2026年10月19日

夜中に目が覚める不眠に注意!抗精神病薬の落とし穴と隠れた「睡眠時無呼吸症候群」
Antipsychotics and Insomnia
「眠くなる薬」が「眠りを治す薬」とは限りません
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月19日
「眠れない」と相談したら、統合失調症の薬が出ていた。そんな経験をされた方もいるかもしれません。
抗精神病薬の中には、強い眠気が出るものがあります。その眠気を利用して、不眠に少量だけ処方されることがあるのです。では、この使い方に効果や安全性の裏付けはあるのでしょうか。この記事では、国内外のガイドラインと研究をもとに整理し、不眠の陰に隠れやすい睡眠時無呼吸症候群についてもお伝えします。
Point
この記事のポイント
- 不眠症そのものの治療に抗精神病薬を使うことは、国内外のガイドラインで勧められていません
- 効果の裏付けは乏しく、血糖の上昇や体重増加、翌朝まで残る眠気などの副作用があります
- 夜中に何度も目が覚めるタイプの不眠には、睡眠時無呼吸症候群が隠れていることがあります
そもそも、なぜ抗精神病薬が不眠に使われるのか
抗精神病薬は、統合失調症や双極性障害などの治療に使われる薬です。たとえばクエチアピン(商品名セロクエルなど)は眠気が出やすく、その主な理由は、脳内のヒスタミンの働きをブロックする作用だと考えられています[1]。
ただ、セロクエルの添付文書に書かれている効能・効果は統合失調症で、用量も通常は1日150〜600mgです[2]。眠りや不安に対しては、これよりずっと少ない量を、承認された目的以外で使う「適応外使用」が広がっていると報告されています[3]。
日本の睡眠薬のガイドラインも、認知症などで根拠が乏しいまま抗精神病薬などが適応外に広く使われている現状を危惧しています[4]。
ガイドラインの答えは「不眠症には勧めない」
結論から言うと、不眠症そのものに抗精神病薬を使うことは勧められていません。
欧州睡眠学会などが2023年に改訂した不眠症のガイドラインは、抗精神病薬を不眠症の治療には「推奨しない」と明記しています。同じガイドラインで、年齢や持病の有無にかかわらず最初に勧められているのは、薬ではなく不眠症の認知行動療法(CBT-I)です[5]。
CBT-Iは、眠りを妨げている生活のパターンや、睡眠についての考え方を少しずつ見直していく治療法です。日本のガイドラインでも、その有効性は実証されているとされています[4]。
「眠くなる」と「不眠症が良くなる」は別の話
2022年、医学誌ランセットに、成人の不眠症に使われる薬を比べた大規模な解析が発表されました。154件の二重盲検試験、約4万4千人分のデータをまとめたものです[1]。
研究の種類ネットワークメタ解析/154件の二重盲検ランダム化比較試験、44,089人
ヒスタミンをブロックして眠気を起こす薬はいくつかありますが、そのうち短期間の「睡眠の質」に効果が示されなかったのは、クエチアピンだけでした。3か月を超えて使ったときのデータも、クエチアピンについては見つかっていません[1]。
眠気が出ることと、不眠症が治ることは、同じではないのです。
少量でも気をつけたい副作用
クエチアピンの添付文書には、次のような注意が書かれています[2]。
| 項目 | 添付文書に書かれている主な内容 |
|---|---|
| 血糖 | 著しい血糖の上昇から糖尿病性昏睡などを起こし、死亡に至ることがあるとして「警告」の対象。糖尿病の方、糖尿病にかかったことのある方には使えない(禁忌) |
| 体重 | 体重が増えることがあり、肥満に注意が必要 |
| 血圧 | とくに飲み始めに、立ちくらみやめまい(起立性低血圧)が起こることがある |
| 眠気・集中力 | 眠気や注意力・集中力の低下が起こるため、服用中は車の運転などを避ける |
| 体の落ち着かなさ | じっとしていられなくなる「アカシジア」、脚がむずむずする「レストレスレッグス症候群」 |
| やめるとき | 急に減らしたりやめたりすると、不眠・吐き気・頭痛などの離脱症状が出ることがある |
セロクエル(クエチアピン)の添付文書から主な項目を抜粋。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
