2026年10月15日

Gut Microbiota & Autoimmune Disease
膠原病と腸内細菌、いまわかっていること
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月15日
「膠原病は腸から始まる」という言い方を、目にしたことがあるかもしれません。
この十年あまりで、腸内細菌と自己免疫の関係は急速に調べられてきました。ただ、わかってきたことと、まだ仮説の段階にあることの差は大きいのが実情です。順番に見ていきます。
Point
この記事のポイント
- 関節リウマチや全身性エリテマトーデスの患者さんでは、腸内細菌の構成が健康な人と違うことが繰り返し報告されています
- 症状が出る前の段階でも違いがみられるという報告があります。ただし、それが原因なのか結果なのかは決着していません
- 腸内細菌を整えることで膠原病を治したり予防したりできる、という段階にはまだ達していません
膠原病とは、どういう病気か
膠原病は、ひとつの病気の名前ではありません。免疫が自分自身の体を攻撃してしまう病気のうち、関節、皮膚、血管、内臓などに広く炎症が起こるものをまとめた呼び方です。関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、シェーグレン症候群、全身性強皮症などが含まれます。
たとえばSLEは、日本に約6万から10万人の患者さんがいると考えられています。男女比はおよそ1対9で、圧倒的に女性に多い病気です[1]。
原因は、いまのところわかっていません。一卵性双生児でも、ふたりともSLEになる割合は25〜60%程度です。遺伝子が同じでも、全員が発症するわけではないのです[1]。残りには環境の要因や偶然が関わると考えられており、その環境要因のひとつとして研究されているのが腸内細菌です。
病気は、症状より先に始まっている
もうひとつ、腸が注目される理由があります。
関節リウマチになった献血者79人の、発症前に保存されていた血液を調べた研究があります。約半数で、リウマチに関係する自己抗体がすでに陽性になっていました。その時期は、症状が出る中央値で4.5年も前です[2]。
関節が痛みだしたとき、免疫の異常はもう何年も前から始まっていることになります。では、そのきっかけはどこで起きるのか。口や肺、腸といった粘膜で最初の変化が起きるのではないか、という仮説が検討されています[3]。
関節リウマチで見つかった細菌
この分野でよく知られているのが、2013年の研究です。まだ治療を始めていない、発症まもない関節リウマチの患者さんの便を調べたところ、プレボテラ・コプリという細菌が目立って多くみられました。同時に、バクテロイデス属や有益とされる菌が減っていました[4]。
日本では大阪大学のグループが、早期の関節リウマチ患者さんの一部でこの菌が腸内で優勢になっていることを報告しています。患者さんの便を、関節炎を起こしやすい無菌マウスに移すと、腸で炎症に関わるTh17細胞が増え、関節炎を誘発したときに重症化しました[5]。
日本人の患者82人と対照42人の腸内細菌を網羅的に調べた研究でも、プレボテラ属の複数の菌種が患者さんで多くみられています[6]。
研究の種類症例対照研究(観察研究)と、マウスへの便移植実験
発症する前から、違いがある
ここまでは、すでに発症した人の話です。では、その前はどうか。
関節リウマチ患者さんの親やきょうだいなど133人を調べた研究があります。自己抗体が出ている、あるいは関節の症状があるなど「発症前段階」とされた83人と、異常のない50人を比べると、発症前段階の人でプレボテラ科、とくにプレボテラ属の細菌が有意に多くみられました[7]。
発症より前に違いがある点は、重要な手がかりです。ただし一時点の比較なので、細菌が増えたから発症に向かうのか、すでに始まった免疫の変化が腸内細菌に影響しているのかは区別できません。
全身性エリテマトーデスでも
SLEの女性61人と健康な女性17人を比べた研究では、患者さんで腸内細菌の種類の多さが低下していました。病気の活動性が高い人ほど、その傾向ははっきりしています。そして、ルミノコッカス・グナバスという菌がおよそ5倍に増えていました[8]。
この菌に対する抗体の量は、病気の活動性を表すスコアや抗DNA抗体の値と同じ方向に動き、補体(C3、C4)とは逆の動きをしていました[8]。
ところが、日本人のSLE患者47人と対照203人を比べた研究で増えていたのは、ストレプトコッカス属の2つの菌種でした[9]。同じSLEでも、研究によって見つかる菌が一致しない。これが、この分野の難しいところです。
腸から出ていく細菌
腸内細菌は、どうやって全身に影響するのでしょうか。動物実験で、ひとつの道筋が示されています。
自己免疫を起こしやすい遺伝背景をもつマウスで、腸にいるエンテロコッカス・ガリナルムという菌が腸の壁を越えて肝臓などに移動し、自己免疫反応を引き起こすことが報告されました。抗菌薬やこの菌に対するワクチンで、それを防ぐこともできています。さらに、自己免疫疾患の患者さんの肝生検からもこの菌のDNAが検出されました[10]。
ただし、証拠の中心はマウスの実験です。人でも同じしくみがはたらいているかどうかは、今後の検証が必要です。
