アレルギー学の歴史を変えた教訓:『茶のしずく石鹸事件』と経皮感作の科学的検証|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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アレルギー学の歴史を変えた教訓:『茶のしずく石鹸事件』と経皮感作の科学的検証

アレルギー学の歴史を変えた教訓:『茶のしずく石鹸事件』と経皮感作の科学的検証|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年10月07日

アレルギー学の歴史を変えた教訓:『茶のしずく石鹸事件』と経皮感作の科学的検証

茶のしずく石鹸事件とは?経皮感作で小麦アレルギーが起きる理由をわかりやすく解説

Percutaneous Sensitization

洗顔石鹸で、なぜ小麦アレルギーになったのか

執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/第2版:2026年9月30日

洗顔石鹸を毎日使っていただけなのに、ある日パンを食べたあと、まぶたが腫れて息苦しくなった。2010年前後、こうした訴えが日本各地で相次ぎました。

原因は、旧「茶のしずく石鹸」に含まれていた加水分解コムギです。日本アレルギー学会の全国調査で「確実例」と判定された人だけで2,111人にのぼり、いずれも石鹸を使う前は小麦アレルギーのなかった人たちでした[1]。

食べ物のアレルギーが、口からではなく皮膚や粘膜から始まることがある。この事件は、その事実を多くの人の身に起きた出来事として示し、いまの食物アレルギー予防の考え方にもつながっています。何が起き、なぜ起きたのか。その後どうなったのか。研究をもとに整理します。

Point

この記事のポイント

  1. 酸と熱で処理された加水分解コムギが、洗顔のたびに皮膚や目・鼻の粘膜から入り、小麦を食べると症状が出るアレルギーを引き起こしました
  2. 石鹸をやめると、多くの人が年単位で回復していきます。中止から5年で半数以上、10年で全例が治ったという報告があります
  3. 「皮膚からは感作、口からは慣れ」という考え方が研究で裏づけられ、湿疹の治療や離乳食の進め方、化粧品原料のルールが見直されました

