2026年10月29日

Colchicine and Atherosclerosis
コルヒチンは動脈硬化を防げるのか
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月29日
コルヒチンは、痛風の発作を抑える薬として古くから使われている飲み薬です。日本では、痛風発作と家族性地中海熱の治療薬として承認されています[1]。
この薬が、心筋梗塞や脳卒中の予防にも役立つのではないかと注目されてきました。動脈硬化には「炎症」が深く関わっていることがわかってきたためです。
結論から言うと、心臓や脳の血管の病気をすでに経験した人では、心筋梗塞や脳卒中を減らすという解析がある一方で、効果がみられなかった大規模試験もあります。病気のない人の動脈硬化を予防できるかは、確かめられていません[2]。
Point
この記事のポイント
- 心臓や脳の血管の病気がある人の試験をまとめると、心筋梗塞と脳卒中は3割前後減っていました
- ただし心筋梗塞の直後から始めた最大規模の試験では効果がみられず、死亡も減っていません
- 病気のない人での予防効果は不明です。日本では心血管病の予防薬として承認されておらず、飲み合わせにも注意が必要です
動脈硬化と「炎症」の関係
動脈硬化は、血管の壁にコレステロールがたまるだけでなく、そこで炎症が続くことで進むと考えられています。
その考え方を後押ししたのが、2017年に報告されたCANTOS試験です。心筋梗塞を経験し、炎症の指標であるCRPが高い約1万人に、炎症を抑える注射薬を使いました。すると、コレステロールは下がらないまま、心筋梗塞・脳卒中・心血管死が有意に減った用量がありました。ただし、命に関わる感染症は増えています[3]。
コルヒチンは、白血球が炎症の起きている場所へ集まるのを抑えて、炎症を鎮める薬です。1錠11円(薬価)と安価なこともあり、同じような効果を期待して研究が進められてきました[1]。
効果がみられた試験、みられなかった試験
心臓や脳の血管の病気を経験した人に、コルヒチンを1日0.5mg飲んでもらった主な試験の結果です。
研究の種類ランダム化比較試験/対象 3,154〜7,062人(試験ごと)
| 試験名 | 対象 | 心血管イベント(対照→コルヒチン) |
|---|---|---|
| COLCOT | 心筋梗塞から30日以内の4,745人 | 7.1%→5.5%、23%減少 |
| LoDoCo2 | 安定した冠動脈疾患の5,522人 | 9.6%→6.8%、31%減少 |
| CLEAR SYNERGY | 心筋梗塞の直後にカテーテル治療を受けた7,062人 | 9.3%→9.1%、差なし |
| CONVINCE | 脳梗塞・一過性脳虚血発作の3,154人 | 11.7%→9.8%、有意差なし |
各試験の論文をもとに作成[4][5][6][7]。評価したイベントの組み合わせは試験ごとに異なります。追跡期間は約2〜3年です。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
先に報告された2つの試験では、心血管の病気が2〜3割減り、期待が高まりました。一方で、COLCOTでは肺炎がわずかに増え、LoDoCo2では心血管以外の原因による死亡がやや多い傾向もみられています[4][5]。ところが、心筋梗塞の直後から飲み始めた最大規模のCLEAR SYNERGYでは、炎症の指標であるCRPは下がったものの、心血管の病気にははっきりした差が出ませんでした[6]。脳梗塞の再発予防でも、CONVINCEは統計的に意味のある差に届かず、発症直後から90日間飲んだ中国のCHANCE-3でも差はありませんでした[8]。
まとめると、どのくらい効くのか
12の試験、約2万3千人をまとめた2025年のコクランレビューでは、心筋梗塞が26%、脳卒中が33%減っていました。一方で、死亡全体や心血管の病気による死亡は減っていません[9]。
研究の種類ランダム化比較試験のメタ解析/対象 22,983人ほか
別の解析では、心血管死・心筋梗塞・脳卒中をまとめた減少は12%にとどまり、胃腸の症状による入院は35%増えていました。心配されていた肺炎やがん、心血管以外の死亡の増加はみられていません[10]。どの試験を含め、何を結果とするかで効果の大きさが変わるため、評価には幅があります。
プラークそのものは減るのか
血管の中のプラーク(動脈硬化のかたまり)を画像で調べた研究もあります。心筋梗塞などの後に冠動脈CTで1年間追った研究では、コルヒチンを飲んだ人で、破れやすい脂の多いプラークが約4割減っていました。ただし、くじ引きで分けた比較ではありません[11]。
安定した冠動脈疾患の84人をくじ引きで分けた試験では、主な目標だった脂の多いプラークには差がなく、プラーク全体の増え方がややゆるやかになった程度でした[12]。動脈硬化そのものを改善するかは、まだはっきりしていません。
心臓病のない人の予防には?
