2026年10月03日

SGLT2阻害薬で長生きできる」は本当?寿命への効果と健康な人が飲むべきではない理由
SGLT2 Inhibitors and Longevity
SGLT2阻害薬で寿命は延びるのか
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月3日
「SGLT2阻害薬を飲むと長生きできるらしい」。そんな話を耳にした方もいるかもしれません。
結論から言うと、答えは「誰が飲むか」で大きく変わります。心臓や腎臓の病気を抱える人では、大規模な臨床試験で死亡が減ることが示されています[1][2][3]。一方で、健康な人が飲んで寿命が延びるという根拠は、いまのところありません。
この記事では、わかっていることと、まだわからないことを分けて整理します。
Point
この記事のポイント
- 心血管病のある2型糖尿病、心不全、慢性腎臓病の人を対象にした試験では、死亡の減少が確かめられています
- 試験データをもとにした推計では、年単位で寿命が延びる可能性が示されています。ただし、あくまで推計です
- 健康な人での寿命の延長は確かめられていません。マウスでは、雄で寿命が延びた一方、雌で縮んだ実験もあります
死亡を減らした臨床試験
薬を飲むグループと偽薬(プラセボ)のグループをくじ引きで分け、死亡の割合を比べた試験の代表的な結果です。
研究の種類ランダム化比較試験/対象 4,304〜17,160人(試験ごと)
| 試験名 | 対象 | 死亡全体(偽薬→薬) |
|---|---|---|
| EMPA-REG OUTCOME エンパグリフロジン | 心血管病のある2型糖尿病の7,020人 | 8.3%→5.7%、32%減少 |
| DAPA-HF ダパグリフロジン | 駆出率40%以下の心不全の4,744人 | 13.9%→11.6%、17%減少 |
| DAPA-CKD ダパグリフロジン | 慢性腎臓病の4,304人 | 6.8%→4.7%、31%減少 |
| DECLARE-TIMI 58 ダパグリフロジン | 心血管病またはその危険因子のある2型糖尿病の17,160人 | 6.6%→6.2%、はっきりした差なし |
各試験の論文をもとに作成[1][2][3][4]。追跡期間の中央値は約1.5〜4.2年です。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
見落とせないのは、最後の試験です。心血管病のある人に加えて、危険因子を持つ段階の人を多く含んだDECLARE-TIMI 58では、心不全による入院は減ったものの、死亡全体にははっきりした差が出ませんでした[4]。どの試験でも同じように死亡が減ったわけではありません。
EMPA-REG OUTCOMEでは、死亡の減少は試験の早い段階から現れ、最後まで続きました。ただ、心筋梗塞や脳卒中そのものは減っておらず、大きく減ったのは心血管の病気による死亡と心不全による入院でした[1]。
減っているのは、おもに心臓の病気による死亡
SGLT2阻害薬の大規模試験13件、約9万人をまとめた解析では、心血管の病気による死亡が14%減っていました。一方、心血管以外の原因による死亡には、はっきりした差がありませんでした[5]。
研究の種類ランダム化比較試験のメタ解析/対象 13試験・90,409人
同じ解析では、心血管死または心不全による入院も23%減っており、糖尿病の有無で差はありませんでした[5]。つまり、死亡が減る理由の多くは、心不全などの心臓の病気を防ぐところにあると考えられます。老化そのものを遅らせているのかどうかは、この結果からはわかりません。
「何年延びるのか」を推計した研究
糖尿病がある60歳の人は、ない人に比べて寿命が6〜7年短いと見積もられています[6]。とはいえ、試験の期間は数年です。そこで、効果が長く続くと仮定して、生涯でどれだけ寿命が延びるかを計算した研究があります。
