2026年11月01日

Bronchial Asthma
気管支喘息の基礎知識と、治療で目指すゴール
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年11月1日
気管支喘息(以下、喘息)は、子どもから高齢者まで、どの年代にも起こる身近な病気です。日本で喘息の可能性がある人は、約1,000万人にのぼるとされています[1]。
吸入ステロイドなどの治療が広まったことで、喘息で亡くなる人は年間約7,000人から、近年は約1,000人まで減りました。一方で、症状が十分にコントロールされていない人は今も少なくありません[1]。この記事では、喘息のしくみと検査、治療の考え方、悪化を防ぐコツを整理します。
Point
この記事のポイント
- 喘息は気道に慢性的な炎症が続く病気で、治療の中心は炎症をおさえる吸入ステロイドです
- 発作止めの吸入薬に頼りすぎると、悪化や死亡のリスクが高まります
- 治療のゴールは、症状をなくし、悪化のない状態(臨床的寛解)を保つことです
喘息とはどんな病気か
喘息は、気道に慢性的な炎症が起こり、気道が狭くなったり戻ったりをくり返す病気です。ゼーゼー・ヒューヒューという喘鳴、息苦しさ、胸の締めつけ感、咳が波のように現れ、夜から明け方に悪化しやすいのが特徴です。炎症が長く続くと、気道の壁が厚く硬くなる「リモデリング」が起こり、治りにくくなることがあります[2]。
きっかけになりやすいのは、運動、ダニや花粉などのアレルゲン、天候の変化、笑い、大気汚染、冷たい空気、線香などの強いにおいです[2]。
| タイプ | 特徴 | 詳しくは |
|---|---|---|
| アトピー型 | ダニや花粉などのアレルゲンが関わる。子どもの喘息の多くと、大人の喘息の多数を占める | ― |
| 非アトピー型 | アレルゲンへの感作が確認できない。喘息の10〜33%を占め、大人になってからの発症が多い | 非アトピー型喘息の記事 |
| 咳喘息 | 喘鳴や息苦しさがなく、咳だけが続く。気管支拡張薬で咳がやわらぐ | 咳喘息の記事 |
日本喘息学会の実践ガイドライン、海外の総説、日本の研究をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
アレルゲンは子どもの喘息の多くと大人の喘息の多数に関わっています[1]。一方、アレルゲンへの感作が確認できない非アトピー型は喘息の10〜33%を占め[3]、咳だけが続く咳喘息も喘息の一つのタイプです[4]。
重症度の考え方
日本のガイドラインでは、治療前の症状の頻度や夜間の症状、呼吸機能から、重症度を「軽症間欠型」「軽症持続型」「中等症持続型」「重症持続型」の4段階に分けています。ただし悪化は、重症の人だけでなく、軽症の人にも起こります[2]。症状がまれなタイプについては、間欠型喘息の記事で解説しています。
一方、日本喘息学会の実践ガイドラインは、良い状態を保つのにどのくらいの強さの治療が必要かで、重症度を判断する考え方をとっています[1]。
検査と診断
診断では、症状の経過をうかがったうえで、呼吸機能検査で気道の狭くなり方が変動するかを調べます。気管支拡張薬を吸って1秒量が12%以上かつ200mL以上増えれば「可逆性あり」と判断し、ピークフローの変動が20%を超えることも手がかりになります[2]。
呼気一酸化窒素(FeNO)は、気道の好酸球性の炎症を反映する検査です。吸入ステロイドを使っていない人で22ppbを超えると喘息の可能性が高く、37ppbを超えるとほぼ確実とされます。血液中の好酸球数や、ダニ・花粉などに対する特異的IgE抗体も、喘息のタイプを知る手がかりになります[1]。
心不全やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、血圧の薬(ACE阻害薬)による咳など、喘息に似た症状を起こす病気との見分けも大切です[2]。喘息ではないのに乾いた咳が続く病気については、アトピー咳嗽の記事をご覧ください。