心血管の病気がない人を対象にした試験をまとめた2025年のコクランレビューでは、試験の数が少なく規模も小さいうえ、多くは肝臓病の患者を対象にしていました。心筋梗塞や脳卒中を防ぐかどうかは「非常に不確か」とされています[2]。
2型糖尿病で心血管の病気がない人を対象にした大規模試験も進んでいますが、結果がまとまるのは2027年以降の見込みです[13]。
日本での位置づけと注意点
欧州心臓病学会の2024年の指針は、冠動脈疾患の人に低用量コルヒチンの追加を「検討すべき」としています。ただし、効果がみられなかったCLEAR SYNERGYの発表前の判断です[14]。
日本では、心筋梗塞や脳卒中の予防は承認された使い方に含まれていません。添付文書には、痛風発作の予防であっても長く飲み続けることは、重い副作用の可能性からすすめられないと書かれています[1]。
飲み合わせにも注意が必要です。クラリスロマイシンなど一部の抗菌薬や抗真菌薬、新型コロナの治療薬の一部はコルヒチンの血中濃度を上げ、肝臓や腎臓に病気がある人では併用が禁止されています。グレープフルーツジュースでも濃度が上がることがあります。副作用では下痢などの胃腸症状が多く、まれに血液の異常や、筋肉が壊れる横紋筋融解症も起こります[1]。
コルヒチンを「動脈硬化の予防」のために自己判断で飲むことはおすすめしません。心臓や脳の血管の病気がある方で関心がある場合も、飲み合わせや腎臓の働きを確かめたうえで、主治医とよく相談してください。
こんな方は、一度ご相談ください
- 心筋梗塞や狭心症、脳梗塞を経験したことがある
- 健診でコレステロールや血糖、血圧の異常を指摘された
- 痛風でコルヒチンを飲んでいて、ほかの薬との飲み合わせが気になる
よくあるご質問
痛風でコルヒチンを飲んでいます。心臓病の予防にもなりますか?
痛風の発作時に短期間飲む使い方と、試験で調べられた「毎日少量を長期間飲む」使い方は異なります。心臓病の予防を目的に使うことは、日本では承認されていません。痛風の治療は、主治医の指示どおりに続けてください。
炎症の指標(CRP)が高いと言われました。コルヒチンを飲むべきですか?
CRPの値だけで決めることはできません。まずはコレステロールや血圧、血糖の管理、禁煙など、効果が確立した対策を優先します。
心筋梗塞のあと、コルヒチンを飲んだほうがよいですか?
