2026年10月10日

漢方薬と腸内細菌の関係とは?効き方に個人差が出る理由を専門医が解説
Gut Microbiota & Diet
腸内細菌は、毎日の食事でどこまで変わるのか
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月10日
「腸活」という言葉をよく聞くようになりました。ヨーグルトを食べる、食物繊維を摂る。どれも悪くない習慣です。
では実際のところ、食事で腸内細菌はどれくらい変わるのでしょうか。そして、それは健康につながるのでしょうか。研究でわかっていることを、順番に見ていきます。
Point
この記事のポイント
- 食事を大きく変えると、腸内細菌の構成は1日のうちに変わり始めます。ただし元に戻るのも早いことがわかっています
- 食物繊維は腸内細菌のえさになり、体にはたらく物質に変えられます。日本人の摂取量は目標に届いていません
- 同じものを食べても反応は人それぞれです。「誰にでも効く一つの正解」はまだありません
食事を変えると、腸内細菌は1日で動き出す
よく知られている実験があります。健康な成人10人に、動物性食品だけの食事(肉、卵、チーズ)と、植物性食品だけの食事(穀類、豆、野菜、果物)を、それぞれ5日間続けてもらったものです。
腸内細菌の構成は、食べたものが大腸に届いた翌日には変化していました。動物性食品の食事では、胆汁に強い細菌が増えています[1]。
ただし、戻るのも早いのです。動物性食品の食事をやめると、腸内細菌は2日後にはもとの構成に戻っていました[1]。
数日の食事では、大枠は変わらない
別の研究では、98人の腸内細菌を調べたところ、長年の食生活との関連がみられました。たんぱく質や動物性脂肪の多い食事はバクテロイデス属と、炭水化物の多い食事はプレボテラ属と結びついていたのです[2]。
この研究では10人に10日間、決められた食事をとってもらう試験も行われました。腸内細菌の構成は24時間以内に変化しましたが、どちらのタイプに属するかという大枠は、10日間を通じて変わりませんでした[2]。
数日の食事で細かい顔ぶれは動く。でも、腸内細菌の土台は長年の食習慣でできている。そういうことになります。
食物繊維は、細菌のえさになる
ここで大事になるのが食物繊維です。食物繊維は人の消化酵素では分解できません。そのまま大腸まで届き、腸内細菌のえさになります。
細菌はこれを発酵させて、酢酸、プロピオン酸、酪酸といった「短鎖脂肪酸」をつくります。これらは大腸の細胞のエネルギー源になるほか、体のさまざまな仕組みにはたらきかけることがわかってきました[3]。
では、食物繊維を増やせば腸内細菌はどう変わるのか。健康な成人を対象とした64件の試験(2,099人)をまとめた解析では、ビフィズス菌と乳酸桿菌が増え、便中の酪酸もわずかに増えていました。一方で、腸内細菌の種類の多さ(多様性)そのものは変わりませんでした[4]。食物繊維は「多様性を増やす」というより、特定の菌とその産物を増やす、と考えたほうが実態に近いようです。
食物繊維そのものの健康への影響も、大規模に検証されています。185の前向き研究と58の介入試験をまとめた解析では、食物繊維の摂取量が多い人は、少ない人に比べて総死亡、心筋梗塞、脳卒中、2型糖尿病、大腸がんなどが15〜30%少なくなっていました。効果が最も大きかったのは、1日25〜29gの摂取量でした[5]。
研究の種類系統的レビュー・メタ解析/対象 のべ約1億3,500万人年のデータ(WHOの依頼による解析)
日本人は、どれくらい摂れているのか
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、食物繊維の目標量が引き上げられました。30〜64歳では男性22g以上、女性18g以上です[6]。
ただし、この数字には事情があります。報告書は、成人にとって理想的な目標量は1日25g以上と考えられるが、日本人の現在の摂取量を考えて実行できる水準まで下げた、とはっきり書いています。実際の摂取量の中央値は、30〜49歳で男性12.45g、女性11.5g。目標にも理想にも届いていません[6]。
同じ報告書には、サプリメントで同じ量の食物繊維をとっても、食品からとった場合と同じ健康上の利益が得られるという保証はない、とも書かれています[6]。まずは食事から摂ることが基本です。
