2026年10月06日

腸内細菌はがんの原因になる?大腸がんとの関係や最新の免疫療法を医師が解説
Gut Microbiota & Cancer
腸内細菌とがん、どこまでわかってきたのか
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月6日
「腸内細菌が、がんに関わっているらしい」。そんな話を耳にしたことはありませんか。
この分野の研究は、ここ十数年で大きく進みました。ただ、話題になる内容の中には、まだ「可能性」の段階にとどまるものも少なくありません。この記事では、細菌とがんの関係について、はっきりしていることと、まだわからないことを分けてお伝えします。
Point
この記事のポイント
- 細菌ががんの原因になる例として、胃のピロリ菌が確立しています。除菌で胃がんが減ることも確かめられています
- 大腸がんでは、特定の腸内細菌との関連や、DNAに傷をつける大腸菌の存在が明らかになってきました
- 腸内細菌は、がん免疫療法の効き方にも関わる可能性があります。ただし、治療として確立したものではありません
細菌ががんを起こす、いちばん確かな例
腸内細菌の話に入る前に、細菌とがんの関係が最もはっきりしている例を紹介します。胃にすむピロリ菌です。
WHOの専門機関である国際がん研究機関(IARC)は、ピロリ菌を「ヒトに対して発がん性がある」グループ1に分類しています。胃がんなどの原因になるという十分な証拠がある、という評価です[1]。
除菌の効果も確かめられています。ピロリ菌に感染している健康な人を対象にした7つの試験(8,323人)をまとめた解析では、その後に胃がんになった人は、除菌した群で1.6%、除菌しなかった群で3.0%でした。胃がんで亡くなる人も減っています。なお、これらの試験の多くはアジアで行われたものです[2]。
大腸がんの人の腸で、増えている細菌
では、腸内細菌はどうでしょうか。研究が最も進んでいるのは大腸がんです。
複数の国で行われた8つの研究をまとめた解析では、大腸がんの人の便で共通して多い細菌が29種類見つかりました。ある研究のデータから作った判定方法が、別の研究でも精度を保っていたことから、便の細菌で大腸がんを見分ける研究も進められています[3]。
日本でも、大腸内視鏡検査を受けた616人を調べた研究があります。フソバクテリウム・ヌクレアタムという細菌は、ごく早期のがん(粘膜内がん)から進行したがんへと進むにつれて、段階的に増えていました。一方で、複数のポリープやごく早期のがんの段階でだけ増える細菌も見つかっています[4]。
フソバクテリウム・ヌクレアタムは、もともと口の中に広くいる細菌です。国際がん研究機関は2024年、この細菌を発がん性について優先的に評価すべき対象に挙げました[1]。
「関連がある」と「原因である」は違う
注意したい研究もあります。589人を調べたベルギーなどの研究では、便が腸を通過する時間、腸の炎症、体格(BMI)の影響を差し引くと、フソバクテリウム・ヌクレアタムと大腸がんとの関連は統計的にはっきりしなくなりました[5]。
国際がん研究機関も、「腸内細菌のバランスの乱れ」という大きなくくりでは、何を評価するのかがあいまいで、発がん性の評価は現時点では難しいとしています[1]。
DNAに傷をつける大腸菌
一方で、細菌ががんの原因に直接関わる可能性を示した研究もあります。
一部の大腸菌は、「コリバクチン」という毒素をつくります。ヒトの腸の細胞から作ったミニ臓器(オルガノイド)にこの大腸菌を5か月間くり返し加えたところ、遺伝子に特有の傷のパターンが残りました。そして同じパターンが、実際のがん患者さん5,876人分の遺伝子データの一部、主に大腸がんで見つかったのです[6]。
2025年には、日本を含む11か国、981人の大腸がんの遺伝子を調べた研究が報告されました。この傷のパターンは大腸がんの多い国ほど多く、40歳未満で診断された人では、70歳以上の人より3.3倍多くみられました。大腸がんの発生に深く関わるAPCという遺伝子の変異の一部も、この傷によるものでした。研究チームは、子どものころにこの毒素にさらされることが、若い世代の大腸がんの増加に関わっている可能性があると述べています[7]。まだ「可能性」の段階で、原因と確定したわけではありません。
食事と腸内細菌、大腸がん
食事との関係を調べた研究もあります。アメリカの医療従事者13万人以上を26〜32年追跡した研究では、全粒穀物や食物繊維の多い食事パターンの人ほど、がん組織からフソバクテリウム・ヌクレアタムが見つかるタイプの大腸がんが少なくなっていました。見つからないタイプのがんでは、こうした差はみられませんでした[8]。
腸内細菌が、食事と大腸がんをつなぐ役割を担っている可能性を示す結果です。ただし観察研究のため、食事が細菌を通してがんを減らしたと証明されたわけではありません。
研究の種類前向きコホート研究(観察研究)/対象 アメリカの医療従事者137,217人
がん治療の効き方にも関わる?
