第1章 健康診断の数字の正体――コレステロールとは何者か|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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第1章 健康診断の数字の正体――コレステロールとは何者か

第1章 健康診断の数字の正体――コレステロールとは何者か|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年11月05日

第1章 健康診断の数字の正体――コレステロールとは何者か

「*」の印がついた日

五十代の会社員の方を想像してみてください。毎年受けている健康診断の結果表を開くと、「LDLコレステロール 152」の横に、見慣れない「*」の印がついている。判定欄には「要医療」の文字。

自覚症状は何もありません。食欲もあるし、仕事も普通にこなせている。それでも、その小さな印を見た瞬間から、急に自分が「病人」になったような気がしてくる――。

こうした経験をお持ちの方は、決して少なくないはずです。中高年になると、健診の脂質の項目で何らかの指摘を受ける人は珍しくありません。

では、そもそもその数字は何を表しているのでしょうか。神話の正体に迫る前に、まずは健診の結果表に並ぶ言葉の意味を整理しておきましょう。ここを押さえておくだけで、本ブログの内容がぐっと理解しやすくなります。

健診の脂質の欄には、たいてい次のような項目が並んでいます。

・ 総コレステロール:血液中のコレステロールの合計量
・ LDLコレステロール:いわゆる「悪玉」。肝臓から全身へコレステロールを運ぶ粒子に含まれる量
・ HDLコレステロール:いわゆる「善玉」。全身から余ったコレステロールを回収する粒子に含まれる量
・ 中性脂肪(トリグリセライド、TG):エネルギーの貯蔵や運搬に使われる脂肪
・ non-HDLコレステロール:総コレステロールからHDLを引いた値

日本動脈硬化学会の『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』では、LDLコレステロールが140mg/dL以上を「高LDLコレステロール血症」、120〜139mg/dLを「境界域」としています。HDLコレステロールは40mg/dL未満で「低HDLコレステロール血症」、中性脂肪は空腹時で150mg/dL以上(食後などの随時採血では175mg/dL以上)で「高トリグリセライド血症」です。

ちなみに、多くの健診ではLDLコレステロールを直接測るのではなく、総コレステロールからHDLと中性脂肪の5分の1を差し引いて計算しています(フリードワルド式)。この式は空腹時の採血を前提にしているため、食後に採血した場合や中性脂肪が非常に高い場合には、正確な値が出ません。健診の朝に何を食べたかで、数字が動くこともあるのです。

ここで大切なのは、この数値が「スクリーニング(ふるい分け)」のための基準だという点です。基準を一歩超えたら即座に薬が必要、という意味ではありません。この点については、本章の最後で詳しくお話しします。

コレステロールは「命の材料」である

健診で悪者扱いされがちなコレステロールですが、私たちの体の中では、実に多くの重要な仕事を担っています。

まず、細胞そのものの材料です。人間の体は約37兆個の細胞からできているといわれますが、その一つ一つを包む「細胞膜」の主要な成分の一つがコレステロールです。コレステロールが膜に適度な硬さとしなやかさを与えることで、細胞は形を保ち、外の世界との出入りを正しくコントロールできるのです。

コレステロールの重要性がとりわけ際立つ臓器が「脳」です。

脳は体重のわずか2%ほどの重さしかありませんが、体内のコレステロールのおよそ4分の1が脳に集まっているといわれます。神経細胞から伸びる長いケーブル(軸索)は、「ミエリン(髄鞘)」と呼ばれる脂質に富んだ被覆で絶縁されています。このミエリンの重要な材料がコレステロールです。絶縁がしっかりしているからこそ、脳の電気信号は漏れることなく、すばやく伝わります。神経細胞どうしをつなぐシナプスの形成や働きにも、コレステロールは欠かせません。

興味深いことに、脳は血液中のコレステロールをそのまま取り込むことがほとんどできず、必要な分を脳の中で自ら合成しています。それほどまでに、脳にとってコレステロールは「自前で確保しておくべき」大切な物質なのです。

さらに、コレステロールは私たちの「若さと活力」を支えるホルモンの原料でもあります。

ストレスに立ち向かうためのコルチゾール、血圧や体内の水分・塩分のバランスを保つアルドステロン、男性らしさを支えるテストステロン、女性らしさを支えるエストロゲンやプロゲステロン。これらはすべて「ステロイドホルモン」と呼ばれる仲間で、例外なくコレステロールから作られます。

