2026年10月23日

Metformin and Anti-Aging
メトホルミンに老化を遅らせる効果はあるのか
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年9月27日
メトホルミンは、60年以上にわたって使われてきた2型糖尿病の飲み薬です。安全性がよく知られ、価格も安いことから、「老化を遅らせる薬」の有力な候補として研究されてきました[1]。
結論から言うと、2型糖尿病の治療薬としての役割は確かです。一方で、糖尿病でない人の老化を遅らせる効果は、人では確かめられていません。むしろ近年は、当初の期待を見直す研究結果が増えています[2]。
この記事では、わかっていることと、まだわからないことを分けて整理します。
Point
この記事のポイント
- 「メトホルミンを飲む糖尿病の人は長生き」という観察研究は、別のデータでの再検証で再現されませんでした
- 糖尿病でない人を対象にした試験では、心臓の病気や、複数の慢性疾患を抱えることは減らせていません
- 健康な人が飲むと、運動の効果が弱まる可能性や、ビタミンB12不足などの注意点があります
「糖尿病の人のほうが長生き」という研究
注目のきっかけの一つは、2014年に英国から報告された観察研究です。メトホルミンで治療を始めた2型糖尿病の人は、年齢などをそろえた糖尿病のない人よりも長生きしていた、という結果でした。別の糖尿病薬で治療を始めた人は、逆に短命でした[3]。
研究の種類観察研究(診療データ・登録データの解析)
ところが、デンマークの登録データで同じような手法を使って確かめた研究では、メトホルミンで治療を始めた人の死亡は、糖尿病のない人より多いという逆の結果になりました[4]。観察研究には、薬の効果と、薬を飲む人のもともとの健康状態の違いを見分けにくいという弱点があります。2025年の総説でも、初期の有名な研究の多くは、再検証で同じ結果が得られなかったと指摘されています[2]。
糖尿病の人での効果
2型糖尿病の人を対象にしたランダム化比較試験では、英国のUKPDS 34が知られています。太り気味の753人を約10年追跡したところ、食事療法中心の治療に比べて、メトホルミンのグループでは死亡が36%少なくなりました。体重が増えにくく、低血糖も少ないことから、研究チームは太り気味の人の最初の薬に適していると結論しています[5]。
研究の種類ランダム化比較試験とそのメタ解析
ただし、メトホルミンを食事療法や偽薬と比べた複数の試験をまとめた解析では、死亡や心血管の病気にはっきりした差は確認されず、効果にはまだ不確かさが残るとされています[6]。それでも、世界で最も多く処方されている飲み薬の糖尿病治療薬で、治療の基本的な選択肢の一つであることに変わりはありません。
糖尿病でない人ではどうか
糖尿病の一歩手前の段階にある3,234人を対象にした米国のDPP研究では、メトホルミンで糖尿病の発症は減りました。しかし約21年の追跡で、心筋梗塞・脳卒中・心血管死は減っていませんでした[7]。
2026年6月には、同じ研究の参加者1,173人について、2つ以上の慢性疾患を抱える「多疾患併存」を調べた結果が報告されました(調べた時点の年齢の中央値は74歳)。生活習慣の改善に取り組んだグループでは21%少なかった一方、メトホルミンのグループでは、はっきりした差がありませんでした[8]。
高齢者の「虚弱」を対象にした試験もあります。平均80歳の72人に4か月間メトホルミンを飲んでもらったところ、歩く速さや握力、筋肉量は改善せず、副作用や入院はメトホルミンのグループで多くみられました[9]。
研究の種類ランダム化比較試験とその長期追跡/対象 72〜3,234人
老化そのものを標的にした大規模試験「TAME」も計画されています。65〜79歳の3,000人以上を対象に、心臓病やがん、認知症などの発症を6年間比べる計画ですが、公式サイトによると、まだ開始に向けて資金を集めている段階です[1]。
動物での結果は分かれています
中年期のオスのマウスにメトホルミンを混ぜた餌を与えた研究では、平均寿命が約6%延びました。食べる量は変わらないまま、運動能力の向上やインスリンの効きの改善など、食事制限に似た変化もみられています。ただし、量を10倍にすると有害でした[10]。一方、米国の老化介入試験プログラムが遺伝的に多様なマウスで確かめたところ、メトホルミン単独では寿命ははっきり延びませんでした。ラパマイシンという別の薬と組み合わせると寿命は延びましたが、メトホルミンだけの効果とは言えません[11]。
サルでは、中年期のオスのカニクイザルに40か月投与した研究で、老化の進み具合を示す指標が遅くなり、脳の老化指標は約6年分若く保たれたと報告されています[12]。ただし寿命そのものを測ったわけではなく、オスだけの結果です。
研究の種類動物実験(マウス・サル)
健康な人が飲むと?知っておきたい注意点
気になるのは運動との関係です。65歳以上の健康な人が14週間の筋力トレーニングを行った試験では、メトホルミンを飲んだグループのほうが、増えた筋肉量が少なくなりました[13]。60代の人の有酸素運動でも、体力(最大酸素摂取量)やインスリンの効きの改善が弱まり、研究チームは、老化を遅らせる目的で処方する前にさらなる研究が必要だとしています[14]。
