2026年9月25日

Antibiotic-Resistant Lactic Acid Bacteria
抗菌薬と一緒に出される整腸剤の中身
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年9月25日
抗菌薬を処方されたとき、一緒に「R」のついた整腸剤を渡された経験はないでしょうか。ビオフェルミンR、ラックビーR。この R は Resistant、つまり耐性を意味します。
抗菌薬に耐性を持つ乳酸菌。言葉だけを見ると、少し引っかかる方もいるかもしれません。耐性菌を体に入れて大丈夫なのか。仕組みと、わかっていることを整理します。
Point
この記事のポイント
- 抗菌薬で死なないよう耐性を持たせた乳酸菌の製剤で、日本では1973年から使われています
- 併用できる抗菌薬は決まっており、すべてをカバーするわけではありません
- 耐性がほかの菌へ伝わりにくい種類であることが、安全性の要になります
「R」は、耐性の頭文字
通常の整腸剤には弱点があります。抗菌薬と一緒に飲むと、整腸剤に入っている菌まで死んでしまうのです。
そこで開発されたのが耐性乳酸菌製剤でした。代表的なビオフェルミンRは、通常の配合散に使われている乳酸菌(Streptococcus faecalis 129 BIO 3B)に各種抗菌剤への耐性を付与した株を主成分とし、1973年に耐性乳酸菌製剤として承認されています[1]。
抗菌薬が投与されているあいだも生き残り、乳酸を作って腸内菌叢の乱れを抑える。それが製剤の狙いです。
「乳酸菌」だが、分類上は腸球菌
名前について、ひとつ触れておく必要があります。
添付文書に書かれている Streptococcus faecalis という菌名は、1984年の分類の見直しで Enterococcus faecalis、いわゆる腸球菌に変更されました[2]。つまりこの製剤の主成分は、分類上は連鎖球菌ではなく腸球菌です。
古い菌名が医薬品の表示に残っているだけで、中身が変わったわけではありません。ただこの違いは、後で述べる安全性の議論に関わってきます。
すべての抗菌薬に耐性があるわけではない
ここは実務上、もっとも誤解されやすいところです。
ビオフェルミンRが添付文書上で適応となるのは、ペニシリン系、セファロスポリン系、アミノグリコシド系、マクロライド系、テトラサイクリン系、ナリジクス酸を投与するときです[1]。裏を返せば、ニューキノロン系やホスホマイシン、カルバペネム系などは含まれていません。
Rがついているからどの抗菌薬とでも大丈夫、ということではないのです。
耐性菌を飲むことのリスクは
ここが本題です。抗菌薬耐性を持つ菌を、わざわざ体に入れてよいのか。
鍵になるのは耐性の種類です。細菌の薬剤耐性には、もともとその菌が備えている内在性のもの、染色体の変異によるもの、そしてプラスミドなど可動性の遺伝因子に乗って菌から菌へ渡るものがあります。問題が大きいのは最後のタイプで、内在性の耐性や染色体変異による耐性は、ほかの菌に伝わるリスクが非常に低いとされています[4]。
ビオフェルミンRについては、耐性伝達がプラスミド性のものではないことが試験管内で確認されており、混合培養でも大腸菌、プロテウス、腸球菌への伝達は起きませんでした[1]。国際的な評価の枠組みでも、こうした菌株には伝達しうる耐性遺伝子を持たないことが求められています[5]。
それでも、腸球菌であることの含み
ただし、慎重に見ておくべき点もあります。
腸球菌は、院内感染において重要な多剤耐性菌の一群でもあります。とくに Enterococcus faecium はバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)として世界的な課題になってきました。抗菌薬でグラム陰性菌が減ると、腸球菌がかえって増えやすくなることも知られています[6]。
製剤として長年使われてきた実績があり、伝達性の耐性も確認されていない。それでも、この菌群の性質を知ったうえで使うのと、知らずに使うのとでは、判断の質が変わります。
では、効くのか
肝心の効果はどうでしょうか。