骨を丈夫にし、免疫の働きにも関わるビタミンDも、皮膚にあるコレステロールの一歩手前の物質(7-デヒドロコレステロール)が紫外線を浴びることで作られます。

そして、肝臓はコレステロールを材料に「胆汁酸」を作り、胆汁として腸へ送り出しています。胆汁酸は、食事の脂肪を消化・吸収するための洗剤のような役割を果たします。

細胞膜、脳と神経、ホルモン、ビタミンD、そして消化。コレステロールは、生きていくうえで一日たりとも欠かせない「命の材料」なのです。

7〜8割は体内で作られている――卵は犯人だったのか

「コレステロールが高いのは、卵や肉を食べすぎたせいだ」

多くの方がそう考えています。しかし、ここに大きな誤解があります。

血液中のコレステロールの大部分は、食事からではなく、体の中、主に肝臓で作られています。一般に、体内のコレステロールの7〜8割は自前で合成され、食事に由来するのは2〜3割程度と考えられています。

しかも私たちの体には、精巧な調整の仕組みが備わっています。食事からコレステロールを多くとると、肝臓での合成が減り、腸での吸収率も下がる。逆に食事からの量が少なければ、肝臓が合成を増やして補う。体は、必要な量を一定に保とうとしているのです。

もちろん個人差はあり、食事のコレステロールに敏感に反応して血中の値が上がりやすい人もいます。しかし多くの人にとって、卵を1個減らしたからといって、健診の数値が劇的に下がるわけではありません。

こうした知見の積み重ねを受けて、2015年、大きな転換が起きました。

アメリカでは、食事ガイドラインの諮問委員会が「コレステロールは過剰摂取を懸念すべき栄養素ではない」との見解を示し、それまで長く掲げられてきた「1日300mgまで」という上限が撤廃されました。日本でも同じ年、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」で、コレステロールの摂取目標量が撤廃されています。

かつて「卵は1日1個まで」と言われていたのを覚えている方も多いでしょう。卵1個には約200mgのコレステロールが含まれるため、この「上限」に合わせた目安だったのです。その根拠そのものが、国のレベルで見直されたわけです。

ただし、公平を期すために付け加えておきます。その後の「日本人の食事摂取基準」(2020年版、2025年版)では、すでに脂質異常症がある人の重症化予防という観点から、コレステロールの摂取を1日200mg未満にとどめることが望ましいとする記載が加えられました。また、アメリカの複数の調査をまとめた解析で、卵やコレステロールの摂取が多い人ほど心血管病が多かったとする報告もあり、議論が完全に決着したわけではありません。

それでも、「コレステロールの多い食品を食べると、そのまま血管に溜まる」という単純な図式が誤りであることは、はっきりしています。

もう一つ、特に女性の読者に知っておいていただきたいことがあります。

女性ホルモンのエストロゲンには、LDLコレステロールを下げる働きがあります。そのため、閉経を迎えてエストロゲンが減ると、食生活が変わらなくてもLDLコレステロールは自然に上昇します。五十代以降の女性の多くが健診で突然「*」をつけられるのは、食べすぎや不摂生のせいではなく、体の自然な変化によるものなのです。しかも日本人女性は、もともと心筋梗塞を起こしにくいことが知られています。この事実を知らずに、数字だけを見て慌ててしまう方が、診察室には大勢いらっしゃいます。

「善玉・悪玉」というレッテルの罪

健康診断では、HDLを「善玉」、LDLを「悪玉」と呼ぶのが当たり前になっています。しかし、この呼び名こそが、多くの人を混乱させている元凶の一つです。

はっきり言いましょう。コレステロールそのものに「善」も「悪」もありません。LDLに含まれるコレステロールも、HDLに含まれるコレステロールも、物質としてはまったく同じものです。違うのは、それを運んでいる「乗り物」の種類だけなのです。

コレステロールは脂ですから、そのままでは水が主成分の血液に溶けることができません。そこで体は、コレステロールや中性脂肪をタンパク質の殻で包んだ「リポタンパク質」という粒子に乗せて、血液の流れに送り出しています。LDLやHDLとは、このリポタンパク質の種類の名前です。

LDLは、肝臓から全身の細胞へコレステロールを届ける「配達トラック」です。古くなった細胞膜を作り直すとき、ホルモンを作るとき、傷ついた組織を修復するとき、LDLは必要な材料を現場へ運びます。

一方、HDLは、全身で使われずに余ったコレステロールを回収し、肝臓へ持ち帰る「回収トラック」です。

考えてみてください。家を建てる大工さんのもとへ木材を届けている配達トラックをつかまえて、「お前は悪玉だ」と非難する人がいるでしょうか。配達も回収も、体の物流システムを支える欠かせないインフラです。

では、なぜLDLは「悪玉」と呼ばれるようになったのか。それは、動脈硬化で厚くなった血管の壁(プラーク)を調べると、その中に決まってLDLに由来するコレステロールが大量に見つかるからです。

