2026年11月01日

Atopic Cough
のどのイガイガと乾いた咳が続く、アトピー咳嗽
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年11月1日
「のどがイガイガ、ムズムズして咳が出る」「痰はほとんど出ないのに、乾いた咳が何週間も続く」。こうした咳の原因の一つが、アトピー咳嗽(がいそう)です[1]。
日本の指針でも、アトピー咳嗽は、のどのアレルギー(喉頭アレルギー)とあわせて、痰の少ない乾いた咳が長引く主な原因の一つに挙げられています[2]。名前が似ている咳喘息とは、病気のしくみも治療も異なります[1]。この記事では、アトピー咳嗽の特徴と咳喘息との見分け方、治療の考え方を整理します。
Point
この記事のポイント
- アトピー咳嗽は、アレルギー体質のある人に、のどのイガイガ感を伴う乾いた咳が長く続く病気です
- 咳喘息と違って気管支拡張薬は効かず、喘息に移行することはまれです
- 治療の第一選択は抗ヒスタミン薬で、効果が不十分なときは吸入ステロイドを使います
アトピー咳嗽とは
アトピー咳嗽は、1992年に日本の研究グループが提唱した病気です[3]。のどの「イガイガ」「ムズムズ」とした感じを伴う、痰の少ない咳が8週間以上続き、喘鳴や息苦しさはありません。アレルギーの病気の既往や家族歴、血液中の好酸球の増加、IgE抗体の上昇など、アトピー素因(アレルギー体質)がみられるのが特徴です[1]。
咳の原因は、のどに近い太い気道、とくに気管に起こる好酸球の炎症です。気道が狭くなりやすい「気道過敏性」はなく、咳を起こすセンサーが敏感になっている(咳の感受性が高い)ことがわかっています。この感受性は、治療で咳がおさまると正常に戻ります。患者さんが訴えるのどの違和感は、首の前の気管のあたりにあることが多いとされます[1]。
北陸地方で行われた多施設の研究では、慢性の咳の原因として、咳喘息(43.6%)、アトピー咳嗽(35.8%)、副鼻腔気管支症候群(25.5%)が多くみられました[1]。
咳喘息との違い
| 項目 | アトピー咳嗽 | 咳喘息 |
|---|---|---|
| 咳の性質 | 痰の少ない乾いた咳。のどのイガイガ感を伴う | 痰の少ない乾いた咳 |
| 炎症の場所 | 気管など太い気道 | 太い気道から細い気道まで |
| 気道過敏性 | ない | ある |
| 咳の感受性 | 高まっている | 主な特徴ではない |
| 呼気NO(FeNO) | 咳喘息より低い | 喘息と同じくらい |
| 気管支拡張薬 | 効かない | 効く |
| 第一選択の薬 | 抗ヒスタミン薬 | 気管支拡張薬(その後、吸入ステロイド) |
| 喘息への移行 | まれ | 治療しないと約3割 |
アトピー咳嗽を提唱した日本の研究グループの総説と研究をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
アトピー咳嗽と咳喘息は、どちらも好酸球が関わる気道の病気ですが、炎症の主な場所が違うため、気管支拡張薬の効き方が異なります。咳喘息は典型的な喘息に移行することがあるため、吸入ステロイドで治療を続けることが勧められます。一方、アトピー咳嗽では吸入ステロイドを続ける必要は必ずしもありません。そのため、両者はできるだけ厳密に見分けることが大切とされています[1]。咳喘息については、咳喘息の記事で詳しく解説しています。
検査と診断
長引く咳では、まず結核や肺がん、心不全など、ほかの病気が隠れていないかを確かめます[2]。そのうえで、痰がからむ湿った咳か、痰の少ない乾いた咳かを確認し、乾いた咳では咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流による咳などを考えます。原因が複数重なっていることもあり、見きわめに数か月かかる場合もあります[4]。
気管支拡張薬を使っても咳が改善しないことは、アトピー咳嗽を考える手がかりになります。一方、ステロイドは咳喘息にもアトピー咳嗽にも効くため、ステロイドが効いたことだけで咳喘息と判断すると、取り違えるおそれがあります[3]。原因の見きわめは、薬の効き方だけでなく、病気のしくみをふまえて行うことが強く勧められています[1]。
呼気一酸化窒素(FeNO)は、両者の見分けに役立つ検査です。日本の研究では、アトピー咳嗽の人のFeNOは、咳喘息や喘息の人より明らかに低い値でした[5]。血液検査では、好酸球の数やIgE抗体、ダニや花粉などに対する特異的IgE抗体を調べ、アトピー素因の有無を確かめます[1]。
研究の種類観察研究/対象 研究に参加し、すべての検査を終えた58人
咳とともに、血の混じった痰、発熱、体重の減少、息苦しさの悪化などがある場合は、ほかの病気の可能性もあるため、早めに受診してください。
治療の考え方
治療の第一選択は、抗ヒスタミン薬(ヒスタミンH1受容体拮抗薬)です。効果が不十分な場合は、太い気道に届きやすい粒子の大きいタイプの吸入ステロイドを使い、症状によっては飲み薬のステロイドを使うこともあります[1]。
アトピー咳嗽が喘息に移行することはまれですが、咳のぶり返しは少なくありません。日本の研究では、喘息に移行したのは82人中1人だけだった一方、乾いた咳の再発は約半数にみられました[3]。
研究の種類後ろ向きの観察研究/対象 アトピー咳嗽の患者82人と、咳喘息の患者55人
のどの違和感の種類も手がかりに
慢性の咳では、のどの違和感の種類が、原因や効きやすい薬の手がかりになることがあります。のどのイガイガ感やくすぐったさにはアトピー咳嗽の要素として抗ヒスタミン薬が、のどに痰が流れ落ちる感じには副鼻腔気管支症候群の要素としてマクロライド系抗菌薬が、咳払いや声がれには胃食道逆流の要素として胃酸をおさえる薬が勧められています[1]。
また、治りにくい慢性の咳の一部では、キノコの胞子など環境中のカビが関わる可能性も研究されています[1]。
こんな方はご相談ください
- のどのイガイガ感やムズムズ感とともに、乾いた咳が3週間以上続いている
- 花粉症やアトピー性皮膚炎など、アレルギーの病気がある
- 気管支を広げる薬を使っても、咳がおさまらない
- 以前にアトピー咳嗽と言われ、また咳が出てきた
- 咳払いや声がれが続き、胸やけもある
受診の際は、咳が始まった時期や、のどの違和感の様子、アレルギーの病気の有無をメモしてお持ちください。
よくあるご質問
アトピー性皮膚炎の人だけがなる病気ですか?