腸内細菌は、がん治療の効き方との関係でも注目されています。
免疫チェックポイント阻害薬は、免疫にかかったブレーキを外して、がんを攻撃させる薬です。ただ、長く効果が続くのは患者さんの一部に限られます。2018年の研究では、抗菌薬(抗生物質)を使った患者さんで、この薬の効果が低い傾向がみられました。また、薬がよく効いた患者さんの腸内細菌をマウスに移すと、薬の効果が高まりました[9]。
4万人以上のデータをまとめた解析でも、治療開始の前後に抗菌薬を使った人では、生存期間が短くなっていました[10]。ただし、これは観察研究の結果です。
腸内細菌を「移植」する試み
2026年には、免疫チェックポイント阻害薬を含む治療を受ける、転移のある腎臓がんの患者さん45人を対象に、治療がよく効いた人の便から作った腸内細菌を移植する群と、偽物を用いる群を比べた試験が報告されました。病気が進まずに過ごせる期間の中央値は24.0か月と9.0か月で、移植した群のほうが長くなりました。ただし、あらかじめ最も重視すると決めていた評価項目では、統計的に明らかな差は出ていません。移植による重い副作用はみられませんでしたが、試験の規模は小さく、研究チームもさらなる検証が必要だとしています[11]。
腸内細菌の移植は、まだ研究として行われている段階です。また、抗菌薬は感染症の治療に欠かせない薬です。がん治療中の方は、自己判断で抗菌薬をやめたり、控えたりせず、主治医にご相談ください。
いまわかっていること、まだわからないこと
ここまでの内容を整理すると、次のようになります。
| テーマ | 現時点でわかっていること |
|---|---|
| ピロリ菌と胃がん | 発がん性が確立している。除菌で胃がんが減ることも確かめられている |
| 大腸がんと腸内細菌 | 特定の細菌との関連は多く報告されているが、原因かどうかは確定していない |
| DNAを傷つける大腸菌 | がんの遺伝子に傷の跡が確認された。若い世代のがんとの関係は研究段階 |
| がん免疫療法 | 腸内細菌との関連が報告されている。腸内細菌の移植などは研究段階 |
参考文献[1]〜[11]をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
いま、できること
腸内細菌を調べたり、変えたりしてがんを防ぐ方法は、まだ確立していません。一方、大腸がんについては、検診で早く見つけて治療することで、大腸がんで亡くなるのを防げることがわかっています[12]。
国立がん研究センターのがん情報サービスは、40歳から年に1回、便潜血検査による大腸がん検診を受けるよう勧めています。血便、腹痛、便の性状や回数の変化などの症状がある場合は、検診を待たずに医療機関を受診してください[12]。
- 40歳以上で、大腸がん検診を1年以上受けていない
- 便潜血検査で「要精密検査」と言われたが、まだ精密検査を受けていない
- 血便がある、便の形や回数が変わった、おなかの痛みが続く
- ピロリ菌の検査を受けたことがない
よくあるご質問
腸内フローラ検査で、がんのリスクはわかりますか?