減った食物繊維は、戻るのか
気になる実験もあります。人の腸内細菌を移植したマウスに、食物繊維の少ないえさを与えると、細菌の多様性が落ちました。1世代なら食物繊維を戻せば回復しましたが、4世代続けると、失われた細菌は食物繊維を戻しても回復しなかったのです[7]。マウスの実験であり、人でそのまま起こるとは言えませんが、考えさせられる結果です。
発酵食品を増やすと、どうなるか
スタンフォード大学が行った試験があります。健康な成人36人を、食物繊維を増やす群と、発酵食品を増やす群に分け、10週間続けてもらいました。発酵食品はヨーグルト、ケフィア、発酵カッテージチーズ、キムチなどの発酵野菜、野菜の漬け汁、コンブチャです。
結果は意外なものでした。発酵食品の群では腸内細菌の多様性が着実に増え、血液中の19種類の炎症に関わるたんぱく質が減っていました。一方、食物繊維の群では多様性は変わらず、免疫の反応は人によってばらばらでした[8]。
ただし、参加者は各群18人と少なく、10週間という短い期間の研究です。発酵食品の量も1日6食分を目標とする、かなり多いものでした[8]。「食物繊維より発酵食品のほうがよい」と結論づけられる段階ではありません。
食事のパターンを変えた研究
個々の食品ではなく、食事全体を変えた研究もあります。ヨーロッパ5か国の高齢者612人に、地中海食を12か月続けてもらった試験です。
地中海食をよく守れた人ほど、特定の細菌が増えていました。そしてそれらの細菌は、フレイル(虚弱)の指標が低いことや認知機能が良好なことと関連し、CRPなどの炎症の指標とは逆の関連を示しました[9]。
もっとも、この結果は関連を示したものです。腸内細菌の変化がフレイルを防いだ、と証明されたわけではありません[9]。
同じものを食べても、反応は違う
ここまで読んで、「では何を食べればいいのか」と思われたかもしれません。ここが難しいところです。
800人に1週間、血糖を持続的に測定した研究では、同じ食品を食べても血糖の上がり方は人によって大きく違いました。腸内細菌などの情報を組み込むと、その人の反応をある程度予測できたと報告されています[10]。
人工甘味料でも同じことが起きています。健康な成人120人に4種類の人工甘味料を2週間とってもらった試験では、サッカリンとスクラロースで血糖の反応が悪化しましたが、その程度は人によって異なりました[11]。
日本人の腸には、日本人の細菌がいる
食文化の違いもあります。海苔などの紅藻に含まれる多糖を分解する酵素の遺伝子が、海の細菌から腸内細菌に移っていた、という研究があります。この遺伝子は日本人の腸内細菌からは見つかりましたが、調べた北米の人からは見つかりませんでした[12]。
いまわかっていること、まだわからないこと
ここまでの内容を整理すると、次のようになります。
| テーマ | 現時点でわかっていること |
|---|---|
| 食事を変える速さ | 腸内細菌は1日で動き出すが、元に戻るのも早い。大枠は長年の食習慣で決まる |
| 食物繊維 | 細菌が短鎖脂肪酸に変える。摂取量が多い人ほど病気や死亡が少ないという解析がある |
| 発酵食品 | 多様性が増え、炎症の指標が下がった試験がある。ただし規模が小さく短期間 |
| 個人差 | 同じ食品でも血糖の反応は人によって大きく違う。個別化はまだ研究段階 |
参考文献[1]〜[12]をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
今日からできること
特別な食品を探すより、まず足りていないものを補うほうが確実です。
- 主食の一部を、雑穀や麦、全粒のものに替える
- 毎食、野菜・海藻・きのこの料理を添える
- 豆類(納豆、豆腐、大豆製品)を1日1回は取り入れる
- ヨーグルトやぬか漬け、味噌など、発酵食品を習慣にする
- 食物繊維を増やすときは、少しずつ。急に増やすとおなかが張ることがあります
食物繊維は、穀類、豆類、野菜、果物、きのこ、海藻に多く含まれます。一つの食品でまかなうより、いろいろな食品から摂るほうが現実的です。
よくあるご質問
糖質を控えると、食物繊維も減ってしまいませんか?
