第4章 動脈硬化の正体――血管で起きている「火事」|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

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第4章 動脈硬化の正体――血管で起きている「火事」

第4章 動脈硬化の正体――血管で起きている「火事」|千里丘かがやきクリニック|吹田市長野東の内科・消化器内科

2026年11月05日

第4章 動脈硬化の正体――血管で起きている「火事」

血管は「配水管」ではない

「脂肪やコレステロールが主犯でないなら、何が血管を詰まらせているのか」

ここまで読み進めてくださったあなたは、きっとそう疑問に思っているでしょう。

キーズが広めた「脂質犯人説」のイメージは、よく台所の排水管にたとえられてきました。排水管に油を流し続けると、内側にベタベタとこびりついてヘドロのようになり、やがて管が詰まってしまう。だから油を流してはいけない、という理屈です。

しかし、人間の血管は、無機質なプラスチックの管ではありません。

血管の内側は、「血管内皮細胞」と呼ばれる薄い細胞の層でびっしりと覆われています。この内皮細胞は、ただの壁紙ではありません。一酸化窒素(NO)などの物質を出して血管を広げたり、血液が固まりすぎないように調整したり、炎症を抑えたりと、刻一刻と働き続ける、きわめて活発な「臓器」なのです。

そして、動脈硬化のコブ(プラーク)は、排水管のヘドロのように血管の内側の表面に積もっていくわけではありません。血管の「壁の中」に、少しずつ育っていくものなのです。

なぜ、血管の壁の中にコブができるのか。その出発点にあるのは、内皮細胞が傷つき、そこで「炎症」が起きることです。

炎症とは、体が傷や異物に反応して起こす防御反応のことです。転んで膝をすりむくと、傷口が赤く腫れて熱を持ちますね。あれが炎症です。本来は傷を治すための大切な反応ですが、それが何年も何十年も、くすぶり続けたらどうなるでしょうか。

動脈硬化の本質は、血管の壁で長く続く、この「くすぶる火事」――慢性炎症なのです。

火をつける「放火魔」たち

では、血管の壁に火をつけているのは何者なのでしょうか。主な「放火魔」たちを紹介しましょう。

一人目は、「高血糖と血糖値の乱高下」です。

糖質をとりすぎて、血液中のブドウ糖が多い状態が続くと、ブドウ糖は体内のタンパク質や脂質と結びつき、その性質を変えてしまいます。これを「糖化」と呼びます。ホットケーキを焼くと表面がこんがりと茶色くなるのと、よく似た反応です。

実は、健康診断でおなじみの「HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)」も、赤血球の中のヘモグロビンがどれだけ糖化されているかを示す数値です。体の中では、ヘモグロビンだけでなく、血管の壁のタンパク質も同じように糖化されていきます。

糖化が進むと、「AGEs(終末糖化産物)」と呼ばれる物質が生まれます。AGEsは血管の壁にたまり、炎症を引き起こす信号を出し続けます。さらに、食後の急激な血糖値の上昇は、細胞を傷つける「活性酸素」を大量に生み出すことが分かっています。

二人目は、「インスリンの過剰と、その効きの悪さ(インスリン抵抗性)」です。

糖質中心の食事を続けていると、膵臓は大量のインスリンを出し続けなければなりません。やがて体の細胞はインスリンに反応しにくくなり、さらに多くのインスリンが必要になるという悪循環に陥ります。スタンフォード大学のジェラルド・リーヴェンは、1988年の有名な講演で、このインスリン抵抗性が、高血圧や脂質の異常、そして心血管病の根っこにあると提唱しました。のちに「メタボリック・シンドローム」と呼ばれる考え方の原点です。

三人目は、「喫煙」です。

タバコの煙に含まれる有害物質は、内皮細胞を直接傷つけ、LDLを酸化させ、血液を固まりやすくし、HDLを減らします。喫煙は、動脈硬化を進める最も強力な要因の一つです。どんな食事法よりも先に、まず禁煙を――これは、医師として強くお伝えしたいことです。

四人目は、「高血圧」です。血圧が高い状態が続くと、血管の壁には常に強い圧力がかかり、内皮細胞が物理的に傷つきやすくなります。

五人目は、「内臓脂肪と脂肪肝」です。お腹の奥にたまった内臓脂肪は、ただのエネルギーの貯蔵庫ではなく、炎症を引き起こす物質を血液中に放出する、いわば「炎症の工場」です。脂肪肝になった肝臓は、中性脂肪を大量に血液中へ送り出すようになります。

