2026年11月07日

Smoking and Aging
たばこは「年のとり方」を変える ― 見た目・脳・骨への影響と、禁煙で戻るもの
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年11月7日
「たばこは体に悪い」。わかってはいても、何が、どこまで悪いのかは案外はっきりしないものです。
先に結論を書きます。喫煙の影響は肺だけにとどまりません。肌、細胞、脳、骨、耳と、体のあちこちで年のとり方を早めます。そして、やめた時点から戻り始めるものもあります。
Point
この記事のポイント
- 吸い続けた人の寿命は吸わない人より平均でおよそ10年短いという結果が、英国でも日本でも出ています
- 影響は肺だけでなく、顔のしわ、脳の体積、骨折のリスク、聞こえにまで及びます
- 禁煙で戻るものと戻りにくいものがあります。やめる時期は早いほど有利です
寿命はどれくらい縮むのか
まずは、いちばん大きな話から。
英国の男性医師34,439人を50年にわたって追跡した有名な研究があります。紙巻きたばこを吸い続けた人は、生涯吸わなかった人に比べて、平均でおよそ10年早く亡くなっていました[1]。
研究の種類前向きコホート研究/対象 英国の男性医師34,439人、1951年から50年間追跡
外国の話でしょう、と思われたかもしれません。ところが日本人でも、ほぼ同じ結果が出ています。広島・長崎の住民約6万8千人を追跡した研究では、20歳になる前に吸い始めて吸い続けた人の寿命は、吸わない人より男性で約8年、女性で約10年短くなっていました[2]。
| 対象 | 吸わない人と比べた寿命の差 |
|---|---|
| 英国の男性医師 | 約10年短い |
| 日本人男性 | 約8年短い |
| 日本人女性 | 約10年短い |
英国医師研究と広島・長崎の寿命調査をもとに作成。日本人のデータは20歳前に喫煙を始め、吸い続けた人の値です。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
10年。決して小さな数字ではありません。
顔に表れる「吸ってきた年数」
喫煙者は老けて見える。よく聞く話ですが、これを確かめた研究があります。
米国で、一卵性双生児79組の顔を比べた研究です。遺伝子がほぼ同じ双子のうち、片方だけが吸っている、あるいは片方がもう一方より5年以上長く吸っているペアを集めました。評価者が顔写真を採点したところ、吸っている側では上まぶたのたるみ、下まぶたのふくらみ、ほうれい線、口元の細かいしわ、フェイスラインのたるみが目立っていました。喫煙期間の差がわずか5年でも、見てわかる違いが出ていたそうです[3]。
研究の種類一卵性双生児の比較研究/対象 18〜78歳の一卵性双生児79組、評価者は喫煙歴を知らされずに採点
面白いことに、変化は顔の中ほどから下に出やすく、上の部分では目立ちにくいことも示されています。
なぜ肌が老けるのか
手がかりのひとつはコラーゲンです。肌の弾力を支える真皮では、乾燥重量の7割以上をコラーゲンが占めています。英国の研究で、喫煙者14人と非喫煙者19人のお尻の皮膚、つまり日光がほとんど当たらない場所を調べたところ、喫煙者ではコラーゲンを分解する酵素MMP-1の遺伝子の働きが強くなっていました[4]。
紫外線の影響を受けにくい部位でも差があったことから、たばこが体の内側から肌の老化を進めている可能性が考えられています。
細胞の中で起きていること
細胞の老化の目印としてよく知られているのが「テロメア」です。染色体の端にある、靴ひもの先のキャップのような部分で、年齢とともに少しずつ短くなります。84の研究を検討した解析では、喫煙歴のある人はない人に比べてテロメアが短く、吸った量が多いほど短い傾向がみられました[5]。
ただし、ここは慎重に見る必要があります。18の追跡研究、成人12,579人を平均8.6年観察した解析では、喫煙者のテロメアが「短い」ことは確かめられたものの、「短くなるスピードが速い」とはいえませんでした。もともとテロメアの短い人ほど喫煙を始めやすい、という逆向きの可能性も指摘されていて、まだ決着はついていません[6]。
もう少しはっきりしているのが、DNAの「メチル化」の変化です。遺伝子のスイッチのオン・オフに関わる目印のようなもので、約1万6千人の血液を調べた研究では、喫煙者と吸わない人の間で2,600か所以上に違いが見つかりました。関係する遺伝子には、肺の機能やがん、心臓病に関わるものが多く含まれていました[7]。
脳の老化と認知症
脳については、日本から重要なデータが出ています。
福岡県久山町で、65〜84歳の住民754人を17年間追跡した研究です。中年期から高齢期まで吸い続けた人は、生涯吸わなかった人に比べて、認知症全体で約2.3倍、アルツハイマー型で約2.0倍、血管性認知症で約2.9倍、発症リスクが高くなっていました。
