ピロリ菌と歯周病の関係とは?除菌成功率を高める口腔ケアの真実 |千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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ピロリ菌と歯周病の関係とは?除菌成功率を高める口腔ケアの真実 

ピロリ菌と歯周病の関係とは?除菌成功率を高める口腔ケアの真実 |千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年8月21日

ピロリ菌と歯周病の関係とは?除菌成功率を高める口腔ケアの真実 

胃のピロリ菌と口の中はつながっている?歯周病・むし歯との関係と除菌への影響 

「胃の中のピロリ菌」と「歯ぐきの歯周病菌」。まったく別の場所の話に思えますが、実はこの二つ、医学の世界ではかなり熱心に研究されてきたテーマです。除菌治療がうまくいかない人、除菌したのにまた陽性になってしまう人。その背景に口の中が関わっているのではないか、という視点があるからです。

両者はまったく別の細菌

まず前提を整理しておきます。ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は胃の粘膜にすみつくらせん状の細菌で、慢性胃炎、胃・十二指腸潰瘍、そして胃がんの主要な原因として知られています。

一方の「歯周病菌」は、特定の一種類の菌の名前ではありません。ポルフィロモナス・ジンジバリスをはじめとする複数の嫌気性菌が、歯と歯ぐきのすき間、つまり歯周ポケットの中でバイオフィルム(細菌の集合体)をつくり、じわじわと歯を支える骨を壊していく。これが歯周病です。

分類上は別のグループに属する菌同士。それなのに一緒に語られるのは、「口の中」という場所が両者の接点になっているからです。

口の中からピロリ菌が見つかる、という事実

1980年代の終わりごろから、歯垢(プラーク)や唾液からピロリ菌の遺伝子が検出されるという報告が相次ぎました。胃は食べ物の通り道の先にあり、口はその入口です。ピロリ菌がどこから胃に入るのかを考えれば、口腔内が注目されたのは自然な流れでした。

2025年に発表された系統的レビューとメタ解析では、27の観察研究、計2,408人分のデータがまとめられています。胃にピロリ菌がいる人は、いない人に比べて歯垢からもピロリ菌が検出されやすく、そのオッズ比は3.80と報告されました。歯垢が「胃の外の貯蔵庫(リザーバー)」として機能しうる、という考え方の根拠になっています。

歯周病そのものとの関連も繰り返し調べられてきました。2020年のメタ解析(12研究、2,727人。うち8研究がアジア)では、口腔内のピロリ菌陽性と歯周病の間にオッズ比2.53の関連が示されています。さらに2025年12月に公表された最新のメタ解析では、口腔内ピロリ菌と口腔疾患全体の関連がオッズ比3.24、歯周炎に絞ると4.28、検体が歯垢の場合は4.65と、より強い数字が出ました。関連の強さはアジア人集団で顕著だったとも報告されています。

日本のデータは、少し違う顔を見せます

ここで注意深く見ておきたいのが、国内の研究です。

2003年に日本の歯周炎患者を対象に行われたPCR研究では、歯垢からのピロリ菌検出率は25%程度と報告されました。ところが2019年、京都府立医科大学のグループが日本人成人192名を対象に行った研究では、まったく別の絵が浮かび上がります。尿中抗体でピロリ菌感染陽性だったのは13%。そして歯髄(歯の神経の部分)からの検出が12%だったのに対し、歯垢からの検出はわずか1%、唾液からは検出ゼロでした。

つまりこの研究では、日本人の口の中における主なピロリ菌の潜伏場所は歯垢ではなく、むし歯が深く進んだ歯の内部(歯髄・根管)だった、ということになります。歯髄陽性者の多くは重度のむし歯を持っていました。歯周病との明確な関連は認められていません。

日本のように衛生環境が整い、歯みがき習慣が定着した集団では、歯の表面や唾液にピロリ菌が長くとどまることは難しい。一方で、ブラシの届かないむし歯の穴の中は例外だった。そう解釈されています。海外のデータをそのまま日本に当てはめてはいけない、という良い例です。

