2026年9月28日

「薬を減らしたい」を医師と管理栄養士で――糖質制限を安全に行うための条件
Type 2 Diabetes
「薬を減らしたい」を医師と管理栄養士で
糖質制限を安全に行うための条件
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年9月28日
「糖尿病の薬は一生飲み続けないといけないのですか」。外来でよくいただく質問です。
2型糖尿病は長く付き合う病気ですが、食事や体重の変化によって、薬を減らしたり、場合によっては薬なしで血糖を保てるようになったりする方がいることもわかってきました。
この記事では、薬を減らせる可能性とその根拠、自己流の糖質制限に潜む危険、そして安全に減薬を目指す進め方を解説します。
Point
この記事のポイント
- 2型糖尿病では、体重を減らすことで薬を減らせたり、薬なしで血糖を保てる「寛解」に至ったりする方がいます
- 糖質制限は短期間で効果が出やすい一方、続けることが難しく、効果を保つには継続的な支援が欠かせません
- 薬を使っている方の自己流の糖質制限は、低血糖などの危険につながります。減薬は必ず医師と相談しながら進めます
糖尿病の「寛解」とは
2021年、米国糖尿病学会などの国際的な専門家グループは、2型糖尿病の「寛解(remission)」について定義を示しました。血糖を下げる薬をやめてから少なくとも3か月たった時点で、HbA1cが6.5%未満であることを寛解の基準としています[1]。
ここで大切なのは、「治った(完治)」ではなく「寛解」という言葉が選ばれていることです。体重が戻ったり、年齢を重ねたりすると、再び血糖が上がることがあるためです。同じ報告では、寛解した人も少なくとも年に1回はHbA1cを測り、目や腎臓などの合併症の検査を続けるよう勧めています[1]。
減量で糖尿病が寛解することを示した研究
英国で行われたDiRECT試験では、診断から6年以内で、インスリンを使っていない肥満(BMI 27〜45)の2型糖尿病の方306人を、集中的な減量プログラムを受ける群と通常の治療を受ける群に分けました。減量群では、糖尿病薬と血圧の薬をいったん中止し、1日約850キロカロリーの調整食に3〜5か月置き換えた後、少しずつ通常の食事に戻し、その後も体重を維持する支援を続けました[2]。
研究の種類無作為化比較試験(診療所単位で割り付け)/対象 英国の2型糖尿病の方306人、1年間
1年後、薬なしでHbA1cが6.5%未満を保てた人は、減量群で46%、通常治療群で4%でした。そして寛解の割合は減量の幅と強く関連し、15kg以上減量した人では多くが寛解していました[2]。
| 体重の変化 | 寛解した人の割合 | 人数 |
|---|---|---|
| 増加 | 0% | 76人中0人 |
| 0〜5kg減 | 7% | 89人中6人 |
| 5〜10kg減 | 34% | 56人中19人 |
| 10〜15kg減 | 57% | 28人中16人 |
| 15kg以上減 | 86% | 36人中31人 |
DiRECT試験の1年後の結果(減量群と通常治療群をあわせた全参加者)をもとに作成。
この試験の対象は、英国の比較的体格の大きい方で、診断から年数が浅い方でした。日本人は欧米人ほど太っていなくても糖尿病になりやすいため、同じ結果がそのまま当てはまるとは限りませんが、「体重を減らすことで膵臓の働きが戻り得る」ことを示した重要な研究です。
薬を減らしやすいのはどんな方か
これまでの研究や診療経験から、次のような方では、薬を減らせる可能性が比較的高いと考えられています。
- 糖尿病と診断されてからの年数が短い
- 体重が増えたことをきっかけに血糖が上がった
- インスリンを使っていない
- 食事や生活を見直す意欲がある
反対に、糖尿病の期間が長く、膵臓のインスリンを出す力が大きく落ちている方では、薬を減らすことが難しい場合もあります。
とはいえ、薬がゼロにならなくても、薬の種類や量を減らせること、低血糖の心配が減ること、体重や血圧、脂肪肝が改善することには大きな意味があります。
糖質制限の効果と限界
糖質を減らす食事は、食後の血糖の上昇を直接抑えられるため、糖尿病の方の食事療法として注目されています。
23の無作為化試験、1,357人を統合した解析では、1日の糖質を130g未満などに抑える食事は、6か月の時点で対照の食事より多くの方でHbA1cを6.5%未満に下げていました(57%対31%)。一方で、「薬を使わずに6.5%未満」という厳しい基準で見ると差は小さくなり、12か月の時点では効果が薄れ、データも十分ではありませんでした[3]。
