2026年9月25日

Gut Bacteria
腸内細菌シリーズ 総まとめ
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年9月25日
ビフィズス菌、酪酸菌、乳酸菌、糖化菌、耐性乳酸菌製剤。整腸剤の成分表やヨーグルトの表示で見かける名前を、一つずつ取り上げてきました。
ここでは5本の内容を一枚にまとめます。どれから読めばよいか迷う方は、この記事から入ってください。
Point
この記事のポイント
- 五つの名前は、どれも菌の働きによる呼び名で、分類名ではありません
- 効果は菌株ごとに異なり、食べた菌は基本的に腸に定着しません
- 菌を足すことと、餌になる食物繊維を増やすことは別の話です
なぜ5本に分けたのか
「腸活」という言葉でひとくくりにされがちですが、これらの菌がしていることは、それぞれ違います。
ビフィズス菌は酢酸を作り、酪酸菌は酪酸を作る。乳酸菌は乳酸を作り、糖化菌はデンプンを糖に分解する。作るものが違えば、体に対する働きも違ってきます。そして研究の蓄積も、菌によって大きくばらついています。
まとめて善玉菌と呼んでしまうと、この違いが見えなくなるため、それぞれ分けて書いています。
五つを一枚の表に
| 呼び名 | 正体 | 主に作るもの | 主な生息場所 | ヒトでの根拠の例 |
|---|---|---|---|---|
| ビフィズス菌 | Bifidobacterium属 | 酢酸と乳酸 | 大腸 | 便秘への効果(菌種で差) |
| 酪酸菌 | 酪酸を作る菌の総称 | 酪酸 | 大腸 | 抗菌薬関連下痢、過敏性腸症候群 |
| 乳酸菌 | 乳酸を多く作る菌の総称 | 乳酸 | 小腸で目立つ | 乳糖の消化、抗菌薬関連下痢 |
| 糖化菌 | Bacillus subtilis(枯草菌) | 分解酵素(アミラーゼ) | 土壌由来、腸は通過 | 単独の根拠は限られる |
| 耐性乳酸菌製剤 | 耐性を付与した腸球菌 | 乳酸 | 小腸から大腸 | 腸内菌叢の変動抑制 |
各記事で引用した文献をもとに作成。根拠の詳細は各記事をご覧ください。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
ビフィズス菌 赤ちゃんの腸を占める菌
母乳で育つ乳児の腸で、もっとも多くを占める細菌です。母乳に含まれるオリゴ糖を分解できることが理由で、離乳を境に減りはじめ、加齢とともにさらに減っていきます。
乳酸菌とは系統の異なる別のグループで、乳酸だけでなく酢酸を大量に作るのが特徴。この酢酸が腸のバリアを助け、ほかの菌が酪酸を作る材料にもなります。
酪酸菌 大腸の細胞を養う
酪酸は、大腸の上皮細胞にとって主要なエネルギー源です。1980年の研究では、大腸の細胞の酸素消費のうち73〜75%が酪酸によるものでした[1]。
ただし、大腸で主役を務める酪酸産生菌は酸素にきわめて弱く、食品として摂ることはできません。日本の整腸剤に使われる Clostridium butyricum は、同じ酪酸を作る別の菌種です。
乳酸菌 効く場面と、効かない場面
乳酸菌は分類名ではなく、乳酸を多く作る菌の総称です。その中心だったラクトバチルス属は、2020年の再分類で25の属に分けられました[2]。
乳糖の消化や抗菌薬による下痢の予防では効果が確かめられている一方、子どもの急性胃腸炎には効かないことが971人を対象とした大規模試験で示されています[3]。同じ乳酸菌でも、場面によって結果はここまで違います。
糖化菌 ほかの菌を助ける役
正体は Bacillus subtilis、枯草菌です。納豆菌もこの仲間で、デンプンを分解する酵素を出し、ほかの菌の餌を作る役割が期待されています。
納豆についての疫学研究は豊富ですが、その効果が菌によるものか、大豆やビタミンK2によるものかは切り分けられていません。ここは慎重に読む必要があります。
耐性乳酸菌製剤 抗菌薬と一緒に出る「R」
抗菌薬で死なないよう耐性を付与した乳酸菌の製剤で、1973年に承認されました[4]。ただし併用できる抗菌薬は添付文書で決まっており、すべてをカバーするわけではありません。
耐性がほかの菌に伝わるかどうかが、安全性の要点になります。分類上は腸球菌である点も、知っておいて損はありません。
5本を通して言えること
どの菌についても、繰り返し出てきた結論が三つあります。
ひとつめ。効果は菌株ごとに違います。「ビフィズス菌入り」「乳酸菌配合」という表示は、実質的にほとんど何も語っていません。菌株名と、その株で行われた研究を見るのが本来の筋です。
ふたつめ。食べた菌は定着しません。11株のプロバイオティクスを健康な人に投与し、内視鏡で腸粘膜を直接調べた研究では、定着の程度が人によって大きく異なりました[5]。効果を期待するなら、続けることが前提になります。
