2026年10月14日

Diet-Induced Thermogenesis
食べるだけで消費されるエネルギー「食事誘発性熱産生」の正体
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月14日
食事のあと、体がぽかぽかと温かくなった経験はありませんか。
これは、食べたものを消化・吸収し、体の中で処理するためにエネルギーが使われているからです。このしくみを「食事誘発性熱産生(DIT:Diet-Induced Thermogenesis)」といいます。
「たんぱく質をとるとやせやすい」「よく噛むと代謝が上がる」「朝ごはんをしっかり食べると太りにくい」。こうした話の背景にも、食事誘発性熱産生が関わっています。ただし、なかには期待が大きくなりすぎている話もあります。この記事では、研究でわかっていることと、まだはっきりしないことを分けて整理します。
Point
この記事のポイント
- 食事誘発性熱産生は、ふつうの食事で1日の消費エネルギーの約10%を占めます
- 栄養素ではたんぱく質がもっとも大きく、脂質はほとんど熱になりません
- よく噛むこと、加工度の低い食品を選ぶことで増えるという報告がありますが、効果の大きさは控えめです
食事誘発性熱産生とは
私たちが1日に使うエネルギーは、大きく3つに分けられます[1]。
| 構成要素 | 内容 |
|---|---|
| 基礎代謝 | 呼吸や体温の維持など、じっとしていても生命を保つために使われるエネルギー |
| 食事誘発性熱産生 | 食べたものの消化・吸収、代謝、貯蔵のために使われるエネルギー |
| 活動によるエネルギー | 歩く、家事をする、運動するなど、体を動かすことで使われるエネルギー |
Westerterp(2004)をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
食事誘発性熱産生は3つのなかでもっとも小さい要素で、いろいろな栄養素をまぜて食べるふつうの食事では、摂取したエネルギーの約10%にあたります。1日2,000kcalを食べる人なら、およそ200kcalです[1]。
食後のエネルギー消費の上昇は数時間続きます。朝食後に上がった消費量は、昼食までの4時間では元の水準に戻りきらなかったという測定結果もあります[1]。
栄養素によって、熱になる割合が違う
食事誘発性熱産生の大きさは、栄養素によって異なります。摂取したエネルギーのうち、どのくらいが熱として使われるかの目安は次のとおりです[1]。
| 栄養素 | 食事誘発性熱産生の目安(摂取エネルギーに対する割合) |
|---|---|
| たんぱく質 | 20〜30% |
| 炭水化物 | 5〜10% |
| 脂質 | 0〜3% |
| アルコール | 10〜30% |
Westerterp(2004)をもとに作成。数値は研究によって幅があります。
たとえば、たんぱく質で100kcalをとると20〜30kcalが熱として使われますが、脂質で100kcalをとっても熱になるのは0〜3kcalほどです。
たんぱく質は、熱産生が大きいことに加えて、満腹感を高めること、減量中に筋肉などの除脂肪量を保ちやすくすることも報告されています。こうした作用が、体重管理でたんぱく質が注目される理由です[2]。
アルコールも熱産生の割合は高いものの、飲酒を体重管理に役立てる根拠にはなりません。アルコールは食事のエネルギーに上乗せされやすく、食前酒でその後の食事量が増えたという報告もあります[1]。
「たくさん食べれば、たくさん燃える」わけではない
食事誘発性熱産生を左右するいちばん大きな要因は、食べた量(エネルギー量)そのものです。その次に影響するのが、たんぱく質の割合です[1]。
つまり、多く食べれば熱産生も増えます。しかし、それは食べたエネルギーの一部が使われるだけです。熱産生が大きいたんぱく質でも、残りの7〜8割は体に取り込まれます。「代謝を上げるために食べる量を増やす」という考え方は、体重管理としては逆効果になりかねません。
大切なのは、同じエネルギー量のなかで、何をどう食べるかです。
加工度の低い食品で高かったという報告
アメリカで、同じエネルギー量のチーズサンドイッチを2種類用意し、食後の消費エネルギーを比べた研究があります。ひとつは全粒粉入りのパンとチェダーチーズ、もうひとつは白いパンとプロセスチーズ製品で作ったものです[3]。
研究の種類クロスオーバー試験/対象 健康な成人17人(女性12人、男性5人)
