腸内環境でがん治療が変わる?免疫療法への影響と食物繊維・食事の重要性 |千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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腸内環境でがん治療が変わる?免疫療法への影響と食物繊維・食事の重要性 

腸内環境でがん治療が変わる?免疫療法への影響と食物繊維・食事の重要性 |千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年8月20日

腸内環境でがん治療が変わる?免疫療法への影響と食物繊維・食事の重要性 

がん免疫療法と腸内細菌叢:プロバイオティクスや毎日の食物繊維は効果があるのか

腸の中の「もう一つの臓器」

私たちの腸の中には、およそ40兆個ともいわれる細菌が住んでいます。この集団を腸内細菌叢、あるいは腸内フローラと呼びます。かつては単なる「住人」と考えられていましたが、今では免疫の働きを整え、栄養を代謝し、腸の粘膜を守る、いわば一つの臓器のような存在だと理解されるようになりました。

そして近年、この細菌たちががんの発生や治療効果にまで関わっているという研究が、次々と発表されています。ただし誤解のないように先にお伝えしておくと、「腸内環境を整えればがんが防げる」といった単純な話ではありません。わかってきたことと、まだ推測の域を出ないことの境界線を、丁寧に見ていきましょう。

微生物が原因のがんは、決して珍しくない

まず前提として、微生物ががんを引き起こすこと自体は、すでに確立した事実です。国際がん研究機関(IARC)の推計では、2018年に世界で診断されたがんのうち約220万件、つまり全体のおよそ6分の1が感染症に起因すると見積もられました。最大の原因はヘリコバクター・ピロリ菌で、年間81万件の胃がんに関与しています。

胃がんとピロリ菌の関係は、日本人にとってはなじみ深いテーマでしょう。韓国で行われた二重盲検ランダム化比較試験では、早期胃がんを内視鏡的に切除した患者470人を除菌群とプラセボ群に分けて追跡したところ、除菌群では新たな胃がん(異時性胃がん)の発生が明らかに少なくなりました。除菌には確かな予防効果がある。これは推測ではなく、質の高い臨床試験で示された結果です。

大腸がんと、口の中から来た細菌

胃の次に注目されているのが大腸です。2012年、二つの研究グループがほぼ同時に、大腸がんの組織にフソバクテリウム・ヌクレアタムという細菌が異常に多く存在することを報告しました。この菌はもともと歯周病に関係する口腔内の細菌で、健康な人の大腸にはほとんどいません。それが、なぜかがん組織に集まっている。

その後の研究で、話はさらに細かくなりました。2024年にNature誌に発表された研究では、この菌のうち特定の系統(Fna C2と呼ばれるグループ)だけが大腸がんの中に偏って存在していることが示されています。つまり「フソバクテリウムが悪い」のではなく、その中の特定のタイプが腫瘍の環境に適応している、ということです。

ただし、ここで慎重になる必要があります。がん組織に細菌が多いことと、その細菌ががんを作ったことは、同じではありません。がんという環境が細菌にとって住みやすいだけかもしれないのです。

細菌がDNAを傷つける、という直接的な証拠

その因果関係に踏み込んだのが、2020年のオランダの研究です。研究チームは、コリバクチンという毒素を作る大腸菌(pks陽性大腸菌)を、ヒトの腸の細胞から作ったオルガノイド(ミニ腸)に5か月間くり返し注入しました。すると、この細胞に特有のDNA変異パターンが刻まれました。さらに、実際のヒトのがんゲノム5,876例を調べると、同じ変異パターンが大腸がんを中心に検出されたのです。

細菌が作る物質が、直接ヒトのDNAを傷つけ、その痕跡ががん組織に残っている。細菌とがんの因果関係を示す、非常に説得力のある証拠といえます。

日本人のデータでは、ごく初期から変化が起きていた

日本からも重要な報告があります。大腸内視鏡を受けた616人を対象に、便の細菌叢と代謝物を網羅的に解析した研究です。その結果、粘膜内がん(ステージ0)という最も早い段階から、すでに細菌叢と代謝物の変化が始まっていることがわかりました。

興味深いのは、変化のパターンが二種類あったことです。フソバクテリウムのように早期から進行期まで一貫して増え続ける菌と、ごく初期の段階でだけ増えて後は目立たなくなる菌があったのです。腸内細菌の変化は、がんの結果として起こるだけでなく、発症のかなり手前から関与している可能性がある。将来的な早期発見の手がかりとしても期待されています。

