2026年10月05日

糖尿病がなくても腎臓を守る?慢性腎臓病に対するSGLT2阻害薬のしくみ
SGLT2 Inhibitors for CKD
慢性腎臓病の治療を変えた「SGLT2阻害薬」
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月5日
「腎臓の数値が少し下がっていますね」。健診でそう言われても、痛くもかゆくもないので、ついそのままにしてしまいがちです。
慢性腎臓病(CKD)は、腎臓の働きを示すeGFRが60未満に下がった状態や、尿たんぱくなど腎臓の障害を示す異常が、3か月以上続いている状態の総称です[1]。日本では成人のおよそ5人に1人、約2,000万人が当てはまると推計されています[2]。
この病気の治療が、ここ数年で大きく変わりました。主役は、もともと2型糖尿病の飲み薬だった「SGLT2阻害薬」です。糖尿病があってもなくても腎臓病の進行を遅らせることが、大規模な臨床試験で次々に示されました[3]。
Point
この記事のポイント
- 大規模な臨床試験で、腎臓病が悪化するリスクをおよそ3〜4割減らしました。糖尿病のない人にも効果がみられています
- 飲み始めにeGFR(腎臓の働きの目安)が少し下がることがありますが、多くは想定内の変化で、その後の低下はむしろゆるやかになります
- 体調を崩して食事がとれない日などは、休薬が必要です。どんなときに休むかを主治医と決めておきましょう
SGLT2阻害薬は、どんな薬か
腎臓は血液をろ過して尿のもと(原尿)をつくり、その中から体に必要なものを回収しています。ブドウ糖の回収を担うのが、尿細管にあるSGLT2というたんぱく質です。
SGLT2阻害薬はこの回収をブロックし、余分なブドウ糖を尿に出して血糖値を下げます[4]。ところが、この薬には別の顔がありました。腎臓の悪化を防ぐ効果です。カナグリフロジン、ダパグリフロジン、エンパグリフロジンの大規模な試験で、それが確かめられています[5][6][7]。日本でも、糖尿病のない慢性腎臓病に一部の薬が使えるようになりました[4]。
なぜ腎臓を守れるのか
腎臓には、血液をこし取る「糸球体」という小さなフィルターがたくさん並んでいます。慢性腎臓病では、残った糸球体が足りない分を補おうとして、無理にろ過を増やしがちです。高い圧がかかった状態が続けば、フィルターはさらに傷んでいきます[8]。
SGLT2阻害薬を飲むと、尿細管の先のほうに届く塩分(ナトリウム)が増えます。腎臓はこれを「ろ過しすぎ」の合図と受け取り、糸球体の入り口の血管を少し締めます。蛇口を絞って、フィルターにかかる水圧を下げるイメージです。これが、腎臓を守るしくみの中心と考えられています[8]。
ただ、それだけでは説明しきれない部分もあり、細胞のエネルギーの使い方を整える作用なども研究されています[8]。
大規模な臨床試験でわかったこと
効果を確かめたのは、数千人規模の3つの臨床試験です。薬を飲むグループと偽薬(プラセボ)のグループをくじ引きで分け、数年かけて比べました。
研究の種類ランダム化比較試験/対象 慢性腎臓病の4,304〜6,609人(試験ごと)
| 試験名 | 対象 | おもな結果(偽薬との比較) |
|---|---|---|
| CREDENCE カナグリフロジン | 2型糖尿病と腎臓病のある4,401人 | 末期腎不全、クレアチニン値の倍増、腎臓や心血管の病気による死亡が30%減少 |
| DAPA-CKD ダパグリフロジン | 糖尿病の有無を問わない4,304人 | eGFRの大幅な低下、末期腎不全、腎臓や心血管の病気による死亡が39%減少。死亡全体も31%減少 |
| EMPA-KIDNEY エンパグリフロジン | 糖尿病の有無を問わない6,609人 | 腎臓病の進行、または心血管の病気による死亡が28%減少 |
各試験の論文をもとに作成[5][6][7]。追跡期間の中央値は2.0〜2.6年です。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
数字を身近にしてみましょう。DAPA-CKDでは約2.4年のあいだに、腎臓の悪化などが起きた人が偽薬のグループで14.5%、薬のグループで9.2%でした。19人が飲めば、1人の悪化を防げた計算です[6]。
