2026年10月22日

アレルギーは遺伝する?親から子への影響と「発症を減らす」環境や離乳食の進め方
Allergy & Genetics
アレルギーは、どこまで遺伝で決まるのか
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月22日
「親がアレルギーだと、子どももアレルギーになるのか」。よく話題になる疑問です。
先に答えを書くと、遺伝の影響は小さくありません。ただ、遺伝子だけで決まるわけでもない。研究でわかってきたことを、順番に見ていきます。
Point
この記事のポイント
- 双子の研究では、子どものぜんそくのなりやすさの約8割が遺伝で説明されました。ほかのアレルギー疾患でも6〜8割程度です
- 関わる遺伝子の場所は130以上見つかっていて、その多くはぜんそく・花粉症・アトピー性皮膚炎に共通しています
- 遺伝的な背景がよく似た集団でも、環境によってぜんそくの頻度は4倍違いました。遺伝子が決めるのは「なりやすさ」です
双子を比べると、遺伝の影響が見えてくる
遺伝の影響を調べるときによく使われるのが、双子の研究です。一卵性の双子は遺伝子がほぼ同じで、二卵性はふつうのきょうだいと同じくらい。育つ環境が似た双子どうしで「ふたりとも発症する割合」を比べると、遺伝がどれくらい関わっているかを推定できます。
スウェーデンの9歳と12歳の双子、2万5千人あまりを調べた研究では、子どものぜんそくの遺伝率(なりやすさの個人差のうち、遺伝で説明される割合)は82%でした。花粉症、湿疹、食物アレルギーでも、60〜80%程度と推定されています[1]。
ピーナッツアレルギーの双子58組を調べた研究もあります。片方がアレルギーのとき、もう片方もアレルギーだった割合は、一卵性で64%。二卵性では7%でした[2]。
見方を変えると、遺伝子がほぼ同じ一卵性の双子でも、3組に1組以上は片方しか発症していなかったことになります。
研究の種類双生児研究(観察研究)/ピーナッツアレルギーの研究は58組の小規模なもの
親がぜんそくだと、子どもは
家族歴の影響も、数字で示されています。33件の研究をまとめた解析では、母親がぜんそくの場合、子どもがぜんそくになるオッズ(なりやすさの指標)は約3倍。父親の場合は約2.4倍でした[3]。
決して小さな数字ではありません。ただし、これはあくまで「なりやすさ」の話です。親がぜんそくであっても、子どもが必ず発症するわけではありません。
受け継がれるのは、病気ではなく「体質」
では、どんな遺伝子が関わっているのでしょうか。
約36万人の遺伝情報を調べた国際研究では、ぜんそく、花粉症、湿疹(アトピー性皮膚炎)のいずれかに関わる遺伝子の変化が136か所見つかりました。そのうち、病気ごとに違う影響を示したのは、わずか6か所。大半は3つの病気に共通していました。解析からは、これらの変化の多くが、リンパ球が担う免疫のはたらきに影響していることも示されています[4]。
ひとつの「アレルギー遺伝子」があるわけではないのです。多くの遺伝子が重なり合って、アレルギーになりやすい体質をつくっている。3つの病気が同じ人に重なって起こりやすいのも、こうした遺伝的な共通点が一因と考えられています[4]。
皮膚のバリアをつくる遺伝子
免疫とは別の角度から見つかった遺伝子もあります。皮膚のいちばん外側でバリアをつくる、フィラグリンというたんぱく質の遺伝子です。
2006年、この遺伝子のはたらきを失わせる変化が、アトピー性皮膚炎の非常に強い危険因子であることが報告されました。ヨーロッパ系の人の約9%がこの変化をもち、湿疹を伴うぜんそくとも関連していました[5]。
興味深いことに、日本人253人を調べると、このヨーロッパ型の変化は一人も見つかりませんでした。かわりに日本人特有の変化が2つ見つかり、アトピー性皮膚炎の患者さん143人中8人がもっていました。アトピーのない156人には、一人もいませんでした[6]。
同じ遺伝子でも、変化の中身は人種によって違うのです。
遺伝子の影響は、環境しだいで変わる
遺伝子の影響が、環境によって現れたり現れなかったりする例もあります。
ぜんそくと関わりの深い「17q21」という遺伝子の領域があります。米国とデンマークで子どもを生まれたときから追跡した研究では、この領域の違いによるぜんそくのなりやすさは、主に、乳幼児期にライノウイルス(かぜの原因ウイルスのひとつ)でゼーゼーした経験のある子どもにみられました[7]。この領域にある遺伝子(GSDMB)とぜんそくの関連は、先ほどのスウェーデンの双子研究でも確かめられています[1]。
