2026年11月04日

Oral GLP-1 for Obesity
飲むタイプのやせ薬と日本人の試験
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年11月4日
「注射ではなく、飲み薬でやせられる薬ができたと聞きました」というご質問を、ここ1年ほど、外来でいただくことが増えました。そうした中、2026年10月30日に、飲むタイプのGLP-1受容体作動薬である、オルフォルグリプロンについて、日本人を対象とした臨床試験(ATTAIN-J試験)の結果が、医学誌Lancet Diabetes & Endocrinologyに報告されました[1]。海外の試験結果は、これまでにも報道されてきましたが、日本人だけを対象に、72週間という長い期間で調べた結果が出たことには、大きな意味があります。
飲み薬なら、手軽に、注射と同じようにやせられると考えている方も多いと思います。実は、今回の試験は、注射薬と直接比べたものではなく、また、対象は、食事療法に取り組んできた肥満症の方でした。そこで、この記事では、この試験でわかったことと、まだわからないことを整理します。
Point
この記事のポイント
- 日本人238人の試験で、72週間後の体重は、12mgのグループで平均8.7%減り、偽薬の0.6%を大きく上回りました
- 最も多い36mgでも、12mgより大きくやせるわけではなく、吐き気で薬をやめる方は増えていました
- 対象は、健康障害を伴う肥満症の方で、薬は食事と運動の代わりではなく、上乗せするものとして試されています
ATTAIN-J試験の結果
ATTAIN-J試験は、国内16施設で行われた第3相試験です[1][2]。238人の参加者を、オルフォルグリプロン6mg、12mg、36mg、偽薬(プラセボ)の、4つのグループに、くじ引きのような方法で、均等に振り分けました。そして、参加者も医師も、誰がどの薬を飲んでいるかわからない状態で比べる、二重盲検という方法で行われており、薬の効果を確かめる研究としては、信頼性の高い部類に入ります。また、238人のうち214人、約9割が、72週間の試験を終えています[3]。
研究の種類ランダム化比較試験(二重盲検)/対象 日本人の肥満症の方238人、72週間
| グループ | 72週後の体重の変化 | 5%以上減った方の割合 |
|---|---|---|
| 6mg | −5.9% | 45.6% |
| 12mg | −8.7% | 60.8% |
| 36mg | −7.9% | 58.8% |
| 偽薬 | −0.6% | 15.2% |
Yokoteらの報告をもとに作成[1]。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
3つの用量すべてで、偽薬と比べて、はっきりした差が認められました[1]。体重80kgの方に当てはめると、12mgのグループで、平均約7kg減った計算になります。
一方で、注目していただきたい点もあります。最も多く用いた36mgのグループの減り方は、12mgと大きく変わらず、量を増やせば増やすほど、やせるという結果ではありませんでした。また、効果の大きかったグループでも、およそ4割の方は、5%以上の減量に届いていません。つまり、薬の効き方には、個人差があります。
「数%しか減らないのか」と、感じる方もいらっしゃると思います。実は、日本肥満学会の肥満症診療ガイドライン2022では、肥満症の方は、まず3〜6か月で、現在の体重の3%を減らすことを目標にしています[4]。これは、わずかな減量でも、血圧、血糖、中性脂肪などの改善が期待できるためです。そのため、5%以上の減量は、健康障害の改善という点で、十分に意味のある変化と言えます。
試験に参加した方
この試験の結果を読むうえで、最も大切なのが、参加の条件です。対象は18歳以上で、BMIが27以上35未満で、肥満に関係する病気を2つ以上持っている方、または、BMIが35以上で1つ以上持っている方でした。さらに、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれか1つ以上があることが必須とされ、2型糖尿病の方は、全体の約25%になるように組み入れられています。また、参加者の平均年齢は54.1歳、男性が61%でした[1][3]。
そして、もう一つの条件が、食事療法による減量に、少なくとも1回失敗していることです[3]。つまり、この試験の参加者は、少し体重を落としたい方ではなく、肥満に伴う健康障害を抱え、食事の見直しに、すでに取り組んできた方々です。日本肥満学会では、肥満に健康障害を伴い、医学的に減量が必要な状態を「肥満症」と呼び、単なる肥満とは区別しています。この試験は、まさに、その肥満症の方を対象にしたものだとお考えください。