穀類や芋類は食物繊維の供給源でもあるため、減らした分を意識して補う必要があります。野菜、海藻、きのこ、豆類、ナッツなどを増やすと、糖質を抑えながら食物繊維を確保しやすくなります。
食物繊維のサプリメントでもよいですか?
食事摂取基準の目標量の根拠になった研究の多くは、通常の食品に由来する食物繊維を扱ったものです。報告書も、サプリメントで同じ利益が得られる保証はないとしています。まずは食事からが基本です。
ヨーグルトは毎日食べたほうがいいですか?
発酵食品を増やして腸内細菌の多様性が増えた試験はありますが、規模が小さく短期間です。合わない場合もありますので、おなかの張りや下痢が続くようなら量を調整してください。
当院でのサポート
当院には管理栄養士が4名在籍し、栄養指導を行っています。「何をどれだけ食べればよいか」は、生活や体調によって変わります。一般論ではなく、ご本人の食生活をうかがったうえでご提案しています。
また、腸内細菌の構成を調べる腸内フローラ検査「マイキンソー プロ」(自費診療)も行っています。なお、現時点では、この検査の結果から最適な食事を決める方法は確立していません。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- Diet rapidly and reproducibly alters the human gut microbiome著者:David LA, Maurice CF, Carmody RN, ほか雑誌:Nature. 2014;505(7484):559-563発行日:2014年1月DOI:10.1038/nature12820要約:健康な成人10人に動物性のみ・植物性のみの食事を5日間ずつとってもらった研究。腸内細菌の構成は食事が大腸に届いた翌日に変化し、動物性の食事では胆汁に強い細菌が増えた。食事終了2日後にはもとの構成へ戻った。
- Linking long-term dietary patterns with gut microbial enterotypes著者:Wu GD, Chen J, Hoffmann C, ほか雑誌:Science. 2011;334(6052):105-108発行日:2011年10月DOI:10.1126/science.1208344要約:98人の便を解析し、長年の食習慣と腸内細菌のタイプの関連を調べた研究。たんぱく質・動物性脂肪はバクテロイデス属、炭水化物はプレボテラ属と関連した。10日間の食事試験では構成は24時間で変化したが、タイプは変わらなかった。
- From Dietary Fiber to Host Physiology: Short-Chain Fatty Acids as Key Bacterial Metabolites著者:Koh A, De Vadder F, Kovatcheva-Datchary P, Bäckhed F雑誌:Cell. 2016;165(6):1332-1345発行日:2016年6月DOI:10.1016/j.cell.2016.05.041要約:腸内細菌が食物繊維を発酵してつくる短鎖脂肪酸の役割をまとめた総説。短鎖脂肪酸は細胞の受容体に直接作用し、遺伝子のはたらき方を変え、エネルギー源にもなる。食事と腸内細菌、体の機能をつなぐ物質と位置づけた。
- Dietary fiber intervention on gut microbiota composition in healthy adults: a systematic review and meta-analysis著者:So D, Whelan K, Rossi M, ほか雑誌:Am J Clin Nutr. 2018;107(6):965-983発行日:2018年6月DOI:10.1093/ajcn/nqy041要約:健康な成人を対象とした64件のランダム化比較試験(2,099人)の統合解析。食物繊維の摂取でビフィズス菌と乳酸桿菌が増え、便中の酪酸も増加した。一方、腸内細菌の多様性(α多様性)には差がみられなかった。
- Carbohydrate quality and human health: a series of systematic reviews and meta-analyses著者:Reynolds A, Mann J, Cummings J, ほか雑誌:Lancet. 2019;393(10170):434-445発行日:2019年2月DOI:10.1016/S0140-6736(18)31809-9要約:WHOの依頼で行われた解析。185の前向き研究と58の介入試験を統合し、食物繊維の摂取が多い人では総死亡、心筋梗塞、脳卒中、2型糖尿病、大腸がんなどが15〜30%少なかった。効果は1日25〜29gで最大だった。