抗菌薬による下痢の予防について、プロバイオティクス全般には根拠があります。小児を対象とした33試験・6352人のコクラン・レビューでは、下痢の発生率が投与群8%、対照群19%でした[7]。Clostridioides difficile 関連下痢についても、39試験・9955人の解析で予防効果が示されています[8]。
一方で、効かなかった大規模試験もあります。65歳以上の入院患者2941人を対象とした英国のPLACIDE試験では、乳酸菌とビフィズス菌の製剤を21日間投与しましたが、抗菌薬関連下痢は投与群10.8%、プラセボ群10.4%で差がありませんでした[9]。
研究の種類多施設共同ランダム化比較試験/高齢入院患者2941人、21日間投与
耐性乳酸菌製剤そのものの根拠は
では、日本の耐性乳酸菌製剤そのものについてはどうか。
添付文書に挙げられている臨床成績は、抗菌剤投与時の腸内菌叢の変動が抑制された、投与後のビフィズス菌の減少が抑制傾向だった、といった腸内細菌の変化を指標としたものです[1]。下痢の発生率をプラセボと比べた大規模試験は示されていません。
| 調べたこと | 結果 | もとになった研究 |
|---|---|---|
| 小児の抗菌薬関連下痢 | 発生率が19%から8%へ | ランダム化比較試験33件・6352人 |
| C. difficile関連下痢 | 予防効果あり | ランダム化比較試験39件・9955人 |
| 高齢入院患者の下痢 | プラセボと差なし(10.8%対10.4%) | ランダム化比較試験・2941人 |
| 小児の下痢(酪酸菌製剤) | 59%から5〜9%へ | 比較研究・小児110人 |
| 耐性乳酸菌製剤そのもの | 腸内菌叢の変動が抑制(下痢の発生率は未評価) | 添付文書に記載の臨床成績 |
参考文献1、7〜10をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
1973年の承認という時代背景を考えれば、無理もないことではあります。ただ、現在の基準で見たときに根拠がどの段階にあるのかは、知っておいてよいでしょう。
芽胞という、別の解き方
抗菌薬のもとで生き残る方法は、耐性を付与することだけではありません。
芽胞を作る菌なら、もともと抗菌薬に強い。日本で整腸剤として使われる酪酸菌(Clostridium butyricum)がこれにあたります。抗菌薬を使った小児110人を3群に分けた研究では、抗菌薬のみの群で59%に下痢がみられたのに対し、この菌を併用した群では5〜9%にとどまりました[10]。
耐性を付与する道と、もともと強い菌を使う道。どちらを選ぶかは、併用する抗菌薬と目的によります。
期待しすぎないために
二つ、押さえておきたいことがあります。
ひとつめ。飲んだ菌は定着しません。11株のプロバイオティクスを健康な人に投与し、内視鏡で腸粘膜を直接調べた研究では、定着の程度が人によって大きく異なりました[12]。抗菌薬が終われば、製剤の菌もやがて消えていきます。
ふたつめ。プロバイオティクスは、十分な量を摂ったときに宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物と定義されています[3]。生きていればよいのではなく、その量で、その効果が示されている必要がある。この基準で見ると、まだ埋まっていない部分があります。
安全性について
健康な方が短期間服用する範囲では、重い有害事象はまれです。
整腸剤で様子を見ないほうがよい症状
- 抗菌薬をやめたあとも下痢が続いている
- 水様便が1日に何回も出て、発熱を伴う
- 血便が出た、または便が黒い
- 強い腹痛がある
抗菌薬のあとの下痢は、多くが軽く、自然におさまります。ただし Clostridioides difficile による腸炎など、治療が必要なものもあります。整腸剤で様子を見続けず、早めにご相談ください。
よくあるご質問
抗菌薬と整腸剤は、同時に飲んでよいのですか?
耐性乳酸菌製剤であれば、同時で問題ありません。それが「R」の意味です。ただし通常の整腸剤の場合は、抗菌薬によって菌が死んでしまう可能性があります。どう飲むのがよいかは、処方を受けた薬局でご確認ください。
耐性菌を体に入れて、将来困ることはありませんか?