しかし、事件の現場に必ずいるからといって、その人物が犯人だとは限りません。火事の現場に必ず消防士がいるように、LDLは血管の傷を修復しようと集まってきている可能性があります。問題は、トラックの「数」だけではなく、トラックが「壊れていないか」、そして現場で「何が起きているか」なのです。

この点は、本ブログの核心の一つです。第4章で、血管の中で実際に何が起きているのかを詳しく見ていきましょう。

コレステロールの旅――腸から肝臓へ、そして再び腸へ

ここで、コレステロールが体の中をどのように旅しているのかを、少しだけ追いかけてみましょう。この旅を知ると、なぜ食事や薬でコレステロールの値が変わるのかが、ぐっと分かりやすくなります。

食事でとったコレステロールは、小腸で吸収されます。小腸の細胞には、コレステロールを取り込むための専用の「入り口」があり、ここから体の中へ入っていきます。ちなみに、コレステロールの吸収を抑える薬(エゼチミブ)は、この入り口をふさぐ仕組みで働いています。

吸収されたコレステロールは、中性脂肪などと一緒に「カイロミクロン」という大きな粒子に包まれ、リンパ管を通って血液に入り、やがて肝臓へと運ばれます。

肝臓は、コレステロールの「物流センター」です。食事から届いたコレステロールと、自ら合成したコレステロールを合わせ、必要な分を「VLDL」という粒子に乗せて全身へ送り出します。VLDLは、中性脂肪を全身の筋肉や脂肪組織に配りながら少しずつ小さくなり、やがてLDLへと姿を変えます。つまりLDLは、肝臓を出発した配達トラックの「後半の姿」なのです。

全身の細胞は、必要な分だけLDLを取り込みます。使われずに余ったコレステロールは、HDLに回収されて肝臓へ戻っていきます。

肝臓に戻ったコレステロールの一部は「胆汁酸」に作り替えられ、胆汁として腸へ送り出されます。胆汁酸は腸で脂肪の消化を助けたあと、その大部分が再び吸収されて肝臓に戻ります。これを「腸肝循環」と呼びます。体は、コレステロールという貴重な材料を、徹底的にリサイクルしているのです。

ここに、食物繊維がコレステロールを下げる秘密があります。水に溶けるタイプの食物繊維は、腸の中で胆汁酸を抱え込み、便と一緒に体の外へ運び出します。胆汁酸が減ると、肝臓は新しい胆汁酸を作るためにコレステロールを使うので、結果として血液中のコレステロールが下がるのです。海藻や大麦、オクラなどのネバネバした食品が体によいといわれる理由の一つは、ここにあります。

さらに、肝臓が血液中からLDLを回収するための「受け皿(LDL受容体)」の数は、肝臓の中のコレステロールの量によって調整されています。肝臓の中のコレステロールが減ると受け皿が増え、血液中のLDLがどんどん回収されて、値が下がります。スタチンが血液中のLDLを下げるのも、肝臓での合成を抑えることで、この受け皿を増やすからです。

このように、血液中のコレステロールの値は、食事、肝臓での合成、腸での吸収とリサイクル、そして肝臓への回収という、いくつもの仕組みのバランスで決まっています。「食べた分だけ増える」という単純なものではないのです。

HDLは高ければ高いほどよいのか

では、「善玉」と呼ばれるHDLは、高ければ高いほどよいのでしょうか。多くの方がそう信じていますし、確かにHDLが低いことは、動脈硬化の危険を示すサインの一つです。しかし、ここにも数字の落とし穴があります。

2000年代、製薬業界は「HDLを薬で増やせば、心臓病は減るはずだ」と考え、HDLを大幅に増やす新薬の開発に巨額の資金を投じました。ところが、そのうちの一つは、HDLを7割も増やしたにもかかわらず、心血管病や死亡をかえって増やしてしまい、2006年に開発中止に追い込まれます。その後も同じ仕組みの薬がいくつも試されましたが、HDLの数字を上げるだけでは、期待されたような効果は得られませんでした。

さらに、デンマークで行われた大規模な調査や、日本の複数の地域研究を統合した解析では、HDLが極端に高い人で、かえって死亡や心血管病による死亡が多かったとする報告もあります。

大切なのは、HDLの「量」そのものではなく、回収トラックとしてきちんと働いているかという「働き」なのです。HDLは、禁煙する、体を動かす、体重や中性脂肪を減らすといった生活の改善によって自然に増え、その働きもよくなっていきます。

