2026年11月03日

海藻を分解する腸内細菌は日本人の約9割に!「海から来た遺伝子」の秘密と健康への影響
Seaweed and Gut Microbiota
日本人のおなかにいる「海から来た遺伝子」の話
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年11月3日
海苔、ワカメ、昆布、ひじき。日本の食卓には、ごく当たり前に海藻が並びます。
ところが、海藻に含まれる食物繊維は、人の体の力だけでは分解できません。その役目を担っているのは、腸にすむ細菌たちです。しかも日本人の腸内細菌の中には、もともと海の細菌が持っていた遺伝子を受け継いだものがいることが、わかってきました。
この記事では、海藻を分解する腸内細菌について、研究でわかっていることと、まだわかっていないことを分けて整理します。
Point
この記事のポイント
- 海藻の食物繊維は陸の植物とつくりが違い、分解には専用の酵素を持つ腸内細菌が必要です
- その遺伝子は海の細菌から腸内細菌へ移ったと考えられ、日本人の約9割が持つ一方、欧米では少数です
- 健康への影響は研究の途中です。昆布などのとりすぎによるヨウ素の過剰にも気をつけましょう
海藻の食物繊維は、人には分解できない
私たちの大腸には、野菜や穀物など、陸の植物の食物繊維を分解する細菌がたくさんすんでいます。一方で、海藻を食べる習慣は人類の歴史の中では比較的新しく、食べる地域も限られてきました[1]。
ごはんのでんぷんなら、人は自分の消化酵素で分解して吸収できます。けれども、食物繊維のような複雑な糖(多糖)を分解する酵素の多くは、人の遺伝子には備わっていません。そこを肩代わりしているのが腸内細菌です[2]。
なかでも海藻の多糖は、陸の植物にはない独特のものです[1]。含まれる多糖の割合は種類によって約3〜71%と幅があり、海藻の仲間ごとに整理すると次のようになります[3]。
| 仲間 | 身近な例 | 主な多糖 |
|---|---|---|
| 褐藻 | ワカメ、昆布、ひじきなど | アルギン酸、フコイダン、ラミナリン |
| 紅藻 | 海苔、寒天の原料になる海藻など | ポルフィラン、寒天、カラギーナン |
| 緑藻 | あおさなど | ウルバン |
文献[3]をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
多糖はそれぞれ構造が違うため、分解するにはそれに合った専用の酵素が要ります。つまり、その酵素の遺伝子を持つ細菌が腸にいるかどうかが、カギになるわけです。
海の細菌から、腸内細菌へ
2010年、フランスの研究チームが、海にすむ細菌(ゾベリア・ガラクタニボランス)から、海苔の多糖ポルフィランを分解する酵素を初めて見つけました[2]。
驚きはその先にありました。同じ仲間の遺伝子が、日本人の腸から見つかった細菌「バクテロイデス・プレビウス」にも入っていたのです。寒天の成分を分解する酵素の遺伝子も、一緒に移っていました。日本人13人の腸内細菌の遺伝子データを調べると4人から見つかりましたが、北米の18人からは一つも見つかりませんでした[2]。
研究の種類遺伝子解析を中心とした基礎研究/比較 日本人13人と北米の18人の腸内細菌の遺伝子データ
細菌の世界では、親から子へだけでなく、種類の違う菌どうしで遺伝子が受け渡されることがあります。海の細菌の遺伝子が、こうして腸内細菌に入り込んだと考えられているのです[1]。
論文では、日本人が食べる海藻は1人1日あたり14.2gで、なかでも海苔がもっとも重要な海藻だと紹介されています。研究チームは、海の細菌がついたままの海藻を食べるうちに、その遺伝子が腸内細菌へ渡ったのではないかと考えています[2]。
日本人の約9割が持っている
その後の研究で、日本人の腸内細菌の特徴がさらに見えてきました。
日本人106人と、ほかの11か国の人の腸内細菌を比べた2016年の研究では、日本人の腸内細菌には、糖を分解して利用する働きにかかわる遺伝子が多いことがわかりました。ビフィズス菌が多く、メタンをつくる遺伝子が少ないといった特徴も報告されています[4]。
2026年には、日本人5,000人以上を含む37か国、約3万2千件のデータを比べた結果が報告されました。日本人の腸内細菌は、全体としては欧米などの高所得国に近い構成です。それでも、海苔やワカメなどの多糖を分解する酵素の遺伝子を持つ人は、日本人では約9割。欧米の国々では0〜17%ほどにとどまりました。食文化の違いが、腸内細菌の遺伝子にまで表れているといえます[5]。
研究の種類総説(大規模データの国際比較を含む)/37か国、約3万2千件の腸内細菌データ
分解できる菌は、ひとつではない
海苔だけの話ではありません。褐藻の主な多糖であるアルギン酸は、海藻の重さのかなりの部分を占めます。このアルギン酸を分解する遺伝子も、海の細菌から日本人の腸内のバクテロイデスへ移ったと報告されています。研究者らは、特定の人々の腸の中で、この遺伝子が菌にとって有利に働いたとみています[6]。
2022年の研究では、海藻の多糖を分解できる腸内細菌が、これまで考えられていたより広く存在することが示されました。遺伝子はバクテロイデスのいくつもの菌種に広がり、別のグループ(フィルミクテス門)の菌からも、海の細菌に由来する遺伝子が見つかっています。海から腸への遺伝子の移動は一度きりではなく、何度も別々に起きていたのです[1]。
エサがあれば、菌は腸にすみつける?