歯周治療を加えると除菌率が上がる

もう一つの大きな論点が、除菌治療との関係です。抗菌薬は歯垢のバイオフィルムの内部までは届きにくい。だとすれば、口の中のピロリ菌が除菌後の再燃・再感染の火種になっているのではないか。そんな仮説から、臨床試験が行われてきました。

2016年のコクランレビューは、7つの小規模ランダム化比較試験、691人を統合しています。除菌治療に歯周治療を組み合わせた群では、除菌治療単独の群に比べて胃のピロリ菌除菌成功率が高く、オッズ比は2.15でした。2021年に更新されたメタ解析でも同様の方向性が確認され、6研究541人の解析でオッズ比4.11、再感染しない割合についても4試験でオッズ比5.36という結果が示されています。2012年のメタ解析も、歯周治療の追加が胃のピロリ菌再発を減らす方向に働くと結論づけていました。

数字だけ見れば、なかなか説得力があります。ただしコクランレビュー自身が、含まれた試験はいずれも小規模で、ランダム化の方法や盲検化の記載が不十分なものが多いと明記しています。エビデンスの確実性は高くありません。

「関連がある」と「原因である」は別の話

ここは冷静に押さえておきたいところです。

2024年に発表されたメンデルランダム化解析という手法の研究では、遺伝的に予測されたピロリ菌感染と歯周炎の間に因果関係は認められませんでした(オッズ比0.914、p=0.523)。ピロリ菌の毒素関連抗体についても同様です。この手法は、生活習慣や社会経済状況といった交絡因子の影響を受けにくいのが特徴で、「両者がよく一緒に見つかるのは、衛生環境や年齢といった共通の背景要因のせいかもしれない」という可能性を示唆しています。

検査方法の問題も無視できません。口腔内の検出はPCRによるものが大半ですが、PCRが拾うのは菌のDNAであって、生きた菌がそこで増えているという証明にはなりません。実際、歯垢からピロリ菌を培養できたという報告はきわめて少ないのが現状です。プライマーの設計次第で検出率が大きく変わることも指摘されています。

まとめ

口腔ケアをきちんと行うことに、デメリットはありません。歯周病は、それ自体が糖尿病や心血管疾患、誤嚥性肺炎などと関連する疾患です。ピロリ菌との関係が仮に間接的なものであっても、歯周治療とむし歯治療を受ける理由は十分にあります。

とくに日本人のデータを見る限り、放置されたむし歯を治療しておくことの意味は小さくないかもしれません。除菌治療を予定している方、あるいは一度除菌したのに再陽性になった経験がある方は、そのタイミングで歯科を受診してみる。これは現時点のエビデンスから導ける、無理のない提案だと考えています。

逆に、「歯周治療をすれば除菌薬は要らない」といった発想は明確に誤りです。胃のピロリ菌に対する標準治療はあくまで抗菌薬による除菌療法であり、歯周治療はそれを置き換えるものではありません。あくまで補助的な位置づけです。

口の中と胃は一本の管でつながっています。当たり前のことですが、診療科が分かれているとつい忘れられがちな事実でもあります。内科と歯科がそれぞれの視点を持ち寄ることに、これからも意味があるだろうと感じています。