EMPA-REG OUTCOMEのデータを使った推計では、心血管病のある2型糖尿病の人がエンパグリフロジンを続けると、平均余命は45歳で4.5年、60歳で2.5年、80歳で1.0年延びると見積もられました[6]。
ほかの薬との組み合わせでも推計があります。駆出率が低下した心不全では、SGLT2阻害薬を含む4種類の薬を使うと、従来の治療に比べて生存期間が55歳で6.3年、80歳で1.4年延びるとされています[7]。尿にアルブミンが出ている2型糖尿病でも、SGLT2阻害薬を含む3剤の併用で、50歳なら約2.4年の延長が見込まれました。これは3剤を合わせた効果で、SGLT2阻害薬だけの上乗せ分ではありません[8]。
研究の種類臨床試験データをもとにした推計(モデル解析)
ただし、どれも「効果が長く続く」という前提に立った計算で、実際に寿命を測ったわけではありません。延びる年数は若い人ほど大きく、年齢が上がるほど小さくなっていました[6][7]。また「平均で2.5年」というのは集団全体でならした値で、一人ひとりが同じだけ長生きするという意味ではありません。
マウスでは寿命が延びた。ただし雄だけ
薬が老化そのものを遅らせるかは、まず動物で確かめられます。米国の研究プログラムで、遺伝的に多様なマウスにカナグリフロジンを生後7か月から与えたところ、雄では寿命の中央値が14%延び、長生きした上位1割が到達した年齢も9%延びました。ところが、雌では延びませんでした[9]。
生後16か月という、人でいえば中年にあたる時期から始めた実験では、雄で14%延びた一方、雌では6%短くなっています。高齢の雌では、血液中の薬の濃度が若い雄の約20倍に達していたことも報告されました[10]。
寿命が延びる理由については、尿に糖が出ることで体が断食に近い状態になり、老化に関わる栄養センサーの働きが変わるという仮説があります[11]。ただ、これは主に動物や細胞の研究にもとづく考え方で、人で確かめられたものではありません。
健康な人が飲めば長生きできる?
現時点での答えは「わからない」です。健康な人で寿命や死亡への効果を確かめた大規模な試験の結果は、まだ報告されていません。
一方で、副作用はあります。性器の感染症は試験でも増えていましたし[1]、まれながら、血液が酸性に傾くケトアシドーシスや脱水が起こることもあります[12]。日本では、糖尿病に加えて、一部の薬が慢性心不全や慢性腎臓病の治療薬として承認されていますが[13][12]、寿命を延ばす目的で承認された薬ではありません。高齢の方では、脱水や筋肉量の低下にも注意が必要です[12]。
「長生きのために」と、処方された以外の人がSGLT2阻害薬を飲むことはおすすめしません。心不全、慢性腎臓病、心血管病のある2型糖尿病など、効果が確かめられた病気がある方にとっては、寿命に関わる大切な薬です。自己判断で中止せず、主治医と相談してください。
こんな方は、一度ご相談ください
- 糖尿病があり、心臓や腎臓の合併症が気になる
- 健診で腎臓の数値(eGFR)の低下や、尿たんぱくを指摘された
- 息切れやむくみがあり、心臓の働きが気になる
よくあるご質問
健康診断で異常がなくても、予防のために飲めますか?
おすすめできません。健康な人で寿命や死亡を減らす効果は確かめられておらず、副作用のリスクだけを負う可能性があります。まずは血圧や血糖、腎臓の働きなど、いまの状態を確かめることから始めましょう。
糖尿病で飲んでいます。寿命が延びると考えてよいですか?
心血管病のある2型糖尿病では死亡を減らした試験がありますが、試験によって結果は異なります。血圧や脂質の管理、禁煙などとあわせて、続けていくことが大切です。
マウスで寿命が延びたなら、人でも延びるのでは?