飲み薬と注射の違い
GLP-1受容体作動薬は、もともと、小腸から出るホルモンの働きを利用した薬です。食欲を抑え、胃の動きをゆるやかにすることで、食べる量が自然に減り、体重が下がっていきます。そして、これまで肥満症の治療で用いられてきたのは、主に、週1回の注射薬でした。
オルフォルグリプロンは、1日1回飲む錠剤です。飲み薬のGLP-1受容体作動薬は、すでに糖尿病の治療で使われているものもありますが、そちらは、空腹時に少量の水で飲み、その後30分は、飲食を控える必要があります。一方、オルフォルグリプロンは、米国の承認では、食事や飲水の制限なく、飲めるとされています[5]。そのため、注射に抵抗がある方にとっては、選択肢が広がる可能性があります。
ただし、今回の試験は、注射薬と直接比べたものではありません。そのため、飲み薬と注射の、どちらがどれだけよく効くのかを、この結果だけで判断することはできません。
副作用と対処
この試験でみられた副作用は、吐き気、嘔吐、下痢などの消化器の症状が中心で、多くは、軽度から中等度でした[1]。これは、GLP-1受容体作動薬に共通する特徴で、胃の動きをゆるやかにする作用と、表裏一体の関係にあります。
| グループ | 吐き気で中止した方 | 嘔吐で中止した方 |
|---|---|---|
| 6mg | 1人(2%) | 0人 |
| 12mg | 1人(2%) | 2人(4%) |
| 36mg | 5人(8%) | 1人(2%) |
| 偽薬 | 0人 | 0人 |
Yokoteらの報告をもとに作成[3]。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
このように、吐き気で薬をやめる方は、36mgのグループで多くなっていました。そして、先ほど、36mgでも、12mgより大きくやせるわけではなかったと述べましたが、副作用の面からも、量が多いほど良いとは言えません。
一般に、こうした消化器の症状は、薬を始めたときや、量を増やしたときに出やすく、体が慣れるにつれて、落ち着くことが多いとされています。そのため、少ない量から始めて、段階的に増やしていくのが基本です。また、食事は、一度にたくさん食べずに、ゆっくり少量ずつにして、脂っこいものを控えると、症状が和らぎやすくなります。ただし、強い腹痛が続く場合や、水分がとれないほど吐いてしまう場合は、我慢せずに、早めに受診してください。
薬を使っても生活習慣の見直しが必要な理由
薬を飲めば、食事に気をつけなくてもよくなると考えている方も多いと思います。実は、これについては、試験の設計そのものが答えを示しています。先ほど述べたとおり、この試験の参加者は、食事療法に、すでに取り組んできた方々です。つまり、薬は、生活習慣の見直しの代わりではなく、見直しを続けたうえで、上乗せするものとして試されています。また、偽薬のグループでも、体重はわずかに減っており、5%以上減った方も15.2%いました[1]。これは、試験に参加して、体重を意識し、生活を整えたことの効果も、含まれていると考えられます。
さらに、GLP-1受容体作動薬などの薬は、やめると、体重が戻りやすいことが知られています。食欲を抑える作用は、薬を飲んでいる間に働くものだからです。実際、注射薬のチルゼパチドで、36週間で平均20.9%減量した方を、薬を続けるグループと、偽薬に切り替えるグループに分けた試験では、偽薬に切り替えたグループは、その後の1年間で、体重が14.0%戻っていました[6]。
研究の種類ランダム化比較試験(薬の中止試験)/対象 肥満の成人(チルゼパチドで減量した後に割り付け)
とはいえ、薬を使っている間に身につけた、食事の量や内容、体を動かす習慣は、薬をやめた後も残ります。また、肥満は、睡眠時無呼吸の大きな危険因子で、減量によって、睡眠中の呼吸の状態が改善することも報告されています。肥満と中等症以上の睡眠時無呼吸のある方を対象にした試験では、チルゼパチドで、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数(AHI)が、偽薬より、20回以上多く減っていました[7]。これは、前回お伝えした睡眠時無呼吸のお話とも、深くつながる部分です。そのため、薬は、生活習慣を変えるための「補助輪」と考えることをおすすめします。食事と運動が土台であることは、新しい薬が出ても、変わりません。
国内で使える時期と未解明の点