参考文献

  1. Association between oral diseases and oral Helicobacter pylori infection: A systematic review and meta-analysis, Wang M, Ding PH, Qian Y, Fan LJ. Clin Oral Investig. 2025 Dec 11;30(1):9. DOI: https://doi.org/10.1007/s00784-025-06691-w
    要約: 10研究1,166人の最新メタ解析。口腔内ピロリ菌は口腔疾患全体とオッズ比3.24、歯周炎とは4.28、歯垢検体では4.65の関連を示し、アジア人で関連が強いと報告した。
  2. Dental plaque as an extra-gastric reservoir of Helicobacter pylori: A systematic review and meta-analysis, Anand PS, Kamath KP, Gandhi AP, et al. Arch Oral Biol. 2025 Feb;170:106126. DOI: https://doi.org/10.1016/j.archoralbio.2024.10612
    要約: 27の観察研究2,408人を統合。胃のピロリ菌陽性者では歯垢からの検出率が高く(オッズ比3.80)、歯垢が胃外リザーバーとなりうることを示した系統的レビュー。
  3. eriodontal disease and Helicobacter pylori infection in oral cavity: a meta-analysis of 2727 participants mainly based on Asian studies, Liu Y, Li R, Xue X, et al. Clin Oral Investig. 2020 Jul;24(7):2175-2188. DOI: https://doi.org/10.1007/s00784-020-03330-4
    要約: 12研究2,727人のメタ解析。口腔内ピロリ菌感染と歯周病の関連をオッズ比2.53と算出。データの多くがアジア由来であり、他地域での検証が必要と結論づけた。
  4. High prevalence of Helicobacter pylori detected by PCR in the oral cavities of periodontitis patients, Umeda M, Kobayashi H, Takeuchi Y, et al. J Periodontol. 2003 Jan;74(1):129-134. DOI: https://doi.org/10.1902/jop.2003.74.1.129
    要約: 日本の歯周炎患者を対象にPCRで口腔内ピロリ菌を検出した先駆的研究。歯垢からの検出率は約25%で、歯周ポケットが潜伏部位となりうる可能性を示した。
  5. Association between Helicobacter pylori infection and dental pulp reservoirs in Japanese adults, Iwai K, Watanabe I, Yamamoto T, et al. BMC Oral Health. 2019 Dec 2;19(1):267. DOI: https://doi.org/10.1186/s12903-019-0967-2
    要約: 日本人成人192名を解析。歯髄からの検出が12%、歯垢1%、唾液0%で、国内では歯垢より重度むし歯の歯髄が主要リザーバーであることを示した。
  6. Periodontal therapy as adjunctive treatment for gastric Helicobacter pylori infection, Ren Q, Yan X, Zhou Y, Li WX. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Feb 7;2(2):CD009477. DOI: https://doi.org/10.1002/14651858.CD009477.pub2
    要約: 7つのRCT691人を統合したコクランレビュー。歯周治療の併用で除菌成功率が上昇(オッズ比2.15)したが、含まれる試験の質が低い点を明確に指摘している。
  7. Periodontal Treatment Is Associated With Improvement in Gastric Helicobacter pylori Eradication: An Updated Meta-analysis of Clinical Trials, Ozturk A. Int Dent J. 2021 Jun;71(3):188-196. DOI: https://doi.org/10.1111/idj.12616
    要約: 6研究541人でオッズ比4.11、10研究909人の再解析で2.65、非再発率は4試験でオッズ比5.36。歯周治療の補助的有用性を支持する更新メタ解析。
  8. Effect of periodontal therapy on prevention of gastric Helicobacter pylori recurrence: a systematic review and meta-analysis, Bouziane A, Ahid S, Abouqal R, Ennibi O. J Clin Periodontol. 2012 Dec;39(12):1166-1173. DOI: https://doi.org/10.1111/jcpe.12015
    要約: 3試験298人を統合。歯周治療の追加が胃ピロリ菌の再発リスクを下げる可能性を示したが、元データの限界から慎重な解釈を求めている。
  9. Causal relationships of infection with Helicobacter pylori and herpesvirus on periodontitis: A Mendelian randomization study, Wu E, Cheng M, Yang S, et al. Heliyon. 2024 Aug 6;10(16):e35904. DOI: https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2024.e35904
    要約: GWASデータを用いたメンデルランダム化解析。遺伝的に予測されたピロリ菌感染と歯周炎に因果関係は認められず(オッズ比0.914)、観察研究の関連は交絡の可能性を示唆した。
  10. Role of dental plaque, saliva and periodontal disease in Helicobacter pylori infection, Anand PS, Kamath KP, Anil S. World J Gastroenterol. 2014 May 21;20(19):5639-5653. DOI: https://doi.org/10.3748/wjg.v20.i19.5639
    要約: 歯垢・唾液・歯周病とピロリ菌感染の関係を包括的に整理した総説。口腔が伝播経路かつ再感染源となりうる機序と、検出法による結果の差異を詳述している。

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック

院長 有光潤介

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