研究の種類系統的レビュー・メタ解析/対象 23の無作為化試験、1,357人
日本でも、順天堂大学が1日130gの糖質制限食とカロリー制限食を比較する試験を行っています。6か月間の介入では、糖質制限食のほうがHbA1cと体重を大きく下げました。ところが、介入が終わって患者さんが自分で食事を管理するようになった1年後には、両群の糖質の摂取量はほぼ同じ(1日約215g)に戻り、両群の差はみられなくなっていました[4]。
研究の種類無作為化比較試験の追跡調査/対象 日本の2型糖尿病の方66人(1年後の解析は49人)
糖質制限では、減らした糖質の分を何で補うかも大切です。脂身の多い肉や加工肉ばかりに偏ると、LDLコレステロールが上がることがあるため、魚や大豆製品、野菜、オリーブオイルなども取り入れたバランスを意識します。
これらの研究が示しているのは、糖質制限は短期的には効果が出やすい一方で、続けることが難しく、効果を保つには継続的な支援が欠かせないということです。
自己流の糖質制限が危険なケース
薬を飲んでいる方が、医師に相談せずに急に糖質を大きく減らすと、思わぬ危険につながることがあります。
一つ目は低血糖です。インスリンやスルホニル尿素薬(SU薬)など、血糖を強く下げる薬を使ったまま食事の糖質を急に減らすと、血糖が下がりすぎて、ふるえ、冷や汗、意識障害などを起こすことがあります。
二つ目は、SGLT2阻害薬を使っている方の「正常血糖ケトアシドーシス」です。この薬を使っている方で、血糖はそれほど高くないのに、体が脂肪をエネルギーとして使いすぎて血液が酸性に傾く状態が報告されています。糖質の摂取量が少ないこと、脱水、体調不良などが引き金になり、血糖値が高くないために気づかれにくいことが問題とされています[5]。
SGLT2阻害薬を使っている方で、吐き気や腹痛、息苦しさ、強いだるさが出たときは、血糖値が高くなくても、すぐに医療機関を受診してください。
三つ目は腎臓の機能が低下している方です。糖質を減らした分をたんぱく質で補うと、腎臓に負担がかかる場合があります。
安全に薬を減らすための進め方
薬を減らす順番や時期は、HbA1c、低血糖の起こりやすさ、体重、腎臓や心臓の状態によって一人ひとり異なります。一般的には、食事療法を始める段階で低血糖を起こしやすい薬から先に調整し、その後の血糖の推移を見ながら慎重に減らしていきます。
また、糖尿病の薬の中には、血糖を下げるだけでなく、心臓や腎臓を守る目的で使われているものもあります。血糖が良くなっても、こうした薬は続けたほうがよい場合があるため、「減らすこと」そのものを目標にするのではなく、「合併症を防ぎながら、必要な薬を必要な量だけ使う」ことを目指します。自己判断で薬をやめることは避けてください。
当院の取り組み
千里丘かがやきクリニックでは、糖質の摂り方を中心にした食事療法を、4名の管理栄養士が一人ひとりに合わせてサポートしています。食事の記録をもとに、主食の量、間食、外食の選び方、飲み物などを具体的に見直し、実際に続けられる形を一緒に考えます。医師は定期的な採血で血糖や腎機能を確認しながら、低血糖などが起こらないよう薬の調整を行います。
糖尿病の方は、脂肪肝や睡眠時無呼吸症候群、動脈硬化を合併していることが少なくありません。当院では、腹部超音波検査、睡眠検査、PWV・ABI検査などで全身の状態を確認し、血糖以外の面からも治療を組み立てます。
千里丘かがやきクリニック 大阪府吹田市長野東19番6号
よくあるご質問
インスリンを使っていますが、薬を減らせますか。
インスリンを使っている方でも、食事の改善で量を減らせることがあります。ただし、低血糖の危険が高いため、必ず医師の管理のもとで進めます。1型糖尿病の方は、インスリンを中止することはできません。
高齢ですが、糖質制限をしても大丈夫ですか。
高齢の方では、食事量が減りすぎると筋肉が落ちたり、低血糖を起こしやすくなったりします。体重や筋力、食事量を確認しながら、無理のない方法を選びます。
今の主治医に相談せずに、栄養指導だけ受けられますか。
薬を調整する可能性があるため、現在の主治医との情報共有が大切です。紹介状や最近の検査結果、お薬手帳をお持ちいただくとスムーズです。
関連ページ
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療、薬の調整については、医師にご相談ください。
参考文献
