2026年10月08日

Gut Microbiota & Allergy
アレルギーのなりやすさと、腸内細菌の関係
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月8日
春が来るたびに、くしゃみと鼻水が止まらない。子どもの湿疹が、なかなかよくならない。アレルギーの悩みは、いまやとても身近なものです。
全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象にした2019年の調査では、アレルギー性鼻炎の人は49.2%。スギ花粉症だけでも38.8%にのぼり、前回(2008年)の調査から大きく増えていました[1]。こうした増加の理由を探る研究のなかで、近年とくに調べられているのが腸内細菌です。
Point
この記事のポイント
- 赤ちゃんの時期の腸内細菌のようすが、その後のアレルギーのなりやすさと関係することが、複数の研究で示されています
- 腸内細菌がつくる「酪酸」が、免疫のブレーキ役を育てるしくみが、動物実験で明らかになってきました
- ただし、乳酸菌などで腸内細菌を変えてアレルギーを予防・治療する方法は、まだ確立していません
「清潔すぎる」とアレルギーが増える?
話は1989年のイギリスにさかのぼります。1958年に生まれた子どもたちを追跡したデータから、年上のきょうだいが多い人ほど花粉症になりにくい、という傾向が見つかりました[2]。
報告した研究者は、幼いころにきょうだいから感染症をもらう機会が多いことが、アレルギーを防いでいるのではないかと考えました。家族の人数が減り、住まいの設備や清潔さの水準が上がったことで、家族のなかで感染し合う機会そのものが減ってきた、とも指摘しています[2]。これが、のちに「衛生仮説」とよばれる考え方の出発点です。その後、研究の関心は、ふだんから腸などにすんでいる細菌にも向けられるようになりました。
腸内細菌が、免疫の「ブレーキ役」を育てる
免疫には、体を守るためにはたらくアクセルだけでなく、行き過ぎた反応をしずめるブレーキもあります。その代表が「制御性T細胞」で、炎症やアレルギー反応をおさえるうえで中心的な役割を担っています[3]。
日本の研究チームは、腸内細菌が大腸での発酵によってつくる「酪酸」が、この制御性T細胞を増やすことをマウスで示しました[3]。
人でも、これと矛盾しない結果が出ています。ヨーロッパで301人の赤ちゃんを調べた研究では、1歳のときの便に酪酸やプロピオン酸がとくに多かった子ども(上位5%)は、アレルギーの原因物質に反応しやすい状態(感作)が少なく、3〜6歳のぜんそくも少なかったと報告されています[4]。酪酸やプロピオン酸は、腸内細菌が食物繊維などを発酵させてつくる「短鎖脂肪酸」の仲間です[4]。
赤ちゃんの腸内細菌と、その後のアレルギー
カナダで319人の赤ちゃんを調べた研究では、ぜんそくのリスクが高いと判定された子どもで、生後100日までの腸内の細菌のうち4種類(フィーカリバクテリウム属など)が少なく、便に含まれる酢酸(短鎖脂肪酸の一つ)も少なくなっていました。この4種類をマウスに与えると、気道の炎症が軽くなったことも確かめられています[5]。
同じカナダの出生コホートで、5歳まで追跡した1,115人を対象にした研究もあります。アトピー性皮膚炎、ぜんそく、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎。どの病気を発症した子どもにも共通していたのは、1歳の時点で腸内細菌の「成熟」が遅れていたことでした。詳しく調べると、腸の粘液のバリアが弱まっている、細菌による発酵の働きが落ちている、といった特徴もみられています[6]。
研究の種類出生コホート研究(観察研究)/対象 カナダの子ども1,115人(腸内細菌の詳しい解析は589人)
ただし、これらは「関連」を示した観察研究です。腸内細菌の違いがアレルギーの原因だということが、人で証明されたわけではありません。
帝王切開や抗菌薬との関係
赤ちゃんの腸内細菌に影響するものとして、生まれ方や抗菌薬(抗生物質)も調べられています。帝王切開で生まれた赤ちゃんは、経腟分娩で生まれた赤ちゃんとは腸内細菌の構成が異なることが知られています[7]。
デンマークで700人の子どもを追跡した研究では、帝王切開で生まれ、1歳になっても腸内細菌に帝王切開特有の特徴が残っていた子どもで、6歳までのぜんそくのリスクが高くなっていました。一方、その特徴が1歳までに消えていた子どもでは、リスクの上昇はみられませんでした[7]。
また、2歳までに抗菌薬を使った子どもでは、花粉症や湿疹、食物アレルギーがやや多いという解析もあります。ただし、皮膚テストや血液検査でみる「感作」との関連はみられておらず、結果の読み取りには慎重さが必要です[8]。
乳酸菌やビフィズス菌で、防げる?治せる?