現時点で確認されているのは、この製剤の耐性が他の菌に伝わりにくい種類のものだということです。ただし、まったくリスクがないと言い切れる性質の話でもありません。必要な場面で使い、漫然と続けない。それが現実的な姿勢だと考えています。
抗菌薬が終わったあとも、飲み続けたほうがよいですか?
耐性乳酸菌製剤は、抗菌薬との併用が保険適応の条件になっています。抗菌薬を終えたあとも整腸が必要であれば、通常の整腸剤に切り替えるのが筋です。主治医にご相談ください。
当院でのサポート
当院は消化器内視鏡と消化器病の専門医が在籍する内科診療所です。抗菌薬を使ったあとの下痢や、長引くおなかの不調のご相談を日常的にお受けしており、必要に応じて大腸内視鏡検査も行っています(AI診断支援システムを併用しています)。
整腸剤を長く飲んでいるけれど続けるべきか迷っている方、抗菌薬とどう併用すればよいか分からない方は、お薬手帳をお持ちのうえご相談ください。管理栄養士4名が在籍していますので、食事の面からの立て直しも一緒に考えられます。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
Series
腸内細菌シリーズ(全5回+総まとめ)
- ビフィズス菌とは何か乳酸菌との違い、酢酸の働き、加齢による減少
- 酪酸菌とは何か大腸の細胞を養う酪酸、整腸剤の酪酸菌との違い
- 乳酸菌とは何か2020年の分類再編、効く場面と効かない場面
- 糖化菌とは何か枯草菌と納豆菌、ほかの菌を助ける役割
- 耐性乳酸菌製剤とは何か(この記事)抗菌薬と併用する整腸剤の仕組みと限界
- 総まとめ:5つの菌をどう考えるかシリーズの要点と早見表
参考文献
- ビオフェルミンR散・ビオフェルミンR錠 添付文書およびインタビューフォーム著者:ビオフェルミン製薬株式会社媒体:医薬品インタビューフォーム(日本医薬情報センター収載)発行年:2026年7月改訂(第19版)URL:https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00008087.pdf要約:主成分は各種抗菌剤への耐性を付与した乳酸菌で、1973年に承認。耐性伝達がプラスミド性でないこと、大腸菌等へ伝達しないこと、適応となる抗菌薬の範囲、腸内菌叢を指標とした臨床成績を記載。
- Transfer of Streptococcus faecalis and Streptococcus faecium to the genus Enterococcus nom. rev. as Enterococcus faecalis comb. nov. and Enterococcus faecium comb. nov.著者:Schleifer KH, Kilpper-Bälz R雑誌:Int J Syst Bacteriol. 1984;34(1):31-34発行日:1984年1月DOI:10.1099/00207713-34-1-31要約:Streptococcus faecalis と Streptococcus faecium を新たに Enterococcus 属へ移すことを提唱した分類学上の原著。現在の腸球菌という呼び名の由来となった文献。
- Expert consensus document. The International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics consensus statement on the scope and appropriate use of the term probiotic著者:Hill C, Guarner F, Reid G, ほか(最終著者 Sanders ME)雑誌:Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2014;11(8):506-514発行日:2014年8月DOI:10.1038/nrgastro.2014.66要約:国際学会による合意文書。プロバイオティクスを「十分な量を摂取したときに宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」とするFAO/WHOの定義を再確認し、用語の適切な使い方を整理した。
- Antibiotic resistance in probiotic bacteria著者:Gueimonde M, Sánchez B, de los Reyes-Gavilán CG, Margolles A雑誌:Front Microbiol. 2013;4:202発行日:2013年7月18日DOI:10.3389/fmicb.2013.00202要約:プロバイオティクス菌の薬剤耐性に関する総説。内在性耐性や染色体変異による耐性は伝達リスクが極めて低い一方、可動性遺伝因子に乗った耐性遺伝子が最大の懸念であることを整理している。
- Guidance on the assessment of bacterial susceptibility to antimicrobials of human and veterinary importance著者:EFSA Panel on Additives and Products or Substances used in Animal Feed(欧州食品安全機関FEEDAPパネル)雑誌:EFSA Journal. 2012;10(6):2740発行年:2012年DOI:10.2903/j.efsa.2012.2740要約:欧州食品安全機関による評価指針。生きた微生物を製品に用いる際、菌株が他の細菌へ伝達しうる耐性遺伝子を持たないことを確認する手順と判定基準を定めている。