薬で数字だけを動かすことと、体が自然に健康な状態へ向かうことは、まったく別のものです。善玉も悪玉も、数字の大小だけで善し悪しを決めることはできない――このことを、ぜひ覚えておいてください。

基準値は「薬を飲む線」ではない

最後に、健診の「基準値」の意味について、もう一歩踏み込んでおきます。

血圧や血糖と同じように、コレステロールの値も、ある一点を境に突然「健康」から「病気」に切り替わるわけではありません。値は連続しています。139mg/dLの人と141mg/dLの人の体に、本質的な違いがあるわけではないのです。基準値とは、連続した数値のどこかに、便宜上引かれた「線」にすぎません。

実際、日本動脈硬化学会のガイドラインも、LDLコレステロールの値だけで治療を決めることは求めていません。年齢、性別、血圧、糖尿病の有無、喫煙、HDLの値などを組み合わせて、「今後10年間に心筋梗塞や脳梗塞を起こす確率」を見積もり、その人のリスクに応じて管理の目標を変える仕組みになっています。そして、心筋梗塞などの既往がない人(一次予防)では、まず生活習慣の改善から始めるのが原則とされています。

この「リスクを計算する」という考え方は、日本人を長年追跡した研究から生まれました。2017年版のガイドラインで採用されたのは、私のクリニックがある大阪府吹田市の住民を1989年から追跡している「吹田研究」に基づくスコアでした。2022年版では、福岡県久山町の住民を対象とした「久山町研究」に基づくスコアが使われています。

つまり、医学の専門家たち自身も、「LDLの数字ひとつで人を病人と決めつけるべきではない」ことを、ある程度は認めているのです。

ところが、現実の診察室や、一般の人々の意識はどうでしょうか。健診の結果表には、リスクの計算結果ではなく、単一の数値と「*」の印だけが並びます。そして「基準値を超えた=病気=薬」という短絡的な図式が、いまも根強く残っています。

健診の数字と上手につき合うために

健診の数字に振り回されないために、知っておいていただきたいことをいくつか挙げておきます。

まず、採血の条件です。前日の夜遅くに食事をしたり、お酒を飲んだりすると、中性脂肪は大きく上がり、計算で求めるLDLの値も正確でなくなります。採血の前は10時間以上食事をとらず、水やお茶だけにしておくのが基本です。

次に、一回の数字だけで判断しないことです。コレステロールの値は、体調や季節、測定の方法によっても上下します。去年と比べて少し上がった、下がったと一喜一憂するよりも、数年分の結果を並べて、長い流れを見るほうがずっと大切です。健診の結果表は捨てずに保管し、受診するときには持参してください。

そして、数字が急に変わったときには、その「理由」を探すことです。

実は、コレステロールを上げる原因は、食事だけではありません。甲状腺の働きが低下すると、LDLコレステロールは目立って上がります。腎臓の病気の一部や糖尿病、ステロイドなど一部の薬も、コレステロールを上げることがあります。こうしたものを「続発性脂質異常症」と呼びます。この場合に必要なのは、コレステロールを下げる薬ではなく、もとの病気の治療です。

逆に、コレステロールが急に下がった場合にも注意が必要です。甲状腺の働きが強すぎる病気や肝臓の病気、低栄養、そしてがんなどが隠れていることがあるからです。第7章でお話ししますが、特に高齢の方では、コレステロールが低いことのほうが心配な場合もあるのです。

数字は、体の状態を知るための大切な手がかりです。しかし、それはあくまでも「手がかり」であって、あなたの健康そのものではありません。

なぜ、ここまで「コレステロールは低いほどよい」「数値が高ければ下げなければならない」という信念が、社会に深く根付いてしまったのでしょうか。

その答えを探るために、時計の針を七十年ほど巻き戻してみましょう。物語の舞台は、1950年代のアメリカです。

参考文献

日本動脈硬化学会編『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』日本動脈硬化学会、2022年

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」2014年

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)」2024年

Zhang J, Liu Q. Cholesterol metabolism and homeostasis in the brain. Protein Cell. 2015;6(4):254-264.

Zhong VW, Van Horn L, Cornelis MC, et al. Associations of dietary cholesterol or egg consumption with incident cardiovascular disease and mortality. JAMA. 2019;321(11):1081-1095.

Barter PJ, Caulfield M, Eriksson M, et al. Effects of torcetrapib in patients at high risk for coronary events. N Engl J Med. 2007;357(21):2109-2122.

Madsen CM, Varbo A, Nordestgaard BG. Extreme high high-density lipoprotein cholesterol is paradoxically associated with high mortality in men and women: two prospective cohort studies. Eur Heart J. 2017;38(32):2478-2486.

大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック

院長 有光潤介

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