腸内細菌を整えれば、アレルギーを防げるのでは。そんな期待から、乳酸菌やビフィズス菌などの「プロバイオティクス」を使った研究が数多く行われてきました。結果は、目的によってまちまちです。
予防:湿疹は少し減るという解析も
妊娠後期から授乳期にかけてプロバイオティクスをとった19の試験をまとめた解析では、子どもの湿疹のリスクが約2割低くなっていました[9]。一方、食物アレルギーの予防については、欧州アレルギー臨床免疫学会(EAACI)の指針が「勧めるとも勧めないとも言えない」としています。効果はほとんどない可能性があり、根拠も非常に不確かだからです。菌の種類によって免疫へのはたらき方が異なるため、ある菌で得られた結果を、ほかの菌にそのまま当てはめることもできません[10]。
治療:すでにある症状への効果は小さい
湿疹の治療については、医療の根拠を検証する国際的な団体コクランの系統的レビューが、かゆみなど本人や家族が感じる症状はプロバイオティクスでほとんど変わらない、と結論づけています。本人と医療者の評価を合わせた重症度はわずかに下がる可能性があるものの、その差に意味があるかははっきりしないとされています[11]。
花粉症を含むアレルギー性鼻炎では、29の試験をまとめた2026年の解析で、鼻の症状や生活の質が改善する傾向がみられました。ただ、試験ごとに使われた菌がばらばらで、日常的な治療として勧められるほど確かな根拠ではないとされています[12]。
「この菌をとればアレルギーが治る」と言える段階には、まだ至っていません。治療の基本は、診断にもとづいた標準的な治療です。
いまわかっていること、まだわからないこと
ここまでの内容を整理すると、次のようになります。
| テーマ | 現時点でわかっていること |
|---|---|
| 赤ちゃんの腸内細菌 | 特定の細菌の減少や成熟の遅れが、その後のアレルギーと関連していた(観察研究) |
| 酪酸などの短鎖脂肪酸 | 免疫のブレーキ役を増やす(マウス)。人でも、多い子どもで感作やぜんそくが少なかった |
| 帝王切開・抗菌薬 | アレルギーとの関連は報告されているが、原因とは証明されていない |
| プロバイオティクス | 湿疹の予防では効果を示す解析がある一方、治療としての効果は小さいか不確か |
参考文献[3]〜[12]をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
こんな症状があれば、ご相談ください
- 毎年同じ季節に、くしゃみや鼻水、鼻づまりをくり返す
- せきや息苦しさ、ゼーゼーする呼吸が続く
- かゆみのある湿疹が、よくなったり悪くなったりをくり返す
- 特定の食べ物で、じんましんや口のかゆみが出たことがある
- 市販薬やサプリメントを続けても、症状が改善しない
腸内細菌とアレルギーの関係は、とくに赤ちゃんの時期について研究が進んでいます[5][6]。この記事で紹介した観察研究も、多くは赤ちゃんや子どもを対象にしたものです。一方で、腸内環境を整えることでアレルギーを治療できるかは、まだはっきりしていません[11][12]。気になる症状があれば、まずは原因を正しく調べることから始めましょう。
よくあるご質問
ヨーグルトや乳酸菌のサプリで、花粉症は治りますか?