みっつめ。便を調べても、腸粘膜で何が起きているかまではわかりません[5]。市販の腸内環境検査の結果は、そこまで読み取れるものではないと考えておいたほうが無難です。
三つの言葉を整理しておく
用語を区別しておくと、製品の表示がぐっと読みやすくなります。
プロバイオティクスは、十分な量を摂ったときに宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物[6]。プレバイオティクスは、宿主の微生物に選択的に利用されて健康上の利益をもたらす基質、つまりオリゴ糖や食物繊維です[7]。発酵食品は、望ましい微生物の増殖と酵素による変換を経て作られた食品で、食べる時点で生きた菌が入っているとは限りません[8]。
発酵食品をプロバイオティクスと呼べるのは、菌が生きていて、しかもその菌株で健康上の利益が実証されている場合だけ。この条件を満たす食品は、思うほど多くありません[8]。
結局、何をすればよいのか
5本を書き終えて、患者さんにお伝えしていることは変わりませんでした。
まず食物繊維とオリゴ糖を日常的にとること。これは、もともと自分の腸にいる菌に働きかける方法で、特定の製品を買う必要がありません。そのうえで、ヨーグルトや納豆、味噌といった発酵食品を習慣にする。整腸剤は、抗菌薬の併用や症状があるときに、目的を決めて使う。
順番としては、これがもっとも根拠のある考え方です。特定の菌を探しにいくより、ずっと確実でもあります。
こんなときは、食事や整腸剤で様子を見ないでください
- 血便が出た、または便が黒い
- 排便の様子が、ここ数か月で急に変わった
- 意図せず体重が減ってきた
- 抗菌薬をやめたあとも下痢が続いている
これらは腸内細菌のバランスとは別の問題を示していることがあります。整腸剤を続けているあいだに診断が遅れることのないよう、早めに医療機関を受診してください。
当院でのサポート
当院は消化器内視鏡と消化器病の専門医が在籍する内科診療所です。便秘や下痢、おなかの張りのご相談を日常的にお受けしており、必要に応じて大腸内視鏡検査も行っています(AI診断支援システムを併用しています)。
管理栄養士4名が在籍していますので、食物繊維のとり方や発酵食品の取り入れ方まで踏み込んだ相談が可能です。ご自身の腸内細菌の構成を知りたい方には、自費診療として腸内フローラ検査(マイキンソー プロ)もご用意しています。整腸剤を長く飲んでいて続けるべきか迷っている方も、お薬手帳をお持ちのうえご相談ください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
Series
腸内細菌シリーズ(全5回+総まとめ)
- ビフィズス菌とは何か乳酸菌との違い、酢酸の働き、加齢による減少
- 酪酸菌とは何か大腸の細胞を養う酪酸、整腸剤の酪酸菌との違い
- 乳酸菌とは何か2020年の分類再編、効く場面と効かない場面
- 糖化菌とは何か枯草菌と納豆菌、ほかの菌を助ける役割
- 耐性乳酸菌製剤とは何か抗菌薬と併用する整腸剤の仕組みと限界
- 総まとめ:5つの菌をどう考えるか(この記事)シリーズの要点と早見表
参考文献
- Role of anaerobic bacteria in the metabolic welfare of the colonic mucosa in man著者:Roediger WEW雑誌:Gut. 1980;21(9):793-798発行日:1980年9月DOI:10.1136/gut.21.9.793要約:ヒトの手術検体から分離した大腸上皮細胞を用いた研究。酪酸が単独の基質のとき、酸素消費の73〜75%を酪酸が占め、大腸粘膜の主要なエネルギー源であることを示した。
- A taxonomic note on the genus Lactobacillus: Description of 23 novel genera, emended description of the genus Lactobacillus Beijerinck 1901, and union of Lactobacillaceae and Leuconostocaceae著者:Zheng J, Wittouck S, Salvetti E, ほか(最終著者 Lebeer S)雑誌:Int J Syst Evol Microbiol. 2020;70(4):2782-2858発行日:2020年4月DOI:10.1099/ijsem.0.004107要約:全ゲノム解析にもとづく再分類の報告。261種を含んでいたラクトバチルス属を、生態や代謝的な性質を共有する25の属に分けることを提案した。現在の菌名表記の根拠となっている。
