アトピー咳嗽
アトピー咳嗽
アトピー咳嗽
「のどがイガイガして、乾いた咳が止まらない」「かぜは治ったはずなのに、咳だけが何週間も続く」「気管支を広げる薬を使っても変わらない」——こうした咳の背景には、アトピー咳嗽という原因が隠れていることがあります。日本から提唱された病気で、咳喘息とは効く薬が異なり、喘息へ移行しないという特徴があります。当院では呼気中一酸化窒素(FeNO)を院内で測定でき、アレルギー専門医として、喘息・咳喘息との切り分けから治療までを担当します。
長引く咳の原因は一つとは限りません。まず危険な病気がないことを確かめたうえで、咳のタイプを見分けていきます。
のどに近い気道で起きている、アレルギーに関わる炎症です
アトピー咳嗽は、日本から提唱された病気の概念で、喘鳴や息苦しさを伴わない乾いた咳が続きます。好酸球による炎症が気管支の中枢側(のどに近い部分)に限られており、咳の受容体が過敏になっているため、わずかな刺激でも咳が出ます。アトピー素因のある中年の女性に比較的多く、咽喉頭のイガイガ感を伴うことが特徴です。気管支そのものは狭くなっていないため、気管支を広げる薬は効きません。
喘息には移行しません
咳喘息では、治療をしないと約30%が典型的な喘息へ移行するとされます。これに対してアトピー咳嗽は、長期の経過を追っても喘息へ移行しないことが示されています。治療をどのくらい続ける必要があるのかという見通しが、両者で大きく違うということです。ただし、両方が重なっていることもあるため、「どちらか一方」と決めつけず、治療への反応を見ながら判断します。
| 咳の性質 | どちらも痰の少ない乾いた咳で、夜間から早朝に強くなります。症状の聞き取りだけで区別するのは困難です。 |
|---|---|
| 気管支を広げる薬 (β2刺激薬) |
咳喘息では有効、アトピー咳嗽では無効です。ただし2025年の改訂では、咳喘息でもβ2刺激薬が効かない場合があると注意が加えられました。効かなかったことだけで、咳喘息を否定することはできません。 |
| 抗ヒスタミン薬 | アトピー咳嗽では有効です。咳喘息では効果が期待できません。 |
| のどのイガイガ感 | アトピー咳嗽で目立ちます。咳喘息でもみられることはありますが、訴えの中心になることは多くありません。 |
| 呼気中一酸化窒素 (FeNO) |
咳喘息では高くなることがありますが、アトピー咳嗽では炎症がのどに近い部分に限られるため、正常範囲にとどまります。切り分けの手がかりになります。 |
| 喘息への移行 | 咳喘息では約30%が典型的な喘息へ移行するとされ、アトピー咳嗽では移行しないとされています。 |
アトピー咳嗽には、血液検査や画像だけで確定できる方法がありません。日本呼吸器学会のガイドラインでは、次の4つをすべて満たすことが診断の基準とされています。
| 1 咳の性質 | 喘鳴や呼吸困難を伴わない乾いた咳が、8週間以上続いている。 |
|---|---|
| 2 気管支拡張薬 | 気管支を広げる薬が効かない。 |
| 3 アトピー素因 | アトピー素因を示す所見(喘息以外のアレルギー疾患の既往または合併、血液中の好酸球増加、血清総IgEの上昇、特異的IgE陽性、アレルゲン皮内テスト陽性)か、誘発した痰の中の好酸球増加を、1つ以上認める。 |
| 4 治療への反応 | ヒスタミンH1受容体拮抗薬(抗ヒスタミン薬)、またはステロイド薬によって咳が消える。 |
「薬を試して確かめる」ことも、診断の一部です
4番目の項目が示すとおり、アトピー咳嗽の診断には治療への反応が含まれます(治療的診断)。効かなかったという結果にも意味があり、次にどの原因を考えるかの手がかりになります。ただし、これは原因を確かめないまま薬を重ねることとは違います。危険な病気を除き、喘息側かどうかをFeNOや血液検査で見てから、順序立てて進めます。
| 喘息性咳嗽 (咳喘息を含む) |