「少量なら安心」とも言い切れません。デンマークの全国データで、少量のクエチアピン(1錠50mg以下)を使い始めた約6万人と、ゾルピデムなどの一般的な睡眠薬(Z薬)を使い始めた約45万人を比べた研究があります。クエチアピンの群では、心筋梗塞・脳梗塞・心臓や血管の病気による死亡を合わせたリスクが1.13倍、飲み続けていた期間に限ると1.52倍でした。女性と65歳以上の方で、より高い傾向でした[3]。
研究の種類観察研究(コホート研究)/対象 515,133人
観察研究なので、薬が直接の原因とまでは言い切れません。それでも研究チームは、眠るための少量クエチアピンの適応外使用は控えるべきだと結論づけています[3]。
高齢の認知症の方では、さらに慎重さが求められます。認知症に伴う妄想や興奮などに新しいタイプ(非定型)の抗精神病薬を使った15件の試験をまとめた解析では、薬を使った群の死亡は3.5%で、偽薬(プラセボ)群の2.3%を上回りました[6]。日本の添付文書にも同様の報告があり、ガイドラインも、認知症の不眠には効果が限られるうえ転倒や骨折の危険が高まるとしています[2][4]。
研究の種類メタ解析(15件のランダム化比較試験)/対象 5,110人
本来の病気の治療として使っている場合は別です
「夜中に何度も目が覚める」なら、睡眠時無呼吸のチェックを
睡眠時無呼吸症候群と不眠は、しばしば重なって起こります。37件の研究をまとめた解析では、睡眠時無呼吸のある方の38%に不眠があり、症状別では「夜中に目が覚める(中途覚醒)」が42%で最も多くみられました。反対に、不眠症の方の29〜35%に睡眠時無呼吸が見つかっています[7]。
研究の種類系統的レビュー・メタ解析/37件の研究
日本のガイドラインは、睡眠時無呼吸症候群なども不眠症と誤診されやすく、薬で良くならない場合は診断を見直すべきだとしています[4]。欧州のガイドラインも、睡眠中の呼吸の病気が疑われるときは、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)で確かめるよう求めています[5]。
抗精神病薬とのかかわりで気になる点は、2つあります。
1つ目は体重です。クエチアピンでは体重が増えることがあり[2]、体重が10%増えると、1時間あたりに呼吸が止まったり浅くなったりする回数(AHI)が約32%増え、中等症以上の睡眠時無呼吸になる危険が約6倍になったという研究があります[8]。
2つ目は、翌朝への影響です。睡眠時無呼吸と中途覚醒のある15人に、クエチアピン50mgと偽薬を1晩ずつ飲んでもらった2026年の試験があります。偽薬の夜は1時間あたり平均27回だった無呼吸・低呼吸が、クエチアピンの夜は20回で、眠れていた時間の割合も上がりました。ところが翌朝は反応が遅くなり、運転シミュレーターの成績も悪化していたのです[9]。
研究の種類ランダム化比較試験(二重盲検・クロスオーバー)/対象 15人、各1晩
1晩だけの小さな試験なので、長く飲み続けた場合の影響はわかっていません。車を運転する方は、とくに注意が必要です。
一方で、睡眠時無呼吸をきちんと治療すると、中途覚醒が軽くなることがあります。CPAP(シーパップ)などの陽圧呼吸療法を始めた705人を2年間追った研究では、治療を続けた方で中途覚醒がある人の割合が59.4%から30.7%に減りました。ただし、寝つきの悪さは治療だけでは改善しにくい傾向でした[10]。
研究の種類観察研究(コホート研究)/対象 705人、2年間
米国睡眠医学会は、日中の強い眠気に加えて、大きないびき、睡眠中の呼吸停止やあえぎ、高血圧のうち2つ以上がある場合を、中等症以上の睡眠時無呼吸の可能性が高い目安としています[11]。次のような項目に心当たりがあれば、一度検査を考えてみてください。
- 家族から、いびきが大きい、寝ている間に息が止まっている、あえいでいると言われる
- 日中に強い眠気がある
- 高血圧を指摘されている
- 睡眠薬や眠くなる薬を飲んでも、夜中に目が覚めるのが治らない
- 眠くなる薬を飲み始めてから、体重が増えた
よくあるご質問
不眠のためだけにクエチアピンを飲んでいます。どうしたらいいですか?
