2026年10月03日

Dual-Allergen Exposure Hypothesis
食物アレルギーは「皮膚から」始まる?二重抗原曝露仮説
執筆:千里丘かがやきクリニック 院長 有光 潤介/公開日:2026年10月3日
食物アレルギーは、その食べ物を「食べた」ことで起こると考えられがちです。しかし近年は、アレルギーを起こす準備状態(感作)が、皮膚から始まることが多いと考えられるようになりました。
その考え方のもとになったのが、2008年に英国のギデオン・ラック医師が提唱した「二重抗原曝露仮説」です[1]。この記事では、仮説の内容とそれを支える研究、日常生活での生かし方を整理します。
Point
この記事のポイント
- 二重抗原曝露仮説は「皮膚から入ると感作が起こり、口から食べると体が慣れる」という考え方です
- 湿疹のある赤ちゃんに食物アレルギーが多いことや、化粧品・石けんがきっかけの大人の食物アレルギーも、この考え方で説明できます
- 予防の基本は、湿疹をしっかり治療することと、医師と相談しながら適切な時期に食べ始めることです
二重抗原曝露仮説とは
以前は、食物アレルギーを防ぐために、妊娠中や授乳中、乳児期に、アレルギーの原因になりやすい食べ物を避けることが勧められていました。しかし、こうした方法の効果は疑問視されるようになりました[1]。
二重抗原曝露仮説は、食べ物のアレルゲンが「皮膚から」入ると感作が起こり、「口から」食べると体が慣れる(経口免疫寛容)という考え方です。湿疹と食物アレルギーが強く結びついている理由を説明でき、新しい予防法につながると考えられました[1]。湿疹などで皮膚のバリアが弱っていると、食べ物のたんぱく質が皮膚から入り込みやすくなるためと考えられています。
| 入り口 | 体の反応 | 主な例 |
|---|---|---|
| 皮膚 | 感作が起こりやすい(湿疹などで皮膚のバリアが弱っているとき) | 湿疹のある肌に付いた食べ物、食品成分を含むスキンケア用品・化粧品・石けん |
| 口 | 体が慣れ、耐性ができやすい | 適切な時期から食べ始め、食べ続けること |
二重抗原曝露仮説と、それを支える研究をもとに作成。スマートフォンでは表を横にスクロールできます。
仮説を支える研究
ピーナッツオイルを含むスキンケア用品
英国の約1万4,000人の子どもを調べた研究では、ピーナッツアレルギーは、じくじくした湿疹があることや、ピーナッツオイルを含むスキンケア用品を使っていたこと(オッズ比6.8)と関連していました。研究チームは、炎症のある皮膚にピーナッツオイルを塗ることで、皮膚から感作が起こる可能性を指摘しています。一方、母親が妊娠中や授乳中にピーナッツを食べたこととの関連はみられませんでした[2]。
研究の種類出生コホート研究(観察研究)/対象 英国の未就学児 約1万4,000人
早く食べ始めると、アレルギーが減った
重い湿疹や卵アレルギーがあり、ピーナッツアレルギーになりやすい乳児640人を対象にした英国の試験(LEAP)では、生後4〜11か月からピーナッツを食べ続けたグループで、5歳時点のピーナッツアレルギーが大きく減りました。最初の皮膚テストが陰性だった乳児では、避けたグループの13.7%に対し、食べたグループは1.9%でした。最初から皮膚テストが陽性だった乳児でも、35.3%から10.6%に減っています。また、食べたグループではピーナッツに対するIgG4抗体が増え、避けたグループではIgE抗体が高い人が多くみられました[3]。
研究の種類ランダム化比較試験/対象 ピーナッツアレルギーになりやすい乳児640人
