2026年9月30日

Wheat Allergy
大人にも起こる小麦アレルギーの特徴と対策
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年9月30日
パンやうどん、パスタなど、小麦は毎日の食事に欠かせない食材です。小麦アレルギーは子どもの病気という印象があるかもしれませんが、学童期以降や大人になってから新たに起こることもあります。18歳以上で新たに起こった食物アレルギーでは、小麦は甲殻類に次いで2番目に多い原因でした[1]。
国の全国調査(2024年度)では、即時型の食物アレルギー6,033例のうち、小麦が原因だったのは489例(8.1%)でした。アナフィラキシーショックを起こした例に限ると、小麦は13.1%を占めていました[2]。
Point
この記事のポイント
- 大人の小麦アレルギーでは、食べたあとに運動したときなどに起こる「運動誘発型」が目立ちます
- 小麦やグルテンのふつうの検査では見逃されやすく、ω-5グリアジンの検査が診断の助けになります
- 醤油など避けなくてよいものも多く、診断にもとづく必要最小限の除去が基本です
小麦アレルギーの主なタイプ
| タイプ | 起こりやすい年代 | 特徴 |
|---|---|---|
| 即時型 | 乳児期〜成人期 | 食べてから多くは2時間以内に症状が出る。乳幼児期に始まるものは治りやすい |
| 運動誘発型 | 学童期〜成人期 | 食べたあとに運動したときなどにアナフィラキシーが起こる。治りにくい |
| 職業性ぜんそく | 成人期 | 小麦粉を吸い込むことで起こる(パン職人のぜんそく) |
国の研究班の手引きをもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
小麦の主なアレルゲンは、グルテンを構成するグリアジンやグルテニンなどです。大麦やライ麦とは交差抗原性が知られていますが、すべての麦類の除去が必要になることは少ないとされています。パン職人のぜんそくの原因となるα-アミラーゼインヒビターは、加工してもアレルギーを起こす力が変わりにくいたんぱく質です[1]。
大人に多い「運動誘発型」
正式には「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」といい、原因の食べ物を食べたあとに運動することでアナフィラキシーが起こります。小麦は、その原因として最も多い食べ物です[1]。多くは食後2時間以内の運動で起こり、痛み止め(非ステロイド性抗炎症薬)やアルコールでも同じような反応が起こりえます[3]。かぜや睡眠不足、疲労、月経前、入浴なども引き金になります[1]。
原因は小麦のほか、甲殻類や果物が多く、中学生では約6,000人に1人にみられ、初めて起こる年齢は10〜20歳代が多いとされます。球技やランニングなど負荷の大きい運動で起こることが多い一方、散歩や入浴中に起こった例もあります[3]。
条件が重なったときにだけ症状が出るため、原因の食べ物と結びつきにくく、確かめるための誘発試験でも症状が出ないことがあります[3]。
洗顔石けんがきっかけになった例
加水分解小麦を含む洗顔石けんの使用で、小麦アレルギーを発症した例も知られています。広島大学病院で2010年から2011年に運動誘発型と診断された36人のうち、30人が同じ種類の石けんを使っていました。主に女性で、顔の腫れなどが目立ち、石けんをやめると小麦への反応は数か月かけて弱まっていきました。このタイプでは、ω-5グリアジンよりもグルテンに対する抗体の値が高くなっていました[4]。皮膚や粘膜から食べ物に感作されるしくみについては、二重抗原曝露仮説の記事で解説しています。
研究の種類後ろ向きの観察研究/対象 小麦依存性運動誘発アナフィラキシーと診断された36人
検査と診断
診断では、何を食べて、そのあとどう過ごしていたときに症状が出たのかという経過が大切です。学童期以降に新しく起こる場合は、食後の運動の有無なども確認します[1]。