その一方で、中年期に吸っていても、高齢期の時点でやめていた人では、こうしたリスクの上昇はみられませんでした[8]。
研究の種類前向きコホート研究/対象 福岡県久山町の65〜84歳の住民754人、17年間追跡
2024年に医学誌ランセットの専門委員会が出した報告でも、喫煙は、対策によって減らせる認知症の14の危険因子のひとつに挙げられています。14すべてに対処できれば、認知症の約45%は予防または発症を遅らせられる可能性がある、というのが委員会の推計です[9]。
脳の大きさそのものにも違いが出ます。英国の約3万2千人の脳画像を分析した研究では、毎日喫煙していた経験のある人ほど脳の体積が小さく、吸った量が多いほど小さい傾向がありました。研究チームによれば、何年も前に禁煙した人でも、脳の体積は吸ったことのない人より小さいままだったといいます[10]。
骨と体力
骨も例外ではありません。広島を含む世界各地の10のコホート研究、59,232人を分析した結果です[11]。
| 骨折の種類 | 吸わない人と比べたリスク |
|---|---|
| 骨折全体 | 1.25倍 |
| 脚の付け根(大腿骨近位部) | 1.84倍 |
現在喫煙している人のリスク比。骨密度の低さで説明できたのは、脚の付け根の骨折リスク上昇のうち23%にとどまりました。
骨の量が減るだけの話ではない、ということです。
高齢期の「フレイル」、つまり筋力や活力が落ちて心身が弱っていく状態との関係も調べられています。英国の60歳以上の約2,500人を4年間追跡した研究では、喫煙している人は、年齢や経済状況、飲酒などを考慮しても、フレイルになるリスクが約1.6倍でした[12]。
耳と肺にも
意外と知られていないのが、耳への影響です。日本の20〜64歳の働く人50,195人を最長8年追跡した研究では、喫煙者は吸わない人に比べて、高い音が聞こえにくくなるリスクが約1.6倍、低い音で約1.2倍でした。1日の本数が多いほど、リスクも高くなっていました[13]。
ちなみに難聴は、先ほどのランセット委員会の報告で、認知症の危険因子のひとつにも数えられています[9]。
肺の機能は、たばこを吸わない人でも、年齢とともにゆっくり落ちていきます。ところが、たばこの影響を受けやすい人では、この下り坂が急になります。ロンドンの男性労働者を追跡した古典的な研究によると、そうした人が禁煙しても、失われた肺機能は戻りませんでした。それでも、その後の低下のペースは、吸わない人と同じ程度に戻っていたのです[14]。
やめると、何が変わるのか
「もう何十年も吸ってきたから、今さら遅い」。そう感じた方もいるかもしれません。でも、データが示しているのはむしろ逆です[1]。
| 禁煙した年齢 | 吸い続けた場合と比べて延びた寿命 |
|---|---|
| 30歳 | 約10年 |
| 40歳 | 約9年 |
| 50歳 | 約6年 |
| 60歳 | 約3年 |
英国の男性医師を50年間追跡した研究をもとに作成。
日本人の研究でも、35歳より前にやめた人は喫煙による余分な死亡リスクをほぼ避けられ、45歳より前にやめた人もその大部分を避けられていました[2]。
体の中の変化も、やめれば動き出します。DNAのメチル化の違いは、禁煙後5年ほどで多くが吸わない人に近いレベルまで戻っていました。ただし一部は、30年たっても残っていました[7]。聴力への悪影響も、禁煙後、比較的短い期間でほぼみられなくなっていました[13]。
戻るものもあれば、戻りにくいものもある。だからこそ、やめるなら早いほどいいのです。
こんなときは、ご相談ください
- 長く続く咳やたんがある
- 坂道や階段で息が切れるようになった
- いびきを指摘された、朝すっきり起きられない
- 健診で肺や血圧、血糖の数値を指摘された
- やめたい気持ちはあるが、何度も失敗している
血の混じったたんが出る、声のかすれが続く、原因のはっきりしない体重減少がある。こうしたときは、禁煙の相談より先に受診してください。
よくあるご質問
当院でのサポート
当院は内科のクリニックです。喫煙が気になる方には、院内のPWV・ABI検査で動脈硬化を評価できます。いびきがある方には睡眠時無呼吸の在宅検査とCPAP治療に、体組成計InBodyでの骨格筋量の測定(フレイルの評価)にも対応しています。
骨密度の測定は院内では行えないため、必要な場合は検査できる施設をご紹介します。たばこをやめたいけれど踏み出せない、という段階でも構いません。診察の中でお聞かせください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
参考文献