マウスの結果が、そのまま人に当てはまるとは限りません。雌のマウスでは寿命が縮んだ実験もあり、人での確認が必要です。
当院でのサポート
当院では、血液検査や尿検査で糖尿病や慢性腎臓病の有無を確かめ、SGLT2阻害薬が役に立つかどうかを一緒に考えます。血管の硬さを調べるPWV・ABI検査で、動脈硬化の程度を評価することもできます。
「長生きのために何ができるか」を知りたい方も、まずは今の体の状態を知るところから始めてみてください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- Empagliflozin, Cardiovascular Outcomes, and Mortality in Type 2 Diabetes著者:Zinman B, Wanner C, Lachin JM, ほか(最終著者 Inzucchi SE)雑誌:N Engl J Med. 2015;373(22):2117-2128発行日:2015年11月26日DOI:10.1056/NEJMoa1504720要約:心血管病のある2型糖尿病7,020人のランダム化比較試験。中央値3.1年で、エンパグリフロジン群は心血管死・心筋梗塞・脳卒中の複合が14%少なく、心血管死は38%、全死亡は32%(8.3%対5.7%)少なかった。性器感染症は増えた。
- Dapagliflozin in Patients with Heart Failure and Reduced Ejection Fraction著者:McMurray JJV, Solomon SD, Inzucchi SE, ほか(最終著者 Langkilde AM)雑誌:N Engl J Med. 2019;381(21):1995-2008発行日:2019年11月21日DOI:10.1056/NEJMoa1911303要約:駆出率40%以下で症状のある心不全4,744人のランダム化比較試験。中央値18.2か月で、心不全の悪化または心血管死がダパグリフロジン群で26%少なく、全死亡も11.6%対13.9%で17%少なかった。効果は糖尿病の有無で同様だった。
- Dapagliflozin in Patients with Chronic Kidney Disease著者:Heerspink HJL, Stefánsson BV, Correa-Rotter R, ほか(最終著者 Wheeler DC)雑誌:N Engl J Med. 2020;383(15):1436-1446発行日:2020年10月8日DOI:10.1056/NEJMoa2024816要約:糖尿病の有無を問わない慢性腎臓病4,304人のランダム化比較試験。中央値2.4年で、腎機能の大幅な低下・末期腎不全・腎臓または心血管による死亡がダパグリフロジン群で39%少なく、全死亡も4.7%対6.8%で31%少なかった。
- Dapagliflozin and Cardiovascular Outcomes in Type 2 Diabetes著者:Wiviott SD, Raz I, Bonaca MP, ほか(最終著者 Sabatine MS)雑誌:N Engl J Med. 2019;380(4):347-357発行日:2019年1月24日DOI:10.1056/NEJMoa1812389要約:心血管病があるか、その危険因子を持つ2型糖尿病17,160人(約6割は心血管病なし)のランダム化比較試験。中央値4.2年で、心血管死または心不全入院は17%減ったが、心血管死と全死亡(6.2%対6.6%)にははっきりした差がなかった。
- Impact of diabetes on the effects of sodium glucose co-transporter-2 inhibitors on kidney outcomes: collaborative meta-analysis of large placebo-controlled trials著者:Nuffield Department of Population Health Renal Studies Group; SGLT2 inhibitor Meta-Analysis Cardio-Renal Trialists’ Consortium雑誌:Lancet. 2022;400(10365):1788-1801発行日:2022年11月19日DOI:10.1016/S0140-6736(22)02074-8要約:大規模なプラセボ対照試験13件、90,409人を統合したメタ解析。SGLT2阻害薬は腎臓病の進行を37%、急性腎障害を23%減らし、心血管死も14%減らした。一方、心血管以外の原因による死亡には有意な差がみられなかった。
- Long-Term Benefit of Empagliflozin on Life Expectancy in Patients With Type 2 Diabetes Mellitus and Established Cardiovascular Disease: Survival Estimates From the EMPA-REG OUTCOME Trial著者:Claggett B, Lachin JM, Hantel S, ほか(最終著者 Zinman B)雑誌:Circulation. 2018;138(15):1599-1601発行日:2018年10月9日DOI:10.1161/CIRCULATIONAHA.118.033810要約:EMPA-REG OUTCOMEのデータを用い、効果が長く続くと仮定して平均余命への影響を推計した研究。心血管病のある2型糖尿病では、エンパグリフロジンにより平均余命が45歳で4.5年、60歳で2.5年、80歳で1.0年延びると推計された。