- Lactobacillus rhamnosus GG versus Placebo for Acute Gastroenteritis in Children著者:Schnadower D, Tarr PI, Casper TC, ほか(最終著者 Freedman SB)雑誌:N Engl J Med. 2018;379(21):2002-2014発行日:2018年11月22日DOI:10.1056/NEJMoa1802598要約:米国の小児971人を対象とした多施設二重盲検試験。急性胃腸炎にラクトバチルス・ラムノサスGGを5日間投与したが、症状の重症度や下痢・嘔吐の持続時間はプラセボと変わらなかった。
- ビオフェルミンR散・ビオフェルミンR錠 添付文書およびインタビューフォーム著者:ビオフェルミン製薬株式会社媒体:医薬品インタビューフォーム(日本医薬情報センター収載)発行年:2026年7月改訂(第19版)URL:https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00008087.pdf要約:主成分は各種抗菌剤への耐性を付与した乳酸菌で、1973年に承認。耐性伝達がプラスミド性でないこと、適応となる抗菌薬の範囲、腸内菌叢を指標とした臨床成績を記載している。
- Personalized Gut Mucosal Colonization Resistance to Empiric Probiotics Is Associated with Unique Host and Microbiome Features著者:Zmora N, Zilberman-Schapira G, Suez J, ほか(最終著者 Elinav E)雑誌:Cell. 2018;174(6):1388-1405.e21発行日:2018年9月6日DOI:10.1016/j.cell.2018.08.041要約:11株のプロバイオティクスを投与し、内視鏡で腸粘膜を直接採取して評価した研究。定着の程度は人・部位・菌株ごとに大きく異なり、便の検査からは粘膜の状態を判別できなかった。
- Expert consensus document. The International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics consensus statement on the scope and appropriate use of the term probiotic著者:Hill C, Guarner F, Reid G, ほか(最終著者 Sanders ME)雑誌:Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2014;11(8):506-514発行日:2014年8月DOI:10.1038/nrgastro.2014.66要約:国際学会による合意文書。プロバイオティクスを「十分な量を摂取したときに宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」とするFAO/WHOの定義を再確認し、用語の適切な使い方を整理した。
- Expert consensus document: The International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics (ISAPP) consensus statement on the definition and scope of prebiotics著者:Gibson GR, Hutkins R, Sanders ME, ほか(最終著者 Reid G)雑誌:Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2017;14(8):491-502発行日:2017年8月DOI:10.1038/nrgastro.2017.75要約:国際学会による合意文書。プレバイオティクスを「宿主の微生物に選択的に利用され、健康上の利益をもたらす基質」と定義し直し、適用範囲と実証の要件を示した。
- The International Scientific Association for Probiotics and Prebiotics (ISAPP) consensus statement on fermented foods著者:Marco ML, Sanders ME, Gänzle M, ほか(最終著者 Hutkins R)雑誌:Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2021;18(3):196-208発行日:2021年3月DOI:10.1038/s41575-020-00390-5要約:国際学会による合意文書。発酵食品の定義を定めるとともに、発酵食品をプロバイオティクスと呼べるのは菌株が特定され健康上の利益が実証されている場合に限ると明記した。