長く飲み続けると、ビタミンB12が不足しやすくなることも知られています。DPP研究では、服用年数が1年増えるごとに不足のリスクが13%高くなり、貧血も多くみられました[15]。ビタミンB12が不足すると、貧血や手足のしびれの原因になることがあります。
まれですが重い副作用に、乳酸アシドーシスがあります。腎臓の働きが落ちている人や脱水、飲酒量の多い人、高齢の人で起こりやすく、日本糖尿病学会は、体調を崩して食事がとれないときには服用をいったん中止し、主治医に相談するよう求めています[16]。
メトホルミンは、日本では2型糖尿病の治療薬として使われている薬で、老化を防ぐ目的で承認された薬ではありません。糖尿病でない人が「アンチエイジング」のために飲むことはおすすめしません。一方、2型糖尿病の方にとっては大切な治療薬です。自己判断でやめず、主治医と相談してください。
こんな方は、一度ご相談ください
- 健診で血糖値やHbA1cが高めと言われた
- メトホルミンを長く飲んでいて、手足のしびれや貧血が気になる
- 年齢とともに、筋力や体力の衰えを感じる
よくあるご質問
サプリメントのように、気軽に飲んでもよいですか?
おすすめできません。処方が必要な医薬品で、腎臓の働きや体調によっては飲めないこともあります。老化を遅らせる効果は人で確かめられておらず、副作用のリスクだけを負う可能性があります。
糖尿病でメトホルミンを飲んでいます。老化も遅くなりますか?
糖尿病の治療として大切な薬ですが、老化そのものを遅らせるかどうかはわかっていません。腎臓の働きやビタミンB12を定期的に確かめながら、続けていくことが大切です。
老化に備えて、いまできることはありますか?
DPP研究では、食事と運動による生活習慣の改善が、複数の慢性疾患を抱えるリスクを下げていました。薬に頼る前に、まずは食事と運動の見直しから始めることをおすすめします。
当院でのサポート
当院では、血液検査でHbA1cや腎臓の働きを確かめ、糖尿病やその予備群かどうかを評価したうえで、メトホルミンを含めて、どの治療が合っているかを一緒に考えます。服用中の方は、必要に応じてビタミンB12も確認します。体組成計(InBody)で筋肉量を測り、食事や運動の見直しに役立てることもできます。
「老化に備えて何ができるか」を知りたい方も、まずは今の体の状態を知るところから始めてみてください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- TAME – Targeting Aging with Metformin著者:American Federation for Aging Research(AFAR)雑誌:AFARウェブサイト(TAME試験の公式ページ)発行日:2026年9月27日閲覧URL:afar.org(米国老化研究連盟)要約:TAME試験の公式ページ。65〜79歳の3,000人以上を対象に、14施設で6年間、メトホルミンが心臓病・がん・認知症などの発症を遅らせるかを調べる計画を示す。安全性と価格の安さから選ばれたとし、開始に向けて資金を募っている。
- Emerging uncertainty on the anti-aging potential of metformin著者:Keys MT, Hallas J, Miller RA, Suissa S, Christensen K雑誌:Ageing Res Rev. 2025;111:102817発行日:2025年9月(オンライン公開 2025年6月27日)DOI:10.1016/j.arr.2025.102817要約:メトホルミンの抗老化作用を支えてきた初期の観察研究や動物実験について、方法上の限界と再検証の結果を整理した総説。当初の結果の多くは再現されず、糖尿病でない人の臨床試験でも期待された効果はおおむね示されていないとした。
- Can people with type 2 diabetes live longer than those without? A comparison of mortality in people initiated with metformin or sulphonylurea monotherapy and matched, non-diabetic controls著者:Bannister CA, Holden SE, Jenkins-Jones S, ほか(最終著者 Currie CJ)雑誌:Diabetes Obes Metab. 2014;16(11):1165-1173発行日:2014年11月(オンライン公開 2014年7月31日)DOI:10.1111/dom.12354要約:英国の診療データを用いた観察研究。メトホルミン単剤で治療を始めた2型糖尿病の人に比べ、年齢などをそろえた糖尿病のない人は生存期間の中央値が15%短く、スルホニル尿素薬で始めた人は38%短かったと報告した。