- Mortality in relation to smoking: 50 years’ observations on male British doctors著者:Doll R, Peto R, Boreham J, ほか雑誌:BMJ. 2004;328(7455):1519発行日:2004年6月26日DOI:10.1136/bmj.38142.554479.AE要約:英国の男性医師34,439人を1951年から50年間追跡した前向き研究。喫煙を続けた人は生涯非喫煙者より平均約10年早く死亡し、60・50・40・30歳で禁煙するとそれぞれ約3・6・9・10年の余命延長がみられた。
- Impact of smoking on mortality and life expectancy in Japanese smokers: a prospective cohort study著者:Sakata R, McGale P, Grant EJ, ほか雑誌:BMJ. 2012;345:e7093発行日:2012年10月25日DOI:10.1136/bmj.e7093要約:広島・長崎の寿命調査対象者約6万8千人の解析。20歳前に喫煙を始め吸い続けた人は総死亡が2倍以上となり、余命は男性で約8年、女性で約10年短かった。35歳前の禁煙で超過リスクのほぼすべてを回避できた。
- Facial changes caused by smoking: a comparison between smoking and nonsmoking identical twins著者:Okada HC, Alleyne B, Varghai K, ほか雑誌:Plast Reconstr Surg. 2013;132(5):1085-1092発行日:2013年11月DOI:10.1097/PRS.0b013e3182a4c20a要約:喫煙歴の異なる一卵性双生児79組の顔写真を盲検で評価した研究。喫煙者側で上まぶたのたるみ、下まぶたのふくらみ、ほうれい線、口元のしわ、フェイスラインのたるみが強く、5年の喫煙期間差でも違いが認められた。
- Matrix metalloproteinase-1 and skin ageing in smokers著者:Lahmann C, Bergemann J, Harrison G, ほか雑誌:Lancet. 2001;357(9260):935-936発行日:2001年3月24日DOI:10.1016/S0140-6736(00)04220-3要約:喫煙者14人と非喫煙者19人の臀部皮膚(日光非露出部)を比較した研究。喫煙者ではコラーゲンを分解する酵素MMP-1のmRNAが有意に多く、その阻害因子TIMP-1には差がなかった。喫煙による皮膚老化の機序を示唆する。
- Cigarette smoking and telomere length: A systematic review of 84 studies and meta-analysis著者:Astuti Y, Wardhana A, Watkins J, ほか雑誌:Environ Res. 2017;158:480-489発行日:2017年10月DOI:10.1016/j.envres.2017.06.038要約:喫煙とテロメア長に関する84研究の系統的レビューと30研究のメタ解析。喫煙歴のある人は非喫煙者よりテロメアが短く、現在喫煙者は元喫煙者・非喫煙者より短かった。喫煙量との間に量反応関係も示唆された。
- Smoking does not accelerate leucocyte telomere attrition: a meta-analysis of 18 longitudinal cohorts著者:Bateson M, Aviv A, Bendix L, ほか雑誌:R Soc Open Sci. 2019;6(6):190420発行日:2019年6月5日DOI:10.1098/rsos.190420要約:18の縦断コホート、成人12,579人を平均8.6年追跡したメタ解析。喫煙者の白血球テロメアは非喫煙者より短かったが、短縮速度に有意な差はなかった。テロメアの短い人が喫煙を始めやすい可能性を指摘した。
- Epigenetic Signatures of Cigarette Smoking著者:Joehanes R, Just AC, Marioni RE, ほか雑誌:Circ Cardiovasc Genet. 2016;9(5):436-447発行日:2016年10月DOI:10.1161/CIRCGENETICS.116.001506要約:16コホート15,907人の血液DNAを用いたゲノム全体のメチル化メタ解析。現在喫煙者と非喫煙者で2,623か所に差があり、肺機能やがん、心疾患に関わる遺伝子が多かった。禁煙後も一部の変化は長期間残存した。