意外なところでは、「歯周病」も炎症の火種の一つと考えられています。歯ぐきで細菌による炎症が長く続くと、炎症を起こす物質や細菌そのものが血液に入り込み、全身の炎症を高めてしまう可能性があるのです。歯周病のある人に心血管病が多いことは、多くの調査で示されています。歯周病を治療すれば心筋梗塞が減るかどうかはまだ証明されていませんが、毎日の歯みがきと定期的な歯科検診は、口の中だけでなく、全身の血管を守ることにもつながるかもしれません。

さらに、睡眠中に呼吸が止まる「睡眠時無呼吸症候群」も、見落とされがちな放火魔の一人です。これについては、第8章で詳しくお話しします。

日本人にとっての最大の「放火魔」

では、日本人の健康にとって、とりわけ大きな放火魔はどれでしょうか。

日本人の死亡に、どの危険因子がどれだけ関わっているかを推計した研究では、喫煙と高血圧が、ほかの要因を大きく引き離して上位を占めていました。いずれも、年間10万人以上の死亡に関わっていると推計されています。

日本人は欧米人に比べて塩分の多い食事をとる傾向があり、高血圧は「国民病」ともいわれます。血圧が高い状態は、自覚症状がないまま何年も続き、そのあいだ血管の壁を傷つけ続けます。脳卒中、とりわけ脳出血の最大の原因も、高血圧です。

健診では、コレステロールの数字ばかりが注目される一方で、血圧は「少し高いくらいなら大丈夫」と見過ごされがちです。しかし日本人の血管を守るうえでは、LDLを下げることよりも、禁煙と血圧の管理のほうが、はるかに大きな意味を持つ場合が少なくありません。減塩を心がけ、家庭で血圧を測る習慣を持つこと。それは、どんな健康法にも勝る、確かな血管の守り方なのです。

消防士が変質するとき――酸化LDLと小型LDL

血管の壁で火事が起きると、体はそれを放置しません。傷ついた組織を修復するため、材料となるコレステロールが、LDLという配達トラックに乗って現場に運ばれてきます。

ここまでは、正常な修復のプロセスです。火事が小さければ、修復は無事に完了し、余ったコレステロールはHDLという回収トラックに乗って肝臓へと戻っていきます。

ところが、火事の勢いが強すぎると、悲劇が起きます。

血管の壁の中に入り込んだLDLが、活性酸素によって「酸化」されてしまうのです。鉄がさびるように、本来の姿から変質したLDLを「酸化LDL」と呼びます。

酸化LDLは、もはや正常な修復材料ではありません。体の免疫細胞である「マクロファージ」は、この変質したLDLを危険な異物とみなし、次々と取り込んで掃除しようとします。しかし、取り込んでも取り込んでも処理しきれず、マクロファージは脂肪で泡立ったような「泡沫細胞」へと姿を変え、やがて死んで血管の壁の中にたまっていきます。

こうして、血管の壁の中に、脂質と死んだ細胞の残骸がたまったコブが育っていきます。これが「プラーク」です。

プラークの表面は、薄い膜(線維性被膜)で覆われています。炎症が強いと、この膜がもろくなり、ある日突然破れてしまいます。すると、その傷をふさごうとして血小板が集まり、血の塊(血栓)ができます。この血栓が血管を一気にふさいでしまうのが、心筋梗塞や脳梗塞です。

意外に思われるかもしれませんが、心筋梗塞の多くは、必ずしも血管が高度に狭くなった場所で起きるわけではありません。むしろ、炎症で膜がもろくなった、それほど大きくないプラークが破れることで起きる例が少なくないのです。ここでも、主役は「炎症」なのです。

LDLの変質には、もう一つのパターンがあります。それが「小型LDL」の出現です。

LDLの粒子には、大きくふっくらしたものから、小さく密度の高いものまで、さまざまなサイズがあります。血液中の中性脂肪が多い状態が続くと、LDLの粒子の中身が組み換えられ、小さく硬い「小型LDL(sdLDL)」が増えてしまいます。

小型LDLは、サイズが小さいため血管の壁のすき間に入り込みやすく、しかも酸化されやすいという、厄介な性質を持っています。さらに、肝臓に回収されにくいため、血液中に長くとどまります。まさに「超悪玉」と呼ぶにふさわしい存在です。

ここで重要なのは、一般的な健康診断の「LDLコレステロール」の値には、ふっくらとした通常のLDLも、危険な小型LDLも、すべてひっくるめて含まれているということです。LDLの数値が同じ140でも、中身が通常サイズ中心の人と、小型LDLだらけの人とでは、血管にとっての意味がまったく違うのです。