治療の考え方
治療の中心は、気道の炎症をおさえる吸入ステロイドを毎日使う長期管理です。吸入ステロイドは、症状や呼吸機能を改善し、悪化を減らし、喘息による死亡も減らすことが報告されています。ただし喘息を治しきる薬ではなく、やめると数週間から数か月で悪化しやすくなります[2]。
日本喘息学会の実践ガイドラインは、喘息と診断したら、中用量の吸入ステロイドと長時間作用性β2刺激薬の配合薬で治療を始め、良い状態が6か月以上続いたら少しずつ減らしていくことを勧めています。吸入ステロイドを3か月かけて25〜50%減らすことは安全とされる一方、中止すると悪化しやすくなります[1]。
発作止めとの付き合い方
症状が出たときは、短時間作用性β2刺激薬(発作止めの吸入薬)を使います[2]。ただ、発作止めに頼りすぎるのは危険です。スウェーデンの全国調査では、発作止めを受け取る本数が多い人ほど、悪化や死亡のリスクが高くなっていました[5]。日本のガイドラインも、月1本を超える使用を、喘息で亡くなる危険因子に挙げています[2]。
研究の種類全国規模のコホート研究(観察研究)/対象 スウェーデンの12〜45歳の喘息患者
重症の場合
吸入薬を十分に使っても症状がおさまらない重症の喘息では、注射の生物学的製剤が選択肢になります。好酸球数やFeNO、IgE抗体などの値をもとに、薬を選びます[1]。
ダニのアレルギー性鼻炎を伴う場合
ダニのアレルギー性鼻炎を伴う喘息では、舌下免疫療法も選択肢になります。ダニの舌下免疫療法は、喘息の悪化を減らし、薬を減らせる可能性があることが示されています。呼吸機能が安定していて、吸入ステロイドだけでは十分にコントロールできない人に勧められます[1]。日本での保険適用はアレルギー性鼻炎ですが、鼻炎を伴う喘息の人にも検討できるとされています[2]。
治療のゴールと、毎日のコツ
治療の第一の目標は、症状をなくすことです。そのうえで、1年間にわたり悪化がなく、飲み薬のステロイドを常用せず、喘息コントロールテスト(ACT)で23点以上を保つ「臨床的寛解」を目指します。ACTは、過去4週間の日常生活への影響、息切れ、夜間の症状、発作止めの使用、自己評価の5問に答える質問票で、20点以上なら良好とされます[1]。
吸入薬は、正しく吸えてはじめて効果が出ます。舌を下げてのどの奥を開き、「ホー」と言うときの口の形で吸う「ホー吸入法」が勧められています[1]。吸入ステロイドのあとは、口の中のカンジダや声がれを防ぐため、うがいをしましょう[2]。
悪化を防ぐために
喫煙、ダニなどのアレルゲン、かぜなどの感染症、天候の変化、大気汚染、アルコール、一部の痛み止めやβ遮断薬が、悪化の引き金になります。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎、肥満、睡眠時無呼吸症候群、胃食道逆流症などの合併症も悪化に関わります[2]。禁煙、高齢の方のインフルエンザ・RSウイルス・新型コロナのワクチン接種、合併症の治療が勧められています。妊娠中も、吸入ステロイドを自己判断でやめないことが大切です[1]。
発作止めの効果が1時間もたない、または1日中必要になるときは、予定外でも受診が必要です。苦しくて横になれない、歩けない、話しにくい、唇が紫色になる、意識がぼんやりするといった場合は、ためらわずに救急車を呼んでください[2]。
こんな方はご相談ください
- ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音が出たことがある
- 夜中から明け方に、咳や息苦しさで目が覚める
- かぜをひくと咳が長引き、なかなか治らない
- 発作止めの吸入薬を、週に1回以上使っている
- 吸入薬を使っているが、正しく吸えているか自信がない
受診の際は、症状が出た日時やきっかけ、使っている吸入薬をお持ちください。
よくあるご質問
喘息は治りますか?