食後5〜6時間の消費エネルギーは、加工度の低いサンドイッチで平均137kcal(食事のエネルギーの19.9%)、加工度の高いサンドイッチで平均73kcal(10.7%)でした。満腹感には差がありませんでした[3]。
ただし、これは17人を対象に1種類の食事で調べた小規模な研究です。すべての加工食品に当てはまるとは言い切れません。
よく噛むと、熱産生が増える
「よく噛んで食べなさい」という昔からの教えにも、研究の裏付けがあります。
日本の研究グループは、健康な若い成人に同じ試験食を「できるだけ速く食べる」「よく噛んでゆっくり食べる」の2通りで食べてもらい、食後90分間の熱産生を測りました。300kcalの試験食では、速く食べた場合は約0.4kcalだったのに対し、よく噛んだ場合は約10kcalに増えていました。噛む回数や食事時間が長いほど、消化器への血流も多くなっていました[4]。
研究の種類クロスオーバー試験/対象 健康な標準体重の成人(100kcal試験11人、300kcal試験10人)
同じグループは、液体の食べ物でも調べています。200mLの飲料を、そのまま飲む、口に含んで味わってから飲む、味わいながら噛んでから飲む、の3通りで比べたところ、食後90分間の熱産生は平均3.4kcal、5.6kcal、7.4kcalと段階的に増えました[5]。
研究の種類ランダム化クロスオーバー試験/対象 健康な標準体重の男性11人
1回あたりの差は数kcalから10kcal程度と、決して大きくはありません。それでも毎食の積み重ねになること、早食いによる食べすぎを防ぐ意味もあることから、よく噛む習慣は取り入れる価値があります。
朝と夜で違うのか
ドイツで、標準体重の男性16人を対象にした試験があります。同じ食事を朝に食べた場合と夜に食べた場合で比べると、食事誘発性熱産生の上昇は朝のほうが約2.5倍高くなりました。食後の血糖値やインスリンの上昇も、朝のほうが小さかったと報告されています[6]。
研究の種類ランダム化クロスオーバー試験/対象 標準体重の男性16人、3日間の検査室内試験
一方で、別の見方を示す研究もあります。イギリスで、肥満または過体重の30人が、朝に多く食べる減量食と夜に多く食べる減量食を4週間ずつ続けた試験です。1日の総消費エネルギー、安静時の代謝、体重の減り方には差がありませんでした。ただし、朝に多く食べた期間のほうが、空腹感は少なかったと報告されています[7]。
研究の種類ランダム化クロスオーバー試験/対象 肥満・過体重の成人30人、各4週間
現時点では、「朝に食べれば代謝が上がってやせる」とまでは言えません。朝食をしっかりとることの利点は、代謝よりも、1日の空腹感を抑えて食べすぎを防ぎやすい点にあると考えるのが妥当です。
年齢とともに低下する
アメリカのメイヨー・クリニックで、60〜88歳の高齢者と18〜35歳の若い成人を比べた解析があります。筋肉などの除脂肪量や食事の量をそろえても、高齢者では基礎代謝も食事誘発性熱産生も低く、熱産生は約1%ポイント低くなっていました[8]。
研究の種類横断研究(データベース解析)/対象 熱産生を測定した高齢者123人、若年者86人
「若いころと同じように食べているのに太りやすくなった」と感じる背景には、こうした消費エネルギーの低下も関わっています。年齢を重ねるほど、筋肉量を保つことと、たんぱく質を意識した食事の組み立てが大切になります[2]。
腎臓の病気がある方は、たんぱく質を控える必要がある場合があります[9]。たんぱく質を増やす前に、主治医または当院にご相談ください。
今日からできること
食事誘発性熱産生だけで体重が大きく変わるわけではありません。ただ、次のような習慣は、熱産生の面でも、食べすぎを防ぐ面でも理にかなっています。
- 毎食、肉・魚・卵・大豆製品・乳製品などのたんぱく質源を入れる
- ひと口ごとにしっかり噛み、ゆっくり食べる
- 精製・加工された食品に偏らず、素材に近い食品を選ぶ
- 朝食を抜かず、夜遅くのまとめ食いを避ける
- 食べる量を増やして代謝を上げようとはしない
よくあるご質問
朝食を抜くと、代謝が落ちて太りやすくなりますか?
同じ食事でも朝のほうが熱産生が高いという報告がある一方、朝と夜の食べ方の違いで1日の消費エネルギーや体重の減り方は変わらなかったという試験もあります。朝食の利点は、日中の空腹感を抑えて食べすぎを防ぎやすいことにあると考えられます。
高たんぱく質の食事にすれば、それだけでやせますか?