参考文献

  1. Outbreak of immediate-type hydrolyzed wheat protein allergy due to a facial soap in Japan著者:Yagami A, Aihara M, Ikezawa Z, ほか雑誌:J Allergy Clin Immunol. 2017;140(3):879-881.e7発行日:2017年9月DOI:10.1016/j.jaci.2017.03.019要約:日本アレルギー学会の特別委員会による全国調査の報告。2012〜2014年に270施設で確実例2,111人を確認し、女性が約96%を占めた。小麦を食べたあとの症状は、まぶたの腫れ77%、アナフィラキシーショック25%などだった。
  2. 小麦に対するアレルギーへのなりやすさ・なりにくさに関わる遺伝子を特定(プレスリリース)著者:筑波大学、藤田医科大学、日本医療研究開発機構(AMED)媒体:AMEDウェブサイト発行日:2019年7月25日URL:https://www.amed.go.jp/news/release_20190725.html要約:加水分解コムギで感作された患者525人と一般集団3,244人のゲノム解析で、HLA-DQ領域などに発症しやすさに関わる違いを見出した。79%以上が小麦を食べられるようになった予後調査や、2017年の原料規格改正にも触れている。
  3. Epidemiologic risks for food allergy著者:Lack G雑誌:J Allergy Clin Immunol. 2008;121(6):1331-1336発行日:2008年6月DOI:10.1016/j.jaci.2008.04.032要約:食物アレルギーの危険因子を整理した総説。妊娠中・授乳中・乳児期に食べ物を避ける予防策に疑問を示し、皮膚からの環境中の曝露が感作を、食べることが耐性をもたらすという仮説(二重抗原曝露仮説)を提唱した。
  4. 茶のしずく石鹸等に含まれた加水分解コムギによるアレルギーに関する研究成果(プレスリリース)著者:藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)媒体:同大学ウェブサイト(PDF)発行日:2017年6月URL:https://www.fujita-hu.ac.jp/news/dubv6r0000001w34.pdf要約:全国調査の論文(Yagamiら)の日本語解説。旧製品は2004〜2010年に約467万人へ販売された。グルパール19Sは小麦グルテンを酸で加熱分解して作られ、脱アミド化が起きていた。石鹸使用中に自覚症状のない人が27%いた。
  5. Characterization of causative allergens for wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis sensitized with hydrolyzed wheat proteins in facial soap著者:Yokooji T, Kurihara S, Murakami T, ほか雑誌:Allergol Int. 2013;62(4):435-445発行日:2013年12月DOI:10.2332/allergolint.13-OA-0561要約:加水分解コムギで感作された22人の血清を分析した研究。γ-グリアジンの配列が脱アミド化された形(PEEPFP)を含む成分に感作されたと考えられ、小麦を食べたあとの症状の一部はγ-グリアジンによると結論した。
  6. Evaluation of the cross-reactivity of antigens in Glupearl 19S and other hydrolysed wheat proteins in cosmetics著者:Nakamura M, Yagami A, Hara K, ほか雑誌:Contact Dermatitis. 2016;74(6):346-352発行日:2016年6月DOI:10.1111/cod.12551要約:化粧品用の加水分解コムギ10種類を比べた研究。グルパール19Sの平均分子量は約55,000で、ほかの製品との違いは分子量より酸による分解だった。患者のIgEは他の4製品とも交差反応したが、従来型の患者はどれにも反応しなかった。
  7. Rhinoconjunctival sensitization to hydrolyzed wheat protein in facial soap can induce wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis著者:Fukutomi Y, Itagaki Y, Taniguchi M, ほか雑誌:J Allergy Clin Immunol. 2011;127(2):531-533発行日:2011年2月DOI:10.1016/j.jaci.2010.09.035要約:加水分解コムギ入り洗顔石鹸の使用者に生じた小麦依存性運動誘発アナフィラキシー5人の報告。皮膚だけでなく洗顔時の目や鼻の粘膜からの感作がきっかけになりうることを示し、化粧品に含まれる加水分解コムギの危険性を指摘した。
  8. Remission of wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis after the cessation of hydrolysed wheat-containing soap usage著者:Ishii K, Hiragun M, Matsuo H, ほか雑誌:Acta Derm Venereol. 2012;92(5):490-491発行日:2012年DOI:10.2340/00015555-1321要約:加水分解コムギ入り石鹸で発症した患者の報告。石鹸をやめて6か月で小麦への反応性が改善した。患者が急増した理由として、洗浄成分との組み合わせで角層がはがれ、皮膚のバリアが弱まった可能性を考察している。
  9. お茶石鹸使用開始後に発症した小麦によるアナフィラキシーおよび小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの12例著者:杉山晃子、岸川禮子、西江温子、ほか雑誌:アレルギー. 2011;60(11):1532-1542発行日:2011年11月30日DOI:10.15036/arerugi.60.1532要約:福岡の病院を受診した12人の報告。全員が女性で平均36歳、石鹸の使用開始から平均2年弱で発症し、多くが洗顔時にじんましんやまぶたの腫れ、鼻水を経験していた。従来型の指標であるω-5グリアジンは12人中10人で陰性だった。
  10. The sensitivity and clinical course of patients with wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis sensitized to hydrolyzed wheat protein in facial soap - secondary publication著者:Hiragun M, Ishii K, Hiragun T, ほか雑誌:Allergol Int. 2013;62(3):351-358発行日:2013年9月DOI:10.2332/allergolint.13-OA-0553要約:広島大学病院で小麦依存性運動誘発アナフィラキシーと診断された36人の解析。30人が加水分解コムギ入り石鹸を使っていた。女性が多く、顔の症状や血管性浮腫が目立ち、血圧低下は従来型より少なかった。石鹸をやめると数か月で反応性が低下した。