便の細菌から大腸がんを見分ける研究は進んでいますが、がんの診断やリスクの判定に使える検査としては確立していません。大腸がん検診の代わりにはなりません。
ピロリ菌を除菌すれば、胃がんにはなりませんか?
除菌で胃がんが減ることは確かめられていますが、除菌した人からも胃がんは見つかっており、リスクがゼロになるわけではありません。その後の検査については医師とご相談ください。
がん治療中に抗菌薬を使っても大丈夫ですか?
抗菌薬と免疫療法の効果との関連は観察研究で報告されていますが、抗菌薬そのものが原因かはわかっていません。感染症の治療は大切です。自己判断で中断せず、主治医にご相談ください。
当院でのサポート
当院では、消化器内視鏡の専門医が胃カメラと大腸カメラを行っています。大腸カメラではAIによる診断支援システムも併用しており、胃カメラは夕方の時間帯にも受けられます。便潜血検査で「要精密検査」となった方や、便通の変化が気になる方はご相談ください。
また、腸内フローラ検査「マイキンソー プロ」(自費診療)も行っています。ただし、この検査はがんを見つけたり、がんのリスクを判定したりするものではなく、がん検診の代わりにはなりません。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- Report of the Advisory Group to Recommend Priorities for the IARC Monographs during 2025–2029著者:International Agency for Research on Cancer(IARC)資料:IARC Monographs 報告書発行:2024年URL:monographs.iarc.who.int(PDF)要約:国際がん研究機関が2025〜2029年の評価対象を検討した報告書。ピロリ菌はグループ1で胃がんの十分な証拠があると記載。口腔に多いフソバクテリウム・ヌクレアタムは高優先度とし、腸内細菌の乱れ全般は定義があいまいで評価対象としなかった。
- Helicobacter pylori eradication for the prevention of gastric neoplasia著者:Ford AC, Yuan Y, Forman D, ほか雑誌:Cochrane Database Syst Rev. 2020;7(7):CD005583発行日:2020年7月DOI:10.1002/14651858.CD005583.pub3要約:ピロリ菌に感染した健康な成人を対象とした7つのランダム化比較試験(8,323人)のコクランレビュー。除菌で胃がんの発生が減少し(1.6%対3.0%、相対リスク0.54)、胃がん死亡も減った。対象の多くはアジアの人々だった。
- Meta-analysis of fecal metagenomes reveals global microbial signatures that are specific for colorectal cancer著者:Wirbel J, Pyl PT, Kartal E, ほか雑誌:Nat Med. 2019;25(4):679-689発行日:2019年4月DOI:10.1038/s41591-019-0406-6要約:地域や手法の異なる8つの便メタゲノム研究を統合した解析。大腸がんの人の便で共通して多い29種類の細菌を特定した。単一研究で作った判定モデルは他の研究でも精度を保ち、大腸がんの細菌の特徴が地域を越えて共通することを示した。
- Metagenomic and metabolomic analyses reveal distinct stage-specific phenotypes of the gut microbiota in colorectal cancer著者:Yachida S, Mizutani S, Shiroma H, ほか雑誌:Nat Med. 2019;25(6):968-976発行日:2019年6月DOI:10.1038/s41591-019-0458-7要約:日本で大腸内視鏡検査を受けた616人の便を解析した研究。フソバクテリウム・ヌクレアタムは粘膜内がんから進行がんにかけて段階的に増加した。多発ポリープや粘膜内がんの段階でのみ増える細菌も見つかった。
- Microbiome confounders and quantitative profiling challenge predicted microbial targets in colorectal cancer development著者:Tito RY, Verbandt S, Aguirre Vazquez M, ほか雑誌:Nat Med. 2024;30(5):1339-1348発行日:2024年5月DOI:10.1038/s41591-024-02963-2要約:大腸がんの各段階の患者589人の便を解析し、既存研究と比較した研究。腸の通過時間、腸の炎症、BMIの影響を調整すると、フソバクテリウム・ヌクレアタムと大腸がんとの関連は有意でなくなった。交絡因子の考慮の重要性を示した。