腸から離れた臓器にも影響する

腸内細菌の影響は、腸の中だけにとどまりません。マウスを使った研究では、腸内細菌が胆汁酸の代謝を変えることで、肝臓の免疫細胞(NKT細胞)の集まり方が変わり、肝臓の腫瘍の増え方に差が出ることが示されました。腸で作られた物質が血流に乗って肝臓に届き、そこの免疫環境を作り変えるわけです。

もっとも、これはマウスの実験です。ヒトで同じ仕組みがどこまで働いているかは、まだ確認の途上にあります。

がん免疫療法の効き目を左右する

臨床的に最もインパクトが大きかったのは、免疫チェックポイント阻害薬との関係でしょう。2018年、肺がんや腎がんの患者を対象とした研究で、治療前後に抗菌薬を使った患者は薬の効果が乏しく、生存期間も短いことが報告されました。さらに、効果があった患者の便にはアッカーマンシア・ムシニフィラという菌が多く、この菌をマウスに投与すると治療効果が回復したのです。同じ号のScience誌には、悪性黒色腫の患者でも同様の傾向を示す研究が並んで掲載されました。

では、腸内細菌を入れ替えれば効かなかった薬が効くようになるのか。2021年、イスラエルと米国の二つのグループが、この問いに正面から取り組みました。免疫療法が効かなくなった悪性黒色腫の患者に、治療がよく効いた患者の便を移植(便微生物移植)したうえで免疫療法を再開したのです。イスラエルの試験では10人中3人、米国の試験では15人中6人に臨床的な効果がみられました。

これは画期的な結果ですが、同時に「10人中3人」という数字の意味も冷静に受け止める必要があります。安全性と実行可能性を確かめる初期段階の試験であり、現時点では標準治療ではありません。

食事は関係するのか

より身近な話として、食物繊維との関係を調べた研究があります。免疫チェックポイント阻害薬を受けた悪性黒色腫の患者128人を解析したところ、1日20g以上の食物繊維を摂っていた群では無増悪生存期間が有意に長くなっていました。最も成績が良かったのは、食物繊維が十分でかつ市販のプロバイオティクスサプリを使っていない群でした。

このサプリに関する部分は、多くの方の直感に反するかもしれません。マウスの実験でも、プロバイオティクスを与えた群で治療効果が落ち、腫瘍内の免疫細胞が減っていました。ただしこれは観察研究とマウス実験の組み合わせであり、「サプリが有害だ」と結論づけるにはまだ根拠が足りません。研究者自身も、さらなる検証が必要だと述べています。

診療の現場から、率直なところ

ここまでの研究を並べると、腸内細菌叢ががんの発生にも治療にも関わっていることは、もはや疑いようがありません。一方で、「では何を食べればいいのか」という問いに、明確な答えを返せる段階には至っていないのが正直なところです。

現時点で自信を持ってお勧めできるのは、実はかなり地味なことです。ピロリ菌の検査と除菌を受けること。大腸内視鏡や便潜血検査を定期的に受けること。野菜や豆類、全粒穀物から食物繊維をしっかり摂ること。必要のない抗菌薬を避けること。歯周病を放置しないこと。どれも目新しくありませんが、いずれもここまで紹介した研究と矛盾しません。

腸内細菌の研究は、これから10年で臨床の姿を変えていく可能性を秘めた分野です。ただ、その果実が実るまでの間も、私たちにできることはすでに手元にあります。派手さはなくとも、確かな根拠のある選択を積み重ねていくことが、いちばんの近道だと考えています。

参考文献

  1. Global burden of cancer attributable to infections in 2018: a worldwide incidence analysis, de Martel C, Georges D, Bray F, Ferlay J, Clifford GM. Lancet Glob Health. 2020 Feb;8(2):e180-e190. DOI: 10.1016/S2214-109X(19)30488-7
    要約: 2018年の世界のがんのうち約220万件が感染症由来と推計。最大要因はピロリ菌81万件、次いでHPV69万件、B型肝炎36万件。東アジアで発生率が最も高いと報告。

  2. Helicobacter pylori Therapy for the Prevention of Metachronous Gastric Cancer, Choi IJ, Kook MC, Kim YI, et al. N Engl J Med. 2018 Mar 22;378(12):1085-1095. DOI: 10.1056/NEJMoa1708423
    要約: 早期胃がん内視鏡切除後の470例を対象とした二重盲検ランダム化比較試験。ピロリ菌除菌により異時性胃がんの発生が有意に減少し、胃粘膜萎縮の改善も確認された。

