2026年10月21日

GLP-1 Receptor Agonists and Longevity
GLP-1受容体作動薬で寿命は延びるのか
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月21日
GLP-1受容体作動薬は、血糖を下げ、食欲を抑える注射薬や飲み薬です。2026年9月には、この薬が年老いたマウスの寿命を延ばしたという研究が発表されました[1]。「人でも長生きできるの?」と気になった方もいるかもしれません。
結論から言うと、答えは「誰が使うか」で大きく変わります。2型糖尿病や肥満に心臓・腎臓の病気が重なる人では、大規模な臨床試験で死亡が減ることが示されています[2][3][4]。一方で、健康な人が使って寿命が延びるという根拠は、いまのところありません。
この記事では、わかっていることと、まだわからないことを分けて整理します。
Point
この記事のポイント
- 心血管病や慢性腎臓病を合併した2型糖尿病、心血管病のある肥満の人を対象にした試験では、死亡の減少が確かめられています
- 減った死亡の中心は心臓の病気ですが、感染症などによる死亡も減ったという報告があります
- マウスで寿命が延びたのは最新の研究で、人での確認はこれからです。健康な人のダイエット目的の使用は、学会が注意を呼びかけています
死亡を減らした臨床試験
薬を使うグループと偽薬(プラセボ)のグループをくじ引きで分け、死亡の割合を比べた試験の代表的な結果です。
研究の種類ランダム化比較試験/対象 3,533〜17,604人(試験ごと)
| 試験名 | 対象 | 死亡全体(偽薬→薬) |
|---|---|---|
| LEADER リラグルチド | 心血管リスクの高い2型糖尿病の9,340人 | 9.6%→8.2%、15%減少 |
| SELECT セマグルチド | 心血管病のある肥満・過体重で、糖尿病のない17,604人 | 5.2%→4.3%、19%減少(参考値) |
| FLOW セマグルチド | 慢性腎臓病を合併した2型糖尿病の3,533人 | 15.8%→12.8%、20%減少 |
| REWIND デュラグルチド | 2型糖尿病の9,901人(心血管病の既往は約3割) | 12.0%→10.8%、はっきりした差なし |
各試験の論文をもとに作成[2][3][4][5]。追跡期間は約3.3〜5.4年です。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
SELECTでは、心筋梗塞・脳卒中・心血管死をまとめた心血管イベントが20%減りました。死亡全体も少なかったものの、あらかじめ決めた検定の順番の関係で、正式に判定されていない「参考値」の扱いです[3]。
もう一つ見落とせないのがREWINDです。心血管病の既往がある人は約3割にとどまり、心血管イベントは減ったものの、死亡全体にははっきりした差が出ませんでした[5]。どの試験でも同じように死亡が減ったわけではありません。
まとめて見ると、死亡は約12%減少
2型糖尿病を対象にした10の大規模試験、約7万1千人をまとめた解析では、GLP-1受容体作動薬で死亡全体が12%減っていました。心血管イベントは14%、心不全による入院も14%減っています[6]。
研究の種類ランダム化比較試験のメタ解析/対象 10試験・71,351人
注目されているのが、SELECTの死因の詳しい分析です。心血管以外の原因による死亡が23%少なく、その多くは感染症、とくに新型コロナウイルス感染症による死亡の減少でした。ただし、コロナにかかる人の数そのものは減っていません[7]。なぜ感染症による死亡まで減ったのかは、まだわかっていません。
「何年延びるのか」を推計した研究
尿にアルブミンが出ている2型糖尿病の人を対象に、GLP-1受容体作動薬・SGLT2阻害薬・非ステロイド型MRAの3剤を併用した場合の効果を、12の臨床試験のデータから推計した研究があります。50歳で始めると、従来の治療に比べて生存期間が約2.4年延びると見積もられ、延びる年数は若い人ほど大きくなっていました[8]。
研究の種類臨床試験データをもとにした推計(モデル解析)
ただし、これは3剤を合わせた効果で、GLP-1受容体作動薬だけの上乗せ分ではありません。効果が長く続くと仮定した計算で、実際に寿命を測ったわけでもありません。
年老いたマウスでは寿命が延びた
2026年9月に科学誌ネイチャーに発表された研究では、高齢期にあたる生後20か月の雌のマウスに、セマグルチドを毎日注射しました。生涯続けたグループでは、寿命の中央値が742日から834日へと約90日延びています。食べる量は24%減り、体重の減少は主に脂肪によるものでした[1]。
3か月の投与で、運動機能や記憶、血糖の調整もよくなりました。同じくらい食事を減らしたマウスと比べると多くの点で似た効果があり、記憶や血糖の調整では薬のほうが上回っています。研究チームは、この薬が食事制限に似た働きをもつ可能性を指摘しました[1]。
ただし、調べたのは1つの系統の雌のマウスだけです。人で老化や寿命に影響するかどうかは、高齢者を対象にした長期の臨床研究が必要だと、研究チーム自身が述べています[1]。
健康な人が「長生きのため」に使うのは?