オルフォルグリプロンは、米国では、2026年4月に、肥満症の治療薬として承認されました[5]。そして、日本でも、2026年2月に肥満症で、同年4〜6月に2型糖尿病で、承認申請が行われたと報じられていますが[8]、本稿執筆時点で、日本で承認されたという情報は、確認できていません。そのため、国内で使えるようになる時期は、現時点ではわかりません。
また、今回の試験でわかったのは、72週間の体重の変化と、その間の副作用です。この薬を長く使ったときに、心筋梗塞や脳卒中が減るのか、寿命が延びるのかといった点は、この試験では、調べられていません。さらに、日本人238人という人数は、まれな副作用を見つけるには、十分とは言えません[1]。そのため、こうした点は、今後の研究を待つ必要があります。
国内で承認されていない薬を、インターネットなどを通じて、個人で入手して使うことは、おすすめできません。品質が確認できないうえ、副作用が起きたときに、公的な救済制度の対象にならないためです。体重のことでお悩みの方は、まずは、医療機関にご相談ください。
よくあるご質問
飲み薬なら、注射と同じくらいやせられますか?
今回の試験は、注射薬と直接比べたものではないため、どちらがどれだけよく効くのかは、わかりません[1]。また、効き方には個人差があり、12mgのグループでも、約4割の方は5%以上の減量に届いていませんでした。
量を増やせば、もっとやせますか?
日本人の試験では、36mgの減り方は、12mgと大きく変わらず、吐き気で薬をやめる方は、36mgのグループで多くなっていました[1][3]。そのため、量が多いほど良いとは言えません。
やせたら、薬はやめてもよいですか?
GLP-1受容体作動薬などの薬は、やめると体重が戻りやすいことが知られています[6]。そのため、薬を使っている間に、食事と運動の習慣を整えておくことが大切で、やめる時期は、主治医と相談して決めます。
日本では、いつから使えますか?
日本では、2026年2月に肥満症で承認申請が行われたと報じられていますが[8]、本稿執筆時点で、承認されたという情報は確認できていません。そのため、使えるようになる時期は、まだわかりません。
当院でのサポート
当院は内科のクリニックです。体重だけでなく、血圧、血糖、脂質、睡眠の状態まで含めて、肥満に伴う健康障害を一つずつ確認し、その方に合った治療を、一緒に考えます。また、高血圧や糖尿病、脂質異常症の治療とあわせて、体重のご相談もお受けしています。
さらに、4名の管理栄養士が、糖質制限をベースにした栄養指導を行い、薬に頼りすぎない減量をサポートしています。そして、いびきや日中の眠気がある方には、ご自宅での睡眠時無呼吸の検査もご提案します。新しい薬の情報が気になる方も、どうぞお気軽にお尋ねください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
次回は、漢方薬に含まれる生薬の「量」と副作用について、今回の国の制度改正をもとに解説します。
参考文献
- Efficacy and safety of oral orforglipron in Japanese participants with obesity disease (ATTAIN-J): a double-blind, randomised, placebo-controlled, parallel-group, phase 3 trial著者:Yokote K, Yamauchi T, Shingaki T, ほか雑誌:Lancet Diabetes Endocrinol. 2026(オンライン先行公開)発行日:2026年10月30日DOI:10.1016/S2213-8587(26)00232-9要約:国内16施設で、日本人の肥満症の方238人をオルフォルグリプロン6・12・36mgと偽薬に分けた72週間の二重盲検試験。体重は−5.9%、−8.7%、−7.9%、偽薬−0.6%で、副作用は主に軽度から中等度の消化器症状だった。
- A Study of Once-Daily Oral Orforglipron (LY3502970) in Japanese Adult Participants With Obesity Disease(NCT05931380)著者:Eli Lilly and Company(試験依頼者)媒体:ClinicalTrials.gov(米国国立医学図書館の臨床試験登録)閲覧日:2026年11月4日URL:https://clinicaltrials.gov/study/NCT05931380要約:ATTAIN-J試験の登録情報。日本人の肥満症の成人を対象に、1日1回のオルフォルグリプロンの効果と安全性を、偽薬と比べる第3相試験として登録されている。