見逃せないのは、糖尿病のない人にも同じように効いたことです。DAPA-CKDでは参加者の約3分の1、EMPA-KIDNEYでは半数以上が糖尿病のない方でした[6][7]。13の大規模試験、約9万人をまとめた2022年の解析でも、腎臓病の進行は37%減り、その減り方は糖尿病の有無で変わりませんでした。急性腎障害(腎臓の急な悪化)も23%減っています[3]。
研究の種類ランダム化比較試験のメタ解析/対象 13試験・90,409人
EMPA-KIDNEYには日本からも612人が参加し、日本の参加者でも効果に目立った違いはみられませんでした[9]。
飲み始めにeGFRが下がるのは、想定内の変化
SGLT2阻害薬を始めてしばらくすると、eGFRが少し下がることがよくあります。心配になるかもしれませんが、多くは先ほどの「水圧を下げる」作用による変化で、元に戻りうるものです[10]。
EMPA-KIDNEYでは、最初の2か月でeGFRが平均約6%下がりました。ところが、その後の低下のスピードは偽薬のおよそ半分に抑えられていたのです[11]。DAPA-CKDでも、飲み始めに10%以上下がった人がその後に悪い経過をたどりやすい、ということはなく、重い副作用の頻度とも関係しませんでした[10]。
研究の種類ランダム化比較試験の追加解析/対象 EMPA-KIDNEY、DAPA-CKDの参加者
日本腎臓学会は、開始から2週間〜2か月ほどでeGFRを確認し、その後も保たれているかを見ていくよう勧めています。下がり方が大きすぎるときは、腎臓専門医への紹介を検討します[4]。国際的なガイドラインのKDIGOも、この一時的な低下は通常、薬をやめる理由にならないとしています[1]。
知っておきたい副作用と「シックデイ」
まず気をつけたいのは、尿路や性器の感染症です。糖尿病のない方でも起こりうるので、排尿時の痛みや陰部のかゆみがあれば早めに伝えてください[4]。
次に、脱水とケトアシドーシス。ケトアシドーシスは血液が酸性に傾く危険な状態で、まれですが、血糖値がそれほど高くなくても起こりえます。とくに糖尿病のある方でリスクが上がります[4][3]。利尿薬を飲んでいる方は脱水に、高齢の方は筋肉量の低下にも注意します[4]。
そこで大切なのが、シックデイ(体調を崩した日)の対応です。発熱や下痢、嘔吐で食事がとれないとき、激しい運動や多量の飲酒のときなどは、休薬を考えます。食事がとれない手術の前は、3日前から休むのが原則です[4]。
食事や水分がとれない状態が続くときは、自己判断で飲み続けず、早めに主治医や医療機関にご相談ください。
なお、DAPA-CKDとEMPA-KIDNEYでは、血糖が正常か境界型の方に重い低血糖は起きていません。インスリンなど低血糖を起こしやすい薬と併用する場合は、そちらの量を減らすことがあります[4]。
どんな人に使われるのか
KDIGOの2024年のガイドラインは、eGFRが20以上の慢性腎臓病で、尿中のアルブミンが多い人(尿アルブミン/クレアチニン比200mg/g以上)、心不全のある人、2型糖尿病のある人にSGLT2阻害薬を推奨しています。アルブミンが少なめでも、eGFRが20〜45の人には使用を提案しています[1]。
日本腎臓学会も、リスクと利益を十分に比べたうえで、糖尿病の有無にかかわらず積極的に使用を検討するとしています。ただし、eGFR15未満から新しく始めることはしません。多発性嚢胞腎、ループス腎炎、ANCA関連血管炎の方や免疫を抑える治療中の方は、根拠が十分でないため慎重に判断します[4]。
「いつまで飲むの?」への答え
外来でよく受ける質問です。KDIGOは、いったん始めたら、eGFRが20を下回っても、副作用で続けられない場合や透析などが始まるまでは続けてよいとしています[1]。
EMPA-KIDNEYの追跡調査では、試験薬をやめたあとも、およそ12か月は効果の上乗せが続きました。ただ、やめたあとの期間だけでみると効果は小さく、試験中の28%減に対して13%減でした[12]。腎臓を守るには、続けて飲むことが基本です。
また、SGLT2阻害薬はこれまでの治療の代わりではありません。試験の参加者の多くは、ACE阻害薬やARBといった血圧の薬に上乗せする形で飲んでいました[5][6]。血圧や血糖の管理、減塩などの食事療法と組み合わせることが前提です[1]。
よくあるご質問
糖尿病ではないのに、糖尿病の薬を飲むのですか?