もう一つ、知っておいていただきたい考え方があります。LDLの「量」には、二つの意味があるということです。

健診で測っている「LDLコレステロール」は、LDLというトラックに積まれたコレステロールの「積み荷の総量」です。ところが、血管の壁に入り込むかどうかを左右するのは、積み荷の量よりも、道路を走っている「トラックの台数」、つまり粒子の数だと考えられています。

小型LDLが多い人では、一台あたりの積み荷が少ない小さなトラックが、たくさん走っている状態になります。そのため、LDLコレステロールの値はそれほど高くないのに、粒子の数は多い、ということが起こります。特に、中性脂肪が高い人やインスリン抵抗性のある人で、この「ずれ」が生じやすいことが知られています。

粒子の数は、LDLなどの粒子に一つずつ含まれる「アポリポタンパクB(アポB)」というタンパク質を測ることで推し量ることができます。また、総コレステロールからHDLを引いた「non-HDLコレステロール」は、LDLだけでなく、中性脂肪を多く含む粒子のコレステロールもまとめて反映します。そのため、中性脂肪が高い人では、LDLより実態に近い指標になると考えられています。ガイドラインでも、中性脂肪が高い場合や食後に採血した場合には、non-HDLコレステロールを参考にするよう勧めています。

健診の「LDL 140」という一つの数字の裏には、これほど多くの情報が隠れているのです。

では、LDLの「酸化」を防ぐには、どうすればよいのでしょうか。

かつては、抗酸化作用のあるビタミンEなどをサプリメントで大量にとれば、LDLの酸化を防いで心臓病を減らせるのではないかと期待されました。しかし大規模な臨床試験では、ビタミンEのサプリメントに、心血管病を減らす効果は確認されませんでした。

ここでも、「体によい成分を取り出せば効く」という単純な考え方は通用しなかったのです。LDLの酸化を防ぐ最も確かな方法は、酸化を引き起こす原因、つまり高血糖や喫煙、炎症そのものを減らすこと。そして、さまざまな抗酸化物質を自然な形で含む野菜や果物、魚、オリーブオイルなどを、日々の食事でとることなのです。

この見えない違いを、健診の数字から見抜く方法があります。それについては、第8章でご紹介しましょう。

動脈硬化は、静かに進む

動脈硬化のやっかいな点は、ほとんど症状がないまま、何十年もかけて静かに進むことです。

その兆しは、驚くほど若いころから始まっています。朝鮮戦争で戦死した若いアメリカ兵の解剖調査では、平均年齢が20代前半の若者たちの多くに、すでに冠動脈の動脈硬化の変化が見つかっていました。

血管がかなり狭くなるまで、多くの場合、症状は出ません。胸の痛みや息切れといった症状が現れるのは、病気がかなり進んでからのことです。そして先ほどお話ししたように、心筋梗塞の多くは、それほど狭くなっていないプラークが突然破れることで起きます。つまり、「症状がないから大丈夫」とは言えないのです。

だからこそ、動脈硬化への備えは、症状が出てからではなく、何もないうちから始める必要があります。ただしそれは、「全員が薬を飲むべきだ」という意味ではありません。炎症の火種を減らす暮らしを、早くから、長く続けること。それこそが、静かに進む病に対する、最も確かな備えなのです。

血管の内皮は傷つきやすい一方で、回復する力も持っています。

体を動かすと、血液の流れが血管の内側をなでるように刺激し、内皮から血管を広げる一酸化窒素(NO)が出やすくなります。ウォーキングなどの有酸素運動を続けると内皮の働きが改善することは、多くの研究で示されています。禁煙や、血圧・血糖の改善、十分な睡眠も、内皮の回復を助けます。

研究の世界では、腕の血管を一時的に締めつけてから緩めたときに、血管がどれだけ広がるかを超音波で測り、内皮の働きを調べる方法も使われています。目に見えにくい「血管のしなやかさ」も、日々の暮らしで確かに変えることができるのです。

主役は「炎症」だった

「動脈硬化は炎症性の病気である」

1999年、アメリカの病理学者ラッセル・ロスは、医学誌『NEJM』に発表した総説で、こう明確に述べました。それから四半世紀、この考え方を裏付ける証拠は着実に積み重なってきています。

その鍵を握る物質の一つが、「IL-6(インターロイキン6)」です。

IL-6は、体内で炎症の信号を伝える代表的な物質(サイトカイン)で、大阪大学の岸本忠三博士らのグループによって発見されました。IL-6の刺激を受けると、肝臓は「CRP」という炎症のマーカーを作り出します。血液検査でCRPを高い感度で測ると、目に見えない血管の炎症の程度を推し量ることができるのです。