- Oral orforglipron reduced bodyweight more than placebo at 72 weeks in Japanese adults著者:Diabesity Rounds 編集部媒体:Diabesity Rounds(医療ニュース)発行日:2026年11月1日URL:https://www.diabesityrounds.com/a/oral-orforglipron-reduced-bodyweight-more-than-placebo-at-72-weeks-in-japanese-a要約:ATTAIN-J試験の要約記事。参加条件として、食事療法による減量に少なくとも1回失敗していることを挙げ、2型糖尿病の方は約25%を目標に組み入れたとした。吐き気による中止は6mgと12mgで各1人(2%)、36mgで5人(8%)、嘔吐による中止は12mgで2人(4%)、36mgで1人(2%)だった。
- 肥満症診療ガイドライン2022 改訂のポイント~前編~著者:沼倉真宝子(管理栄養士)媒体:Eatreat(コラム)発行日:2023年4月28日URL:https://eat-treat.jp/columns/1079要約:日本肥満学会の肥満症診療ガイドライン2022の改訂点の解説。肥満症の減量目標は3〜6か月で現体重の3%、高度肥満症は初期に5〜10%とし、減量は目的ではなく、健康障害の予防・改善のための手段であるとした。
- FDA approves orforglipron, an oral GLP-1, for adults with obesity著者:Healio媒体:Healio(医療ニュース)発行日:2026年4月1日URL:https://www.healio.com/news/endocrinology/20260401/fda-approves-orforglipron-an-oral-glp1-for-adults-with-obesity要約:米FDAが、イーライリリーの経口GLP-1受容体作動薬オルフォルグリプロン(商品名Foundayo)を、肥満の成人などの体重管理に承認したと伝えた記事。1日1回、食事や飲水の制限なく服用でき、少ない量から段階的に増やす。
- Continued Treatment With Tirzepatide for Maintenance of Weight Reduction in Adults With Obesity: The SURMOUNT-4 Randomized Clinical Trial著者:Aronne LJ, Sattar N, Horn DB, ほか雑誌:JAMA. 2024;331(1):38-48発行日:2024年1月2日(オンライン公開 2023年12月11日)DOI:10.1001/jama.2023.24945要約:36週間のチルゼパチドで平均20.9%減量した肥満の成人を、継続群と偽薬への切り替え群に分けた試験。その後の1年間で、継続群はさらに5.5%減った一方、切り替え群は14.0%体重が戻った。
- Tirzepatide for the Treatment of Obstructive Sleep Apnea and Obesity著者:Malhotra A, Grunstein RR, Fietze I, ほか雑誌:N Engl J Med. 2024;391(13):1193-1205発行日:2024年10月3日(オンライン公開 2024年6月21日)DOI:10.1056/NEJMoa2404881要約:肥満と中等症以上の睡眠時無呼吸のある469人の52週間の試験(SURMOUNT-OSA)。CPAPを使っていない群でAHIはチルゼパチドで25.3回、偽薬で5.3回減り、CPAP使用群でも29.3回対5.5回と、大きく減った。
- 初の低分子GLP-1、2型糖尿病でも申請 リリー、日米で著者:日刊薬業媒体:日刊薬業(医薬業界紙)発行日:2026年8月7日URL:https://nk.jiho.jp/index.php/article/304358要約:イーライリリーが、オルフォルグリプロンについて、2026年4〜6月期に日本で2型糖尿病の承認申請を行ったと伝えた記事。関連記事の見出しで、日本では2026年2月に、まず肥満症で申請されたと報じている。
大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック
院長 有光潤介