もうひとつ、よく知られた研究があります。米国で農業を営むアーミッシュとフッター派は、遺伝的な背景も生活もよく似た集団です。ところが、伝統的な農業を続けるアーミッシュの子どもでは、ぜんそくがフッター派の4分の1、アレルギー物質への感作は6分の1でした。家のほこりには、細菌に由来する物質(エンドトキシン)が6.8倍多く含まれていました[8]。
日本でも、変化は数字に表れています。耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした全国調査では、スギ花粉症の有病率が1998年の16.2%から、2019年には38.8%まで増えていました[9]。
遺伝の影響が大きいことと、短い期間で増えることは、矛盾しません。ここまで見てきたように、遺伝子の影響そのものが、環境によって左右されるからです。
なりやすい体質があっても、できること
遺伝的な背景は変えられません。では、打つ手はないのでしょうか。
日本で行われた臨床試験があります。食物アレルギーになりやすいとされる、湿疹のある生後4〜5か月の赤ちゃんを2つのグループに分けました。一方は湿疹をしっかり治療したうえで、生後6か月から加熱した卵の粉末をごく少量ずつ毎日食べ、もう一方は卵を含まない粉末を食べました[10]。
1歳の時点で卵アレルギーになっていたのは、卵を食べたグループで8%、食べなかったグループで38%でした[10]。
この結果を受けて、日本小児アレルギー学会は2017年に提言を出しました。湿疹(アトピー性皮膚炎)のある赤ちゃんでは、医師の管理のもと、生後6か月から卵をごく少量食べ始めることを推奨し、始める前に湿疹をよくしておくことが望ましいとしています。家族歴だけで「なりやすい赤ちゃん」と決めることはせず、湿疹のある赤ちゃんを対象にしている点も特徴です[11]。
同じ提言は、すでに卵アレルギーを発症している赤ちゃんに安易に卵を食べさせることは、きわめて危険だとしています[11]。湿疹のある赤ちゃんの離乳食の進め方は、自己判断せず、かかりつけの小児科医にご相談ください。
いまわかっていること
整理すると、次のようになります。
| テーマ | 現時点でわかっていること |
|---|---|
| 遺伝の影響 | 子どものぜんそくの約8割、ほかのアレルギー疾患でも6〜8割程度が遺伝で説明される |
| 関わる遺伝子 | 130以上の場所が見つかり、多くはぜんそく・花粉症・アトピー性皮膚炎に共通 |
| 皮膚の遺伝子 | フィラグリンの変化はアトピー性皮膚炎の強い危険因子。日本人には日本人特有の変化がある |
| 環境との関係 | 遺伝的背景が似た集団でも、環境によってぜんそくの頻度が4倍違った |
| 予防 | 湿疹のある赤ちゃんで、医師の管理のもと卵を早めに少量から始めると、卵アレルギーが減った |
参考文献[1]〜[11]をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
こんなときは、ご相談ください
- せきが長引く。夜間や明け方にゼーゼーする
- 花粉の時期の鼻水やくしゃみ、目のかゆみがつらい
- 市販薬を使っても、症状がなかなか治まらない
- 家族にぜんそくやアレルギーの人がいて、自分の症状が気になる
- アレルギーの原因を調べておきたい
お子さんの湿疹や食物アレルギーについては、かかりつけの小児科にご相談ください。
よくあるご質問
遺伝子検査で、アレルギーになるかどうかわかりますか。
現時点では難しいのが実情です。オランダとスウェーデンの研究では、家族歴や生まれたときの状況、環境の情報に遺伝子のスコアを加えても、子どものぜんそくの予測精度は上がりませんでした。いちばん役立ったのは家族歴でした[12]。
親が花粉症なら、子どもも花粉症になりますか。
必ずなるわけではありません。受け継がれるのは特定の病気というより、アレルギー全般になりやすい体質と考えられています[4]。どの病気が出るか、そもそも発症するかどうかは、人によって違います。
妊娠中に卵や牛乳を控えれば、子どものアレルギーを防げますか。
妊娠中の食物除去を調べた5つの試験(952人)をまとめた解析では、生後18か月までのアトピー性皮膚炎を減らす効果はみられず、妊娠中の体重増加が少なくなっていました[13]。自己判断で食事を制限するのは避け、心配なことは主治医にご相談ください。
当院でのサポート
当院では、アレルギー専門医がぜんそくや花粉症などのアレルギー疾患の診療を行っています。ぜんそくが疑われる場合は、気道の炎症の程度をみる呼気中一酸化窒素(FeNO)検査も院内で行えます。