- Midlife and Late-Life Smoking and Risk of Dementia in the Community: The Hisayama Study著者:Ohara T, Ninomiya T, Hata J, ほか雑誌:J Am Geriatr Soc. 2015;63(11):2332-2339発行日:2015年11月DOI:10.1111/jgs.13794要約:福岡県久山町の65〜84歳の住民754人を17年間追跡した研究。中年期から高齢期まで喫煙を続けた人の認知症リスクは2.28倍(アルツハイマー型1.98倍、血管性2.88倍)で、高齢期までに禁煙した人では上昇がなかった。
- Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission著者:Livingston G, Huntley J, Liu KY, ほか雑誌:Lancet. 2024;404(10452):572-628発行日:2024年8月10日DOI:10.1016/S0140-6736(24)01296-0要約:ランセット認知症委員会の2024年報告。喫煙、難聴、高血圧など14の修正可能な危険因子を示し、これらすべてに対処すれば認知症の約45%を予防または発症を遅らせられる可能性があると推計した。
- Investigating the Relationship Between Smoking Behavior and Global Brain Volume著者:Chang Y, Thornton V, Chaloemtoem A, ほか雑誌:Biol Psychiatry Glob Open Sci. 2024;4(1):74-82発行日:2024年1月DOI:10.1016/j.bpsgos.2023.09.006要約:英国UKバイオバンクの32,094人を解析した研究。毎日の喫煙歴は脳体積、特に灰白質体積の減少と強く関連し、喫煙量が多いほど減少が大きかった。遺伝的素因は喫煙行動を介して脳体積に影響すると示された。
- Smoking and fracture risk: a meta-analysis著者:Kanis JA, Johnell O, Oden A, ほか雑誌:Osteoporos Int. 2005;16(2):155-162発行日:2005年2月DOI:10.1007/s00198-004-1640-3要約:広島を含む10の前向きコホート、59,232人のメタ解析。現在喫煙者は骨折全体で1.25倍、大腿骨近位部骨折で1.84倍のリスクを示し、後者のリスク上昇のうち骨密度の低下で説明できたのは23%にとどまった。
- Does current smoking predict future frailty? The English longitudinal study of ageing著者:Kojima G, Iliffe S, Jivraj S, ほか雑誌:Age Ageing. 2018;47(1):126-131発行日:2018年1月DOI:10.1093/ageing/afx136要約:英国の地域在住高齢者(60歳以上)2,542人を4年間追跡した研究。現在喫煙者は非喫煙者に比べてフレイルを発症しやすく、社会経済状況や飲酒などを調整した後もオッズ比1.60であった。禁煙による予防の可能性を示唆した。
- Smoking, Smoking Cessation, and the Risk of Hearing Loss: Japan Epidemiology Collaboration on Occupational Health Study著者:Hu H, Sasaki N, Ogasawara T, ほか雑誌:Nicotine Tob Res. 2019;21(4):481-488発行日:2019年3月30日DOI:10.1093/ntr/nty026要約:日本の勤労者50,195人(20〜64歳)を最長8年追跡したコホート研究。喫煙者の難聴リスクは高音域で1.6倍、低音域で1.2倍で、喫煙本数が多いほど高かった。禁煙後は比較的短期間で超過リスクが消失した。
- The natural history of chronic airflow obstruction著者:Fletcher C, Peto R雑誌:Br Med J. 1977;1(6077):1645-1648発行日:1977年6月25日DOI:10.1136/bmj.1.6077.1645要約:ロンドンの男性労働者を対象とした前向き疫学研究。1秒量は生涯を通じて緩やかに低下するが、喫煙の影響を受けやすい人では不可逆的な閉塞性変化が生じる。禁煙しても失った肺機能は戻らないが、その後の低下速度は正常に戻る。