2026年9月30日

Allergen Component Test
「陽性」の中身まで調べる、アレルギーのコンポーネント検査
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年9月30日
「血液検査で陽性と言われたのに、その食べ物を食べても何ともない」。反対に、「検査は陰性だったのに、食べると症状が出る」。
アレルギーの血液検査では、こうした食い違いが起こることがあります[1][2]。この記事では、原因をより細かく調べる「コンポーネント検査」について、わかることと注意点を整理します。
Point
この記事のポイント
- 食べ物のたんぱく質を1つずつ調べる血液検査で、ふつうの検査と組み合わせると診断の精度が上がります
- 反応しているたんぱく質で、全身の症状につながりやすいか、加熱すれば食べられるかの見当がつきます
- 保険で調べられるのは11項目です。結果だけで食べられるかは決まらず、症状の経過とあわせて判断します
ふつうのアレルギー検査との違い
アレルギーの血液検査(特異的IgE抗体検査)の多くは、原料から抽出した成分の混ざりもの(粗抽出物)を使っています[3]。ところが、IgE抗体が実際に反応するのは、そのなかのごく一部のたんぱく質です。そのため、検査の精度(感度や特異度)が十分でない場合があります[2]。
そこで、原因となるたんぱく質を精製したり、遺伝子の技術でつくったりしたものが「アレルゲンコンポーネント」で、これを使うのがコンポーネント検査です[2]。
| 項目 | ふつうの検査 | コンポーネント検査 |
|---|---|---|
| 調べるもの | 食べ物から抽出した成分の混ざりもの | 原因となるたんぱく質1つ |
| 主な役割 | 原因の候補を探す | 本当の原因か、重い症状につながりやすいかの見きわめを助ける |
専門家の解説と総説をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
コンポーネント検査でわかること
どのたんぱく質に対する抗体かがわかると、似た形の別のたんぱく質に反応する「交差反応」かどうかや、症状が全身に及びやすいかの見当がつきます。食べ物を避けるべきか、食べて確かめる試験が必要かを考える助けにもなります[4]。
加熱すれば食べられるか
卵白に含まれるオボムコイドは熱に強いたんぱく質で、その検査は、加熱した卵白を食べられるかどうかの目安になります[2]。
卵アレルギーが疑われる子どもに、生の卵白と加熱した卵白を食べてもらって調べた日本の研究でも、加熱した卵白で症状が出るかの予測には、オボムコイドの検査が優れていました[5]。
研究の種類二重盲検の食物負荷試験による診断精度の研究/対象 卵アレルギーが疑われる子ども108人
牛乳でも、主なアレルゲンのカゼインは加熱しても変性しにくい一方、α-ラクトアルブミンは熱に弱く、β-ラクトグロブリンは加熱で固まって反応しにくくなります。どれに反応しているかは、食事の工夫の参考になります[2]。
重い症状につながりやすいか
ピーナッツのAra h 2、クルミのJug r 1、カシューナッツのAna o 3は、いずれも「2Sアルブミン」という貯蔵たんぱく質で、これらに対する抗体は、アナフィラキシーを含む全身の反応との関連が強いとされています[3]。
一方、花粉と似た構造をもつ植物のたんぱく質(PR-10やプロフィリン)は熱に弱く、これが原因の場合は、口やのどの症状にとどまることが多いとされています[6]。
保険で調べられるコンポーネント
現在、保険で受けられるコンポーネント検査は11項目です[2]。このうち食べ物に関係するのは、次の9項目です[3]。
| 食べ物 | コンポーネント | わかることの目安 |
|---|---|---|
| 卵白 | オボムコイド | 加熱した卵白を食べられるか |
| 牛乳 | カゼイン、α-ラクトアルブミン、β-ラクトグロブリン | 牛乳のどのたんぱく質に反応しているか |
| 小麦 | ω-5グリアジン | 即時型の小麦アレルギーや、運動がきっかけで起こるタイプ |
| 大豆 | Gly m 4 | カバノキ科の花粉症に関係する、豆乳などのアレルギー |
| ピーナッツ | Ara h 2 | 全身の症状につながりやすいアレルギーか |
| クルミ | Jug r 1 | 全身の症状につながりやすいアレルギーか |
| カシューナッツ | Ana o 3 | 全身の症状につながりやすいアレルギーか |