あとから口に入った菌が腸に定着できるかどうかは、もとからいる腸内細菌に大きく左右され、予測がむずかしいとされています[7]。
ところがマウスの実験では、海苔の多糖ポルフィランを与えると、それを分解する遺伝子群を持つ菌が、もとの腸内細菌の違いにかかわらず安定して定着しました。与えるポルフィランの量を変えると、菌の数まで調節できたのです[7]。
食べるものが、どの菌が腸にすめるかを左右しうる。そのことを示した実験です。研究者らは、狙った菌を腸に届けて定着させる治療への応用にもつながるとしています[7]。ただし、人で同じように考えてよいかは、まだわかっていません。
健康とのつながりは?
海藻の多糖には、腸内細菌のエサとなって腸内環境を整える「プレバイオティクス」としての働きが期待されています。ただし、根拠の多くは試験管や動物での研究です。専門家による総説も、効果を確かめるには人での試験が必要だと指摘しています[3]。
海藻をよく食べる人の健康を追いかけた研究もあります。40〜69歳の約8万6千人を追跡した国内の研究では、海藻をほぼ毎日食べる人は、ほとんど食べない人に比べて、心筋梗塞などの虚血性心疾患になるリスクが、男性で24%、女性で44%低くなっていました。一方、脳卒中との関係はみられませんでした[8]。
ところが、国内4地域の約6千人を追跡した別の研究では、海藻をもっとも多く食べる男性で脳卒中、とくに脳梗塞が少なく、心臓の病気とは関係がみられませんでした。女性では、どちらとも関係がありませんでした[9]。研究によって、結果はそろっていないのです。
研究の種類前向きコホート研究/対象 40〜69歳の約8.6万人、40〜79歳の約6千人
とはいえ、この差に腸内細菌がどう関わっているのかは、まだわかっていません。海藻にはミネラルやビタミンなど、ほかの成分も含まれています[8]。観察研究だけでは、理由までは決められないのです。
海藻との上手なつきあい方
体によいイメージの強い海藻ですが、とりすぎには注意も必要です。海藻にはヨウ素が多く含まれ、ヨウ素やヒ素のとりすぎによる害についても、研究者は注意を促しています[10]。
とくに昆布はヨウ素の多い海藻です[10]。甲状腺の病気で治療中の方や、昆布を大量にとる習慣がある方は、主治医にご相談ください。
特定の海藻に偏らず、いろいろな種類を、ふだんの食事の中でとりいれていきましょう。
よくあるご質問
海藻をたくさん食べれば、海藻を分解する菌は増えますか?
マウスでは、海苔の多糖を与えることで、それを分解できる菌を腸に定着させられました。ただ、ふだんの食事で海藻を食べたときに、人の腸内細菌がどう変わるかは、まだはっきりしていません。
日本人でなくても、海藻は消化できますか?
海藻の食物繊維は、もともと人の消化酵素では分解できません。分解する遺伝子を持つ腸内細菌は欧米の人の一部にもいますが、日本人に比べるとずっと少ないことがわかっています。
昆布だしを毎日使っても大丈夫ですか?