ご家族のアレルギー歴は、診断の大切な手がかりになります。受診の際には、ぜひお知らせください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- Heritability and confirmation of genetic association studies for childhood asthma in twins著者:Ullemar V, Magnusson PK, Lundholm C, ほか雑誌:Allergy. 2016;71(2):230-238発行日:2016年2月DOI:10.1111/all.12783要約:スウェーデンの9歳・12歳の双生児25,306人を対象とした研究。子どものぜんそくの遺伝率は0.82で、花粉症、湿疹、食物アレルギーなど他のアレルギー疾患でも0.6〜0.8程度と推定された。
- Genetics of peanut allergy: a twin study著者:Sicherer SH, Furlong TJ, Maes HH, ほか雑誌:J Allergy Clin Immunol. 2000;106(1 Pt 1):53-56発行日:2000年7月DOI:10.1067/mai.2000.108105要約:ピーナッツアレルギーの双生児58組を調べた研究。片方がアレルギーのとき、もう片方も発症していた割合は一卵性で64.3%、二卵性で6.8%だった。遺伝率は81.6%と推定され、遺伝の強い関与が示された。
- Risk for asthma in offspring of asthmatic mothers versus fathers: a meta-analysis著者:Lim RH, Kobzik L, Dahl M雑誌:PLoS One. 2010;5(4):e10134発行日:2010年4月DOI:10.1371/journal.pone.0010134要約:33件の研究を統合したメタ解析。母親がぜんそくの場合、子どものぜんそくのオッズ比は3.04、父親の場合は2.44だった。母親の影響がやや大きかったが、医師の診断に限った解析では差は有意でなかった。
- Shared genetic origin of asthma, hay fever and eczema elucidates allergic disease biology著者:Ferreira MA, Vonk JM, Baurecht H, ほか雑誌:Nat Genet. 2017;49(12):1752-1757発行日:2017年12月DOI:10.1038/ng.3985要約:約36万人を対象としたゲノムワイド関連解析。ぜんそく、花粉症、湿疹のいずれかに関わる136の遺伝的変異を同定した。病気ごとに異なる影響を示したのは6つだけで、大半は3疾患に共通する危険因子だった。
- Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis著者:Palmer CN, Irvine AD, Terron-Kwiatkowski A, ほか雑誌:Nat Genet. 2006;38(4):441-446発行日:2006年4月DOI:10.1038/ng1767要約:皮膚のバリアをつくるたんぱく質フィラグリンの遺伝子に、機能を失わせる2つの変異を同定した研究。欧州系の約9%が保有し、アトピー性皮膚炎の非常に強い危険因子だった。湿疹を伴うぜんそくとも関連した。
- Unique mutations in the filaggrin gene in Japanese patients with ichthyosis vulgaris and atopic dermatitis著者:Nomura T, Sandilands A, Akiyama M, ほか雑誌:J Allergy Clin Immunol. 2007;119(2):434-440発行日:2007年2月DOI:10.1016/j.jaci.2006.12.646要約:日本人のフィラグリン遺伝子を調べた研究。欧州型の変異は日本人253人に認められず、日本人特有の2つの変異を新たに同定した。アトピー性皮膚炎患者143人中8人が保有し、対照156人にはいなかった。
- Rhinovirus wheezing illness and genetic risk of childhood-onset asthma著者:Çalışkan M, Bochkov YA, Kreiner-Møller E, ほか雑誌:N Engl J Med. 2013;368(15):1398-1407発行日:2013年4月DOI:10.1056/NEJMoa1211592要約:米国とデンマークの出生コホートの研究。17q21領域の遺伝子の違いは、乳幼児期のライノウイルスによる喘鳴と関連した。この領域がぜんそくのなりやすさに与える影響は、主にライノウイルスで喘鳴を起こした子どもでみられた。