日本の試験(PETIT)でも、湿疹のある乳児が湿疹の治療を受けながら生後6か月から加熱卵の粉末をごく少量ずつ食べたところ、1歳時点の卵アレルギーは8%で、食べなかったグループの38%を大きく下回りました[4]。卵やナッツのアレルギーについては、卵アレルギーの記事やナッツアレルギーの記事でも解説しています。
研究の種類ランダム化比較試験(二重盲検)/対象 湿疹のある生後4〜5か月の乳児147人
大人にも起こる「皮膚からの感作」
二重抗原曝露仮説は主に乳児の食物アレルギーを説明する考え方ですが、大人でも、皮膚や粘膜から食べ物の成分に感作されて、食物アレルギーが起こることがあります。
加水分解小麦を含む洗顔石けん
広島大学病院で2010年から2011年に小麦による運動誘発アナフィラキシーと診断された36人のうち、30人が加水分解小麦を含む同じ種類の洗顔石けんを使っていました。主に女性で、石けんの使用をやめると、小麦への反応は数か月かけて弱まっていきました[5]。詳しくは小麦アレルギーの記事をご覧ください。
赤い色素を含む化粧品
赤い色素のコチニールによるアレルギーでは、日本の報告例は全員が成人女性で、13例には以前に化粧品で局所の症状が出た経験がありました。化粧品で感作されたあと、色素を含む食べ物でアナフィラキシーを起こす例が多く、原因食品には国内のいちごの飲み物や魚肉ソーセージ、ヨーロッパの加工食品(とくにマカロン)などがありました[6]。詳しくはコチニールアレルギーの記事をご覧ください。
このほか、皮膚ではなく花粉を吸い込んで感作されたあとに、花粉と似たたんぱく質を含む果物や豆乳などで症状が出るタイプもあります[7]。詳しくは豆乳アレルギーの記事をご覧ください。
日常生活での生かし方
アトピー性皮膚炎のある赤ちゃんでは、まず湿疹の治療を十分に行うことが大切です。そのうえで、医師の管理のもと、生後6か月から卵をごく少量ずつ食べ始めることが、卵アレルギーの予防として勧められています[8]。
一方、保湿剤などのスキンケアだけで湿疹や食物アレルギーを予防できるかは、はっきりしていません。健康な乳児を対象にした試験をまとめた分析では、生後1年間の保湿剤の使用で湿疹は予防できない可能性が高く、皮膚の感染症が増える可能性があり、食物アレルギーがむしろ増える可能性も示されました。ただし、すでに湿疹がある場合のスキンケアは、治療として大切です[9]。
研究の種類ランダム化比較試験の系統的レビュー/対象 湿疹などのない健康な乳児を対象にした試験
すでに食物アレルギーと診断されている場合や、食べて症状が出たことがある場合は、自己判断で食べ始めたり量を増やしたりせず、必ず医師に相談してください。
大人では、食品成分を含む化粧品や石けんを使っていて、かゆみや赤み、腫れが出たときは使用を中止し、医療機関に相談しましょう。
こんな方はご相談ください
- 化粧品や石けんを使ったあとに、かゆみや赤み、腫れが出たことがある
- 大人になってから、特定の食べ物で症状が出るようになった
- 食後に、唇やまぶたが腫れたことがある
- 食物アレルギーがあり、どこまで避けるべきか迷っている
受診の際は、ふだん使っている化粧品や石けん、症状が出たときに食べたものの包装をお持ちいただくと、原因を探す手がかりになります。
よくあるご質問
妊娠中や授乳中に、卵やピーナッツを控えたほうがよいですか?
以前はそうした方法が勧められていましたが、効果は疑問視されるようになっています。英国の研究でも、母親が妊娠中や授乳中にピーナッツを食べたこととピーナッツアレルギーとの関連はみられませんでした。自己判断での食事制限は避けましょう。
保湿剤を塗れば、食物アレルギーは予防できますか?
保湿剤だけで予防できるかは、はっきりしていません。ただ、すでに湿疹がある場合は、スキンケアを含めた治療で湿疹をしっかりおさえることが大切です。
大人も皮膚から食物アレルギーになることがありますか?