  3. Genomic analysis identifies association of Fusobacterium with colorectal carcinoma, Kostic AD, Gevers D, Pedamallu CS, et al. Genome Res. 2012 Feb;22(2):292-298. DOI: 10.1101/gr.126573.111
    要約: 大腸がん組織のゲノム解析でフソバクテリウム属の顕著な増加を発見。95組の腫瘍と正常組織の比較でも確認され、大腸がんと細菌の関連を示した先駆的研究。

  4. A distinct Fusobacterium nucleatum clade dominates the colorectal cancer niche, Zepeda-Rivera M, Minot SS, Bouzek H, et al. Nature. 2024 Apr;628(8007):424-432. DOI: 10.1038/s41586-024-07182-w
    要約: 135株の全ゲノム解析により、大腸がんに集積するのは亜種animalisの中の特定系統Fna C2のみと判明。腫瘍環境への適応に関わる遺伝因子483個を同定した。

  5. Mutational signature in colorectal cancer caused by genotoxic pks+ E. coli, Pleguezuelos-Manzano C, Puschhof J, Rosendahl Huber A, et al. Nature. 2020 Apr;580(7802):269-273. DOI: 10.1038/s41586-020-2080-8
    要約: コリバクチン産生大腸菌をヒト腸オルガノイドに5か月曝露し特有のDNA変異痕を検出。同じ痕跡がヒトがんゲノム5,876例中の大腸がんにも存在し、因果関係を強く示唆。

  6. Metagenomic and metabolomic analyses reveal distinct stage-specific phenotypes of the gut microbiota in colorectal cancer, Yachida S, Mizutani S, Shiroma H, et al. Nat Med. 2019 Jun;25(6):968-976. DOI: 10.1038/s41591-019-0458-7
    要約: 日本人616例の便を多層解析。粘膜内がんという最初期から細菌叢と代謝物の変化が出現し、早期から進行期まで増える菌と初期のみ増える菌の二群が存在すると報告。

  7. Gut microbiome-mediated bile acid metabolism regulates liver cancer via NKT cells, Ma C, Han M, Heinrich B, et al. Science. 2018 May 25;360(6391):eaan5931. DOI: 10.1126/science.aan5931
    要約: マウスで腸内細菌による胆汁酸代謝が肝類洞内皮のCXCL16発現を変え、CXCR6陽性NKT細胞の集積を左右すると証明。腸内環境が肝腫瘍の免疫監視を制御する機序を示した。

  8. Gut microbiome influences efficacy of PD-1-based immunotherapy against epithelial tumors, Routy B, Le Chatelier E, Derosa L, et al. Science. 2018 Jan 5;359(6371):91-97.  DOI: 10.1126/science.aan3706
    要約: 肺がん・腎がん患者で抗菌薬使用が免疫療法の効果と生存を悪化させると報告。奏効例ではAkkermansia muciniphilaが多く、マウスへの投与で効果が回復した。

  9. Fecal microbiota transplant promotes response in immunotherapy-refractory melanoma patients, Baruch EN, Youngster I, Ben-Betzalel G, et al. Science. 2021 Feb 5;371(6529):602-609. DOI: 10.1126/science.abb5920
    要約: 抗PD-1抵抗性の転移性悪性黒色腫10例に奏効例由来の便微生物移植を実施した第1相試験。3例で臨床的奏効が得られ、腫瘍内免疫の活性化も確認された。

  10. Fecal microbiota transplant overcomes resistance to anti-PD-1 therapy in melanoma patients, Davar D, Dzutsev AK, McCulloch JA, et al. Science. 2021 Feb 5;371(6529):595-602. DOI: 10.1126/science.abf3363
    要約: 抗PD-1抵抗性悪性黒色腫15例に便微生物移植と抗PD-1再投与を併用し、6例で臨床的有益性を確認。CD8陽性T細胞の活性化と免疫抑制性細胞の減少を伴った。

  11. Dietary fiber and probiotics influence the gut microbiome and melanoma immunotherapy response, Spencer CN, McQuade JL, Gopalakrishnan V, et al. Science. 2021 Dec 24;374(6575):1632-1640. DOI: 10.1126/science.aaz7015
    要約: 免疫療法を受けた悪性黒色腫128例で、食物繊維摂取量が多いほど無増悪生存が延長。特に繊維十分かつ市販プロバイオティクス非使用群で最良の成績を示した。

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