- Innate immunity and asthma risk in Amish and Hutterite farm children著者:Stein MM, Hrusch CL, Gozdz J, ほか雑誌:N Engl J Med. 2016;375(5):411-421発行日:2016年8月DOI:10.1056/NEJMoa1508749要約:遺伝的背景と生活が似た米国のアーミッシュとフッター派の子ども60人を比べた研究。伝統的な農業を営むアーミッシュでは、ぜんそくが4分の1、アレルギー感作が6分の1で、家のほこりのエンドトキシンは6.8倍多かった。
- 鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年、2008年との比較):速報―耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として著者:松原篤, 坂下雅文, 後藤穣, ほか雑誌:日本耳鼻咽喉科学会会報. 2020;123(6):485-490発行日:2020年6月DOI:10.3950/jibiinkoka.123.485要約:耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした全国調査。2019年のアレルギー性鼻炎全体の有病率は49.2%、スギ花粉症は38.8%で、1998年、2008年の調査から大きく増加していた。10歳代での増加が目立った。
- Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial著者:Natsume O, Kabashima S, Nakazato J, ほか雑誌:Lancet. 2017;389(10066):276-286発行日:2017年1月DOI:10.1016/S0140-6736(16)31418-0要約:湿疹のある生後4〜5か月の乳児を対象とした日本のランダム化比較試験。湿疹を治療したうえで生後6か月から加熱卵粉末を少量ずつ摂取した群では、1歳時の卵アレルギーが8%と、摂取しない群の38%より少なかった。
- 鶏卵アレルギー発症予防に関する提言作成:日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会資料:学会提言公表:2017年6月URL:jspaci.jp(PDF)要約:PETIT研究などに基づく提言。アトピー性皮膚炎のある乳児では、医師の管理のもと生後6か月から鶏卵の微量摂取を始めることを推奨した。開始前に湿疹を寛解させることが望ましく、家族歴だけでハイリスクとはしないとしている。
- Genetic risk scores do not improve asthma prediction in childhood著者:Dijk FN, Folkersma C, Gruzieva O, ほか雑誌:J Allergy Clin Immunol. 2019;144(3):857-860.e7発行日:2019年9月DOI:10.1016/j.jaci.2019.05.017要約:オランダとスウェーデンの出生コホートで子どものぜんそくの予測を検討した研究。家族歴や周産期・環境要因による予測(AUC 0.65前後)に遺伝的リスクスコアを加えても精度は改善せず、家族歴が最も強い予測因子だった。
- Maternal dietary antigen avoidance during pregnancy or lactation, or both, for preventing or treating atopic disease in the child著者:Kramer MS, Kakuma R雑誌:Cochrane Database Syst Rev. 2012;(9):CD000133発行日:2012年9月DOI:10.1002/14651858.CD000133.pub3要約:妊娠中・授乳中の母親の食物除去の効果を調べたコクランレビュー。妊娠中の除去(5試験、952人)では生後18か月までのアトピー性皮膚炎の予防効果はみられず、妊娠中の体重増加が少なくなった。栄養面への悪影響も懸念された。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(日本アレルギー学会専門医)