  11. 「茶のしずく石鹸」(旧商品)で小麦アレルギーを発症された方へ著者:日本化粧品工業会媒体:同会ウェブサイト発行日:2012年4月24日URL:https://www.jcia.org/user/approach/news_release/news3要約:旧製品で小麦アレルギーと診断された人に向けた業界団体の案内。加水分解小麦たん白を含む化粧品・医薬部外品の使用をやめるよう求め、確認すべき表示名として「加水分解コムギ」「加水分解コムギ末」「水解小麦末」などを挙げている。
  12. 第74回日本アレルギー学会学術大会での講演(加水分解コムギによる小麦アレルギーのその後の経過)演者:千貫祐子(島根大学)学会:第74回日本アレルギー学会学術大会(東京国際フォーラム)会期:2025年10月24〜26日URL:https://site2.convention.co.jp/jsa74/要約:旧茶のしずく石鹸で発症した小麦アレルギーのその後の経過について、石鹸の使用中止から5年後には半数以上が、10年後には全例が治ったと報告した。学会での口頭報告で、論文としての公表は確認できていない。
  13. Factors associated with the development of peanut allergy in childhood著者:Lack G, Fox D, Northstone K, ほか雑誌:N Engl J Med. 2003;348(11):977-985発行日:2003年3月DOI:10.1056/NEJMoa013536要約:英国の出生コホート(就学前児13,971人)の研究。ピーナッツアレルギーは乳児期の湿疹、とくにじゅくじゅくした重い湿疹と関連し、ピーナッツ油を含むクリームなどを使った子どもに多かった。母親の妊娠中・授乳中の摂取とは無関係だった。
  14. Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy著者:Du Toit G, Roberts G, Sayre PH, ほか雑誌:N Engl J Med. 2015;372(9):803-813発行日:2015年2月26日DOI:10.1056/NEJMoa1414850要約:重い湿疹や卵アレルギーのある生後4〜11か月未満の乳児640人を、ピーナッツを食べる群と避ける群に分けた試験(LEAP)。皮膚テスト陰性の集団では、5歳時のピーナッツアレルギーが避けた群13.7%、食べた群1.9%だった。
  15. Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial著者:Natsume O, Kabashima S, Nakazato J, ほか雑誌:Lancet. 2017;389(10066):276-286発行日:2017年1月21日DOI:10.1016/S0140-6736(16)31418-0要約:湿疹のある日本の乳児を対象としたプラセボ対照試験(PETIT)。湿疹を積極的に治療しながら、生後6か月から加熱卵の粉末をごく少量ずつ食べると、1歳時の卵アレルギーは8%で、プラセボ群の38%より大幅に少なかった。
  16. Enhanced early skin treatment for atopic dermatitis in infants reduces food allergy著者:Yamamoto-Hanada K, Kobayashi T, Mikami M, ほか雑誌:J Allergy Clin Immunol. 2023;152(1):126-135発行日:2023年7月DOI:10.1016/j.jaci.2023.03.008要約:生後7〜13週でアトピー性皮膚炎のある乳児640人の試験(PACI)。湿疹のない部分も含めて早期から積極的に治療すると、生後28週の卵アレルギーが31.4%と通常治療の41.9%より少なかったが、体重と身長の増えはやや少なかった。
  17. Skin care interventions in infants for preventing eczema and food allergy著者:Kelleher MM, Phillips R, Brown SJ, ほか雑誌:Cochrane Database Syst Rev. 2022;11(11):CD013534発行日:2022年11月14日DOI:10.1002/14651858.CD013534.pub3要約:湿疹のない健康な乳児への保湿剤などのスキンケアを検討した、33件のランダム化比較試験の系統的レビュー。湿疹の予防効果はおそらくなく、食物アレルギーを増やす可能性や、皮膚感染症を増やすおそれがあると結論した。
  18. Commission Regulation (EU) 2017/2228 of 4 December 2017 amending Annex III to Regulation (EC) No 1223/2009 of the European Parliament and of the Council on cosmetic products著者:欧州委員会(European Commission)媒体:EUR-Lex(EU法令データベース)発行日:2017年12月4日URL:https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2017/2228/oj/eng要約:化粧品に使う加水分解小麦たん白の平均分子量を3.5kDa以下に、ピーナッツ油中のたん白質を0.5ppm以下に制限した規則。加水分解小麦入り化粧品による接触じんましんと、その後の小麦摂取によるアナフィラキシーの報告を理由に挙げた。
  19. Cochineal dye-induced immediate allergy: Review of Japanese cases and proposed new diagnostic chart著者:Takeo N, Nakamura M, Nakayama S, ほか雑誌:Allergol Int. 2018;67(4):496-505発行日:2018年10月DOI:10.1016/j.alit.2018.02.012要約:日本で報告されたコチニール色素による即時型アレルギーのまとめ。22人全員が成人女性で、3人を除きアナフィラキシーを起こし、13人に化粧品使用に伴う症状の既往があった。いちごジュースや魚肉ソーセージ、マカロンなどが原因だった。
  20. Surfing as a risk factor for sensitization to poly(γ-glutamic acid) in fermented soybeans, natto, allergy著者:Inomata N, Miyakawa M, Aihara M雑誌:Allergol Int. 2018;67(3):341-346発行日:2018年7月DOI:10.1016/j.alit.2017.11.001要約:納豆の遅発性アナフィラキシーの原因となるポリガンマグルタミン酸は、クラゲの刺す成分にも含まれる。食物アレルギー外来の140人への質問票調査で、納豆アレルギーの人ではサーフィンが感作の危険因子であることを示した。

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(日本アレルギー学会専門医)

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