- 「日本人の食事摂取基準(2025年版)」策定検討会報告書(炭水化物)著者:厚生労働省資料:策定検討会報告書公表:2024年10月(2025年3月正誤表反映)URL:mhlw.go.jp要約:食物繊維の目標量を30〜64歳で男性22g以上、女性18g以上と設定。理想的な目標量は成人で25g以上としつつ、日本人の摂取実態と実行可能性を考慮して低く設定したと明記。サプリメントで同等の利益が得られる保証はないとも記載。
- Diet-induced extinctions in the gut microbiota compound over generations著者:Sonnenburg ED, Smits SA, Tikhonov M, ほか雑誌:Nature. 2016;529(7585):212-215発行日:2016年1月DOI:10.1038/nature16504要約:人の腸内細菌を持つマウスに食物繊維の少ないえさを与えた研究。1世代では食物繊維を戻せば多様性が回復したが、4世代続けると失われた細菌は戻らなかった。便移植で補うと回復した。
- Gut-microbiota-targeted diets modulate human immune status著者:Wastyk HC, Fragiadakis GK, Perelman D, ほか雑誌:Cell. 2021;184(16):4137-4153.e14発行日:2021年8月DOI:10.1016/j.cell.2021.06.019要約:健康な成人36人を食物繊維群と発酵食品群に分けた10週間のランダム化試験。発酵食品群では腸内細菌の多様性が増え、19種類の炎症関連たんぱく質が減少した。食物繊維群では多様性は変わらず、免疫の反応は個人差が大きかった。
- Mediterranean diet intervention alters the gut microbiome in older people reducing frailty and improving health status: the NU-AGE 1-year dietary intervention across five European countries著者:Ghosh TS, Rampelli S, Jeffery IB, ほか雑誌:Gut. 2020;69(7):1218-1228発行日:2020年7月DOI:10.1136/gutjnl-2019-319654要約:欧州5か国の高齢者612人に地中海食を12か月続けた試験。食事をよく守った人で増えた細菌は、フレイルの指標の低さや認知機能の良好さと関連し、CRPなどの炎症指標とは逆の関連を示した。
- Personalized Nutrition by Prediction of Glycemic Responses著者:Zeevi D, Korem T, Zmora N, ほか雑誌:Cell. 2015;163(5):1079-1094発行日:2015年11月DOI:10.1016/j.cell.2015.11.001要約:800人の血糖を1週間連続測定し、46,898回の食事への反応を調べた研究。同じ食品でも血糖の上がり方は人により大きく異なった。腸内細菌などを組み込んだ予測モデルは、別の100人でも精度を保った。
- Personalized microbiome-driven effects of non-nutritive sweeteners on human glucose tolerance著者:Suez J, Cohen Y, Valdés-Mas R, ほか雑誌:Cell. 2022;185(18):3307-3328.e19発行日:2022年9月DOI:10.1016/j.cell.2022.07.016要約:健康な成人120人に4種類の人工甘味料を2週間とってもらったランダム化試験。いずれも腸内細菌と血中の代謝産物を変化させ、サッカリンとスクラロースでは血糖の反応が悪化した。反応の程度には個人差があった。
- Transfer of carbohydrate-active enzymes from marine bacteria to Japanese gut microbiota著者:Hehemann JH, Correc G, Barbeyron T, ほか雑誌:Nature. 2010;464(7290):908-912発行日:2010年4月DOI:10.1038/nature08937要約:海苔などの紅藻に含まれる多糖を分解する酵素を、海の細菌から特定した研究。その遺伝子が日本人の腸内細菌に移っていることを示した。調べた北米の人の腸内細菌からは見つからなかった。
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(日本東洋医学会 漢方専門医・指導医)