- Mutational signature in colorectal cancer caused by genotoxic pks+ E. coli著者:Pleguezuelos-Manzano C, Puschhof J, Rosendahl Huber A, ほか雑誌:Nature. 2020;580(7802):269-273発行日:2020年4月DOI:10.1038/s41586-020-2080-8要約:毒素コリバクチンをつくる大腸菌をヒト腸オルガノイドに5か月間曝露した研究。特有の変異パターンが生じ、同じパターンが5,876人分のがんゲノムの一部、主に大腸がんで検出された。細菌が直接変異を起こしうることを示した。
- Geographic and age variations in mutational processes in colorectal cancer著者:Díaz-Gay M, Dos Santos W, Moody S, ほか雑誌:Nature. 2025;643(8070):230-240発行日:2025年7月DOI:10.1038/s41586-025-09025-8要約:11か国981人の大腸がんゲノムを解析した研究。コリバクチン由来の変異パターンは大腸がんの多い国で多く、40歳未満の診断例では70歳以上の3.3倍みられた。幼少期の曝露が若年大腸がんの増加に関わる可能性を示した。
- Association of Dietary Patterns With Risk of Colorectal Cancer Subtypes Classified by Fusobacterium nucleatum in Tumor Tissue著者:Mehta RS, Nishihara R, Cao Y, ほか雑誌:JAMA Oncol. 2017;3(7):921-927発行日:2017年7月DOI:10.1001/jamaoncol.2016.6374要約:米国の医療従事者137,217人を26〜32年追跡したコホート研究。全粒穀物や食物繊維の多い食事は、腫瘍にフソバクテリウム・ヌクレアタムを含む大腸がんのリスク低下と関連したが(ハザード比0.43)、含まないがんとは関連しなかった。
- Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors著者:Routy B, Le Chatelier E, Derosa L, ほか雑誌:Science. 2018;359(6371):91-97発行日:2018年1月DOI:10.1126/science.aan3706要約:抗PD-1抗体治療を受けた進行がん患者で、抗菌薬の使用が治療効果の低下と関連した研究。治療が効いた患者の便をマウスに移植すると効果が高まり、効かなかった患者の便では高まらなかった。アッカーマンシア菌との関連も示した。
- A systematic review and meta-analysis evaluating the impact of antibiotic use on the clinical outcomes of cancer patients treated with immune checkpoint inhibitors著者:Crespin A, Le Bescop C, de Gunzburg J, ほか雑誌:Front Oncol. 2023;13:1075593発行日:2023年3月DOI:10.3389/fonc.2023.1075593要約:免疫チェックポイント阻害薬で治療を受けた41,663人(123コホート)のメタ解析。治療開始前後に抗菌薬を使った28%の人では、全生存期間(ハザード比1.61)と無増悪生存期間(1.45)が短かった。
- Fecal microbiota transplantation plus pembrolizumab and axitinib in metastatic renal cell carcinoma: the randomized phase 2 TACITO trial著者:Porcari S, Ciccarese C, Heidrich V, ほか雑誌:Nat Med. 2026;32(4):1316-1324発行日:2026年4月DOI:10.1038/s41591-025-04189-2要約:転移性腎細胞がん45人の二重盲検ランダム化試験。免疫療法の奏効者の便を移植した群は無増悪生存期間の中央値が24.0か月で偽移植群の9.0か月より長かったが、主要評価項目の12か月無増悪率(70%対41%)は有意差に届かなかった。
- 大腸がん検診について著者:国立がん研究センター がん情報サービス資料:ウェブサイト(一般の方向け)更新・確認日:2024年9月20日URL:ganjoho.jp要約:大腸がん検診の対象と方法を一般向けに解説したページ。40歳から年1回、便潜血検査による検診を受けるよう勧めている。血便や腹痛、便の性状や回数の変化などの症状がある場合は、検診ではなくすぐに医療機関を受診するよう示している。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(日本消化器病学会専門医・日本消化器病学会専門医)