鼻の症状や生活の質が少しよくなる傾向を示した解析はありますが、菌の種類によって結果がばらつき、確かな根拠とはいえません。いまの治療をやめて置き換えることは勧められません。
腸内フローラ検査で、アレルギーのなりやすさはわかりますか?
赤ちゃんの時期の腸内細菌とアレルギーとの関連は研究で示されていますが、検査の結果からアレルギーを診断したり、将来の発症を予測したりする方法は、まだ確立していません。
帝王切開で生まれた子は、アレルギーになりやすいのですか?
帝王切開で生まれた子どもでぜんそくのリスクが高いという報告はあります。ただ、1歳までに腸内細菌の特徴が変わっていた子どもでは、リスクの上昇はみられませんでした。帝王切開だけで将来が決まるわけではありません。
当院でのサポート
当院にはアレルギーと消化器の専門医が在籍しており、花粉症(アレルギー性鼻炎)やぜんそくなど、アレルギーの診療を行っています。ぜんそくの評価に役立つ呼気中一酸化窒素(FeNO)検査も、院内で受けられます。
また、腸内細菌の構成を調べる腸内フローラ検査「マイキンソー プロ」(自費診療)も行っています。なお、現時点では、この検査の結果でアレルギーを診断したり、治療法を選んだりする方法は確立していません。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- 鼻アレルギーの全国疫学調査2019(1998年,2008年との比較):速報―耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として著者:松原篤, 坂下雅文, 後藤穣, ほか雑誌:日本耳鼻咽喉科学会会報. 2020;123(6):485-490発行日:2020年6月DOI:10.3950/jibiinkoka.123.485要約:耳鼻咽喉科医とその家族を対象に、1998年、2008年に続いて2019年に行った全国調査。アレルギー性鼻炎の有病率は49.2%、スギ花粉症は38.8%で、前回より大きく増えていた。10歳代でのスギ花粉症の増加が目立った。
- Hay fever, hygiene, and household size著者:Strachan DP雑誌:BMJ. 1989;299(6710):1259-1260発行日:1989年11月DOI:10.1136/bmj.299.6710.1259要約:1958年生まれの英国出生コホートのデータを解析した報告。家庭内の年上のきょうだいが多いほど花粉症が少なかった。幼少期にきょうだいを介した感染がアレルギーを防いでいる可能性を示し、「衛生仮説」の出発点となった。
- Commensal microbe-derived butyrate induces the differentiation of colonic regulatory T cells著者:Furusawa Y, Obata Y, Fukuda S, ほか雑誌:Nature. 2013;504(7480):446-450発行日:2013年12月DOI:10.1038/nature12721要約:腸内細菌が大腸での発酵によってつくる酪酸が、炎症やアレルギー反応をおさえる制御性T細胞の分化を促すことをマウスで示した研究。酪酸は大腸炎の発症もやわらげ、腸内細菌が免疫の恒常性を保つしくみの一端を明らかにした。
- High levels of butyrate and propionate in early life are associated with protection against atopy著者:Roduit C, Frei R, Ferstl R, ほか雑誌:Allergy. 2019;74(4):799-809発行日:2019年4月DOI:10.1111/all.13660要約:出生コホートの1歳児301人の便中短鎖脂肪酸を測定した研究。酪酸とプロピオン酸が上位5%の子どもは感作が少なく、3〜6歳の喘息も少なかった。短鎖脂肪酸を与えたマウスではアレルギー性の気道炎症が軽減した。
- Early infancy microbial and metabolic alterations affect risk of childhood asthma著者:Arrieta MC, Stiemsma LT, Dimitriu PA, ほか雑誌:Sci Transl Med. 2015;7(307):307ra152発行日:2015年9月DOI:10.1126/scitranslmed.aab2271要約:カナダの出生コホート(CHILD)の乳児319人の研究。喘息のリスクが高い子どもでは生後100日までに4種類の腸内細菌が減り、便中の酢酸も少なかった。これらの細菌を無菌マウスに与えると気道の炎症が軽くなった。
- Delayed gut microbiota maturation in the first year of life is a hallmark of pediatric allergic disease著者:Hoskinson C, Dai DLY, Del Bel KL, ほか雑誌:Nat Commun. 2023;14(1):4785発行日:2023年8月DOI:10.1038/s41467-023-40336-4要約:カナダの出生コホート1,115人を5歳まで追跡した研究。アトピー性皮膚炎、喘息、食物アレルギー、アレルギー性鼻炎のいずれでも、1歳時点の腸内細菌の成熟の遅れが共通してみられた(詳細解析は589人)。
