2026年10月02日

漢方薬の副作用が出やすい人とは?「体質」や遺伝との関係を専門医が解説
Genetic Risk
漢方薬の副作用と「体質」の話
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月2日
「漢方薬は自然のものだから副作用がない」。今でも、ときどき耳にします。
実際には副作用はあります。そして不思議なことに、同じ薬を同じ量だけ飲んでも、何ともない人と、はっきり症状が出る人がいる。この差はどこから来るのでしょう。生まれ持った体質、つまり遺伝が関係しているのでしょうか。
ここ数年の研究で、答えの一部が見えてきました。ただ、多くの方が想像するのとは少し違う形で、です。
Point
この記事のポイント
- 漢方薬による肝障害では、HLA-B*35:01という白血球の型を持つ人でリスクが高いと日本人で報告されています
- 一方、甘草によるむくみや低カリウム血症は遺伝子ではあまり説明できず、腸内細菌や年齢の影響が大きいとわかってきました
- いまのところ遺伝子検査での予測は現実的ではなく、初期症状を知っておくことと定期的な採血が確実な対策です
漢方薬で問題になる、代表的な副作用
まず、どんな副作用があるのかを整理します。いずれも頻度は高くありませんが、知っておく価値があります。
| 副作用 | 関わる生薬・処方 | あらわれ方 |
|---|---|---|
| 偽アルドステロン症 | 甘草(かんぞう) | むくみ、血圧上昇、だるさ、手足の力が入らない、こむら返り |
| 肝障害 | 黄芩、大黄、山梔子、甘草など | だるさ、食欲低下、皮膚や白目が黄色くなる、尿が濃くなる |
| 間質性肺炎 | 小柴胡湯、柴苓湯、柴朴湯など | 発熱、たんのからまない咳、動いたときの息切れ |
公的な安全性情報と近年の研究報告をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
甘草はとくに身近で、医療用・市販を合わせた漢方処方の約7割に含まれるとされています[4]。
肝障害には、はっきりした遺伝的素因がある
HLAは白血球の「型」です。血液型が赤血球の型であるように、免疫が自分と異物を見分ける目印にあたります。型は人によって違い、この違いが薬の副作用の出やすさに関わることは複数の薬で知られています。
日本で行われた研究があります。薬物性肝障害の287人の遺伝子を網羅的に解析したところ、漢方薬による肝障害のグループで、HLA領域のある変化が際立って多いとわかりました[1]。
研究の種類ゲノムワイド関連解析/対象 薬物性肝障害と診断された日本人287人
詳しく調べると、正体はHLA-B*35:01という型でした。漢方薬で肝障害を起こした19人のうち12人(63.2%)がこの型を持っていたのに対し、健康な人では15.2%、オッズ比は9.56でした。関連がみられたのは、黄芩、大黄、山梔子、甘草を含む処方です[1]。
同じ「型」が、ウコンでも報告されている
この型は、漢方薬に限った話ではありません。
中国で広く使われる生薬の何首烏(かしゅう)による肝障害でも、患者の45.4%がこの型を持っていました。一般の人では2.7%です[2]。
アメリカでは、ウコン(ターメリック)のサプリメントによる肝障害10例が報告されています。5人が入院し、1人は急性肝不全で亡くなりました。そのうち7人が、やはり同じ型の持ち主でした[3]。
植物由来だから安全、とは言えないわけです。
ただし、型を持っていても大半の人は何も起きない
HLA-B*35:01は、健康な日本人のおよそ15%が持っています。6〜7人に1人という、ありふれた型です。一方で漢方薬による肝障害はまれにしか起こりません。この型を持つ人の大多数は、何事もなく漢方薬を飲んでいます。
逆も同じです。先ほどの研究で肝障害を起こした19人のうち7人は、この型を持っていませんでした[1]。型がなければ安心、とも言えないのです。
甘草の副作用は、遺伝子ではあまり説明できなかった
甘草の代表的な副作用が、偽アルドステロン症です。甘草の成分が腎臓の酵素(11β-HSD2)の働きを邪魔し、むくみ、血圧上昇、カリウムの低下が起こります[4]。
それなら、この酵素が生まれつき弱い人がいるのではないか。そう考えて調べた結果は、予想と違うものでした。
| 調べた対象 | わかったこと |