まずは処方した医師に、ほかの治療に切り替えられるかを相談してみてください。やめる場合も、急にではなく少しずつ減らしていくのが基本です[2]。
当院の睡眠時無呼吸症候群の外来
当院では、睡眠時無呼吸症候群の外来を行っています。診断に使う終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)は、入院せずにご自宅で受けていただけます。現在、約160名の方がCPAP療法で通院されています。
体重は睡眠時無呼吸と深く関わるため、管理栄養士4名による栄養指導で体重管理もサポートします。
夜中に何度も目が覚める、いびきや日中の眠気が気になるという方は、どうぞ一度ご相談ください。ほかの医療機関で治療中の方も、お薬手帳をお持ちいただければ、いま飲んでいる薬と照らし合わせながら検査を進めます。
検査の流れや治療の詳細は、睡眠時無呼吸症候群のページでご案内しています。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- Comparative effects of pharmacological interventions for the acute and long-term management of insomnia disorder in adults: a systematic review and network meta-analysis著者:De Crescenzo F, D’Alò GL, Ostinelli EG, Ciabattini M, Di Franco V, ほか(最終著者 Cipriani A)雑誌:Lancet. 2022;400(10347):170-184発行日:2022年7月16日DOI:10.1016/S0140-6736(22)00878-9要約:成人の不眠症の薬を比べた154件の二重盲検ランダム化比較試験(44,089人)のネットワークメタ解析。ヒスタミンを遮断して眠気を起こす薬のうち、クエチアピンだけは短期の睡眠の質に効果が示されず、3か月を超える長期のデータもなかった。
- セロクエル25mg錠・100mg錠・200mg錠・細粒50% 電子添文著者:LTLファーマ株式会社(製造販売元)媒体:医療用医薬品の電子添文(KEGG MEDICUS掲載のJAPIC添付文書情報)改訂:2026年9月改訂(第6版)URL:https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00058102要約:効能・効果は統合失調症、通常1日150〜600mg。著しい血糖上昇による死亡例から警告があり、糖尿病の患者には禁忌。体重増加、起立性低血圧、服用中の運転回避、急な中止による離脱症状、アカシジア、高齢認知症患者での死亡率上昇の報告などを記載。
- Use of low-dose quetiapine increases the risk of major adverse cardiovascular events: results from a nationwide active comparator-controlled cohort study著者:Højlund M, Andersen K, Ernst MT, Correll CU, Hallas J雑誌:World Psychiatry. 2022;21(3):444-451発行日:2022年10月(オンライン公開 2022年9月8日)DOI:10.1002/wps.21010要約:デンマークの全国登録データで、少量クエチアピン(50mg錠以下)の新規使用者60,566人とZ薬の新規使用者454,567人を比べた観察研究。主要心血管イベントは1.13倍、継続使用中は1.52倍、心血管死は1.26倍で、女性と65歳以上で高かった。
- 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン―出口を見据えた不眠医療マニュアル―著者:厚生労働科学研究・障害者対策総合研究事業「睡眠薬の適正使用及び減量・中止のための診療ガイドラインに関する研究班」、日本睡眠学会・睡眠薬使用ガイドライン作成ワーキンググループ(編)媒体:日本睡眠学会ウェブサイト掲載PDF発行:2013年6月25日初版、2013年10月22日改訂URL:https://jssr.jp/files/guideline/suiminyaku-guideline.pdf要約:根拠が乏しいまま認知症などで抗精神病薬が適応外に汎用される現状を危惧。睡眠時無呼吸症候群やレストレスレッグス症候群は不眠症と誤診されやすく、薬で改善しなければ再評価すべきとし、認知行動療法の有効性を推奨グレードAとしている。
- The European Insomnia Guideline: An update on the diagnosis and treatment of insomnia 2023著者:Riemann D, Espie CA, Altena E, Arnardottir ES, Baglioni C, ほか(最終著者 Spiegelhalder K)雑誌:J Sleep Res. 2023;32(6):e14035発行日:2023年12月(オンライン公開 2023年11月28日)DOI:10.1111/jsr.14035要約:欧州睡眠学会などによる不眠症診療ガイドラインの2023年改訂版。認知行動療法を年齢や併存症を問わず第一選択とし、効果不十分なら薬物療法を検討。抗精神病薬や抗ヒスタミン薬などは不眠症治療に推奨せず、呼吸障害などが疑われればPSGで評価するとした。