治療との関係
治療のほうから腸内細菌を見た研究もあります。
中国の研究では、関節リウマチ患者さんの腸と口の中の細菌に乱れがみられ、抗リウマチ薬による治療後に部分的に戻っていました[11]。腸内細菌の違いは、病気の状態や治療によっても変わる。原因か結果かを見分けにくい理由のひとつです。
未治療の新規発症リウマチ患者26人で、治療前の腸内細菌がメトトレキサートの効きにくさと関連していた、という報告もあります。別の21人でも、効きにくい人をある程度予測できました(AUC 0.84)[12]。小規模な研究ですが、薬の選び方に役立てられるかが検討されています。
プロバイオティクスは効くのか
ここがいちばん知りたいところだと思います。
関節リウマチと脊椎関節炎の臨床試験をまとめた解析では、プロバイオティクスでCRP(炎症の指標)が平均3mg/Lほど下がっていました。ただし、バイアスのリスクが高い試験を除くと、病気の活動性を表すDAS28にはプラセボとの差がありませんでした。著者らは、病気のコントロールのために勧められる段階ではないと結論づけています[13]。
欧州リウマチ学会(EULAR)の生活習慣に関する推奨も、食事については、健康的でバランスのとれた食事の大切さを強調するにとどまっています[14]。
膠原病の治療の柱は、免疫を調整する薬です。プロバイオティクスや食事療法は、それに代わるものではありません。自己判断でステロイドや免疫抑制薬を減らしたり中止したりすると、病気が再燃し、重い臓器障害につながることがあります。必ず主治医にご相談ください。
いまわかっていること、まだわからないこと
整理すると、次のようになります。
| テーマ | 現時点でわかっていること |
|---|---|
| 関節リウマチ | 発症まもない患者でプレボテラ属が多い。発症前の段階でも同様の報告がある |
| SLE | 多様性が低下し、特定の菌が増える。ただし増える菌は研究によって異なる |
| しくみ | 腸の細菌が全身に移動して自己免疫を起こす道筋が、マウスで示された |
| 因果関係 | 細菌の変化が原因か結果かは決着していない |
| 治療への応用 | プロバイオティクスで病気の活動性が改善するという確かな根拠はない |
参考文献[4]〜[14]をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
こんなときは、一度ご相談ください
膠原病は、早く見つけて治療を始めることが大切な病気です。次のような症状が続く場合は、受診をご検討ください。
- 朝起きたとき、手指がこわばって動かしにくい
- 複数の関節の腫れや痛みが、数週間以上続いている
- 原因のわからない発熱や強い倦怠感が続く
- 日光を浴びた後に、顔や腕に発疹が出る
- 手指が冷えて白や紫に変わる(レイノー現象)
- 目や口の乾きが強く、長く続いている
これらは膠原病以外の原因でも起こります。気になる症状が続くときは、一度ご相談ください。
よくあるご質問
腸内フローラ検査で、膠原病かどうかわかりますか。
わかりません。患者さんの集団と健康な人の集団を比べると違いがみられる、という段階の知見です。個人の検査結果から診断したり、発症を予測したりする方法は確立していません。診断は、症状と血液検査、画像検査などを組み合わせて行います。
ヨーグルトや発酵食品を増やしたほうがよいですか。
食事として楽しむ分には問題ありません。ただし、膠原病の活動性が改善するという確かな根拠はありません。免疫抑制薬を使っている方は感染への注意が必要な場合がありますので、サプリメントを始める前に主治医にご確認ください。
家族に膠原病の人がいます。予防のためにできることはありますか。
腸内細菌を整えれば発症を防げる、という根拠は今のところありません。一方、関節リウマチについては、喫煙が発症の危険因子であることが観察研究のまとめで示されています。喫煙経験のある人のリスクは、男性で約1.9倍、女性で約1.3倍でした[15]。禁煙は、確実に取り組める対策のひとつです。
当院でのサポート
当院では、症状や血液検査の結果から膠原病が疑われる場合、リウマチ・膠原病の専門医療機関をご紹介しています。膠原病の診断や治療そのものは、専門医が担当する領域です。
また、当院は難病指定医の登録があり、指定難病の臨床調査個人票を院内で作成できます。すでに診断を受けている方の、日常の体調管理や生活習慣病の診療もご相談ください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- 全身性エリテマトーデス(SLE)(指定難病49)病気の解説(一般利用者向け)作成:難病情報センター(公益財団法人 難病医学研究財団)資料:一般利用者向け解説ページ情報更新日:令和7年11月URL:nanbyou.or.jp要約:SLEの一般向け解説。国内の患者数は約6〜10万人(2023年の難病申請は66,307人)、男女比はおよそ1対9。一卵性双生児での一致率は25〜60%程度で、残りは環境要因や偶然が考えられると記載している。