|---|---|
| 日本人953人の11β-HSD2遺伝子 | 変異が見つかった人はごくわずかで、高血圧の主な原因ではなかった |
| 甘草で高血圧になった30人の11β-HSD2遺伝子 | 意味のある変異は見つからなかった |
| 同じ30人のENaC遺伝子 | 6人(20%)に変異。献血者では3.7%だった |
日本とフィンランドの研究をもとに作成[5][6]。ENaCは腎臓でナトリウムを通す入口にあたります。
手がかりは酵素そのものではなく、その先のナトリウムの通り道にありました。ただし30人中6人と少なく、副作用全体を説明できるものではありません[6]。
まれな例外として、生まれつき酵素が弱い人
51歳の女性が、甘草を含む漢方薬を1年以上飲んだあと、重い高血圧で受診しました。薬をやめると血圧は落ち着いています。調べると、11β-HSD2遺伝子に変異が1つありました。報告した研究者は、この遺伝子に変異がある人に甘草を含む漢方薬は禁忌となりうる、と結論づけています[7]。
こうした変異はごくまれです。ただ、若いころから原因のはっきりしない高血圧や低カリウム血症がある方は、漢方薬を始める前にお伝えください。
遺伝より大きかったのは、腸内細菌だった
では、あの大きな個人差は何だったのか。近年の研究が示したのは、意外な答えでした。
甘草の主成分グリチルリチンは、そのままでは腸から吸収されません。腸内細菌が分解してはじめて、体に入る形になります。さらに一部の菌は、できた物質を肝臓で処理されにくい形に作り変えてしまい、体内に長くとどまります[4]。
甘草を含む漢方薬を飲んでいる78人の研究では、この物質が血中に検出されたのは47人。量には大きな個人差があり、偽アルドステロン症の指標と相関していました[8]。
研究の種類横断研究/対象 甘草を含む漢方薬を服用中の78人
この菌を持っているかどうかは、遺伝子で決まるわけではありません。体質という言葉の中身が、少しずつ見えてきた段階です。
年齢、アルブミン、飲み合わせ
遺伝子より確実に効いてくる要素も、あります。
ひとつは年齢です。甘草が邪魔する例の酵素は、加齢とともに活性が下がります。高齢の方に偽アルドステロン症が多い最大の理由と考えられています[4]。
抑肝散を飲んだ方を追跡した日本の研究では、低カリウム血症のリスクとして4つが挙がりました。カリウムを下げる薬(利尿薬やステロイドなど)との併用、アルブミンが低いこと、1日7.5gの常用量であること、抑肝散加陳皮半夏ではなく抑肝散であることです[9]。
抑肝散に含まれる甘草は1日1.5gで、決して多くありません。それでも副作用が報告されるのは、量だけでは決まらないことの表れです[4]。
間質性肺炎は、今のところ予測できない
1996年、小柴胡湯による間質性肺炎で死亡例が相次ぎ、大きく報道されました。漢方薬に副作用はない、という思い込みが崩れたできごとです。
厚生省が1998年に出した安全性情報は、この副作用をアレルギーの仕組みによるものと推定し、その発生を予測することは難しい、だからこそ早期の診断と治療が極めて重要だ、と明記しています[10]。30年近く経った今も、事前に見分ける方法は確立していません。
漢方薬を飲んでいる間に、発熱、たんのからまない咳、息切れが出たときは、服用を中止してご連絡ください。かぜと見分けがつきにくく、そのまま飲み続けてしまうことが問題になります[10]。
遺伝子検査を受けたほうがよいのか
よく聞かれます。現時点では、漢方薬を始める前にHLAを調べることは勧められません。
理由は3つ。型を持つ人の大多数は発症しないこと。型がなくても副作用は起こること。そして、この目的の検査は保険が適用されず、日常診療の体制がないことです。
その代わり、役立つことがあります。飲んでいるものをすべて伝えること。以前に薬やサプリで肝障害を起こしたことがあれば必ず伝えること。飲み始めの数か月は定期的に採血で確認することです。
次のような変化があれば、様子を見ずにご相談ください。
- 手足や顔がむくむ、急に体重が増えた、血圧が上がった
- 手足に力が入らない、こむら返りが増えた
- 強いだるさ、食欲の低下が続く
- 皮膚や白目が黄色い、尿の色が濃くなった
- 発熱、たんのからまない咳、階段での息切れ
よくあるご質問
家族が漢方薬で副作用を起こしました。私も危ないでしょうか?