専門家の解説とメーカーの資料(2026年9月時点)をもとに作成。ほかにラテックスとカビ(アスペルギルス)の項目があります。
大人の食物アレルギーで役立つ場面
食後の運動で症状が出る小麦アレルギー
特定の食べ物を食べたあとの運動でアナフィラキシーが起こる病気を「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」といいます。多くは食後2時間以内の運動で起こり、痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)や飲酒でも同様の反応が起こりえます[7]。
学童期以降に新しく起こる小麦アレルギーは、大半がこのタイプです。小麦やグルテンのふつうの検査では、見逃されやすいことがわかっています[2]。
日本の研究では、このタイプの患者さんの陽性率は、小麦48%、グルテン56%に対し、ω-5グリアジンでは80%でした[8]。
研究の種類診断精度の研究/対象 小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの患者50人など
成人に限ると、ω-5グリアジンの陽性率は94.7%と報告されています[2]。
花粉症がある人の、果物や豆乳のアレルギー
花粉症の人が生の果物や野菜を食べて、口やのどに症状が出るのが「花粉-食物アレルギー症候群」です。カバノキ科の花粉症の人が、リンゴやモモなどのバラ科の果物で起こすものが代表的です[6]。
このタイプでは、果物の血液検査が陽性にならないことがしばしばあります[2]。原因のたんぱく質が壊れやすく、検査に使う抽出物にあまり含まれないためと考えられています[9]。
島根大学の研究で、ハンノキ花粉に対する抗体がある32人を調べたところ、リンゴ・モモ・ナシの検査値は、口の症状が出る人と出ない人とで差がありませんでした。一方、大豆のコンポーネントであるGly m 4は、症状が出る人のほうが高い値でした。大豆で症状が出た10人(うち9人は豆乳)も、全員が陽性でした[9]。
研究の種類観察研究(後ろ向き)/対象 ハンノキ花粉に対する抗体がある11〜70歳の32人
花粉-食物アレルギー症候群のコンポーネントで保険が使えるのは、Gly m 4だけです。熱に弱いたんぱく質ですが、豆乳は加熱してもアレルギーを起こす力が弱まりにくいため、注意が必要です[2]。
増えている木の実類のアレルギー
2023年の調査では、食物アレルギーの原因として木の実類が2番目に多くなり、なかでもクルミが最多でした[2]。
クルミやカシューナッツそのものの検査は、アレルギーのある人を見逃しにくい(感度が高い)検査です。一方、Jug r 1やAna o 3は、アレルギーのない人が陽性になりにくい(特異度が高い)検査で、組み合わせると診断の精度が上がると考えられています[2]。欧州のガイドラインも、Ara h 2やAna o 3などの測定は、花粉に対する抗体がある人でとくに診断の裏づけに役立つとしています[10]。
なお、クルミとペカンナッツ、カシューナッツとピスタチオは互いに似たたんぱく質をもち、どちらかにアレルギーがあると両方を避ける必要がある場合もあります[2]。
検査を受ける前に知っておきたいこと
まず、陽性でも食べられないとは限りません。ガイドラインは、抗体があること(感作)の証明だけで、安易に食べ物の除去を指導しないよう求めています[1]。
次に、研究用には数百種類のコンポーネントが開発されていますが、保険で測れるのはごく一部です。そのため、ふつうの検査や皮膚テスト、場合によっては食物経口負荷試験を組み合わせて判断します[2]。
食物経口負荷試験は、医師の管理のもとで実際に食べて確かめる検査で、診断の基準とされています。ほかの検査で判断がつかないときに行います[10]。
以前に症状が出た食べ物は、検査の値が低くても陰性でも、自己判断で試さず、必ず医師にご相談ください。
こんな方はご相談ください
- 血液検査で陽性と言われたが、その食べ物を食べても症状が出ない
- 食後の運動や痛み止めのあとに、じんましんや息苦しさが出たことがある
- 花粉症があり、果物や豆乳で口やのどに症状が出る
- ナッツで症状が出て、ほかのナッツも避けるべきか迷っている
- 避けている食べ物が多く、本当に必要か確かめたい
診断の出発点は、検査の数値ではなく、「何を、どれだけ、どんな状況で食べて、どうなったか」という経過です[1][10]。症状が出たときの様子をメモしてお持ちください。
よくあるご質問
コンポーネント検査だけを受けることはできますか?