現時点で、健康な人の寿命や死亡への効果を確かめた臨床試験の結果は報告されていません。日本では2型糖尿病の治療薬に加え、一部の薬が条件つきで肥満症の治療薬として承認されています。日本糖尿病学会は、美容・痩身・ダイエット目的の処方を宣伝する広告に対して、国内の承認に沿った適正な処方を求めています[9]。
副作用もあります。吐き気や下痢などの胃腸の症状が比較的多く、まれに急性膵炎が起こることもあります。インスリンなどと併用すると、低血糖にも注意が必要です[10]。SELECTでも、副作用で薬をやめた人は偽薬の約2倍(16.6%対8.2%)でした[3]。さらに、ダイエット目的で使って重い副作用が起きても、公的な医薬品副作用被害救済制度の対象にはなりません[10]。
やめると体重が戻りやすいことも知られています。肥満の人がセマグルチドを68週間使ったあとに中止した試験では、1年で減った体重の約3分の2が戻り、血圧などの改善も元に戻る方向に向かいました[11]。
「長生きのために」と、健康な人がGLP-1受容体作動薬を使うことはおすすめしません。一方で、心血管病や慢性腎臓病を合併した2型糖尿病など、効果が確かめられた病気がある方にとっては、寿命に関わる大切な薬です。自己判断でやめず、主治医と相談してください。
こんな方は、一度ご相談ください
- 2型糖尿病があり、心臓や腎臓の合併症が気になる
- 健診で血糖や腎臓の数値、尿たんぱくを指摘された
- 体重が増え、血圧や脂質の数値も気になってきた
よくあるご質問
健康診断で異常はありません。老化予防に使えますか?
おすすめできません。人で老化や寿命への効果は確かめられておらず、副作用のリスクだけを負う可能性があります。まずは血圧や血糖、腎臓の働きなど、いまの体の状態を確かめましょう。
糖尿病でGLP-1受容体作動薬を使っています。寿命は延びますか?
心血管病や慢性腎臓病を合併した2型糖尿病では、死亡を減らした試験があります。ただし、試験によって結果は異なります。食事や運動、血圧・脂質の管理とあわせて続けることが大切です。
マウスで寿命が延びたなら、人でも延びるのでは?
マウスの結果が、そのまま人に当てはまるとは限りません。今回の研究は1つの系統の雌のマウスだけで行われたもので、人での確認はこれからです。
当院でのサポート
当院では、血液検査や尿検査で糖尿病や慢性腎臓病の有無を確かめ、GLP-1受容体作動薬を含めて、どの治療が役に立つかを一緒に考えます。体組成計(InBody)で体重だけでなく筋肉量の変化を確かめたり、血管の硬さを調べるPWV・ABI検査で動脈硬化の程度を評価したりすることもできます。
「長生きのために何ができるか」を知りたい方も、まずは今の体の状態を知るところから始めてみてください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- Late-life semaglutide treatment slows ageing and extends lifespan in female mice著者:Feng Y, Barthez M, Wang Y, ほか(最終著者 Chen D)雑誌:Nature. 2026;657(8131):469-476発行日:2026年9月2日DOI:10.1038/s41586-026-10940-7要約:生後20か月の雌マウス(C57BL/6系統)にセマグルチドを投与した研究。生涯投与で寿命の中央値が742日から834日に延び、3か月の投与で運動・認知機能や糖代謝が改善した。同程度の食事制限と比べ、記憶や血糖の調整では上回った。
- Liraglutide and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes著者:Marso SP, Daniels GH, Brown-Frandsen K, ほか(最終著者 Buse JB)雑誌:N Engl J Med. 2016;375(4):311-322発行日:2016年7月28日(オンライン公開 2016年6月13日)DOI:10.1056/NEJMoa1603827要約:心血管リスクの高い2型糖尿病9,340人のランダム化比較試験。中央値3.8年で、リラグルチド群は心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合が13%少なく、心血管死は22%、全死亡は15%(9.6%対8.2%)少なかった。
- Semaglutide and Cardiovascular Outcomes in Obesity without Diabetes著者:Lincoff AM, Brown-Frandsen K, Colhoun HM, ほか(最終著者 Ryan DH)雑誌:N Engl J Med. 2023;389(24):2221-2232発行日:2023年12月14日(オンライン公開 2023年11月11日)DOI:10.1056/NEJMoa2307563要約:心血管病があり糖尿病のない肥満・過体重の17,604人のランダム化比較試験。平均39.8か月で、セマグルチド2.4mg群は心血管死・心筋梗塞・脳卒中が20%少なかった。全死亡(5.2%対4.3%)は検定順の規定で参考値。副作用による中止は多かった。
- Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes著者:Perkovic V, Tuttle KR, Rossing P, ほか(最終著者 Pratley R)雑誌:N Engl J Med. 2024;391(2):109-121発行日:2024年7月11日(オンライン公開 2024年5月24日)DOI:10.1056/NEJMoa2403347要約:慢性腎臓病を合併した2型糖尿病3,533人のランダム化比較試験。中央値3.4年で、セマグルチド群は腎臓病の悪化と腎臓・心血管による死亡の複合が24%、心血管死が29%、全死亡が20%(15.8%対12.8%)少なかった。