直後から飲み始めた最大規模の試験では、効果がみられませんでした。使うかどうかは、循環器の主治医と相談して決めることになります。
当院でのサポート
当院では、血液検査でコレステロールや血糖、炎症の指標を確かめ、血管の硬さを調べるPWV・ABI検査で動脈硬化の程度を評価します。痛風などでコルヒチンを飲んでいる方は、飲み合わせや腎臓・肝臓の働きも確認します。
心臓や脳の血管の病気が疑われる場合は、専門の医療機関と連携して対応します。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- コルヒチン錠0.5mg「タカタ」 電子添文(2026年6月改訂 第4版)著者:高田製薬株式会社雑誌:KEGG MEDICUS 医療用医薬品情報(添付文書)発行日:2026年6月改訂URL:kegg.jp(添付文書情報)要約:日本で承認されている効能は痛風発作の緩解・予防と家族性地中海熱。1日1.5mgを超える量や重い腎障害で死亡例があると警告し、肝臓や腎臓に障害のある人でのクラリスロマイシンなどとの併用を禁忌とする。長期の予防投与はすすめられないとしている。
- Colchicine for the primary prevention of cardiovascular events著者:Martí-Carvajal AJ, ほか雑誌:Cochrane Database Syst Rev. 2025;2(2):CD015003発行日:2025年2月10日DOI:10.1002/14651858.CD015003.pub2要約:心血管病のない成人を対象に、コルヒチンを偽薬などと比べたランダム化比較試験の系統的レビュー。試験は少なく小規模で、多くは肝臓病の患者が対象だった。死亡、心筋梗塞、脳卒中への効果は、いずれも根拠の確かさが「非常に低い」と評価された。
- Antiinflammatory Therapy with Canakinumab for Atherosclerotic Disease著者:Ridker PM, Everett BM, Thuren T, ほか(最終著者 Glynn RJ)雑誌:N Engl J Med. 2017;377(12):1119-1131発行日:2017年9月21日(オンライン公開 2017年8月27日)DOI:10.1056/NEJMoa1707914要約:心筋梗塞の既往があり高感度CRPが2mg/L以上の10,061人に、炎症物質IL-1βを抑える注射薬カナキヌマブを使ったランダム化比較試験。150mg群でコレステロールを下げずに心血管イベントが有意に減った一方、致死的な感染症は増えた。
- Efficacy and Safety of Low-Dose Colchicine after Myocardial Infarction著者:Tardif JC, Kouz S, Waters DD, ほか(最終著者 Roubille F)雑誌:N Engl J Med. 2019;381(26):2497-2505発行日:2019年12月26日(オンライン公開 2019年11月16日)DOI:10.1056/NEJMoa1912388要約:心筋梗塞から30日以内の4,745人のランダム化比較試験(COLCOT)。コルヒチン0.5mgを1日1回、中央値22.6か月で、心血管死・心筋梗塞・脳卒中などの複合が7.1%から5.5%に減った(23%減少)。肺炎は0.9%対0.4%と多かった。
- Colchicine in Patients with Chronic Coronary Disease著者:Nidorf SM, Fiolet ATL, Mosterd A, ほか(最終著者 Thompson PL)雑誌:N Engl J Med. 2020;383(19):1838-1847発行日:2020年11月5日(オンライン公開 2020年8月31日)DOI:10.1056/NEJMoa2021372要約:安定した冠動脈疾患の5,522人のランダム化比較試験(LoDoCo2)。コルヒチン0.5mgを1日1回、中央値28.6か月で、心血管死・心筋梗塞・脳梗塞・血行再建の複合が9.6%から6.8%に減った(31%減少)。心血管以外の死亡は多い傾向だった。
- Colchicine in Acute Myocardial Infarction著者:Jolly SS, d’Entremont MA, Lee SF, ほか(最終著者 Yusuf S)雑誌:N Engl J Med. 2025;392(7):633-642発行日:2025年2月13日(オンライン公開 2024年11月17日)DOI:10.1056/NEJMoa2405922要約:心筋梗塞でカテーテル治療を受けた直後の7,062人のランダム化比較試験(CLEAR SYNERGY)。中央値3年で、心血管死・心筋梗塞・脳卒中・血行再建の複合は9.3%対9.1%と差がなかった。CRPは下がり、下痢は10.2%対6.6%と多かった。
- Long-term colchicine for the prevention of vascular recurrent events in non-cardioembolic stroke (CONVINCE): a randomised controlled trial著者:Kelly P, Lemmens R, Weimar C, ほか雑誌:Lancet. 2024;404(10448):125-133発行日:2024年7月13日(オンライン公開 2024年6月7日)DOI:10.1016/S0140-6736(24)00968-1要約:心臓由来でない脳梗塞または一過性脳虚血発作の3,154人を、通常治療にコルヒチンを加える群と加えない群に分けた非盲検試験(CONVINCE)。中央値34か月で、再発などの複合は9.8%対11.7%と少なかったが、有意差はなかった。