吸入ステロイドで症状をおさえることはできますが、治療をやめると悪化しやすくなります。症状がなく、悪化のない状態(臨床的寛解)を保つことを目標に、治療を続けます。
吸入ステロイドは体に悪くないですか?
飲み薬や注射のステロイドに比べて、全身への副作用が少ない薬です。口の中のカンジダや声がれを防ぐため、吸入後はうがいをしましょう。
大人になってから喘息になることはありますか?
あります。喘息はどの年代でも起こり、アレルギー検査が陰性の非アトピー型は、大人になってから発症することが多いとされています。
当院でのサポート
当院では、症状の経過を詳しくうかがったうえで、呼気一酸化窒素(FeNO)検査や血液検査で気道の炎症と喘息のタイプを確かめ、治療をご提案します。吸入薬の使い方の確認も行います。
睡眠時無呼吸症候群のCPAP治療、胃食道逆流症に対する胃カメラなど、喘息を悪化させる病気の診療にも対応しています。ダニによるアレルギー性鼻炎を伴う方には、舌下免疫療法も行っています。当院の喘息の診療については、気管支喘息のページもご覧ください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
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参考文献
- Practical Guidelines for Asthma Management (PGAM): Digest edition著者:Tamaoki J, Nagase H, Sano H, ほか雑誌:Respir Investig. 2025;63(3):405-421発行日:2025年5月DOI:10.1016/j.resinv.2025.03.009要約:日本喘息学会による実践ガイドラインの要約。国内の喘息の可能性がある人は約1,000万人で、喘息死は年間約7,000人から約1,000人に減ったとした。診断時から中用量の吸入ステロイド・長時間作用性β2刺激薬の配合薬で治療を始め、臨床的寛解を目指すことを勧めた。
- Executive summary: Japanese guidelines for adult asthma (JGL) 2021著者:Niimi A, Fukunaga K, Taniguchi M, ほか雑誌:Allergol Int. 2023;72(2):207-226発行日:2023年4月DOI:10.1016/j.alit.2023.02.006要約:日本アレルギー学会の成人喘息ガイドライン2021年版の要約。重症度を4段階に分け、治療の基本は吸入ステロイドによる長期管理とした。吸入ステロイドは悪化や喘息死を減らすが、中止すると悪化しやすいとし、発作治療薬の過剰使用を死亡の危険因子に挙げた。
- Asthma phenotypes: nonallergic (intrinsic) asthma著者:Peters SP雑誌:J Allergy Clin Immunol Pract. 2014;2(6):650-652発行日:2014年11月DOI:10.1016/j.jaip.2014.09.006要約:非アレルギー性(内因性)喘息の総説。季節性・通年性アレルゲンへの感作が確認できない喘息と定義し、喘息の10〜33%を占め、アレルギー性より発症が遅く、女性に多く、重症例が多いとした。
- Comparison of atopic cough with cough variant asthma: is atopic cough a precursor of asthma?著者:Fujimura M, Ogawa H, Nishizawa Y, ほか雑誌:Thorax. 2003;58(1):14-18発行日:2003年1月URL:https://thorax.bmj.com/content/58/1/14要約:咳喘息とアトピー咳嗽の経過を比べた日本の後ろ向き研究。咳喘息は喘鳴や息苦しさがなく咳だけが続き、気管支拡張薬で改善する喘息の一型とし、吸入ステロイドを使わなかった咳喘息では20人中6人が典型的な喘息に移行した。
- Overuse of short-acting β2-agonists in asthma is associated with increased risk of exacerbation and mortality: a nationwide cohort study of the global SABINA programme著者:Nwaru BI, Ekström M, Hasvold P, ほか雑誌:Eur Respir J. 2020;55(4):1901872発行日:2020年4月DOI:10.1183/13993003.01872-2019要約:スウェーデンの全国登録データを用いた喘息患者のコホート研究。約3割が発作止めの吸入薬を年3本以上受け取り、本数が多いほど悪化のリスク(年3〜5本でHR 1.26、11本以上で1.77)と死亡のリスクが段階的に高かった。