- Delivery mode and gut microbial changes correlate with an increased risk of childhood asthma著者:Stokholm J, Thorsen J, Blaser MJ, ほか雑誌:Sci Transl Med. 2020;12(569):eaax9929発行日:2020年11月DOI:10.1126/scitranslmed.aax9929要約:デンマークの出生コホート700人を6歳まで追跡した研究。帝王切開で生まれ、1歳時点でも腸内細菌に出生時の特徴が残る子どもでは喘息のリスクが高かった。1歳までに特徴が消えた子どもでは関連はなかった。
- Early-life antibiotic exposure increases the risk of developing allergic symptoms later in life: A meta-analysis著者:Ahmadizar F, Vijverberg SJH, Arets HGM, ほか雑誌:Allergy. 2018;73(5):971-986発行日:2018年5月DOI:10.1111/all.13332要約:2歳までの抗菌薬使用とアレルギーの関連を調べた観察研究のメタ解析。花粉症(オッズ比1.23)、湿疹(1.26)、食物アレルギー(1.42)のリスクがやや高かった。皮膚テストや特異的IgEでみた感作とは関連がなかった。
- Diet during pregnancy and infancy and risk of allergic or autoimmune disease: A systematic review and meta-analysis著者:Garcia-Larsen V, Ierodiakonou D, Jarrold K, ほか雑誌:PLoS Med. 2018;15(2):e1002507発行日:2018年2月DOI:10.1371/journal.pmed.1002507要約:妊娠中・乳児期の食事とアレルギーや自己免疫疾患の関係を調べた系統的レビュー。妊娠後期から授乳期のプロバイオティクス摂取(19試験)で、湿疹のリスクが22%低下した。プレバイオティクスとの関連はみられなかった。
- EAACI guideline: Preventing the development of food allergy in infants and young children (2020 update)著者:Halken S, Muraro A, de Silva D, ほか雑誌:Pediatr Allergy Immunol. 2021;32(5):843-858発行日:2021年7月DOI:10.1111/pai.13496要約:欧州アレルギー臨床免疫学会による乳幼児の食物アレルギー予防指針。離乳食で加熱した卵とピーナッツを取り入れることを提案した。妊娠中から乳児期のプロバイオティクスは、効果が乏しい可能性があり根拠も不確かとして、推奨も反対もしなかった。
- Probiotics for treating eczema著者:Makrgeorgou A, Leonardi-Bee J, Bath-Hextall FJ, ほか雑誌:Cochrane Database Syst Rev. 2018;11(11):CD006135発行日:2018年11月DOI:10.1002/14651858.CD006135.pub3要約:湿疹の治療にプロバイオティクスを用いた試験のコクランレビュー。本人や家族が評価する症状はほとんど変わらず(13試験754人)、生活の質の改善も示されなかった。本人と医療者の評価を合わせた重症度がわずかに下がる可能性にとどまった。
- Efficacy of probiotics on immunological and clinical outcomes in allergic rhinitis: an umbrella review and updated meta-analysis of RCTs in children and adults著者:Wang Z, Lu Y雑誌:BMC Immunol. 2026(オンライン先行公開)発行日:2026年7月DOI:10.1186/s12865-026-00873-1要約:アレルギー性鼻炎へのプロバイオティクスのランダム化比較試験29件(2,078人)を統合した解析。鼻症状や生活の質の改善、総IgEの低下がみられたが、ばらつきが大きく菌株も多様で、日常診療で勧めるだけの確かな根拠はないとした。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(日本アレルギー学会専門医)