はい。もとは糖尿病の薬ですが、糖尿病のない慢性腎臓病でも進行を抑えることが確かめられており、日本でも一部の薬が使えます。
飲み始めてから、トイレが近くなりました。
尿に糖と塩分を出す薬なので、尿の量が増えることがあります。のどが渇いたら水分をとりましょう。水分制限の指示がある方は、その量を守ってください。
健診で「尿糖が出ている」と言われました。
この薬を飲んでいると、しくみ上、尿に糖が出ます。健診やほかの医療機関では、SGLT2阻害薬を飲んでいることを伝えてください。
当院でのサポート
当院では、血液検査のeGFRと尿検査の尿たんぱくを確認し、SGLT2阻害薬が合うかどうかを一緒に考えます。開始後は2週間〜2か月ほどでeGFRを確認し、その後も定期的に経過をみます。
管理栄養士による食事相談で、減塩など日々の工夫もお手伝いします。腎機能の低下が速い場合や、原因を詳しく調べる必要がある場合は、腎臓専門医にご紹介します。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of Chronic Kidney Disease著者:Kidney Disease: Improving Global Outcomes (KDIGO) CKD Work Group雑誌:Kidney Int. 2024;105(4S):S117-S314発行日:2024年4月DOI:10.1016/j.kint.2023.10.018要約:KDIGOによる慢性腎臓病の国際診療ガイドライン。eGFR20以上で尿アルブミンが多い人、心不全や2型糖尿病のある人にSGLT2阻害薬を推奨した。開始直後のeGFR低下は通常中止の理由にならず、eGFR20未満でも継続してよいとした。
- CKD診療ガイド2024著者:日本腎臓学会 編雑誌:東京医学社(ISBN 978-4-88563-746-9)発行日:2024年7月10日URL:jsn.or.jp(日本腎臓学会による刊行案内)要約:日本腎臓学会が12年ぶりに全面改訂した、かかりつけ医向けの慢性腎臓病診療の手引き。わが国のCKD患者数を約2,000万人(成人の約5人に1人)と推計し、早期発見と透析予防、心血管病予防の要点を示した。
- Impact of diabetes on the effects of sodium glucose co-transporter-2 inhibitors on kidney outcomes: collaborative meta-analysis of large placebo-controlled trials著者:Nuffield Department of Population Health Renal Studies Group; SGLT2 inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists’ Consortium雑誌:Lancet. 2022;400(10365):1788-1801発行日:2022年11月19日DOI:10.1016/S0140-6736(22)02074-8要約:大規模なプラセボ対照試験13件、90,409人を統合したメタ解析。SGLT2阻害薬は腎臓病の進行を37%、急性腎障害を23%減らし、効果は糖尿病の有無や腎機能によらず同程度だった。利益はケトアシドーシスなどの害を上回るとした。
- CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation著者:日本腎臓学会「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation」作成委員(委員長 深水圭)雑誌:日腎会誌. 2023;65(1):1-10発行日:2023年(2022年11月29日策定)URL:cdn.jsn.or.jp(日本腎臓学会、PDF)要約:日本腎臓学会が日本糖尿病学会と連携して策定した提言。糖尿病の有無にかかわらず使用を積極的に検討するとし、eGFR15未満での新規開始を避ける、開始後2週間〜2か月でeGFRを確認する、シックデイや手術前は休薬するなどの注意点を示した。
- Canagliflozin and Renal Outcomes in Type 2 Diabetes and Nephropathy著者:Perkovic V, Jardine MJ, Neal B, ほか(最終著者 Mahaffey KW)雑誌:N Engl J Med. 2019;380(24):2295-2306発行日:2019年6月13日DOI:10.1056/NEJMoa1811744要約:2型糖尿病と腎臓病のある4,401人のランダム化比較試験。中央値2.62年で、末期腎不全・クレアチニン倍化・腎臓または心血管による死亡がカナグリフロジン群でプラセボより30%少なく、末期腎不全単独でも32%少なかった。
- Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease著者:Heerspink HJL, Stefánsson BV, Correa-Rotter R, ほか(最終著者 Wheeler DC)雑誌:N Engl J Med. 2020;383(15):1436-1446発行日:2020年10月8日DOI:10.1056/NEJMoa2024816要約:糖尿病の有無を問わない慢性腎臓病の4,304人(約3分の2が2型糖尿病)のランダム化比較試験。中央値2.4年で、eGFRの50%以上の低下・末期腎不全・腎臓または心血管による死亡がプラセボより39%少なく、死亡全体も31%少なかった。
- Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease著者:The EMPA-KIDNEY Collaborative Group; Herrington WG, Staplin N, Wanner C, ほか(最終著者 Haynes R)雑誌:N Engl J Med. 2023;388(2):117-127発行日:2023年1月12日DOI:10.1056/NEJMoa2204233要約:慢性腎臓病の6,609人(半数以上が糖尿病なし)のランダム化比較試験。中央値2.0年で、腎臓病の進行または心血管死がプラセボより28%少なく(13.1%対16.9%)、効果は糖尿病の有無やeGFRによらず一貫していた。
- SGLT2 Inhibitors and Kidney Protection: Mechanisms Beyond Tubuloglomerular Feedback著者:Upadhyay A雑誌:Kidney360. 2024;5(5):771-782発行日:2024年3月25日(オンライン公開)DOI:10.34067/KID.0000000000000425要約:SGLT2阻害薬が腎臓を守るしくみを整理した総説。尿細管糸球体フィードバックを介して糸球体の過剰ろ過を抑える作用が中心とされる一方、それを疑問視する実験データもあるとし、エネルギー代謝や血管機能などへの作用も検討した。
- Effects of empagliflozin in patients with chronic kidney disease from Japan: exploratory analyses from EMPA-KIDNEY著者:Nangaku M, Herrington WG, Goto S, ほか(最終著者 Kadowaki T)雑誌:Clin Exp Nephrol. 2024;28(6):588-595発行日:2024年6月DOI:10.1007/s10157-024-02489-4要約:EMPA-KIDNEYに参加した日本の612人と、他地域の参加者を比べた探索的解析。日本の参加者は尿アルブミンとeGFRが高めだったが、効果と安全性に地域間の明らかな差はなく、試験全体の結論を日本の患者にも当てはめてよいとした。
- Correlates and Consequences of an Acute Change in eGFR in Response to the SGLT2 Inhibitor Dapagliflozin in Patients with CKD著者:Jongs N, Chertow GM, Greene T, ほか(最終著者 Heerspink HJL)雑誌:J Am Soc Nephrol. 2022;33(11):2094-2107発行日:2022年11月DOI:10.1681/ASN.2022030306要約:DAPA-CKDで、開始2週間後のeGFRの変化とその後の経過の関係を調べた事前規定の解析。ダパグリフロジン群の49.4%で10%を超える初期低下がみられたが、この低下は腎臓病の進行しやすさとも、重い副作用の頻度とも関係しなかった。
- Effects of empagliflozin on progression of chronic kidney disease: a prespecified secondary analysis from the EMPA-KIDNEY trial著者:EMPA-KIDNEY Collaborative Group雑誌:Lancet Diabetes Endocrinol. 2024;12(1):39-50発行日:2024年1月DOI:10.1016/S2213-8587(23)00321-2要約:EMPA-KIDNEYでeGFRの推移を調べた事前規定の解析。エンパグリフロジンは開始2か月でeGFRを約6%下げたが、その後の年間低下速度を2.75から1.37 mL/分/1.73m²へ半減させた。尿アルブミンが少ない人でも進行は遅くなった。
- Long-Term Effects of Empagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease著者:EMPA-KIDNEY Collaborative Group; Herrington WG, Staplin N, Agrawal N, ほか(最終著者 Haynes R)雑誌:N Engl J Med. 2025;392(8):777-787発行日:2025年2月20日DOI:10.1056/NEJMoa2409183要約:EMPA-KIDNEY終了後、参加者の74%を試験薬なしでさらに2年間追跡した研究。試験期間と合わせると腎臓病の進行または心血管死は21%少なかった。試験薬をやめたあとも約12か月は効果が続いたが、追跡期間のみでは13%減にとどまった。