- Specific autoantibodies precede the symptoms of rheumatoid arthritis: a study of serial measurements in blood donors著者:Nielen MM, van Schaardenburg D, Reesink HW, ほか雑誌:Arthritis Rheum. 2004;50(2):380-386発行日:2004年2月DOI:10.1002/art.20018要約:発症前に献血していた関節リウマチ患者79人の保存血清を調べた研究。49%でリウマトイド因子または抗CCP抗体が症状出現前に陽性となっており、その時期は症状出現の中央値4.5年前だった。
- Rheumatoid arthritis and the mucosal origins hypothesis: protection turns to destruction著者:Holers VM, Demoruelle MK, Kuhn KA, ほか雑誌:Nat Rev Rheumatol. 2018;14(9):542-557発行日:2018年9月DOI:10.1038/s41584-018-0070-0要約:関節リウマチの発症前段階に関する総説。症状が出る前から自己抗体が現れること、発症リスクの高い人の粘膜で炎症や局所での抗体産生がみられることをまとめ、粘膜から病気が始まるという仮説を論じた。
- Expansion of intestinal Prevotella copri correlates with enhanced susceptibility to arthritis著者:Scher JU, Sczesnak A, Longman RS, ほか雑誌:eLife. 2013;2:e01202発行日:2013年11月DOI:10.7554/eLife.01202要約:便114検体を解析した研究。未治療で発症まもない関節リウマチ患者でプレボテラ・コプリが多く、バクテロイデス属や有益とされる菌の減少を伴っていた。この菌を定着させたマウスでは腸炎が起きやすくなった。
- Dysbiosis contributes to arthritis development via activation of autoreactive T cells in the intestine著者:Maeda Y, Kurakawa T, Umemoto E, ほか雑誌:Arthritis Rheumatol. 2016;68(11):2646-2661発行日:2016年11月DOI:10.1002/art.39783要約:大阪大学の研究。早期関節リウマチ患者の一部でプレボテラ・コプリが優勢だった。患者の便を関節炎を起こしやすい無菌マウスに移すと、腸のTh17細胞が増え、誘発した関節炎が重症化した。
- Metagenome-wide association study of gut microbiome revealed novel aetiology of rheumatoid arthritis in the Japanese population著者:Kishikawa T, Maeda Y, Nii T, ほか雑誌:Ann Rheum Dis. 2020;79(1):103-111発行日:2020年1月DOI:10.1136/annrheumdis-2019-215743要約:日本人の関節リウマチ患者82人と対照42人の便を、全ゲノムショットガン解析で網羅的に調べた研究。プレボテラ属の複数の菌種が患者で多く、酸化還元反応に関わる細菌遺伝子の増加も認められた。
- Prevotella copri in individuals at risk for rheumatoid arthritis著者:Alpizar-Rodriguez D, Lesker TR, Gronow A, ほか雑誌:Ann Rheum Dis. 2019;78(5):590-593発行日:2019年5月DOI:10.1136/annrheumdis-2018-214514要約:関節リウマチ患者の一親等133人を調べた研究。自己抗体陽性や関節症状がある「発症前段階」の83人では、異常のない50人に比べ、プレボテラ科、とくにプレボテラ属の細菌が有意に多かった(p=0.04)。
- Lupus nephritis is linked to disease-activity associated expansions and immunity to a gut commensal著者:Azzouz D, Omarbekova A, Heguy A, ほか雑誌:Ann Rheum Dis. 2019;78(7):947-956発行日:2019年7月DOI:10.1136/annrheumdis-2018-214856要約:SLEの女性61人と健康な女性17人を比べた研究。患者では腸内細菌の多様性が低下し、ルミノコッカス・グナバスが約5倍に増えていた。この菌への抗体量は疾患活動性や抗DNA抗体と相関し、補体とは逆相関した。