HLAの型は家族で似ることがあるため、可能性としては考えられます。ただし型を持っていても大多数の方は発症しません。その経過をお伝えいただければ、処方や採血の間隔に反映します。
以前に漢方薬で肝障害を起こしました。もう漢方は使えませんか?
同じ処方の再開は慎重に考えますが、原因の生薬を避けて別の処方を選べる場合があります。どの薬で、どんな症状がいつ出たのかを教えてください。
市販の漢方薬やサプリメントなら安全ですか?
成分は同じです。むしろ市販品は受診せずに長く飲み続けやすく、採血で確認する機会もないため注意が要ります。複数の製品で同じ生薬が重なることもあります。
当院でのサポート
当院は漢方専門医の認定を受けており、西洋医学の診療と漢方治療を組み合わせています。甘草の量や生薬の重なりに配慮して処方を組み立て、服用中はカリウムや肝機能の採血で経過を確認します。
他院の漢方薬、市販薬、サプリメントも含めて、飲んでいるものを一緒に確認します。副作用が心配な方も、以前に薬で肝障害を起こした方も、どうぞお気軽にご相談ください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- Significant association between HLA-B*35:01 and onset of drug-induced liver injury caused by Kampo medicines in Japanese patients著者:Nakamura R, Arakawa N, Tanaka Y, ほか雑誌:Hepatol Res. 2023;53(5):440-449発行日:2023年5月DOI:10.1111/hepr.13874要約:日本人の薬物性肝障害287人のゲノムワイド関連解析。漢方薬による肝障害19人中12人(63.2%)がHLA-B*35:01を保有し、健常者の15.2%を大きく上回った(オッズ比9.56)。黄芩、大黄、山梔子、甘草との関連を認めた。
- HLA-B*35:01 Allele Is a Potential Biomarker for Predicting Polygonum multiflorum-Induced Liver Injury in Humans著者:Li C, Rao T, Chen X, ほか雑誌:Hepatology. 2019;70(1):346-357発行日:2019年7月DOI:10.1002/hep.30660要約:生薬の何首烏による肝障害を調べた中国の研究。患者の45.4%がHLA-B*35:01を保有し、一般集団の2.7%を大きく上回った。4週間服用した72人の追跡では、肝酵素上昇は保有者37.5%、非保有者4.7%だった。
- Liver Injury Associated with Turmeric—A Growing Problem: Ten Cases from the Drug-Induced Liver Injury Network [DILIN]著者:Halegoua-DeMarzio D, Navarro V, Ahmad J, ほか雑誌:Am J Med. 2023;136(2):200-206発行日:2023年2月DOI:10.1016/j.amjmed.2022.09.026要約:米国のウコン(ターメリック)サプリメントによる肝障害10例の報告。5例が入院し1例は急性肝不全で死亡した。10例中7例がHLA-B*35:01を保有し、うち2例はホモ接合だった。
- Clinical risk factors of licorice-induced pseudohyperaldosteronism: a 2026-updated narrative review著者:Yoshino T, Makino T雑誌:Front Pharmacol. 2026;17:1840515発行日:2026年5月28日DOI:10.3389/fphar.2026.1840515要約:甘草による偽アルドステロン症のリスク因子を整理した総説。甘草は漢方処方の約7割に含まれる。11β-HSD2の遺伝子変異はまれで、腸内細菌による代謝の個人差、加齢、低アルブミン血症の寄与が大きいとした。