- Reassessing the evidence of a survival advantage in Type 2 diabetes treated with metformin compared with controls without diabetes: a retrospective cohort study著者:Keys MT, Thinggaard M, Larsen LA, ほか(最終著者 Christensen K)雑誌:Int J Epidemiol. 2022;51(6):1886-1898発行日:2022年12月13日DOI:10.1093/ije/dyac200要約:デンマークの全国登録データで、2014年の英国研究と同様の手法を用いて再検証した観察研究。メトホルミン単剤で治療を始めた2型糖尿病の人は糖尿病のない人より死亡が多く、生存が同等以上という結果は再現されなかった。
- Effect of intensive blood-glucose control with metformin on complications in overweight patients with type 2 diabetes (UKPDS 34)著者:UK Prospective Diabetes Study(UKPDS)Group雑誌:Lancet. 1998;352(9131):854-865発行日:1998年9月12日DOI:10.1016/S0140-6736(98)07037-8要約:新たに診断された太り気味の2型糖尿病753人のランダム化比較試験。中央値10.7年で、食事療法中心の治療に比べ、メトホルミン群は糖尿病に関連する合併症が32%、糖尿病関連死が42%、全死亡が36%少なかった。
- Impact of metformin on cardiovascular disease: a meta-analysis of randomised trials among people with type 2 diabetes著者:Griffin SJ, Leaver JK, Irving GJ雑誌:Diabetologia. 2017;60(9):1620-1629発行日:2017年9月(オンライン公開 2017年8月2日)DOI:10.1007/s00125-017-4337-9要約:2型糖尿病で、メトホルミンを食事療法・生活指導・偽薬と比べたランダム化比較試験のメタ解析。全死亡(リスク比0.96)、心血管死、心筋梗塞、脳卒中のいずれにも有意な差はなく、心血管病を減らすかは不確かなままとした。
- Effects of Long-term Metformin and Lifestyle Interventions on Cardiovascular Events in the Diabetes Prevention Program and Its Outcome Study著者:Goldberg RB, Orchard TJ, Crandall JP, ほか(最終著者 Temprosa M)雑誌:Circulation. 2022;145(22):1632-1641発行日:2022年5月31日(オンライン公開 2022年5月23日)DOI:10.1161/CIRCULATIONAHA.121.056756要約:耐糖能異常のある3,234人を生活習慣介入・メトホルミン・偽薬に分けたDPP研究の約21年の追跡。メトホルミンは糖尿病の発症を減らしたが、心筋梗塞・脳卒中・心血管死は減らさなかった(ハザード比1.03)。
- Lifestyle and Metformin Interventions and Risk of Multimorbidity in Adults With Prediabetes著者:Salive ME, Tjaden AH, Ames JR, ほか(最終著者 Venditti EM)雑誌:JAMA. 2026:e268492発行日:2026年6月15日(オンライン公開)DOI:10.1001/jama.2026.8492要約:DPP研究の参加者のうち、米国の公的医療保険のデータがある1,173人を約21年後に解析。2つ以上の慢性疾患を抱えるリスクは生活習慣介入群で21%低かったが、メトホルミン群では偽薬群と有意な差がなかった。
- Metformin and physical performance in older people with probable sarcopenia and physical prefrailty or frailty in England (MET-PREVENT): a double-blind, randomised, placebo-controlled trial著者:Witham MD, McDonald C, Wilson N, ほか(最終著者 Sayer AA)雑誌:Lancet Healthy Longev. 2025;6(3):100695発行日:2025年3月(オンライン公開 2025年3月24日)DOI:10.1016/j.lanhl.2025.100695要約:サルコペニアの疑いと虚弱(前段階を含む)のある65歳以上72人(平均80.4歳)のランダム化比較試験。メトホルミン1日1,500mgを4か月飲んでも歩行速度、握力、筋肉量は改善せず、有害事象や入院は多かった。