運動誘発型は、小麦やグルテンのふつうの血液検査では見逃されやすいことがわかっています[5]。日本の研究では、このタイプの患者さんの陽性率は小麦48%、グルテン56%に対し、小麦のたんぱく質の一つであるω-5グリアジンでは80%でした[6]。
研究の種類診断精度の研究/対象 小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの患者50人など
成人に限ると、ω-5グリアジンの陽性率は94.7%と報告されています。ただし約2割は高分子量グルテニンという別のたんぱく質に反応するため、陰性でも否定はできません[5]。確定診断のために、医療機関で小麦を食べてから運動する誘発試験を行うこともあります[3]。
ω-5グリアジンのように、たんぱく質を1つずつ調べる検査については、コンポーネント検査の記事で詳しく解説しています。
日常生活での対策
運動誘発型の場合
運動の2〜4時間前は原因の食べ物をとらないようにし、運動以外の引き金にも気をつけます。一方で、小麦を完全に除去したり、運動を控えすぎたりして生活の質を損なわないことも大切です。症状をくり返す方や重い方は、アドレナリン自己注射薬を持ち歩くことが勧められています[3]。
息苦しさやのどの締めつけ感、くり返す嘔吐、ぐったりするなどの症状が出たら、ためらわずに救急車を呼んでください。アドレナリン自己注射薬を処方されている方は、迷わず使い、その後すぐに医療機関を受診しましょう[1]。
小麦を除去する場合
除去が必要な場合でも、避けなくてよいものは少なくありません[1]。
| 区分 | 主な例 |
|---|---|
| 避けるもの | パン、うどん、パスタ、中華麺、麩、餃子の皮、揚げ物の衣、カレーやシチューのルウ、洋菓子・和菓子など |
| 基本的に避けなくてよいもの | 醤油(醸造の過程で小麦のアレルゲンが消える)、穀物酢、麦芽糖、麦芽 |
| 医師に確認するもの | 大麦(押し麦、もち麦など)やライ麦。麦茶は除去が必要なことはまれ |
国の研究班の手引きをもとに作成。
小麦は表示が義務づけられた特定原材料で、容器包装された加工食品に含まれていれば微量でも表示されます。一方、外食や店頭の惣菜には表示の義務がありません。米粉パンにも小麦のグルテンが使われていることがあるため、表示を確認しましょう[1]。
一部の量なら食べられると医師に判断された場合は、たんぱく質の量をもとに食べられる範囲を考えます。小麦製品は加熱や加工による症状の出やすさの違いが小さく、ゆでたうどん50gと同じたんぱく質を含むのは、食パン14g、ゆでたスパゲッティ20g、ゆでた素麺35g、餃子の皮2枚ほどです。食べたことのない量を自宅で少しずつ試すことは勧められていません[1]。
こんな方はご相談ください
- 食後に運動したとき、じんましんや息苦しさが出たことがある
- 痛み止めを飲んだあとや、お酒を飲んだあとにじんましんが出る
- パンや麺を食べたあとに、まぶたや唇が腫れたことがある
- 小麦の血液検査は陰性だったが、症状が続いている
- 小麦粉を扱う仕事で、せきや息苦しさがある
症状が出た日の食事と、そのあとの行動(運動、入浴、薬、飲酒など)をメモしてお持ちください。
よくあるご質問
グルテンフリーの食品なら安心ですか?
グルテンフリー表示は欧米の基準で、日本のアレルギー表示の基準とは異なります。重い小麦アレルギーの方は症状が出ることがあるので、原材料を確認し、迷うときはご相談ください。
麦茶や大麦も避ける必要がありますか?
大麦と小麦には交差抗原性がありますが、すべての麦類の除去が必要になることは少なく、麦茶は除去が必要なことはまれです。大麦を食べてよいかは、医師に確認しましょう。
子どものころの小麦アレルギーは治りますか?
乳幼児期に始まる鶏卵・牛乳・小麦のアレルギーは、3歳までに約50%、5〜6歳までに約60〜70%が治るとされています。一方、学童期以降に始まるものは治りにくいとされています。
運動はやめなければいけませんか?