- Colchicine in patients with acute ischaemic stroke or transient ischaemic attack (CHANCE-3): multicentre, double blind, randomised, placebo controlled trial著者:Li J, Meng X, Shi FD, ほか(最終著者 Wang Y)雑誌:BMJ. 2024;385:e079061発行日:2024年6月26日DOI:10.1136/bmj-2023-079061要約:中国の244病院で、軽症〜中等症の脳梗塞または一過性脳虚血発作を起こし、高感度CRPが2mg/L以上の8,343人を対象にしたランダム化比較試験。発症24時間以内から90日間コルヒチンを飲んでも、脳卒中は6.3%対6.5%と差がなかった。
- Colchicine for the secondary prevention of cardiovascular events著者:Ebrahimi F, Ebrahimi R, Beer M, ほか雑誌:Cochrane Database Syst Rev. 2025;11(11):CD014808発行日:2025年11月13日DOI:10.1002/14651858.CD014808.pub2要約:心血管病のある人を対象に、低用量コルヒチンを6か月以上使った12試験、22,983人の系統的レビュー。心筋梗塞は26%、脳卒中は33%減り(確実性が高い)、重い有害事象は増えなかった。死亡は減らず、胃腸の副作用は多かった。
- Colchicine for secondary prevention of vascular events: a meta-analysis of trials著者:d’Entremont MA, Poorthuis MHF, Fiolet ATL, ほか(最終著者 Jolly SS)雑誌:Eur Heart J. 2025;46(26):2564-2575発行日:2025年7月7日(オンライン公開 2025年5月2日)DOI:10.1093/eurheartj/ehaf210要約:冠動脈疾患または脳卒中の既往がある人を対象にした9試験、30,659人のメタ解析。コルヒチンで心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合は12%減ったが、胃腸の症状による入院は35%増えた。肺炎、がん、心血管以外の死亡は増えなかった。
- Colchicine Therapy and Plaque Stabilization in Patients With Acute Coronary Syndrome: A CT Coronary Angiography Study著者:Vaidya K, Arnott C, Martínez GJ, ほか(最終著者 Patel S)雑誌:JACC Cardiovasc Imaging. 2018;11(2 Pt 2):305-316発行日:2018年2月(オンライン公開 2017年10月18日)DOI:10.1016/j.jcmg.2017.08.013要約:急性冠症候群から1か月以内の80人を対象にした、くじ引きで分けていない観察研究。1年後の冠動脈CTで、コルヒチン群は不安定なプラークの指標である低吸収プラーク量が40.9%減り(対照群17.0%)、高感度CRPも下がった。
- Effect of colchicine on progression of known coronary atherosclerosis in patients with stable coronary artery disease: EKSTROM randomized placebo controlled trial著者:Budoff MJ, Bhandari M, Iskander B, ほか(最終著者 Lakshmanan S)雑誌:Eur Heart J Cardiovasc Imaging. 2026;27(4):682-692発行日:2026年3月27日(オンライン公開 2026年2月11日)DOI:10.1093/ehjci/jeag028要約:安定した冠動脈疾患の84人(完了72人)をコルヒチン0.5mgと偽薬に分けたランダム化比較試験。12か月後の冠動脈CTで、主要評価項目の低吸収プラーク量に差はなく、プラーク全体の割合の増加は0.3%対1.4%と小さかった。
- COLchicine and Non-enteric Coated Aspirin in the Cardiovascular Outcomes Trial of Patients With Type 2 Diabetes (COLCOT-T2D)著者:Montreal Heart Institute(試験実施主体)雑誌:ClinicalTrials.gov 登録情報(NCT05633810)発行日:2026年3月9日更新URL:clinicaltrials.gov(NCT05633810)要約:心血管病を起こしたことのない2型糖尿病の人を対象に、低用量コルヒチンとアスピリンの効果を調べる大規模試験の登録情報。2022年12月に始まり、参加者を募集中で、主要な結果がまとまる見込みは2027年12月とされている。
- 2024 ESC Guidelines for the management of chronic coronary syndromes著者:Vrints C, Andreotti F, Koskinas KC, ほか(ESC Scientific Document Group)雑誌:Eur Heart J. 2024;45(36):3415-3537発行日:2024年9月29日(オンライン公開 2024年8月30日)DOI:10.1093/eurheartj/ehae177要約:欧州心臓病学会の慢性冠症候群ガイドライン。動脈硬化による冠動脈疾患の人に、心筋梗塞・脳卒中・血行再建を減らす目的で、低用量コルヒチン0.5mgの追加を「検討すべき(クラスIIa)」とした。CLEAR SYNERGYの発表前の推奨である。