- Genetic Variations of HSD11B2 in Hypertensive Patients and in the General Population, Six Rare Missense/Frameshift Mutations著者:Kamide K, Kokubo Y, Hanada H, ほか雑誌:Hypertens Res. 2006;29(4):243-252発行日:2006年4月DOI:10.1291/hypres.29.243要約:日本人高血圧患者953人の11β-HSD2遺伝子を解析。変異が見つかったのは11人とごくわずかで、一般集団3,655人でも頻度に差がなく、日本人の高血圧の主な原因ではないと結論した。
- Licorice-induced hypertension and common variants of genes regulating renal sodium reabsorption著者:Miettinen HE, Piippo K, Hannila-Handelberg T, ほか雑誌:Ann Med. 2010;42(6):465-474発行日:2010年9月DOI:10.3109/07853890.2010.499133要約:甘草で高血圧を起こしたフィンランド人30人の遺伝子解析。11β-HSD2遺伝子に意味のある変異はなかった。腎臓のナトリウム通路ENaCの変異は6人(20%)にあり、献血者の3.7%より多かった。
- Herbal Medicine Containing Licorice May Be Contraindicated for a Patient with an HSD11B2 Mutation著者:Harahap ISK, Sasaki N, Gunadi, ほか雑誌:Evid Based Complement Alternat Med. 2011;2011:646540発行日:2011年2月20日DOI:10.1093/ecam/nep211要約:甘草を含む漢方薬を1年以上服用し重い高血圧となった51歳女性の報告。中止で改善した。11β-HSD2遺伝子にc.40C>Tのヘテロ変異を認め、変異保有者には甘草を含む漢方薬が禁忌となりうるとした。
- 3-epi-18β-Glycyrrhetinic Acid or Its Glucuronide, the Metabolites of Glycyrrhizinic Acid with Individual Differences, Correlated with Diagnostic Marker for Licorice-Induced Pseudoaldosteronism in Humans著者:Sakoda R, Ishiuchi K, Yoshino T, ほか雑誌:Drug Metab Dispos. 2024;52(12):1407-1416発行日:2024年12月DOI:10.1124/dmd.124.001840要約:甘草を含む漢方薬を服用中の78人を調査。腸内細菌がつくる代謝物3-epi-GAは47人の血中で検出され、量に大きな個人差があった。この個人差が偽アルドステロン症の指標と相関した。
- Liquorice-induced hypokalaemia in patients treated with Yokukansan preparations: identification of the risk factors in a retrospective cohort study著者:Shimada S, Arai T, Tamaoka A, Homma M雑誌:BMJ Open. 2017;7(6):e014218発行日:2017年6月15日DOI:10.1136/bmjopen-2016-014218要約:抑肝散製剤による低カリウム血症のリスク因子を調べた後ろ向きコホート研究。抑肝散加陳皮半夏ではなく抑肝散であること、カリウムを下げる薬の併用、低アルブミン血症、常用量7.5g/日の4つが該当した。
- 漢方製剤の間質性肺炎について(医薬品等安全性情報 No.146)著者:厚生省医薬安全局媒体:医薬品等安全性情報(PMDAウェブサイト掲載)発行日:1998年(平成10年)3月URL:https://www.pmda.go.jp/safety/info-services/drugs/calling-attention/safety-info/0147.html要約:漢方製剤による間質性肺炎への注意喚起を行った公的資料。発生機序はアレルギー機序と推定され、その発生を予測することは難しいとして、早期診断・早期治療の重要性を強調している。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(日本東洋医学会 漢方専門医・指導医)