運動そのものをやめる必要はありません。運動の2〜4時間前に原因の食べ物をとらないなど、条件を重ねない工夫で対応します。
当院でのサポート
当院では、症状が出たときの食事や行動を詳しくうかがい、小麦・グルテンに加えてω-5グリアジンなどの血液検査を行います。誘発試験や皮膚テストが必要な場合は、実施できる医療機関をご紹介します。
検査結果をもとに、避ける範囲が必要最小限になるよう一緒に確認します。アナフィラキシーを起こしたことがある方は、再発への備えについてもご相談ください。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
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参考文献
- 食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2022著者:厚生労働科学研究班(研究代表者 海老澤元宏)媒体:国立病院機構相模原病院 臨床研究センター(PDF)発行年:2022年URL:https://sagamihara.hosp.go.jp/rinken/pdf/nutritionalmanual2022.pdf要約:国の研究班による食物アレルギーの栄養食事指導の手引き。18歳以上の新規発症では小麦が甲殻類に次ぐ原因で、運動誘発型の原因として最も多いとした。醤油や穀物酢は基本的に除去不要で、グルテンフリー表示は日本の基準と異なるとした。
- カシューナッツの義務表示化に向けた検討状況について(資料1)著者:消費者庁媒体:消費者庁ウェブサイト(会議資料)発行日:2025年12月URL:https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/meeting_materials/assets/food_labeling_cms204_251212_03.pdf要約:消費者庁の会議資料。2024年度の全国実態調査では、即時型の食物アレルギー6,033例のうち小麦は489例(8.1%)、ショック症状の586例では77例(13.1%)で、いずれも4番目に多い原因だった。
- 食物アレルギー診療ガイドライン2021 ダイジェスト版 第13章 食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)著者:一般社団法人日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会媒体:日本小児アレルギー学会ウェブサイト閲覧日:2026年9月30日URL:https://www.jspaci.jp/guide2021/jgfa2021_13.html要約:特定の食物を食べた後の運動でアナフィラキシーが起こる病態の要約。原因は小麦、甲殻類、果物が多く、大部分は食後2時間以内の運動で発症する。運動2〜4時間前の原因食物の摂取を避け、重症例にはアドレナリン自己注射薬の携帯が望ましいとした。
- The Sensitivity and Clinical Course of Patients with Wheat-Dependent Exercise-Induced Anaphylaxis Sensitized to Hydrolyzed Wheat Protein in Facial Soap – Secondary Publication著者:Hiragun M, Ishii K, Hiragun T, ほか雑誌:Allergol Int. 2013;62(3):351-358発行日:2013年DOI:10.2332/allergolint.13-OA-0553要約:加水分解小麦を含む洗顔石けんと小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの関係を調べた広島大学病院の研究。患者36人中30人が同じ石けんを使用し、主に女性で顔の腫れが目立った。石けんの中止後、小麦への反応は数か月かけて低下した。
- 日常診療でアレルゲンコンポーネントを用いた血液検査を使いこなす!(第49回日本小児皮膚科学会 教育講演1)著者:千貫祐子(島根大学 皮膚科 准教授)媒体:ラジオNIKKEI「マルホ皮膚科セミナー」放送内容(PDF)発行日:2026年4月20日放送URL:https://www.radionikkei.jp/maruho_hifuka/docs/maruho_hifuka-260420.pdf要約:島根大学皮膚科の専門家による解説。学童期以降に発症する小麦アレルギーの大半は運動誘発型で、小麦やグルテンの検査では見逃されやすいとした。約8割がω-5グリアジン、約2割が高分子量グルテニンに反応し、成人ではω-5グリアジンの陽性率が94.7%とした。
- Sensitivity and specificity of recombinant ω-5 gliadin-specific IgE measurement for the diagnosis of wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis著者:Matsuo H, Dahlström J, Tanaka A, ほか雑誌:Allergy. 2008;63(2):233-236発行日:2008年2月DOI:10.1111/j.1398-9995.2007.01504.x要約:小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの診断に、どの特異的IgE検査が役立つかを比べた日本の研究。患者での陽性率は小麦48%、グルテン56%に対し、ω-5グリアジンは80%で、診断精度の指標(AUC 0.850)も最も高かった。