- Risk of death with atypical antipsychotic drug treatment for dementia: meta-analysis of randomized placebo-controlled trials著者:Schneider LS, Dagerman KS, Insel P雑誌:JAMA. 2005;294(15):1934-1943発行日:2005年10月19日DOI:10.1001/jama.294.15.1934要約:認知症の方を対象に非定型抗精神病薬とプラセボを比べた15件のランダム化比較試験(計5,110人、主に10〜12週)のメタ解析。死亡は薬剤群3.5%、プラセボ群2.3%で、オッズ比1.54と死亡リスクの小さな上昇が示された。
- Worldwide and regional prevalence rates of co-occurrence of insomnia and insomnia symptoms with obstructive sleep apnea: A systematic review and meta-analysis著者:Zhang Y, Ren R, Lei F, Zhou J, Zhang J, ほか(最終著者 Tang X)雑誌:Sleep Med Rev. 2019;45:1-17発行日:2019年6月(オンライン公開 2019年2月10日)DOI:10.1016/j.smrv.2019.01.004要約:37件の研究を統合したメタ解析。閉塞性睡眠時無呼吸の患者の38%に不眠があり、症状別では中途覚醒が42%と最も多かった。不眠症の患者では、睡眠時無呼吸の合併がAHI 5以上で35%、AHI 15以上で29%にみられた。
- Longitudinal study of moderate weight change and sleep-disordered breathing著者:Peppard PE, Young T, Palta M, Dempsey J, Skatrud J雑誌:JAMA. 2000;284(23):3015-3021発行日:2000年12月20日DOI:10.1001/jama.284.23.3015要約:米国ウィスコンシン州の住民690人を4年間隔で2回検査した前向きコホート研究。体重が10%増えるとAHIが約32%上昇し、中等症以上の睡眠呼吸障害を新たに発症するオッズが約6倍になった。10%の減量ではAHIが約26%低下した。
- Quetiapine modestly improves sleep and breathing but impairs next day performance in people with OSA and difficulty maintaining sleep: A randomized controlled trial著者:Fauska C, Bastiampillai T, Rawson G, Toson B, Vakulin A, ほか(最終著者 Eckert DJ)雑誌:Ann Am Thorac Soc. 2026(オンライン先行公開、論文番号 aaoag092)発行日:2026年4月10日DOI:10.1093/annalsats/aaoag092要約:睡眠時無呼吸と中途覚醒のある15人の二重盲検クロスオーバー試験。クエチアピン50mgを1晩飲むと、AHIは偽薬時の27回/時に対し20回/時で睡眠効率も高かったが、翌朝の反応時間が遅れ、運転シミュレーターの成績も悪化した。
- Symptoms of insomnia among patients with obstructive sleep apnea before and after two years of positive airway pressure treatment著者:Björnsdóttir E, Janson C, Sigurdsson JF, Gehrman P, Perlis M, ほか(最終著者 Benediktsdóttir B)雑誌:Sleep. 2013;36(12):1901-1909発行日:2013年12月1日DOI:10.5665/sleep.3226要約:アイスランドの睡眠時無呼吸患者705人を、陽圧呼吸療法の開始前と2年後で比べたコホート研究。治療を続けた人では中途覚醒の症状が59.4%から30.7%に減った。一方、入眠困難は治療の有無にかかわらず残りやすかった。
- Clinical Practice Guideline for Diagnostic Testing for Adult Obstructive Sleep Apnea: An American Academy of Sleep Medicine Clinical Practice Guideline著者:Kapur VK, Auckley DH, Chowdhuri S, Kuhlmann DC, Mehra R, Ramar K, Harrod CG雑誌:J Clin Sleep Med. 2017;13(3):479-504発行日:2017年3月15日DOI:10.5664/jcsm.6506要約:米国睡眠医学会による成人の閉塞性睡眠時無呼吸の検査に関する診療ガイドライン。PSGを標準検査とし、日中の強い眠気に加え、習慣的な大きないびき、目撃された無呼吸やあえぎ、高血圧のうち2つ以上ある場合を中等症以上のリスクが高い目安としている。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介