- The rise of the Enterococcus: beyond vancomycin resistance著者:Arias CA, Murray BE雑誌:Nat Rev Microbiol. 2012;10(4):266-278発行日:2012年3月16日DOI:10.1038/nrmicro2761要約:腸球菌感染症の総説。院内感染における多剤耐性菌としての重要性、抗菌薬でグラム陰性菌が減ると腸球菌が増えやすくなる機序、バンコマイシン耐性の広がりを解説している。
- Probiotics for the prevention of pediatric antibiotic-associated diarrhea著者:Guo Q, Goldenberg JZ, Humphrey C, El Dib R, Johnston BC雑誌:Cochrane Database Syst Rev. 2019;4(4):CD004827発行日:2019年4月30日DOI:10.1002/14651858.CD004827.pub5要約:小児6352人を含む33試験のコクラン・レビュー。抗菌薬関連下痢の発生率は投与群8%、対照群19%で、9人に1人を予防できる計算だった。高用量のほうが有効だった。
- Probiotics for the prevention of Clostridium difficile-associated diarrhea in adults and children著者:Goldenberg JZ, Yap C, Lytvyn L, ほか(最終著者 Johnston BC)雑誌:Cochrane Database Syst Rev. 2017;12:CD006095発行日:2017年12月19日DOI:10.1002/14651858.CD006095.pub4要約:39試験9955人を含むコクラン・レビュー。抗菌薬を使用する成人と小児において、プロバイオティクスがClostridium difficile関連下痢の発生を減らすことを示した。
- Lactobacilli and bifidobacteria in the prevention of antibiotic-associated diarrhoea and Clostridium difficile diarrhoea in older inpatients (PLACIDE): a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial著者:Allen SJ, Wareham K, Wang D, ほか(最終著者 Mack D)雑誌:Lancet. 2013;382(9900):1249-1257発行日:2013年10月12日DOI:10.1016/S0140-6736(13)61218-0要約:65歳以上の入院患者2941人を対象とした英国の多施設試験。乳酸菌とビフィズス菌の製剤を21日間投与したが、抗菌薬関連下痢は10.8%対10.4%でプラセボと差がなかった。
- Prevention of antibiotic-associated diarrhea in children by Clostridium butyricum MIYAIRI著者:Seki H, Shiohara M, Matsumura T, ほか(最終著者 Komiyama A)雑誌:Pediatr Int. 2003;45(1):86-90発行日:2003年2月DOI:10.1046/j.1442-200X.2003.01671.x要約:抗菌薬を使った小児110人を3群に分けた比較研究。抗菌薬のみでは59%に下痢がみられたのに対し、芽胞を作る酪酸菌を併用した群では5〜9%にとどまった。
- Genomic and epidemiological evidence of bacterial transmission from probiotic capsule to blood in ICU patients著者:Yelin I, Flett KB, Merakou C, ほか(最終著者 Priebe GP)雑誌:Nat Med. 2019;25(11):1728-1732発行日:2019年11月DOI:10.1038/s41591-019-0626-9要約:小児集中治療室のデータ解析。ラクトバチルス・ラムノサスGG製剤を投与された522人中6人に菌血症が発生し、全ゲノム解析で血液中の菌が製剤由来であることが示された。
- Personalized Gut Mucosal Colonization Resistance to Empiric Probiotics Is Associated with Unique Host and Microbiome Features著者:Zmora N, Zilberman-Schapira G, Suez J, ほか(最終著者 Elinav E)雑誌:Cell. 2018;174(6):1388-1405.e21発行日:2018年9月6日DOI:10.1016/j.cell.2018.08.041要約:11株のプロバイオティクスを投与し、内視鏡で腸粘膜を直接採取して評価した研究。定着の程度は人・部位・菌株ごとに大きく異なり、便の検査からは粘膜の状態を判別できなかった。