あります。加水分解小麦を含む石けんや、赤い色素(コチニール)を含む化粧品をきっかけにした食物アレルギーが報告されています。
当院でのサポート
当院では、大人の食物アレルギーについて、症状が出たときの状況や、ふだん使っている化粧品・石けんなどを詳しくうかがい、特異的IgE抗体やコンポーネント検査などの血液検査で原因を調べます。
皮膚テストや食物経口負荷試験が必要な場合は、実施できる医療機関をご紹介します。避ける範囲が必要最小限になるよう、一緒に確認します。
この記事は一般的な情報提供を目的としたものです。個別の診断や治療については、医師にご相談ください。
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参考文献
- Epidemiologic risks for food allergy著者:Lack G雑誌:J Allergy Clin Immunol. 2008;121(6):1331-1336発行日:2008年6月DOI:10.1016/j.jaci.2008.04.032要約:食物アレルギーの危険因子と仮説を検討した総説。妊娠中・授乳中・乳児期のアレルゲン除去による予防は疑問視されているとし、皮膚からの環境中のアレルゲン曝露で感作が起こり、食べることで経口免疫寛容が生じるという仮説を提唱した。
- Factors associated with the development of peanut allergy in childhood著者:Lack G, Fox D, Northstone K, ほか雑誌:N Engl J Med. 2003;348(11):977-985発行日:2003年3月DOI:10.1056/NEJMoa013536要約:英国の出生コホート(ALSPAC)の約1万4,000人を調べた研究。ピーナッツアレルギーは、じくじくした湿疹やピーナッツオイルを含むスキンケア用品の使用(オッズ比6.8)と関連し、炎症のある皮膚から感作が起こる可能性を示した。
- Randomized trial of peanut consumption in infants at risk for peanut allergy著者:Du Toit G, Roberts G, Sayre PH, ほか雑誌:N Engl J Med. 2015;372(9):803-813発行日:2015年2月DOI:10.1056/NEJMoa1414850要約:重い湿疹や卵アレルギーのある乳児640人を、ピーナッツを食べる群と避ける群に分けた英国のランダム化比較試験(LEAP)。皮膚テスト陰性の乳児では、5歳時点のピーナッツアレルギーが避けた群13.7%、食べた群1.9%だった。
- Two-step egg introduction for prevention of egg allergy in high-risk infants with eczema (PETIT): a randomised, double-blind, placebo-controlled trial著者:Natsume O, Kabashima S, Nakazato J, ほか雑誌:Lancet. 2017;389(10066):276-286発行日:2017年1月URL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27939035/(PubMed)要約:湿疹のある生後4〜5か月の乳児を対象に、日本の2施設で行われたランダム化比較試験。湿疹の治療を積極的に行いながら生後6か月から加熱卵粉末をごく少量ずつ与えた群では、1歳時点の卵アレルギーが8%で、プラセボ群の38%を大きく下回った。
- The Sensitivity and Clinical Course of Patients with Wheat-Dependent Exercise-Induced Anaphylaxis Sensitized to Hydrolyzed Wheat Protein in Facial Soap – Secondary Publication著者:Hiragun M, Ishii K, Hiragun T, ほか雑誌:Allergol Int. 2013;62(3):351-358発行日:2013年DOI:10.2332/allergolint.13-OA-0553要約:加水分解小麦を含む洗顔石けんと小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの関係を調べた広島大学病院の研究。患者36人中30人が同じ石けんを使用し、主に女性で顔の腫れが目立った。石けんの中止後、小麦への反応は数か月かけて低下した。
- Cochineal dye-induced immediate allergy: Review of Japanese cases and proposed new diagnostic chart著者:Takeo N, Nakamura M, Nakayama S, ほか雑誌:Allergol Int. 2018;67(4):496-505発行日:2018年10月DOI:10.1016/j.alit.2018.02.012要約:国内のコチニール色素による即時型アレルギーの報告22例と新規6例を検討した研究。患者は全員が成人女性で、3例を除きアナフィラキシーを起こし、13例に化粧品による局所症状の既往があった。皮膚テストと特異的IgEの測定が診断に有用とした。
- 食物アレルギー診療ガイドライン2021 ダイジェスト版 第14章 食物以外の抗原感作による食物アレルギー著者:一般社団法人日本小児アレルギー学会 食物アレルギー委員会媒体:日本小児アレルギー学会ウェブサイト閲覧日:2026年9月30日URL:https://www.jspaci.jp/guide2021/jgfa2021_14.html要約:食物以外の抗原への感作で起こる食物アレルギーの要約。花粉-食物アレルギー症候群は、花粉に感作されたあと、花粉と交差抗原性のある果物や野菜、豆類を食べて症状が出る病態とし、大豆ではGly m 4の測定が診断の補助になるとした。
- 食物アレルギーの栄養食事指導の手引き2022著者:厚生労働科学研究班(研究代表者 海老澤元宏)媒体:国立病院機構相模原病院 臨床研究センター(PDF)発行年:2022年URL:https://sagamihara.hosp.go.jp/rinken/pdf/nutritionalmanual2022.pdf要約:国の研究班による食物アレルギーの栄養食事指導の手引き。アトピー性皮膚炎のある乳児では、湿疹の治療を十分に行ったうえで、医師の管理のもと生後6か月から鶏卵の微量摂取を始めることが推奨されるとした。
- Skin care interventions in infants for preventing eczema and food allergy著者:Kelleher MM, Phillips R, Brown SJ, ほか雑誌:Cochrane Database Syst Rev. 2022;11:CD013534発行日:2022年11月DOI:10.1002/14651858.CD013534.pub3要約:健康な乳児へのスキンケア(保湿剤など)の予防効果を調べたランダム化比較試験のコクラン・レビュー。生後1年間の保湿剤の使用で湿疹は予防できない可能性が高く、皮膚感染症が増える可能性があり、食物アレルギーが増える可能性も示された。