2025年の改訂では、典型的な喘息、咳が中心の喘息、咳喘息をまとめて「喘息性咳嗽」と呼ぶよう整理されました。治療の中心は吸入ステロイドで、中用量の吸入ステロイドと長時間作用性β2刺激薬の合剤が基本とされています。喘息そのものについては、気管支喘息のページをご覧ください。 |
|---|---|
| 感染後咳嗽 | かぜのあとに残る咳です。多くは時間とともに軽くなりますが、数週間続くことがあります。 |
| 胃食道逆流症 (GERD) |
胸やけや、横になったときの咳を伴います。2025年の改訂では、質問票(FSSGなど)の点数が疑うときの目安として示されました。当院では逆流性食道炎の診療と胃内視鏡検査を院内で行えます。 |
| 副鼻腔炎・後鼻漏 | 鼻水がのどに落ちる感じ、鼻づまり、においの低下を伴います。鼻の治療で咳が治まることがあります。 |
| 薬による咳 | 血圧の薬(ACE阻害薬)による咳が代表です。中止すると改善します。お薬手帳の確認が欠かせません。 |
| 見逃してはいけない病気 | 肺がん、結核、間質性肺炎、心不全など。血痰、発熱、体重減少、息切れを伴う場合は、これらの除外を優先します。 |
| 咳過敏症 | 原因となる病気を治療しても咳が残る場合、咳そのものが過敏になっている状態を考えます。2025年の改訂では、治療できる特性(treatable traits)の一つとして整理されました。 |
| 抗ヒスタミン薬 | 治療の中心です。眠気の少ない第2世代の薬を選び、1〜2週間ほど使って反応をみます。効く場合は、この期間で咳の回数が目に見えて減ってきます。 |
|---|---|
| 吸入ステロイド | 抗ヒスタミン薬だけで治まらない場合に併用します。一方、原因を絞り込まないまま慢性の咳に吸入ステロイドを使うことは、2025年の改訂で「行わないことを弱く推奨する」と整理されました。先に原因の見当をつけることが大切です。 |
| 治療を続ける期間 | 喘息のような年単位の吸入治療が必要になることは多くありません。咳が治まれば薬を減らしていきます。再び出たときにどうするかも、あらかじめ決めておきます。 |
| 刺激を減らす | 喫煙と受動喫煙、強い香り、乾燥した空気は咳を誘発します。加湿や水分、マスクで刺激を減らすだけでも、楽になる方がいます。 |
| 漢方薬 | のどの乾燥感が強い方や、咳き込みが続く方には、麦門冬湯などの漢方薬を併用することがあります。漢方専門医として、体質と症状に合わせて選びます。 |
| 治りにくい咳 | 原因に対する治療を行っても咳が残る場合は、咳の過敏性そのものを抑える薬(P2X3受容体拮抗薬)が選択肢になります。2025年の改訂では、難治性・原因不明の慢性咳嗽に対して使用が弱く推奨されています。 |
EXHALED NO
FeNOで、喘息側かどうかを切り分けます
息を吐くだけの検査で、その日のうちに結果が出ます。アトピー咳嗽ではFeNOは正常範囲にとどまり、値が高ければ喘息性咳嗽を考えるという使い分けができます。日本呼吸器学会の手引きでは、未治療の成人で22ppb以上なら喘息の可能性が高く、35ppb以上が診断の目安とされています。長引く咳の入口で、治療の方向を決めるのに役立ちます。
ALLERGY
アトピー素因の有無を、専門医として確かめます
当院はアレルギー専門医としての診療を行っています。血液中の好酸球、総IgE、アレルゲンごとの特異的IgEを調べ、診断基準の3番目にあたる所見があるかを確認します。あわせて、咳の原因になりうるアレルギー性鼻炎や後鼻漏の評価と治療(舌下免疫療法にも対応)も同じ場所で行えます。
REFLUX
胃からの逆流が関わる咳にも対応します
長引く咳の背景に、胃食道逆流が隠れていることは珍しくありません。当院は消化器内視鏡の専門医が胃内視鏡検査を院内で担当しており、食道の状態を直接確かめたうえで治療を組み立てられます。アレルギーと消化器の両方から咳を診られることが、当院の強みです。
KAMPO
漢方薬を組み合わせられます