ふつうは、食べ物全体の検査と組み合わせて判断します。ピーナッツのAra h 2は、ピーナッツ全体の検査が陽性だった場合の追加検査として保険が認められています。
検査の値が高いほど、アレルギーの可能性は高いのですか?
一般に、値が高いほど症状が出る確率は高くなります。ただ、その関係は年齢などによって変わるため、値だけで食べられるかどうかは決められません。
陰性だったので、もう安心してよいですか?
必ずしもそうとは言えません。運動がきっかけの小麦アレルギーではω-5グリアジン以外に反応する人がいますし、果物のアレルギーでは血液検査が陽性にならないこともあります。
当院でのサポート
当院では、症状が出たときの状況を詳しくうかがったうえで、食べ物全体の検査とコンポーネント検査を組み合わせ、必要な項目を選んで調べます。健診やほかの医療機関で受けた検査結果も、お持ちいただければ一緒に読み解きます。
皮膚テストや食物経口負荷試験が必要と判断した場合は、実施できる医療機関をご紹介します。本当に避けるべきものを見きわめ、必要以上の食事制限を減らすお手伝いをします。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
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参考文献
- 食物アレルギー診療ガイドライン2021 ダイジェスト版 第8章 診断と検査(総論)著者:一般社団法人日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会媒体:日本小児アレルギー学会ウェブサイト閲覧日:2026年9月30日URL:https://www.jspaci.jp/guide2021/jgfa2021_8.html要約:日本の食物アレルギー診療ガイドラインの要約版。診断は摂取と症状の関係を詳しい問診で明らかにすることが基本で、感作の証明だけで安易に除去を指導しないよう求めた。コンポーネントの測定で診断精度が上がるとし、保険収載項目を示した。
- 日常診療でアレルゲンコンポーネントを用いた血液検査を使いこなす!(第49回日本小児皮膚科学会 教育講演1)著者:千貫祐子(島根大学 皮膚科 准教授)媒体:ラジオNIKKEI「マルホ皮膚科セミナー」放送内容(PDF)発行日:2026年4月20日放送URL:https://www.radionikkei.jp/maruho_hifuka/docs/maruho_hifuka-260420.pdf要約:島根大学皮膚科の専門家による解説。保険適用は11項目で、成人の運動誘発型小麦アレルギーではω-5グリアジンの陽性率が94.7%とした。Jug r 1やAna o 3は特異度が高く、豆乳は加熱してもアレルゲン性が弱まりにくいとした。
- イムノキャップ アレルゲンコンポーネント著者:Thermo Fisher Scientific媒体:同社ウェブサイト(医療関係者向け情報)閲覧日:2026年9月30日URL:https://www.thermofisher.com/phadia/jp/ja/our-solutions/immunocap-allergy-solutions/specific-ige-single-allergens/allergen-components.html要約:検査試薬メーカーによる医療関係者向けの解説。粗抽出アレルゲンとコンポーネントの検査の併用で診断精度が高まるとし、日本の日常診療で使える11種類を示した。2SアルブミンのAra h 2、Jug r 1、Ana o 3は全身の症状との関連が強いとした。
- Recent advances in component resolved diagnosis in food allergy著者:Borres MP, Maruyama N, Sato S, ほか雑誌:Allergol Int. 2016;65(4):378-387発行日:2016年10月DOI:10.1016/j.alit.2016.07.002要約:食物アレルギーのコンポーネント診断に関する総説。粗抽出物の検査では得られない情報をもたらし、交差反応による感作を見分けられるとした。一部のコンポーネントへの感作は、症状の持続や全身の反応と関連し、除去や負荷試験の要否の判断を助けるとした。