- Consensus Report: Definition and Interpretation of Remission in Type 2 Diabetes著者:Riddle MC, Cefalu WT, Evans PH, ほか雑誌:Diabetes Care. 2021;44(10):2438-2444発行日:2021年10月(オンライン版 2021年8月30日)DOI:10.2337/dci21-0034要約:米国糖尿病学会が招集した国際専門家グループの合意報告。血糖降下薬の中止後3か月以上たってHbA1c 6.5%未満を寛解の基準とし、寛解後も年1回以上のHbA1c測定と、網膜・腎臓・足などの合併症検査の継続を勧めた。
- Primary care-led weight management for remission of type 2 diabetes (DiRECT): an open-label, cluster-randomised trial著者:Lean MEJ, Leslie WS, Barnes AC, ほか(最終著者 Taylor R)雑誌:Lancet. 2018;391(10120):541-551発行日:2018年2月10日DOI:10.1016/S0140-6736(17)33102-1要約:英国の49診療所で、診断6年以内・インスリン未使用の2型糖尿病306人を対象としたクラスター無作為化試験。薬を中止し約850kcal/日の調整食で減量した群の1年後の寛解は46%(対照群4%)、15kg以上の減量では86%だった。
- Efficacy and safety of low and very low carbohydrate diets for type 2 diabetes remission: systematic review and meta-analysis of published and unpublished randomized trial data著者:Goldenberg JZ, Day A, Brinkworth GD, ほか(最終著者 Johnston BC)雑誌:BMJ. 2021;372:m4743発行日:2021年1月13日DOI:10.1136/bmj.m4743要約:2型糖尿病で低糖質食(1日130g未満など)を検討した23の無作為化試験、1,357人のメタ解析。6か月時点のHbA1c 6.5%未満の達成は57%対31%と多かったが、薬なしの基準では差が小さく、12か月時点のデータは乏しかった。
- One year follow-up after a randomized controlled trial of a 130 g/day low-carbohydrate diet in patients with type 2 diabetes mellitus and poor glycemic control著者:Sato J, Kanazawa A, Hatae C, ほか(最終著者 Watada H)雑誌:PLoS One. 2017;12(12):e0188892発行日:2017年12月4日DOI:10.1371/journal.pone.0188892要約:順天堂大学で1日130gの糖質制限食とカロリー制限食を6か月間比較した無作為化試験の、終了1年後の追跡(66人中49人)。糖質摂取量は両群とも約215g/日に戻り、HbA1cとBMIは開始時より低いものの群間差はなくなった。
- Euglycemic Diabetic Ketoacidosis: A Potential Complication of Treatment With Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibition著者:Peters AL, Buschur EO, Buse JB, Cohan P, Diner JC, Hirsch IB雑誌:Diabetes Care. 2015;38(9):1687-1693発行日:2015年9月(オンライン版 2015年6月15日)DOI:10.2337/dc15-0843要約:SGLT2阻害薬に関連した正常血糖ケトアシドーシスまたはケトーシスの13エピソード(9人、うち2型糖尿病2人)を米国各地から集めた症例集積。血糖が高くないため発見が遅れやすく、吐き気や嘔吐、倦怠感があればケトンを調べるよう勧めた。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介