漢方専門医としての診療も行っています。のどの乾燥感や、話すと咳き込むといった症状には、麦門冬湯などの漢方薬が助けになることがあります。原因に対する治療を土台にしたうえで、つらさを和らげる手段として併用します。
咳の経過と背景をうかがいます
いつから、どんな時間帯に、どんなきっかけで咳が出るか、痰の有無、のどの違和感、かぜとの関係、仕事や住環境、喫煙、ペットの有無をうかがいます。お薬手帳をお持ちください。血圧の薬による咳は、薬を確認するだけで分かることがあります。
検査で、危険な病気と喘息を切り分けます
FeNOと血液検査(好酸球数、総IgE、特異的IgE)を行い、気道の炎症のタイプを確かめます。血痰、発熱、体重減少、息切れがある場合や、喫煙歴のある方では、胸部の画像検査を優先します。
治療への反応を見ながら、診断を確かめます
アトピー咳嗽が疑わしい場合は、抗ヒスタミン薬を1〜2週間使って反応をみます。咳が治まれば診断につながり、変わらなければ、喘息性咳嗽や逆流、後鼻漏など別の原因を順に検討します。
落ち着いたら、薬を減らしていきます
咳が治まった状態が続けば、薬を減らして様子をみます。再発したときの対応をあらかじめ決めておくと、長く悩まずに済みます。合併する鼻炎や逆流がある場合は、その治療も続けます。
次のような症状を伴う咳は、先に画像検査などで確かめます
これらは、肺の病気や心臓の病気が隠れているサインのことがあります。「アレルギーの咳だろう」と考える前に、まず確かめておく必要があります。息苦しさが強い場合や、血を吐いた場合は、診療時間外であれば救急外来を受診してください。判断に迷うときは、救急安心センターおおさか(#7119)に24時間相談できます。
長引く咳の診療では、どちらの可能性が高いかを検査と症状から絞り込み、薬への反応を見て確かめていくのが一般的です。アトピー咳嗽の診断基準そのものに「薬で咳が消えること」が含まれており、治療と診断は切り離せません。ただし、重い病気がないことを先に確認したうえで進めます。
効く場合は、1〜2週間ほどで咳の回数が減ってきます。その後は咳の落ち着き方を見ながら減らしていきます。喘息のように年単位で続ける必要があることは多くありません。やめたあとに再び出た場合の対応も、あらかじめ決めておきます。
市販の咳止めは咳の中枢を抑える薬が中心で、アトピー咳嗽のように炎症と過敏性が背景にある咳には効きにくいことが多いです。効かないまま飲み続けると、原因を確かめる機会が遅れます。2〜3週間以上続く咳は、一度ご相談ください。
アトピー咳嗽は、長期に経過を追っても喘息へ移行しないことが示されています。咳喘息では約30%が典型的な喘息へ移行するとされており、この点が両者の大きな違いです。ただし、両方が重なっている場合もあるため、経過は確認していきます。
咳が長引いている場合、肺の病気がないことを確かめておく意味があります。とくに血痰、発熱、体重減少、息切れ、喫煙歴がある方では優先して行います。症状と経過から必要性を判断し、理由をご説明したうえで進めます。
2025年の改訂では、原因が絞り込めていない慢性の咳に対して、吸入ステロイドを使わないことが弱く推奨されました。原因によって効く薬が異なるためで、やみくもに使うと、効かない薬を続けることになりかねません。喘息性咳嗽と判断できた場合には、吸入ステロイドが治療の中心になります。
あります。逆流した胃酸が食道や気道を刺激し、咳が続くことがあります。胸やけ、横になったときの咳、食後の悪化があれば疑います。当院では質問票と胃内視鏡検査で確かめ、必要に応じて胃酸を抑える薬で治療します。
原因が一つとは限らず、複数が重なっていることがあります。また、原因を治療しても咳の過敏性が残り、咳が止まらないこともあります。こうした難治性・原因不明の慢性咳嗽には、咳の過敏性そのものを抑える薬(P2X3受容体拮抗薬)が選択肢になります。これまで試した薬と、その効果をお持ちいただけると、次の一手を考えやすくなります。
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