- Estimating lifetime benefits of comprehensive disease-modifying pharmacological therapies in patients with heart failure with reduced ejection fraction: a comparative analysis of three randomised controlled trials著者:Vaduganathan M, Claggett BL, Jhund PS, ほか(最終著者 Solomon SD)雑誌:Lancet. 2020;396(10244):121-128発行日:2020年7月11日DOI:10.1016/S0140-6736(20)30748-0要約:3つの大規模試験のデータから、駆出率が低下した心不全でARNI・β遮断薬・MRA・SGLT2阻害薬の4剤併用と従来治療を比べた推計。全死亡のハザード比は0.53で、生存期間は80歳で1.4年、55歳で6.3年延びると見積もった。
- Estimated Lifetime Cardiovascular, Kidney, and Mortality Benefits of Combination Treatment With SGLT2 Inhibitors, GLP-1 Receptor Agonists, and Nonsteroidal MRA Compared With Conventional Care in Patients With Type 2 Diabetes and Albuminuria著者:Neuen BL, Heerspink HJL, Vart P, ほか雑誌:Circulation. 2024;149(6):450-462発行日:2024年2月6日DOI:10.1161/CIRCULATIONAHA.123.067584要約:尿アルブミンが出ている2型糖尿病で、SGLT2阻害薬・GLP-1受容体作動薬・非ステロイド型MRAの3剤併用の生涯効果を12の試験データから推計した研究。50歳で始めると、従来治療に比べ生存期間が約2.4年延びると見積もった。
- Canagliflozin extends life span in genetically heterogeneous male but not female mice著者:Miller RA, Harrison DE, Allison DB, ほか(最終著者 Strong R)雑誌:JCI Insight. 2020;5(21):e140019発行日:2020年11月5日(オンライン公開 2020年9月29日)DOI:10.1172/jci.insight.140019要約:米国の老化介入試験プログラム(ITP)で、遺伝的に多様なマウスに生後7か月からカナグリフロジンを与えた研究。雄では寿命の中央値が14%、上位10%が生きる年齢も9%延びたが、雌では寿命は延びなかった。
- Lifespan effects in male UM-HET3 mice treated with sodium thiosulfate, 16-hydroxyestriol, and late-start canagliflozin著者:Miller RA, Harrison DE, Cortopassi GA, ほか(最終著者 Strong R)雑誌:GeroScience. 2024;46(5):4657-4670発行日:2024年10月(オンライン公開 2024年5月16日)DOI:10.1007/s11357-024-01176-2要約:ITPで、カナグリフロジンを生後16か月から始めた試験を含む報告。雄では寿命の中央値が14%延びた一方、雌では6%短くなった。高齢の雌では血中濃度が若い雄の約20倍に達しており、雌に特有の晩年の害の可能性が示された。
- SGLT2 Inhibitors as Calorie Restriction Mimetics: Insights on Longevity Pathways and Age-Related Diseases著者:Hoong CWS, Chua MWJ雑誌:Endocrinology. 2021;162(8):bqab079発行日:2021年8月DOI:10.1210/endocr/bqab079要約:SGLT2阻害薬をカロリー制限に似た作用をもつ薬として捉えた総説。尿に糖を出してインスリンを下げ、脂肪やケトン体の利用を促すことで、AMPKやSIRT1などの長寿に関わる経路に働く可能性を整理した。主に動物・細胞研究にもとづく仮説である。
- CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation著者:日本腎臓学会「CKD治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するrecommendation」作成委員(委員長 深水圭)雑誌:日腎会誌. 2023;65(1):1-10発行日:2023年(2022年11月29日策定)URL:cdn.jsn.or.jp(日本腎臓学会、PDF)要約:日本腎臓学会が日本糖尿病学会と連携して策定した提言。糖尿病のない慢性腎臓病にも一部のSGLT2阻害薬が使えるようになったことを受け、ケトアシドーシスや脱水、尿路・性器感染症への注意と、シックデイや手術前の休薬を示した。
- 心不全治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation著者:日本循環器学会・日本心不全学会(作成委員 伊藤浩、絹川弘一郎、桑原宏一郎、田中敦史、野出孝一、室原豊明)雑誌:日本循環器学会ウェブサイト(ステートメント)発行日:2023年6月16日URL:j-circ.or.jp(日本循環器学会、PDF)要約:日本循環器学会と日本心不全学会の提言。ダパグリフロジンとエンパグリフロジンは2020年以降、心不全にも適応が広がり、糖尿病の有無や駆出率にかかわらず心不全イベントを抑えるとして、使用の積極的な検討と副作用への注意を示した。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介