私自身、かつてこのIL-6と、その働きを抑える日本生まれの抗体医薬「トシリズマブ」の臨床研究に携わっていました。炎症の信号をたった一つ止めるだけで、全身の状態が大きく変わる。その様子を目の当たりにした経験は、私が「病気の根っこには炎症がある」と考えるようになった原点の一つです。

2017年、炎症と心臓病の関係について、歴史的な臨床試験の結果が発表されました。「CANTOS試験」です。

この試験では、心筋梗塞を経験し、CRPが高い約1万人の患者さんに、炎症を引き起こす物質(IL-1β)の働きを抑える抗体薬を投与しました。その結果、コレステロールの値はまったく下がらなかったにもかかわらず、心筋梗塞や脳卒中などの再発が約15%減ったのです。

コレステロールに触れずに、炎症だけを抑えて心臓病が減った。この結果は、動脈硬化の主役が炎症であることを示す、強力な証拠となりました。ただし、この薬は感染症を増やす副作用もあり、心臓病の治療薬として広く使われるには至っていません。炎症は体を守る仕組みでもあるため、薬で強引に抑え込むことには、それなりの代償が伴うのです。

2023年には、さらに興味深い解析が発表されました。スタチンを服用している3万人あまりの患者さんのデータを調べたところ、将来の心血管病や死亡をより強く予測したのは、LDLコレステロールの値ではなく、CRPで測った炎症の強さのほうだったのです。

古くから痛風の薬として使われてきた「コルヒチン」という抗炎症薬で、心血管病の再発を減らせるかを調べる試験も行われてきました。2019年と2020年に発表された二つの大規模試験では再発の減少が示され、アメリカでは2023年に、心血管病のリスクを下げる目的での使用が承認されています。一方、2024〜2025年に発表された心筋梗塞直後の患者さんを対象とした試験では、効果が確認されませんでした。炎症をどう治療に生かすかは、まだ検証の途上にあるといえます。

皮肉なことに、スタチンが心臓病を減らす効果の一部も、コレステロールを下げることではなく、炎症を抑える作用によるものではないかと考えられています。

つまり、医学の最前線は、「コレステロールの量」から「血管の炎症」へと、着実に視線を移しつつあるのです。

それでも「量」が問題になる人――家族性高コレステロール血症

ここまで、「LDLは消防士であり、本当の問題は炎症という火事にある」とお話ししてきました。

しかし、本ブログが誤解されないよう、ここではっきりと述べておかなければならないことがあります。LDLの「量」そのものが、決定的に問題になる人たちがいるのです。

その代表が、「家族性高コレステロール血症(FH)」です。

これは、LDLを肝臓に取り込むための受け皿(LDL受容体)などに生まれつきの異常がある遺伝性の病気で、日本人のおよそ300人に1人がこの体質を持っていると考えられています。生まれたときからLDLコレステロールが非常に高く、治療をしないでいると、男性では30〜50代で心筋梗塞を起こすことも珍しくありません。

この人たちは、糖質をとりすぎているわけでも、タバコを吸っているわけでもないのに、若くして動脈硬化が進みます。LDLの量が極端に多い状態が何十年も続けば、やはり血管は傷んでいくのです。

次のような特徴がある方は、家族性高コレステロール血症の可能性を考えて、必ず医師に相談してください。

家族性高コレステロール血症の方にとって、スタチンなどの薬による治療は、まさに命を守るものです。早く見つけて治療を始めれば、健康な人とほぼ変わらない人生を送ることも期待できます。ご本人が見つかれば、家族の検査にもつながります。

また、公平を期すために申し添えておくと、現在の医学界の主流は、「LDLの量そのものが動脈硬化の原因である」という立場です。遺伝的な理由で生涯にわたってLDLが低い人たちでは心臓病が少ないことなどが、その根拠とされています。

私も、LDLが動脈硬化とまったく無関係だと言うつもりはありません。量が極端に多ければ、あるいはすでに動脈硬化が進んでいれば、LDLを下げることには意味があります。

ただ、それは「LDLの数字さえ下げればよい」という単純な話ではありません。LDLが「酸化」や「小型化」によって変質していないか。そして、血管の壁に火をつけている高血糖、インスリンの過剰、喫煙、高血圧、睡眠中の呼吸の乱れといった火種が、どれだけ燃えているのか。問うべきは、トラックの「数」だけではなく、その「質」と、トラックが走る「環境」なのです。

ところが、現代の医療は、この「質」と「環境」をなおざりにしたまま、トラックの「数」を減らすことに力を注いできました。そして、その方針を支えてきたのが、世界で最も成功した薬の一つです。

次章では、その薬――スタチンをめぐる光と影に迫ります。

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大阪府吹田市長野東19番6号
千里丘かがやきクリニック

院長 有光潤介

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