診たうえで処方を選びます。西洋薬との併用が可能です。 |
| 専門施設との連携 | 膵石に対する体外衝撃波結石破砕術や内視鏡治療、仮性のう胞への処置、外科的治療が必要と判断した場合は、速やかにご紹介します。治療後の日常的な管理は当院で継続して担います。 |
体重と便の記録は、膵臓の働きを推し量るうえで、検査値と同じくらい役に立つ情報です。細かくつける必要はありませんので、変化に気づいたときにお知らせください。
GASTROENTEROLOGY
消化器病専門医が、膵臓と胃腸をまとめて評価します
みぞおちの痛みや下痢は、膵臓・胃・腸のいずれからも起こります。当院では消化器病専門医・消化器内視鏡専門医が、超音波検査と内視鏡検査を組み合わせて原因を切り分けます。精密検査や治療が必要な段階では連携施設へつなぎ、その後の日常的な管理を当院で引き受ける形をとります。
NUTRITION
管理栄養士4名体制で、栄養の低下を防ぎます
慢性膵炎の管理では、食べられているかどうかではなく、栄養が体に取り込めているかどうかが問われます。当院には管理栄養士が4名在籍し、消化酵素の使い方とあわせて、実際の食事内容に踏み込んだ指導を行います。体重を守ることが、この病気では治療そのものになります。
BODY COMPOSITION
筋肉量まで測り、栄養状態を数字で追います
院内の体成分分析装置(InBody)で骨格筋量指数(SMI)を測定し、筋肉量の減少を早い段階でとらえます。体重が保たれていても筋肉が落ちていることは珍しくなく、栄養療法が効いているかどうかを判断する手がかりになります。
KAMPO
漢方専門医として、残る不調にも向き合います
治療を尽くしても、腹部の張りや食欲不振、だるさが残る方は少なくありません。当院は漢方専門医としての診療も行っており、標準治療を土台にしたうえで、体質や症状の出方に応じた漢方薬を組み合わせます。西洋医学の枠組みの外にもう一つ選択肢を持てることが、長い経過を支えるうえで役立ちます。
症状と背景を丁寧にうかがう
痛みの出方と食事・飲酒との関係、便の変化、体重の推移、これまでの急性膵炎の既往などをうかがいます。健診結果、これまでの検査画像や紹介状、現在お使いのお薬が分かるものをお持ちいただくと、判断が正確になります。
血液検査と腹部超音波検査で評価する
膵酵素・栄養指標・血糖の状態を確認し、腹部超音波で膵臓の形態を観察します。必要に応じて、胃カメラで上部消化管の病変も切り分けます。
必要に応じて精密検査へつなぐ
CT・MRCP・超音波内視鏡が必要と判断した場合は、連携医療機関へご紹介します。結果が出そろった段階で、いま膵臓がどの段階にあるのかを整理してご説明します。
治療を組み立て、長く経過を診ていく
禁酒・禁煙、消化酵素の補充、栄養指導、痛みや血糖への対応を組み合わせて開始します。その後は定期的に栄養状態と画像を確認しながら、かかりつけ医として継続して管理していきます。
次の症状があるときは、様子を見ずにご相談ください
とくに黄疸や急激な体重減少は、膵臓のほかの病気が背景にある可能性を考える必要があります。また、上腹部から背中にかけての激しい痛みが持続し、嘔吐や発熱を伴う場合は、急性膵炎として緊急の対応が必要になることがあります。ためらわず医療機関へご連絡ください。
膵酵素の上昇には、膵臓以外の原因や体質によるものも含まれ、必ずしも病気を意味しません。一方で、無症状のまま膵臓の変化が進んでいることもあります。血液検査と腹部超音波検査で一度確認しておけば、経過を見るべきものか、心配のいらないものかを整理できます。飲酒歴のある方はとくにおすすめします。
慢性膵炎と診断された場合、原則として禁酒をお願いしています。少量であっても痛みの再燃や進行につながることがあり、安全な量というものを設定できないためです。厳しく感じられると思いますが、飲酒の中止は薬以上に経過を変える力を持つ、もっとも効果の大きい治療です。
おすすめできません。慢性膵炎では、進行に伴って痛みがかえって軽くなっていく時期があり、その裏で消化吸収の障害や糖尿病が進んでいることがあります。また、膵がんの発生にも注意が必要です。症状が落ち着いている時期こそ、栄養状態と画像を定期的に確認する意味があります。
以前は厳しい脂肪制限が行われていましたが、現在は考え方が変わってきています。極端に脂肪を減らすと、必要なエネルギーと脂溶性ビタミンが不足し、体重減少や栄養障害を招きます。消化酵素を適切に補充したうえで、症状が出ない範囲で栄養を確保する方針をとります。具体的な量は、管理栄養士とともに一人ひとりに合わせて調整します。
食事とともに働かせる薬なので、食事の直前または食事中に内服するのが基本です。食後しばらくしてから飲むと効果が落ちます。また、量が足りていないと脂肪便が改善しません。効果が実感できないときは自己判断で中止せず、飲み方と量の見直しをご相談ください。
異なります。膵臓の働きの低下による糖尿病では、血糖を下げるインスリンだけでなく、血糖を上げるホルモンも同時に不足するため、低血糖を起こしやすく、その回復も遅れがちです。血糖値を下げることだけを目標にせず、低血糖を避けながら栄養を保つ管理が必要になります。飲酒を続けている場合は、とくに危険が高まります。
線維化してしまった部分をもとに戻すことは、現時点ではできません。しかし、進行を遅らせること、症状を抑えること、失われた働きを薬で補って栄養と体重を保つことは十分に可能です。とくに早い段階で飲酒と喫煙をやめられた場合、その後の経過は大きく変わります。「治せない」ことと「手を打てない」ことは別だと考えています。
慢性膵炎の治療の土台は、禁酒・禁煙と消化酵素の補充、栄養管理です。漢方薬はこれらに代わるものではなく、標準治療を行ったうえで残る不調に対する補助的な選択肢として位置づけています。当院では漢方専門医としてその使い分けをご説明したうえで、必要な場面で組み合わせます。
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