たんぱく質は熱産生が大きく、満腹感も得やすい栄養素です。ただし、全体のエネルギー量が多ければ体重は増えます。量のバランスを整えたうえで、たんぱく質の割合を意識することが大切です。
早食いのくせがなかなか直りません。
ひと口の量を少なくする、箸を置いて噛む時間をつくる、噛みごたえのある食材を取り入れるなどの工夫が役立ちます。噛みにくさがある場合は、歯科での相談もおすすめします。
当院でのサポート
当院では、体成分分析装置InBodyで筋肉量や体脂肪量を測定し、体重の数字だけではわからない体の中身を確認できます。
さらに当院は、管理栄養士4名体制で栄養面をサポートしています。測定結果やふだんの食事内容をもとに、たんぱく質のとり方や食べ方の工夫など、一人ひとりの生活に合わせた食事の組み立てを一緒に考えていきます。体重や食事のことで気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談ください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- Diet induced thermogenesis著者:Westerterp KR雑誌:Nutr Metab (Lond). 2004;1:5発行日:2004年8月DOI:10.1186/1743-7075-1-5要約:食事誘発性熱産生の総説。1日の消費エネルギーは基礎代謝、食事誘発性熱産生、活動の3要素からなり、混合食では摂取エネルギーの約10%が熱となる。栄養素別の目安はたんぱく質20〜30%、炭水化物5〜10%、脂質0〜3%。
- Dietary protein, weight loss, and weight maintenance著者:Westerterp-Plantenga MS, Nieuwenhuizen A, Tomé D, ほか雑誌:Annu Rev Nutr. 2009;29:21-41発行年:2009年DOI:10.1146/annurev-nutr-080508-141056要約:たんぱく質と体重管理に関する総説。たんぱく質は満腹感、熱産生、エネルギー効率、体組成に作用し、減量中の満腹感と消費エネルギーを保ち、除脂肪量の維持に役立つとした。必須アミノ酸を含む良質なたんぱく質で熱産生が大きいとした。
- Postprandial energy expenditure in whole-food and processed-food meals: implications for daily energy expenditure著者:Barr SB, Wright JC雑誌:Food Nutr Res. 2010;54:5144発行日:2010年7月DOI:10.3402/fnr.v54i0.5144要約:健康な成人17人のクロスオーバー試験。同じエネルギー量のサンドイッチで比べると、食後の消費エネルギーは加工度の低い食事で137kcal(19.9%)、加工度の高い食事で73kcal(10.7%)と約半分だった。満腹感に差はなかった。
- The number of chews and meal duration affect diet-induced thermogenesis and splanchnic circulation著者:Hamada Y, Kashima H, Hayashi N雑誌:Obesity (Silver Spring). 2014;22(5):E62-E69発行日:2014年5月DOI:10.1002/oby.20715要約:健康な標準体重の成人を対象に、試験食を速く食べる場合とよく噛んで食べる場合を比較。食後90分間の熱産生は、よく噛んだ場合に有意に大きく、噛む回数や食事時間は熱産生および消化器の血流と正の関連を示した。
- Chewing increases postprandial diet-induced thermogenesis著者:Hamada Y, Hayashi N雑誌:Sci Rep. 2021;11:23714発行日:2021年12月DOI:10.1038/s41598-021-03109-x要約:健康な男性11人のランダム化クロスオーバー試験。液体の食べ物をそのまま飲む、味わってから飲む、噛みながら味わってから飲む、の3条件で比較し、口の中での刺激が長いほど食後の熱産生が増えた。食塊の大きさによらない効果と結論した。
- Twice as High Diet-Induced Thermogenesis After Breakfast vs Dinner On High-Calorie as Well as Low-Calorie Meals著者:Richter J, Herzog N, Janka S, ほか雑誌:J Clin Endocrinol Metab. 2020;105(3):e211-e221発行日:2020年3月DOI:10.1210/clinem/dgz311要約:標準体重の男性16人のランダム化クロスオーバー試験。同じ食事でも、朝食後の食事誘発性熱産生は夕食後の約2.5倍だった。食後の血糖・インスリン上昇は朝のほうが小さく、朝食を少なくすると日中の空腹感や甘いものへの欲求が増えた。
- Timing of daily calorie loading affects appetite and hunger responses without changes in energy metabolism in healthy subjects with obesity著者:Ruddick-Collins LC, Morgan PJ, Fyfe CL, ほか雑誌:Cell Metab. 2022;34(10):1472-1485.e6発行日:2022年10月DOI:10.1016/j.cmet.2022.08.001要約:肥満・過体重の30人のランダム化クロスオーバー試験。朝に多く食べる減量食と夜に多く食べる減量食を4週間ずつ比べ、総消費エネルギー、安静時代謝、体重減少に差はなかった。朝に多く食べると空腹感は少なかった。
- The thermic effect of food is reduced in older adults著者:Du S, Rajjo T, Santosa S, Jensen MD雑誌:Horm Metab Res. 2014;46(5):365-369発行日:2014年5月DOI:10.1055/s-0033-1357205要約:メイヨー・クリニックのデータを用い、60〜88歳の高齢者と18〜35歳の若年者を比較。除脂肪量や食事量をそろえても、高齢者では基礎代謝と食事誘発性熱産生がともに低く、熱産生は約1%低かった。
- Evidence-based recommendations for optimal dietary protein intake in older people: a position paper from the PROT-AGE Study Group著者:Bauer J, Biolo G, Cederholm T, ほか雑誌:J Am Med Dir Assoc. 2013;14(8):542-559発行日:2013年8月DOI:10.1016/j.jamda.2013.05.021要約:EUGMSが組織した国際研究グループの提言。65歳超に体重1kgあたり1.0〜1.2g/日以上のたんぱく質を推奨した。一方、透析を受けていない重度の腎機能低下例はこの推奨の例外とした。