いいえ。アトピー素因は、アトピー性皮膚炎に限らず、アレルギーの病気の既往や家族歴、血液検査での好酸球やIgE抗体の上昇などで判断します。
咳喘息とは、何が違うのですか?
咳喘息は気管支拡張薬が効き、治療しないと喘息に移行することがあります。アトピー咳嗽は気管支拡張薬が効かず、喘息に移行することはまれです。治療の進め方も異なるため、見分けることが大切です。
吸入ステロイドは、ずっと続ける必要がありますか?
アトピー咳嗽では、咳喘息と違って、吸入ステロイドを長く続ける必要は必ずしもありません。咳がおさまったら、医師と相談しながら治療を見直していきます。
人にうつりますか?
アトピー咳嗽は、体質と気道の炎症による病気で、感染症ではないため、人にうつることはありません。
当院でのサポート
当院では、長引く咳の経過やのどの違和感の様子を詳しくうかがい、FeNO検査や血液検査(好酸球数、IgE抗体)で、咳喘息やアトピー咳嗽などを見分けたうえで治療をご提案します。咳払いや胸やけを伴い、胃食道逆流が疑われる場合は、胃カメラで確かめることもできます。
結核や肺がんなどとの見きわめに詳しい検査が必要な場合は、連携する医療機関をご紹介します。当院の喘息の診療については、気管支喘息のページもご覧ください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
Related
あわせて読みたい記事
参考文献
- Atopic cough and fungal allergy著者:Ogawa H, Fujimura M, Ohkura N, ほか雑誌:J Thorac Dis. 2014;6(Suppl 7):S689-S698発行日:2014年10月DOI:10.3978/j.issn.2072-1439.2014.09.25要約:アトピー咳嗽を提唱した日本の研究グループによる総説。気管を中心とする好酸球の炎症と咳の感受性の亢進が特徴で、気管支拡張薬は効かず、第一選択は抗ヒスタミン薬とした。呼気NOは咳喘息より低く、喘息への移行は1.2%にとどまるとした。
- The Japanese respiratory society guidelines for the management of cough and sputum (digest edition)著者:Mukae H, Kaneko T, Obase Y, ほか雑誌:Respir Investig. 2021;59(3):270-290発行日:2021年5月DOI:10.1016/j.resinv.2021.01.007要約:日本呼吸器学会による咳嗽・喀痰の診療ガイドラインの要約版。長引く咳では結核や肺がん、心不全なども原因になりうるとし、乾いた咳の主な原因に咳喘息、アトピー咳嗽・喉頭アレルギー、胃食道逆流、感染後の咳を挙げた。
- Comparison of atopic cough with cough variant asthma: is atopic cough a precursor of asthma?著者:Fujimura M, Ogawa H, Nishizawa Y, ほか雑誌:Thorax. 2003;58(1):14-18発行日:2003年1月URL:https://thorax.bmj.com/content/58/1/14要約:アトピー咳嗽82人と咳喘息55人の経過を比べた日本の後ろ向き研究。典型的な喘息への移行はアトピー咳嗽で82人中1人にとどまり、吸入ステロイドを使わなかった咳喘息の20人中6人より少なかった。乾いた咳の再発はアトピー咳嗽の約半数にみられた。
- Practical Guidelines for Asthma Management (PGAM): Digest edition著者:Tamaoki J, Nagase H, Sano H, ほか雑誌:Respir Investig. 2025;63(3):405-421発行日:2025年5月DOI:10.1016/j.resinv.2025.03.009要約:日本喘息学会による実践ガイドラインの要約。慢性の咳を痰の有無で分け、乾いた咳では咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流による咳を考えるとした。咳喘息はアトピー咳嗽と違い気道リモデリングにつながるため、吸入ステロイドなどの治療が必要とした。
- Exhaled nitric oxide levels in patients with atopic cough and cough variant asthma著者:Fujimura M, Ohkura N, Abo M, ほか雑誌:Respirology. 2008;13(3):359-364発行日:2008年4月DOI:10.1111/j.1440-1843.2008.01273.x要約:アトピー咳嗽で呼気一酸化窒素(NO)が高くなるかを、咳喘息や喘息と比べた日本の研究。アトピー咳嗽の呼気NOは咳喘息や喘息より有意に低く、咳喘息と喘息の間には差がなかった。