- Dulaglutide and cardiovascular outcomes in type 2 diabetes (REWIND): a double-blind, randomised placebo-controlled trial著者:Gerstein HC, Colhoun HM, Dagenais GR, ほか(REWIND Investigators)雑誌:Lancet. 2019;394(10193):121-130発行日:2019年7月13日(オンライン公開 2019年6月9日)DOI:10.1016/S0140-6736(19)31149-3要約:2型糖尿病9,901人(心血管病の既往は31.5%)のランダム化比較試験。中央値5.4年で、デュラグルチド群は心血管死・心筋梗塞・脳卒中が12%少なかったが、全死亡(10.8%対12.0%)には有意な差がなかった。
- Cardiovascular and Kidney Outcomes and Mortality With Long-Acting Injectable and Oral Glucagon-Like Peptide 1 Receptor Agonists in Individuals With Type 2 Diabetes: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomized Trials著者:Lee MMY, Sattar N, Pop-Busui R, ほか(最終著者 McGuire DK)雑誌:Diabetes Care. 2025;48(5):846-859発行日:2025年4月24日DOI:10.2337/dc25-0241要約:2型糖尿病を対象にしたGLP-1受容体作動薬の試験10件、71,351人のメタ解析。心血管死・心筋梗塞・脳卒中と心不全入院をそれぞれ14%、腎臓の悪化を17%、全死亡を12%減らした。注射薬と飲み薬で効果に差はなかった。
- The Effect of Semaglutide on Mortality and COVID-19-Related Deaths: An Analysis From the SELECT Trial著者:Scirica BM, Lincoff AM, Lingvay I, ほか(最終著者 Ryan D)雑誌:J Am Coll Cardiol. 2024;84(17):1632-1642発行日:2024年10月22日DOI:10.1016/j.jacc.2024.08.007要約:SELECT試験の死亡833人を死因別に分析。セマグルチド群は全死亡が19%、心血管以外の原因による死亡が23%少なかった。この減少は主に感染症、特に新型コロナによる死亡が少なかったためで、コロナにかかる人の数は減っていなかった。
- Estimated Lifetime Cardiovascular, Kidney, and Mortality Benefits of Combination Treatment With SGLT2 Inhibitors, GLP-1 Receptor Agonists, and Nonsteroidal MRA Compared With Conventional Care in Patients With Type 2 Diabetes and Albuminuria著者:Neuen BL, Heerspink HJL, Vart P, ほか雑誌:Circulation. 2024;149(6):450-462発行日:2024年2月6日DOI:10.1161/CIRCULATIONAHA.123.067584要約:尿アルブミンが出ている2型糖尿病で、SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬・非ステロイド型MRAの3剤併用の生涯効果を12の試験データから推計した研究。50歳で始めると、従来治療に比べ生存期間が約2.4年延びると見積もった。
- GLP-1受容体作動薬およびGIP/GLP-1受容体作動薬の適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解著者:一般社団法人 日本糖尿病学会雑誌:日本糖尿病学会ウェブサイト(見解)発行日:2023年11月28日改訂(初出 2020年7月9日)URL:jds.or.jp(日本糖尿病学会)要約:美容・痩身・ダイエット目的の適応外処方を宣伝する医療広告が見られることや、需要増で糖尿病患者への供給が滞るおそれを指摘。肥満症治療薬ウゴービには国の最適使用推進ガイドラインがあるとし、国内承認に沿った適正な処方を医師に求めた。
- 糖尿病治療薬等の適応外使用について(定例記者会見資料)著者:公益社団法人 日本医師会(常任理事 宮川政昭)雑誌:日本医師会ウェブサイト(記者会見資料、PDF)発行日:2023年10月25日URL:med.or.jp(日本医師会、PDF)要約:GLP-1受容体作動薬のダイエット目的の使用について、低血糖、吐き気などの胃腸症状、急性膵炎などの副作用を挙げて注意を促した。医師の処方でも、ダイエット目的で重い副作用が起きた場合は医薬品副作用被害救済制度の対象外になると説明した。
- Weight regain and cardiometabolic effects after withdrawal of semaglutide: The STEP 1 trial extension著者:Wilding JPH, Batterham RL, Davies M, ほか(最終著者 Kushner RF)雑誌:Diabetes Obes Metab. 2022;24(8):1553-1564発行日:2022年8月(オンライン公開 2022年5月19日)DOI:10.1111/dom.14725要約:糖尿病のない肥満の成人が68週間セマグルチド2.4mgと生活習慣の指導を受けたSTEP 1試験の延長研究。治療をやめて1年後には、減った体重の約3分の2が戻り、血圧などの改善も多くが元に戻る方向に向かった。