- Utility of ovomucoid-specific IgE concentrations in predicting symptomatic egg allergy著者:Ando H, Movérare R, Kondo Y, ほか雑誌:J Allergy Clin Immunol. 2008;122(3):583-588発行日:2008年9月DOI:10.1016/j.jaci.2008.06.016要約:日本の研究グループが、卵アレルギーが疑われる子ども108人に生卵白と加熱卵白の二重盲検負荷試験を行った研究。38人は加熱卵白でも、29人は生卵白だけで症状が出た。生卵白の予測には卵白の検査が、加熱卵白の予測にはオボムコイドの検査が優れていた。
- 食物アレルギー診療ガイドライン2021 ダイジェスト版 第14章 食物以外の抗原感作による食物アレルギー著者:一般社団法人日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会媒体:日本小児アレルギー学会ウェブサイト閲覧日:2026年9月30日URL:https://www.jspaci.jp/guide2021/jgfa2021_14.html要約:花粉-食物アレルギー症候群などの要約。症状は口やのどに限られることが多く、主な原因のBet v 1ホモログやプロフィリンは熱に不安定とした。診断には新鮮な果物・野菜での皮膚テストが有用で、大豆ではGly m 4の測定が補助になるとした。
- 食物アレルギー診療ガイドライン2021 ダイジェスト版 第13章 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)著者:一般社団法人日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会媒体:日本小児アレルギー学会ウェブサイト閲覧日:2026年9月30日URL:https://www.jspaci.jp/guide2021/jgfa2021_13.html要約:特定の食物を食べた後の運動でアナフィラキシーが起こる病態の要約。原因食物は小麦、甲殻類、果物が多く、大部分は食後2時間以内の運動で発症する。非ステロイド性抗炎症薬の内服やアルコールでも同様の病態が起こりうるとした。
- Sensitivity and specificity of recombinant ω-5 gliadin-specific IgE measurement for the diagnosis of wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis著者:Matsuo H, Dahlström J, Tanaka A, ほか雑誌:Allergy. 2008;63(2):233-236発行日:2008年2月DOI:10.1111/j.1398-9995.2007.01504.x要約:小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの診断に、どの特異的IgE検査が役立つかを比べた日本の研究。患者での陽性率は小麦48%、グルテン56%に対し、ω-5グリアジンは80%で、診断精度の指標(AUC 0.850)も最も高かった。
- Usefulness of Gly m 4-specific IgE test in the diagnosis of Rosaceae fruit-oral allergy syndrome caused by Betulaceae pollen sensitization著者:Yoshida T, Morita E, Chinuki Y, ほか雑誌:J Cutan Immunol Allergy. 2023;6:42-48発行日:2023年DOI:10.1002/cia2.12291要約:ハンノキ花粉に感作された32人を調べた島根大学の研究。リンゴ・モモ・ナシの検査値は口の症状の有無で差がなかったが、Gly m 4は症状のある群で有意に高かった。大豆で症状が出た10人(うち9人は豆乳)は全員がGly m 4陽性だった。
- EAACI guidelines on the diagnosis of IgE-mediated food allergy著者:Santos AF, Riggioni C, Agache I, ほか雑誌:Allergy. 2023;78(12):3057-3076発行日:2023年12月DOI:10.1111/all.15902要約:欧州アレルギー臨床免疫学会(EAACI)の診断ガイドライン。診断は問診から始めて感作を確かめ、Ara h 2、Cor a 14、Ana o 3などの測定は花粉に感作された人でとくに診断の裏づけに役立つとした。診断の基準は食物経口負荷試験とした。
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院長 有光潤介(日本アレルギー学会専門医)