- Metformin improves healthspan and lifespan in mice著者:Martin-Montalvo A, Mercken EM, Mitchell SJ, ほか(最終著者 de Cabo R)雑誌:Nat Commun. 2013;4:2192発行日:2013年7月30日DOI:10.1038/ncomms3192要約:中年期のオスのマウス(C57BL/6系統)に、メトホルミン0.1%を混ぜた餌を与え続けた研究。平均寿命が5.83%延び、運動能力やインスリン感受性も改善した。一方、10倍にあたる1%の高用量では有害だった。
- Longer lifespan in male mice treated with a weakly estrogenic agonist, an antioxidant, an α-glucosidase inhibitor or a Nrf2-inducer著者:Strong R, Miller RA, Antebi A, ほか雑誌:Aging Cell. 2016;15(5):872-884発行日:2016年10月(オンライン公開 2016年6月16日)DOI:10.1111/acel.12496要約:米国立老化研究所の老化介入試験プログラム(ITP)で、遺伝的に多様なマウスに複数の候補薬を与えた研究。メトホルミン0.1%の単独投与では寿命は有意に延びなかった。ラパマイシンとの併用では寿命が延びた。
- Metformin decelerates aging clock in male monkeys著者:Yang Y, Lu X, Liu N, ほか(最終著者 Liu GH)雑誌:Cell. 2024;187(22):6358-6378.e29発行日:2024年10月31日(オンライン公開 2024年9月12日)DOI:10.1016/j.cell.2024.08.021要約:中年期(13〜16歳)のオスのカニクイザルにメトホルミンを40か月投与した研究。遺伝子発現などから作った「老化時計」で老化の進みが遅くなり、脳の老化指標は約6年分若く保たれた。寿命そのものは評価していない。
- Metformin blunts muscle hypertrophy in response to progressive resistance exercise training in older adults: A randomized, double-blind, placebo-controlled, multicenter trial: The MASTERS trial著者:Walton RG, Dungan CM, Long DE, ほか(最終著者 Peterson CA)雑誌:Aging Cell. 2019;18(6):e13039発行日:2019年12月(オンライン公開 2019年9月26日)DOI:10.1111/acel.13039要約:65歳以上の健康な94人のランダム化比較試験。全員が14週間の筋力トレーニングを行い、メトホルミン1日1,700mg群は偽薬群に比べ、除脂肪量と太ももの筋肉量の増え方が小さかった。筋力の差は有意ではなかった。
- Metformin inhibits mitochondrial adaptations to aerobic exercise training in older adults著者:Konopka AR, Laurin JL, Schoenberg HM, ほか(最終著者 Miller BF)雑誌:Aging Cell. 2019;18(1):e12880発行日:2019年2月(オンライン公開 2018年12月11日)DOI:10.1111/acel.12880要約:平均62歳の53人のランダム化比較試験。12週間の有酸素運動を行い、メトホルミン群では運動による全身のインスリン感受性と最大酸素摂取量の改善が弱まり、筋肉のミトコンドリア呼吸の向上もみられなかった。
- Long-term Metformin Use and Vitamin B12 Deficiency in the Diabetes Prevention Program Outcomes Study著者:Aroda VR, Edelstein SL, Goldberg RB, ほか(最終著者 Crandall JP)雑誌:J Clin Endocrinol Metab. 2016;101(4):1754-1761発行日:2016年4月(オンライン公開 2016年2月22日)DOI:10.1210/jc.2015-3754要約:DPP研究の長期データを用いた解析。メトホルミンの服用年数が1年増えるごとにビタミンB12欠乏のオッズが13%高くなり、貧血も多かった。B12が低い人では神経障害も多く、定期的な測定を検討すべきとした。
- メトホルミンの適正使用に関するRecommendation著者:日本糖尿病学会 ビグアナイド薬の適正使用に関する委員会雑誌:日本糖尿病学会ウェブサイト(提言、PDF)発行日:2020年3月18日改訂(第一版 2012年2月1日)URL:jds.or.jp(日本糖尿病学会、PDF)要約:日本でもまれながら乳酸アシドーシスが報告され、死亡例もあるとして注意を示した提言。腎機能障害、脱水やシックデイ、過度の飲酒、高齢などを危険な特徴に挙げ、eGFR30未満では禁忌、体調不良時は服薬を中止して相談するよう求めた。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(日本消化器病学会専門医・日本消化器内視鏡学会専門医)