- Metagenome-wide association study revealed disease-specific landscape of the gut microbiome of systemic lupus erythematosus in Japanese著者:Tomofuji Y, Maeda Y, Oguro-Igashira E, ほか雑誌:Ann Rheum Dis. 2021;80(12):1575-1583発行日:2021年12月DOI:10.1136/annrheumdis-2021-220687要約:日本人のSLE患者47人と対照203人の便を網羅的に解析した研究。ストレプトコッカス・インターメディウスとアンギノーサスの増加を確認し、検証した。多様性の解析でも、腸内細菌の乱れが示された。
- Translocation of a gut pathobiont drives autoimmunity in mice and humans著者:Manfredo Vieira S, Hiltensperger M, Kumar V, ほか雑誌:Science. 2018;359(6380):1156-1161発行日:2018年3月DOI:10.1126/science.aar7201要約:自己免疫を起こしやすいマウスで、腸内細菌エンテロコッカス・ガリナルムが肝臓などへ移動し、自己免疫反応を起こすことを示した研究。抗菌薬やワクチンで防げた。患者の肝生検からも同菌のDNAが検出された。
- The oral and gut microbiomes are perturbed in rheumatoid arthritis and partly normalized after treatment著者:Zhang X, Zhang D, Jia H, ほか雑誌:Nat Med. 2015;21(8):895-905発行日:2015年8月DOI:10.1038/nm.3914要約:関節リウマチ患者の便、歯垢、唾液を網羅的に解析した研究。腸と口腔の両方で細菌の乱れが認められ、抗リウマチ薬による治療後には部分的に改善していた。細菌の構成は治療への反応とも関連していた。
- The pretreatment gut microbiome is associated with lack of response to methotrexate in new-onset rheumatoid arthritis著者:Artacho A, Isaac S, Nayak R, ほか雑誌:Arthritis Rheumatol. 2021;73(6):931-942発行日:2021年6月DOI:10.1002/art.41622要約:未治療の新規発症関節リウマチ患者26人の研究。治療前の腸内細菌の構成や遺伝子がメトトレキサートへの反応と関連していた。細菌の情報を使った予測モデルは、別の21人でも効きにくさを予測できた(AUC 0.84)。
- Efficacy of probiotics in rheumatoid arthritis and spondyloarthritis: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials著者:Sanchez P, Letarouilly JG, Nguyen Y, ほか雑誌:Nutrients. 2022;14(2):354発行日:2022年1月DOI:10.3390/nu14020354要約:関節リウマチと脊椎関節炎の臨床試験をまとめた解析。プロバイオティクスでCRPは平均3.04mg/L低下したが、バイアスリスクの高い試験を除くとDAS28に差はなかった。病気のコントロール目的では勧められないと結論した。
- 2021 EULAR recommendations regarding lifestyle behaviours and work participation to prevent progression of rheumatic and musculoskeletal diseases著者:Gwinnutt JM, Wieczorek M, Balanescu A, ほか雑誌:Ann Rheum Dis. 2023;82(1):48-56発行日:2023年1月DOI:10.1136/annrheumdis-2021-222020要約:欧州リウマチ学会による生活習慣の推奨。運動、食事、体重、飲酒、喫煙、就労の6項目を、関節リウマチやSLE、強皮症を含む7疾患で検討した。食事については、健康的でバランスのとれた食事の重要性を強調している。
- Impact of smoking as a risk factor for developing rheumatoid arthritis: a meta-analysis of observational studies著者:Sugiyama D, Nishimura K, Tamaki K, ほか雑誌:Ann Rheum Dis. 2010;69(1):70-81発行日:2010年1月DOI:10.1136/ard.2008.096487要約:喫煙と関節リウマチ発症の関連を調べた観察研究16件のメタ解析。喫煙経験者のオッズ比は男性1.89、女性1.27だった。リウマトイド因子陽性の男性や、喫煙量の多い人でとくにリスクが高かった。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(日本アレルギー学会専門医)