昆布はヨウ素の多い海藻です。甲状腺の病気で治療中の方や、昆布を大量にとる習慣がある方は、一度ご相談ください。
当院でのサポート
当院では、管理栄養士4名が食事の相談に応じています。海藻を含めた食物繊維のとり方など、一人ひとりの生活に合わせて一緒に考えていきます。
ご自身の腸内細菌のバランスを知りたい方には、自費診療で腸内フローラ検査(マイキンソー プロ)も行っています。便通の乱れやおなかの張りが続く方は、消化器内科として診察しますので、お気軽にご相談ください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- Diverse events have transferred genes for edible seaweed digestion from marine to human gut bacteria著者:Pudlo NA, Pereira GV, Parnami J, ほか雑誌:Cell Host Microbe. 2022;30(3):314-328.e11発行日:2022年3月DOI:10.1016/j.chom.2022.02.001要約:海藻の多糖を分解する能力が、これまで考えられていたより広く人の腸内細菌に存在することを示した。遺伝子はバクテロイデスの複数の菌種やフィルミクテス門の菌にもみられ、海から腸への遺伝子の移動は何度も別々に起きていた。
- Transfer of carbohydrate-active enzymes from marine bacteria to Japanese gut microbiota著者:Hehemann JH, Correc G, Barbeyron T, ほか雑誌:Nature. 2010;464(7290):908-912発行日:2010年4月DOI:10.1038/nature08937要約:海の細菌ゾベリアから、海苔の多糖ポルフィランを分解する酵素を初めて同定した。同じ遺伝子は日本人由来の腸内細菌バクテロイデス・プレビウスに移っており、日本人の腸内細菌データでは見つかったが、北米の人では見つからなかった。
- Prebiotics from Seaweeds: An Ocean of Opportunity?著者:Cherry P, Yadav S, Strain CR, ほか雑誌:Mar Drugs. 2019;17(6):327発行日:2019年6月DOI:10.3390/md17060327要約:海藻の多糖やポリフェノールなどを腸内細菌がどう利用するかをまとめた総説。褐藻にはアルギン酸など、紅藻には寒天やポルフィランなどが含まれると整理し、プレバイオティクスとしての効果の確認には人での試験が必要とした。
- The gut microbiome of healthy Japanese and its microbial and functional uniqueness著者:Nishijima S, Suda W, Oshima K, ほか雑誌:DNA Res. 2016;23(2):125-133発行日:2016年(オンライン公開 2016年3月)DOI:10.1093/dnares/dsw002要約:日本人106人の腸内細菌の遺伝子を解析し、ほかの11か国のデータと比較した研究。日本人はビフィズス菌が多く、糖の分解・利用にかかわる遺伝子が多い一方、メタンをつくる遺伝子は少ないなど、独自の特徴を示した。
- The Japanese gut microbiome: ecology, uniqueness, and impact on health and disease著者:Nishijima S, Hattori M, Nagata N雑誌:Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 2026;102(2):82-103発行日:2026年2月DOI:10.2183/pjab.102.006要約:日本人の腸内細菌研究をまとめた総説。日本人を含む37か国、約3万2千件の腸内細菌データを比較した。海藻の多糖を分解する酵素の遺伝子を持つ人は日本人で約9割にのぼり、ほかの地域ではまれだった。
- Characterization of the first alginolytic operons in a marine bacterium: from their emergence in marine Flavobacteriia to their independent transfers to marine Proteobacteria and human gut Bacteroides著者:Thomas F, Barbeyron T, Tonon T, ほか雑誌:Environ Microbiol. 2012;14(9):2379-2394発行日:2012年9月DOI:10.1111/j.1462-2920.2012.02751.x要約:海の細菌ゾベリアで、褐藻の主な多糖アルギン酸を分解する遺伝子群を初めて解析した。この遺伝子群は海の細菌で生まれ、海洋のプロテオバクテリアと日本人の腸内のバクテロイデスへ、それぞれ別々に移ったと示した。
- An exclusive metabolic niche enables strain engraftment in the gut microbiota著者:Shepherd ES, DeLoache WC, Pruss KM, ほか雑誌:Nature. 2018;557(7705):434-438発行日:2018年5月DOI:10.1038/s41586-018-0092-4要約:マウスに海苔の多糖ポルフィランを与えると、それを分解する遺伝子群を持つバクテロイデスの株が、もとの腸内細菌の違いにかかわらず安定して定着した。与える量によって、腸内での菌の数を調節できることも示した。
- Seaweed intake and risk of cardiovascular disease: the Japan Public Health Center-based Prospective (JPHC) Study著者:Murai U, Yamagishi K, Sata M, ほか雑誌:Am J Clin Nutr. 2019;110(6):1449-1455発行日:2019年12月DOI:10.1093/ajcn/nqz231要約:40〜69歳の日本人男女約8.6万人を追跡したJPHC研究。海藻をほぼ毎日食べる人は、ほとんど食べない人に比べ、虚血性心疾患のリスクが男性0.76倍、女性0.56倍だった。脳卒中との関連はみられなかった。
- Seaweed Intake and Risk of Cardiovascular Disease: The Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS)著者:Chichibu H, Yamagishi K, Kishida R, ほか雑誌:J Atheroscler Thromb. 2021;28(12):1298-1306発行日:2021年12月(オンライン公開 2021年2月)DOI:10.5551/jat.61390要約:国内4地域の40〜79歳、6,169人を追跡したコホート研究。海藻を最も多く食べる男性は、食べない男性に比べて脳卒中のリスクが0.63倍、脳梗塞が0.59倍だった。女性や、心臓の病気との関連はみられなかった。
- Risks and benefits of consuming edible seaweeds著者:Cherry P, O’Hara C, Magee PJ, ほか雑誌:Nutr Rev. 2019;77(5):307-329発行日:2019年5月DOI:10.1093/nutrit/nuy066要約:食用海藻の栄養成分と、人での健康効果の研究を整理した総説。機能性食品としての可能性を示す一方、ヨウ素やヒ素のとりすぎによる害にも注意が必要とした。効果を確かめるには、人での介入研究がさらに必要だとまとめている。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介(日本消化器病学会専門医・日本消化器内視鏡学会専門医)